<社説>強制不妊救済法成立 旧法の違憲性は明らかだ

 旧優生保護法下での強制不妊手術問題で、被害者への一時金320万円支給を柱とする救済法が成立した。しかし、旧法の違憲性、問題を放置してきた国の法的責任を明確に認めていない点など、被害者の求める救済とは大きな隔たりがある。

 1948年に施行された旧優生保護法は、その目的を定めた第1条に「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」と優生思想を明記し、遺伝性とされた疾患や知的障がいのある人の不妊手術や人工中絶を認めた。医師が必要と判断すれば、本人の同意がなくても都道府県の優生保護審査会の決定で不妊手術を行うことが可能だった。
 障がい者らの人権と自由意思を無視し、心身に苦痛を強いた違憲性は明らかだ。国家が一部の国民を「不良」と見なし、子孫を残す権利を強制的に奪うという蛮行を繰り返した。その事実と真正面から向き合い、旧法が、憲法で保障された基本的人権を侵害していたことを国として認めるべきだ。
 優生保護法の前身は、ナチス・ドイツの「断種法」の考えを取り入れた戦時中の国民優生法だ。法の下の平等を掲げた新憲法が施行された直後でありながら、優生思想に基づく優生保護法を全会一致で成立させた立法府、本人同意のない不妊手術制度を執行してきた行政府の責任は重い。
 法律が母体保護法に変更され、障がい者への差別的な条項が削除されるのはようやく96年になってからだ。日弁連は旧法下での不妊手術の実施件数は2万4991件と指摘し、このうち同意のない強制手術は1万6475件に上るとしている。本人が自覚していないまま手術が施された事例も多くあり、被害の実態と真相の究明を急がなければならない。
 18年1月に仙台地裁に国家賠償請求訴訟が提起され、旧法下での強制不妊被害に補償を求める動きが全国に広がった。旧法の施行から71年が経過して成立した今回の救済法は、被害の補償へようやく一歩を踏み出したといえる。
 しかし、被害者らが求めた国会での意見陳述は行われなかった。各地の国家賠償訴訟で原告は最大3千万円台後半を求めている。失ったものの大きさに対し一時金の額はあまりにも低い。被害者や遺族の納得する解決とは程遠い。
 訪欧中の安倍晋三首相は初めて政府として謝罪する談話を発表した。だが、救済法の前文をなぞっただけで、旧法の違憲性について明確にしていない。しかも談話は肉声ではなくペーパーだ。誠実さが全く伝わってこない。
 16年7月に神奈川県相模原市の知的障がい者施設で起きた殺傷事件は、障がい者を排除する優生思想的な言動を繰り返していた元施設職員の男が、入所者19人を刺殺する最悪の凶行だった。社会から差別をなくす誓いを改めて深く胸に刻みたい。