戦いを止めるべきだと唱える者たち、戦いを続ける者たち。即ち「和平派」と「交戦派」である。
六大神は「和平派」と和解した。「和平派」のリーダーの
「彼らも
「家族か?」彼ら『も』。そこが気になったがスルシャーナはあえて無視をする。だから代わりに尋ねたのだ。
だか彼の答えはスルシャーナの予想を遥かに上回った。
「いや・・・
種族だ」
彼から聞いた話はこうだ。
彼らは自らの種族たちの為に戦う。
だが一部の者・・・
そこでは『同じ種族だった何か』があっただけだった。
つまり彼らには失うものが無いのだ。だがそれでも・・
『実は』
『実は』種族たちはどこかで生きて囚われていて
『実は』戦争が終わればまた会える。
そんな無いはずの希望に縋り付き最後の選択肢として残されたのが・・
戦死であった。
彼らも頭では分かっているのだ。ただ心が・・魂がそれを理解しないのだ。
六大神が「和平派」と共に「交戦派」と戦った。
「うぉぉぉぉぉぉっっ!!」
亜人の軍勢がスレイン法国を取り囲む。その大半は既に負傷し血に染まった手で武器を構えていた。
「本当に良いのか?」
「あぁ・・・彼らにはもう・・・死ぬことだけが唯一の自由なんだ・・・だからスルシャーナさん。頼む・・彼らの苦痛を終わらせてくれ」
「・・・・分かった」
そう言うとスルシャーナは前に出た。
「うぉぉぉおぉぉっっ!!」
こちらに向かう亜人たち。スルシャーナはせめて苦しまぬように鎌を振り下ろした。
・・・・
・・・・
・・・・
「ありがとう。・・・これでようやく家族に会える」
「恋人に自慢できる」
「心配性な母親を安心させられる」
亜人たちの中には「戦死」は名誉とされ、そこから逃げることは「種族の恥」とされるため逃げることも戦死しないことも許されなかった。もし戦いを拒めばその者の家族は種族の中で孤立や処刑されることもあるらしい。
「戦争」が始まった時点で詰んでいたのだ。彼らの希望はどこにもなかったのだ。
前は六大神、後ろは
(
スルシャーナはそんなことばかりを考えていた。
そして『戦争』が終わった。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
戦争の傷跡がスレイン法国には残っていた。
壊れた教会、割れたステンドグラス、身体の一部を失った者たち、無理やり並べられた墓、食料を巡る喧嘩、
だがそれでも復興に向かって歩き出しているのだとスルシャーナは思っていた。
『スレイン法国』は亜人の軍勢を全滅させた。残ったのは六大神たちの戦争を望まなかった「和平派」の亜人たちだけだ。
だが『人間』たちは・・
「亜人は死ね!」親を亜人を殺された少女は石を投げる。
「亜人は殺せ!」愛する娘を亜人に食い殺された父親は亜人に松明の火を押し付ける。
「和平派」の亜人たちが『人間』たちに私刑されている。それに気づいたスルシャーナたちは止める。
「よせ!!」
「六大神様!何故奴らを滅ぼさないのですか?」
「彼らにも事情があったのだ。種族滅亡の危機だったのだ。仕方あるまい」
「当然です!愚かな亜人どもなど滅ぶべきです!」
「愚か者がっ!!」
周囲が静寂に包まれる。
「何故分からぬ?彼らは我々と同じく生きているのだ」
「しかし・・」
「そうそう。もしあなたたちが『人間じゃない』という理由で彼らを滅ぼすべきだと言うのなら、スルシャーナも滅ぼすべきといっているようなものよ」
「アーラ=アラフ様。しかしそれは・・・」
「黙りなさい!ハッキリ言いましょうか?あなたたちは『亜人』を見下しているのよ」
「・・・・スルシャーナ様は特別です。しかし奴らは」
「私たちは人間よ。だからって人間という『種族』を特別だと考えるのは愚かよ!」
「アーラ!もういい」
「はぁ。優しいスルシャーナに感謝することね」
「ひぃぃぃ」
「立ち去れ。今はお前の顔は見たくない」
男は去っていった。
「さっきはありがとう。アーラ」
「気にしないで。スル」
友人同士の彼らとの時はアーラはスルシャーナのことを愛称の『スル』と呼んでいた。そう彼のことを呼ぶのはスルシャーナ除く五人の存在、それと例外が1人の合計六人である。
「みんな怖いのね・・」
「怖い?」
「『明日』が・・『未来』が自分にあるかが不安なのよ。彼らは私たちの様には強くはないのよ」
「『未来』か・・・」
それから国は復興を果たした。
料理や松明に使う火の扱いを教えた者は『火の神』と呼ばれ、
日常に不可欠な水に関する知識を授けた者は『水の神』と呼ばれ、
風の流れや空気の性質を語った者は『風の神』と呼ばれ、
農作物や鉱石の知識に秀でた者は弟子を取り『土の神』と呼ばれ、
生命の起源や質の高い人生の送り方を伝えた者は『生の神』と呼ばれ、
亡くなったものたちの埋葬を取り仕切った者は『死の神』と呼ばれた。
「和平派」の亜人たちはスレイン法国で暮らすことになった。スルシャーナが彼らに復興の手伝いをさせることで彼らの良いアピールになると考えたのだ。
「人間」と「亜人」、二つの存在が分かりあえる日が来ると信じていた。
だがその想いは踏みにじられることになる。
『憎しみ』は新たな『憎しみ』を生む。ゆえに戦争はまだ終わってはいなかった。
それから10年もしない内である。
それは起きてしまった。
『亜人』と『人間』の殺し合いである。
「あの亜人が私の娘を殺そうとした!!!」
「ち・・違う!俺は!!」そう言う少年は大きかった。人間より遥かに大きな亜人であった。
「亜人の言う事などに耳を傾けるな!!我らの奴隷であり敵の亜人よ!死ね!死ね!死ね!」
そう言って人間たちは亜人たちを蹴りつける。
ある者は油と火を掛けて燃やす。
「聖なる火よ!!『悪』なる者を浄化したまえ!!」
亜人の少年の身体が炎に包まれる。
「やめろ!!俺の息子に何てことを!!」
「亜人は『悪』だ!!人間こそが『正義』!!」
「ふざけるな!!」
「ぉ・・と・・・さん」
「おい!」
亜人の彼が息子を見ると既に息はしていなかった。
「何をやってる!!?」
「スルシャーナ様!この亜人の親子が私を殺そうとしたんです!!」
「・・・・なっ」
スルシャーナは亜人の親子を見る。それはあの時「和平派」のリーダーをしていた
「スルシャーナ様!!信じて下さい!私の命を!この亜人が!!」
「失せろ!!お前たち!!」
そう言ってスルシャーナはどこからか鎌を取り出し振り回す。
「ひぃぃぃぃっ!!!」
人間たちが去っていく。
「なぁ・・・スルシャーナ様」
「・・・・」
「アンタには感謝している。「和平派」の俺たちの言葉を信じて民にしてくれたこと・・・嬉しかったんだ」
「・・・・」スルシャーナは何かを話さなければならないとは分かっていた。だが言葉が出なかった。
「『六大神』は尊敬している。でも・・・・俺は息子を殺した『人間』は愛せない!!」
(やめろ!それ以上言うな!)
「だから!!」
「『人間』を滅ぼす!!!こんな世界なんてぶっ壊してやる!!」そう言った
「殺すなら今だぞ・・・スルシャーナさん」
その瞳に映っていた感情は、「交戦派」の亜人たちと同じであった。
スルシャーナは鎌を大きく振りあげて、そして・・・・・
「すまない。___________。」
この一件から『和平派』だった亜人たちへの私刑が始まった。
そして私刑が全て終わる頃には『亜人』は街からいなくなっていた。
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それから100年後
五人の『神』と呼ばれた者たちが死去してからスルシャーナの心は空っぽになった。
彼らの子孫はそれぞれ一人ずついた。『六大神』の血を持つ彼らは『神人』と呼ばれていた。
スレイン法国 最奥の神殿
「大丈夫?」
「大丈夫だ。ヨミ。お前には心配を掛けるな」目の前にいるこの女性はヨミ。スルシャーナの第一の従者。巷では『従属神』などと呼ばれているらしい。
「また昔のこと?」
「あぁ。どれだけ時間が経とうとあの時の感触は未だにあるんだ」
「・・・スル」
「なぁ・・・ヨミ。俺は正しかったのか?『人間』を守ったことを今じゃ後悔しているんだ」
「スル・・・あまり自分を責めないでね」
「お前はいつも優しいな・・・他の五人の愛した『人間』だから、俺は『人間』を愛せたんだ。でも彼らはもういない」
「だからここ30年は引きこもっているの?」こんな言い方を出来るのはヨミだけだ。他の従者じゃこんな話し方は絶対に出来ない。
「あぁ。彼らが死ぬ間際に言っていたんだ。『人間を頼む』って。その約束が無ければ私は・・・」
そう言うスルシャーナの頬にヨミは優しく両手を当てる。
「疲れているのよ。スル。旅に出たらどう?」
「旅に?」
「そっ。世界を見てみたらどうかしら?良いストレス解消になると思うよ」
「でも私は・・」
「『神』のスルシャーナじゃなくて『スル自身』がしたいことをして。人間がいるのはこの国だけじゃない。きっと良い人間に出会えるよ」
「・・・・考えとくよ」
スルシャーナはその場を後にした。
「スルシャーナ様!!」そう言ってスルシャーナを呼び止める女が1人。ヨミの部下のナミだ。ヨミは第一ならナミは第二の従者という所だ。
「どうした?」
「つい10分前に不審なものを発見したんです・・・」
「?どんなものだ」
「『浮遊する都市』の様なものです」
「都市が浮遊だと!?詳しく聞かせてくれ!」
「それが詳細はまだでして」
「それなら調査を頼めるか?もし危なくなったら分かっているな?」
「はい。撤退を最優先ですね」
「悪いが頼んだぞ。ナミ」
「はっ。それでは準備が終わり次第向かいます」
「スルシャーナ様!」
「どうした________?」
商人である男だ。スルシャーナは彼を気に入っていた。引きこもっていた今でも数少ない会う相手でもある。
「小麦の収穫量の件ですが・・」
「どうした?例年より上がったのか?」
「はい。例年より上がったため今年の冬も問題なく過ごせそうです」
「そうか。後は木材だな」
「はい。その辺りの事はどうなっていますか?『奴ら』との取引は?」
「問題ない。私たちが鉱石を掘る代わりに、その道具の作成を頼んでいる」
「アレは便利ですよね。採掘量が2倍になるツルハシ。アレのおかげで石材や鉱石の類は安定していますよ。あんな大きな奴がただの使者だとは驚きますよね?」
「あいつはまだ小さい方だぞ。確か名前はツァインドルクス・・だったか」
「『竜帝』の息子ですよね。いずれは彼が後継者になったりするんですかね?」
「さぁな。ただ竜帝の話曰く『竜は群れを作らない』のが普通らしいぞ」
「だとすれば独自の文化を築き上げる日も遠くないかもしれませんね。そうなると・・」
「商人魂に火が付くか?」
「えぇ。まだ誰も開拓していない文化に対する商売。商人の腕が鳴るというものですよ」そう言って商人は腕を叩く。筋肉質・・・でないためにペチンと響く。
「スルシャーナ様」
「ん?どうした?」
「最近変わった噂を聞いたのですが」
「噂?」
「えぇ。何でもスレイン法国にある中央の大神殿の地下には『地獄の入り口』があるとか・・・」
「『地獄』?・・・随分物騒だな。どこでその情報を?」
「えぇ。私の取引先の奴隷商人が酒を飲んだ時に口を滑らしていました」
「分かった。この件は?」
「まだ誰にも言っていません」
「分かった。すぐに調べてみよう」
・・・・・
・・・・・
スレイン法国 大神殿 内部
スルシャーナは魔法の衣服を身にまとい、姿を消した。
(大した装備ではないが・・・今みたいな状況では役立つな)
アレは?
スルシャーナの目線の先には機嫌が良いのか口笛を歌う神父がいた。その首には六大神に対する信仰の象徴が掛けられていた。
スルシャーナは教会の神父に着いていく。やがて神父の自室に着く。
(?噂はホラだったのか?)
だが神父が部屋に掛けられていた蝋燭台を掴む。それをグイっと曲げると壁がスライドして扉が現れる。神父が奥に入っていく。
(地獄への入り口か・・・)
スルシャーナは扉に入っていく。
地下室の階段を下りていく。
コツコツ・・・・・・・・・
コツコツ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コツコツ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして再び扉があった。スルシャーナは扉を開けて中に入った。
そこで目にしたものは・・・・・・・・・
薄暗い地下室。蝋燭の代わりに
縦横100メートルはあるであろう広い空間が広がっている。
嗅覚は感じることが出来るスルシャーナは不快な匂いを嗅ぎ取った。
(この匂い・・・血と尿と・・・・そして・・・)
スルシャーナは見てしまった。広大な地下室の中央の・・・・・・・
十数人の全裸の男女であった。その首には奴隷の証である首輪がされており、その首輪は壁に取り付けられた鎖と繋がっていた。
(何だ?コレは?)
よく見ると先程の神父がいつの間にか全裸になっていた。そして奴隷の一人に近づき・・・・
「今日も楽しませろよ・・・44番」
そう言って男は腰を振り出した。よく見ると犯す側にも全裸の男女がいた。
スルシャーナは他にも犯されている男女を発見した。犯しているのは・・・・・
------その者たちの顔には見覚えがあった-------
最高神官長を始めとした十二幹部であった。
衝撃のあまり一周して冷静になった頭で考えた。
(・・・何故彼らが?)
だがよく見ると犯されている側の存在の顔にも見覚えがあった。それは・・・・
かつての仲間たちの顔立ちに似ていた・・・・・・
「貴様らぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!!」
スルシャーナは魔法の衣服を脱ぎ捨てて普段の恰好に戻った。
周囲の者たちがスルシャーナの存在を認識し、悲鳴を上げて平伏した。
「スルシャーナ様だぁぁっっ!!」
「許して下さいぃぃぃ!!これには深い訳が・・」
「どんな理由だ?言ってみろ」
「我々は『
「私の他の神の姿もあるようだが?」
「はい。それはスルシャーナ様とアーラ=アラフ様以外の四柱の神の子孫でございます」
「それがどうこの状況に繋がるのだ」
「神人は・・・我が国の最高戦力です。もしそれを『量産』できれば我が国が世界を!!」
「そうです!だから最近では寿命の長いエルフと交らせることでより『稼働時間』を・・」
「愚か者!!!」
「『人工』?『量産』?『稼働時間』?・・・まるで兵器だな」
「これは我が国・・・スレイン法国の為!!どうかお許しを!!」
「お前たちは私たちによって助けられた・・・・・だから
『人間』!!その命、『神』に返すがいい!!」
そう言ってスルシャーナはどこからか鎌を取り出した。
「ひぃぃいぃ!お許しを!」
「黙れ!これが友人たちが愛した人間の正体か!!」
鎌を振るう。無慈悲に命を刈り取った。
「これも国の為です。仕方ないんです」
「ふざけるなぁぁぁっ!!このクズがぁぁぁ!!!」
鎌を振るう。無慈悲に命を刈り取った。
「ひぃいぃぃ!!!」そうやって全裸の犯す側の人間を見てスルシャーナはようやく自身が何故後悔していた分かったのだ。自分の視界に入る全てを睨みつける。
「『人間』なんて!!!『スレイン法国』なんて!!!」
スルシャーナの視界が・・『世界』が歪みひび割れ、砕け散った。
「滅びてしまえ!!!!!!」
犯す者、犯される者、その場にいる全ての命を刈り取った。
そして『絶望』を撒き散らした。彼の周囲にいた存在は嘔吐、眩暈、動悸を繰り返した。
死、疫病、災厄・・・・
これがスルシャーナが恐れられる理由である。
スレイン法国を半壊させたスルシャーナは国を去った。
これがスルシャーナが放逐されたという真実である。
スルシャーナは彼の言葉を思い出していた。
-----------俺は『人間』を愛せない----------
あぁ・・・・私もだよ。
気が付けば砂漠が広がる場所に降り立っていた。
スルシャーナは視線を空に向けた。
そこには『浮遊する都市』が広がっていた。
人工神人計画
スレイン法国の上層部により行われていた計画。
「神人」を(兵器として)「量産」するために行った。
寿命の短い人間をエルフなどと交らせて強引に寿命を伸ばそうとした。
そのため法国の上層部が時折エルフの奴隷を買い占めたりするのはこれが原因。
一部の奴隷商人は何かしていかもくらいには感じている。
神人が奴隷にできる理由
生まれた時から現在と同じ状況で育てられているため『刷り込み』により反抗などはしない。ただし生理的に受け付けない時もあるのでその時は魔法で色々行ってスムーズに計画を実行に移す。