期待ほどの成果につながったとはとても思えない。北朝鮮はロシアとの首脳会談を通じて、米国との非核化交渉を有利に進め、制裁解除につなげる狙いだろうが、逆効果になる危険性もある。
世界の注目を集めた二月下旬のハノイでの米朝首脳会談は、予想外の物別れに終わった。
北朝鮮側の計算違いが原因で、交渉担当者への懲戒人事が行われたとも伝えられている。
米国との交渉が停滞すると、中国とロシアに接近するのが、北朝鮮独特の外交戦術だ。両国は伝統的友好国で、国連安全保障理事会の常任理事国でもある。
貿易の九割を依存する中国の習近平国家主席とは、四回の首脳会談を行い、関係を強化した。
しかし中国は、米国との貿易摩擦が激しくなり、経済支援が期待できない状況になっている。
このため、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長はロシアを選んだのだろう。プーチン大統領から、自国への支持と経済協力を引き出すためだ。
ロシアも極東地区の開発には北朝鮮の協力が必要で、朝鮮半島への影響力拡大も図りたい。
プーチン氏は会談後の記者会見で、北朝鮮が体制の保証を求めていることに理解を示し、連携強化を確認したが、具体的援助については合意できなかったようだ。
一方正恩氏は、今回の会談で「地域の安定を図る」と約束した。すでに今年末まで三回目の米朝首脳会談の可能性を探る方針も示しているが、気になる行動も目につく。空軍の飛行訓練や「新型戦術誘導兵器」の試射を実施し、自ら現地視察していることだ。
北朝鮮は、交渉からポンペオ米国務長官を排除するよう求めるなど、対決姿勢も強めている。
さらに北朝鮮は、これまで密接な関係を維持してきた韓国とも距離を置き始めた。
文在寅(ムンジェイン)大統領の姿勢が米国寄りに映るのだろう。正恩氏は、「(韓国は)民族の利益を守る当事者になるべきだ」と批判した。
ただ、北朝鮮が、こういった外交的駆け引きを繰り返せば、核の放棄を行う意思がないと受け取られるだけだ。米国は警戒し、譲歩しなくなるのではないか。
北朝鮮は経済制裁の影響で外貨不足が深刻化し、経済にも影響が出ているという。
自ら非核化への一歩を踏み出さない限り、事態の打開は望めないことを自覚すべきだ。
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