マイホーム購入の理由としてしばしば、「賃貸住宅が手狭だから」とか「賃貸住宅が貧弱だから」など、賃貸住宅が相対的に劣悪であることを挙げる人がいる。
確かに賃貸住宅は狭いし陳腐だ。夫婦2人と子ども1、2人で住む場合、子どもが小さいうちは2DKないしは2LDKで十分だが、子どもが大きくなり、生活をしていくうち徐々に荷物も増えてくると、どうにも収まらなくなってくる。
■新築マンションの豪華さに圧倒され…
賃貸契約の更新期限がやってくると、その際には家賃数カ月分の更新料の出費がある。また、子どもが元気に部屋の中を駆け回ったり、跳びはねたりすることで、階下の住民に騒音や振動などの迷惑をかけてはいないかどうかも心配だ。
そこで、4LDKの間取りなど、現在の生活にふさわしい賃貸住宅を探すことに。もちろん以前のコンパクトな賃貸よりも家賃は高い。すると「こんなに多額の家賃を払うのはもったいないから、いっそ買ってしまったほうがいいのではないか」という発想になるわけだ。
新築マンションのモデルルームなどを訪れると、その豪華さに圧倒される。もちろん豪華なインテリアなどで装飾されている部分はある。しかしそれ以前に、システムキッチンやユニットバス、洗面化粧台など設備の大きさやグレード、玄関や室内建具、サッシのグレード、天井高、共用部のエントランスや玄関ポストも階段も、何から何まで今住んでいる賃貸住宅より上だ。
■分譲よりグレードを下げた仕様
日本の賃貸住宅は、恐ろしく貧弱だ。そもそもキッチンやユニットバスなどの設備機器に、分譲(持ち家)のそれとはグレードを下げた「賃貸仕様」があるというのは、先進国では日本だけである。
日本では、税制まで含めた広義の住宅予算は、その過半が「新築持ち家」に向けられている。そして残りを中古住宅(持ち家)と賃貸住宅が分け合う構図だ。わかりやすくいえば、賃貸住宅はあくまで持ち家を持つまでのステップと位置づけられており、持ち家を、とりわけ新築持ち家を買ってもらうことを前提とした制度設計になっているわけだ。
実は、このように、過度に新築持ち家に傾斜した政策をとっているのも、先進国では日本だけである。
■住宅政策が景気対策に
1980年代あたりから「住宅政策」はいつの間にか「景気対策」となり、すでに人口減少局面に入っているにもかかわらず、税金投入による「住宅ローン金利優遇」や不動産取得税や固定資産税、登録免許税などの「税制優遇」で新築持ち家政策を続けてきた結果、空き家が820万戸にまで膨らんでしまった。
賃貸住宅に限れば空き家率は20%を超える。「新築住宅を買わせることで、結果として賃貸住宅から出ていかせる政策」をずっと続けているわけだ。
さらにいえば、「新築住宅には税制や金利優遇することで買いやすさを強調し、賃貸住宅にはこうした補助を行わないことでその経営を厳しくさせ、結果として狭い・貧弱な賃貸建設しかできなくさせている」といえる。
■新築持ち家に偏向した政策はやめるべき
本来はもう、新築持ち家への優遇はやめるどころか、むしろ空き家を減らすために新築住宅建設を抑制し、中古住宅市場やリフォーム市場を育成し、賃貸住宅市場の育成・充実を図るべきタイミングである。もちろん国は既にこうした方向にある程度舵(かじ)を切ってはいる。
では、こうした文脈のなかで、私たちはマイホームを買うべきか、そうでないのか。本コラムは、そうした問題意識をお持ちの方にお役に立てればと思い書き進めてきたが、本稿が今年最後となる。今年一年どうもありがとうございました。年明けのコラムは2015年の不動産・マイホーム市場を展望したい。
長嶋修(ながしま・おさむ) 1999年、業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所(http://sakurajimusho.com/)」を設立、現会長。「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。国土交通省・経済産業省などの委員を歴任し、2008年4月、ホームインスペクション(住宅診断)の普及・公認資格制度を整えるため、NPO法人日本ホームインスペクターズ協会(http://www.jshi.org/)を設立し、初代理事長に就任。『マイホームはこうして選びなさい』(ダイヤモンド社)『「マイホームの常識」にだまされるな!』(朝日新聞出版)『これから3年 不動産とどう付き合うか』(日本経済新聞出版)、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)など、著書多数。
本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。