@chablis777  
シャブリ

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(実次)今から 見合いば してもらう。
(孝蔵)<里へ帰ったら「寝耳に水」の縁談話。それだけでも「ばっ!」なのに…>
(スヤ)春野スヤでございます。
(四三)はあ?
<相手は なんと「自転車節」でおなじみ 春野スヤ>
ばばばばば~!
ばっ! ばっ… ばばばっ!
<今日は もう「ばっ!」の連続です>
(幾江)池部でございます。
池部?
池部… あん?
♪~
「よ~うっ!」(太鼓の音)
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
「よ~うっ!」(拍子木の音)
(志ん生)話は 明治43年 春まで遡ります。
(スヤ)♪「□いたかばってん □われんたい」
♪「たった一目で よかばってん」
(孝蔵)<スヤの秘めたる思いに気付かぬ石部金吉こと 金栗四三は東京高師で頭角を現しオリンピックの代表選手に選ばれるも日射病に倒れ 4年後の雪辱を誓います。一方 石貫村の医者の娘であるスヤは熊本の女学校を卒業。玉名の大地主 池部家の一人息子 重行と夫婦になりました>
そん重行さんが去年の夏 お亡くなりになり申した。
(幾江)胃弱でな。 あんたがオリンピックでほうけたように走っとった頃じゃ。病気がちじゃったけん覚悟は しとったばってんまさか こぎゃん早う… 親より先に。
そぎゃんですか。 それは なんとも…。
それは それ。はっ?
お願いいたします。
こん池部の家ばおるの代で潰すわけにはいかん。
重行の代わりば探しとったら実次さんが弟の四三が 近々 熊本に帰ってくるけん養子に出しますけん 是非 跡継ぎにと。
ばっ… 養子!?
(実次)重行さんは 一人息子だったけん。お前は 7人きょうだいの6番目だけん。
はい…。
えっ それだけですか?そっだけじゃなか!
(実次)そっだけじゃなかばい!
ぬしゃ 池部さんに大変お世話になったとば 忘れたとか?
オリンピックの渡航費ば出してもらいました。
田んぼば 売ってな。 そこが大事。
あん田んぼは 今池部さんから借りとる形ばい。
ばってん あんたが池部に養子に来たら…。
あん田んぼは お前のもんばい。
ばってん… 順番のおかしかです。
いや… 養子縁組みばしてから縁談ならまだしもそぎゃ~ん あけすけな話ば…見合いの席で…。
お~ ようやく その気になったばい。はっ?
た~か~さ~ご~や~!
あっ いや ちょっと待って 兄上。言わんでも分かっとるばい。
分かっとらん! 「分かっとう 分かっとう」言う時の兄上は何も分かっとらん。
(幾江)地主ばい!? スヤと祝言ば挙げて庄屋の旦那んさんになるとばい。何が不服ね!?
た~か~さ~ご~や~!
田んぼと嫁は別もんばい!
あっ…。
それに 俺は 4年後に向けて…。
お義母さん… せっかくですがこんお話 やっぱり水に流して下さい。
重行さん のうなったばっかりで気持ちの追いつかんし。
気持ちなど どぎゃんでん 後から…。
それに…金栗さんにも ご迷惑のかかりますけん!
スヤ!
・(実次)ぬしゃ なんて薄情な!
はあ?田んぼと嫁は そりゃ 別もんばい。
はい。 だけん そぎゃん言いました。
(実次)言わずもがなっちゅうとが あるばい。わざわざ言うっちゅうことは ぬしゃ田んぼとスヤさんば いっぺん はかりにかけようとしたっちゅうことばい。
いや だけん おるは順番が…。
順番は これでよか!
四三さん のぼせなさんなよ。
おるが欲しかとは スヤたい。あぁたじゃなか。
えっ え~?(実次)スヤさんは 今石貫のご実家に帰っとるばい。
(幾江)重行ば 死んでこんうちにおる理由がのうなったけん…。
ばってん こぎゃん大きか屋敷に一人でおってみんか。
そりゃ もう… たまらんばい。
(重行)やあ スヤさん。 よう来たね~。
いっぺんに 2人もおらんようになっておるは もういっそ死んでしまおうか…うんにゃ 死ぬわけにはいかん。そぎゃんこと ぐるぐる考えて菊池川ば どんどん遡って…。気ぃ付いたら スヤの家まで来とりました。
(幾江)鍋ば洗っとったとです。
スヤ…。
(幾江)生きようとしとる。おるは 死のうと思っとるとにこん人ば 生きようとしとる。そん姿ば 見ておるは ようやっと分かった。
こん人ばい…。おるは こん人が好きだけんこん人と暮らしたか。
理屈じゃなか そう思ったったい。家がどうの 商売がどうのそぎゃんことは知らん。スヤが一番だけん。
こん先 おるが生きるとしたらそら こん人のためばい。おるは お前さんと会うたこともなかしオリンピックがどぎゃん立派なもんかも知らん。ばってん スヤばもらわんなら養子にゃ せんけん。
こん話は しまいたい!
♪~
お義母さん!
スヤ…。お義母さん ごめんなさい…。
ごめんなさい お義母さん…。
どこにも行かんで!あんた もう… たまがったばい!
<金栗家でも緊急の家族会議が開かれました… が>
いや~ めでたか!
さあ 一杯!
ううん 酒は飲めんけん。
まあまあ 先生… いや これからは旦那んさんと呼ばんといかんばい。なあ 初太郎!(初太郎)旦那んさん。
田んぼ 返してもらったとね?(笑い声)
(2人)旦那んさ~ん!
(スマ)四三は 金栗家の救いの神ばい。
ばあちゃん まだ決めたわけじゃなかばい。
(シエ)堂々とせんといかんばい。
向こう行ったら いつまっでん水ば かぶって わめいたらいかんばい。
(実次)オリンピックに出たと思うたら学生の身で結婚とは四三おじはやっぱ とつけむにゃあ男ばい!
(子どもたち)とつけむにゃあ!
だけん まだ結婚はせんて!
いい加減にせんか!男なら 腹ば決めんか!
往生際の悪か~!
どっちみち あさってには祝言ばい!
ばっ!もう 後戻りできんぞ。
(ため息)そぎゃん嫌なら 明日 東京へ帰れ!
金栗家は破産じゃ!
(子どもたちの泣き声)
な~し… な~し そぎゃん大事なことを何も相談もせんで!
学校部屋に来い。行かん。
来い!行かん!
何だ こら!学校部屋に入ったら しまいだけん!
承知するまで折檻されるけん…。松雄!
せ~の!あ~! ひゃあ~!
<四三は必死の説得を試みました。ストックホルムでの屈辱的な敗北。4年後のドイツ・ベルリンで 日の丸を掲げるという なみなみならぬ決意>
4年しかなか。一日も休まず訓練せんと勝てんとばい。
そぎゃ~ん厳しか世界ばい。
<さすがの誇大妄想狂の鬼も…>
よう分かった!四三 お前の好きなようにせい。
兄上…。
そのために スヤさんと結婚ばせい。
な~し 兄上!な~し 俺の話ば聞いてくれんね!
俺が家長たい! 俺の話ば聞け!な… ああっ!
よかか?教員の給料なんざ たかが知れとる。
そこでだ 池部さんの養子になれば少なくとも 金の心配ば のうなる。
思う存分 走れる。 相撲のタニマチばい。
ばってん そんためには…。
まだ動かんとね?それなら 一本背負いでいくばい!
四三 お前はスヤさんのこつ 好かんとか!?
好かん! ほんなこつ あん男は…。
実次さんが是非っちゅうけん会うたばってんがいっちょん 煮えきらん。
もうよか。 あんたさえ来てくれたらおるはよかけん。
跡継ぎは こっちで探すばい。
いえ… 私は四三さんがよかです。
相手が四三さんだけん謹んでお受けしたばってん四三さんじゃなかったら…こん話は しまいです。
好いとっとね?
ひゃあ!
<文字どおり 頭を冷やしながら幾度も自分に問いかけました。四三 お前はスヤのことが好きなのか?>
丈夫なら それでよかたい!
…って 将来 四三さんの奥様になんなはる方なら言われますよ。
丈夫な体ば お国のために使うか自分のために使うか決めるとは四三さんたい。
自由ったい!
幸い 俺は丈夫ばい。
スヤさんのおかげで…俺は誰よりも丈夫ばい!
・(鶏の鳴き声)
<大正2年 春。四三は 池部家の養子となりスヤという嫁をもらいました>
♪~
「帆をかけて」
「帆を上げて」
間違った…すいません ちょっと緊張して。
・(足音)
(スヤ)疲れましたね。はい。
春休みで帰省してこぎゃ~ん大変なことになるとは。
「大変」?あ~ いや…。
大変 その~ おめでたかことに ハハハ…。
はっ!
♪~
ちょっと 失敬!
♪~
いやいや いやいや…。
スウェーデン語で 水んこつばバッテンといいます。
えっ?あっ すいません… 聞こえましたか。
独り言たい。
(2人)あの…。あっ… すいません。 どうぞ。
四三さんから。いやいやいや…。
聞きたか。 何? 何ね 何ね?
し… 重行さんの最期はスヤさんが みとられたとですか?
はい。
こん部屋で。
あっ… そぎゃんですか。
何やってんだい 本当に。
堅物の新婚初夜ほどじれってえものはねえですな こりゃ。
寝られんですか?
私もです。
こん部屋でこうしてまた夜ば迎えるとは…。
ばってん うれしか。
ありがたかです。お義母さんに恩返しばせんといかん。
こん池部の家ば 四三さんと…。
お… 俺には 4年後がありますけん。
オリンピックに出るっちゅう大志のありますけん。
日本スポーツの向上のために雪辱ば果たさんといかん。
そんためには 脇目も振らんで何はさておき オリンピックだけん。
だったら私も 何はさておき お義母さんです。
そぎゃんですか。
では お互い 頑張りましょう。
はい。
おやすみなさい。おやすみなさい。
ひゃあ~!
おいちに おいちに おいちに…。
ひゃあ!
すいません!すいません!
すいません すいません すいません…。
旦那んさん お荷物ば お持ちしますんで。
ばばば… いや 自分のことは自分で。
いえ それが こん人らの仕事だけん。
せわしなか男ばい。そぎゃん慌てて帰らんでも。
まさか結婚するとは思わんかったけん。
すいまっせん。
あっ いや… 今後のことは また改めて。
あっ すいません。
どうぞ どうぞ… はい。 ほれほれ。
あっ…。(実次)ほら…。
行ってらっしゃいませ!(一同)行ってらっしゃいませ!
(実次)あっ すいません…。
♪~
・旦那さん… 旦那さん!はよ はよ!あっ はい。
旦那さん 足場ん悪かけん つかまって。はい。
あっ…。(実次)大丈夫か?
ほんなら 手紙ば書きますけん。出しますばい。
あっ… お元気で。スヤさんも。
(実次)硬か~ 2人とも。 コッチコチばい。
♪~
さて 四三さんがぎこちなく身を固めた頃朝太こと 美濃部孝蔵 つまり 私はですね旅巡業の真っ最中で。
東海道を西へ静岡の浜松辺りをほっつき歩いてた。
(孝蔵)浜松といえば うなぎだね。(万朝)おい 孝ちゃん 行くぜ。
金 持ってねえのかい?持ってないよ。
おっと… バカ野郎!
あ~ もう… 怒らない 怒らない。
(小円朝)着いたよ~。
困った時の 浜松勝鬨亭だ! ハハハハハ!
ちいちゃ~ん お~い!
「ナカの若いもんなんでございますよ。ゆうべ あの男がね うちでもってね50円近い遊びをしちゃってその勘定をこしらえてもらうためにこちらへ来たわけですよ。なにも こんな早桶をこしらえてもらいに来たわけじゃないんですよ」。
「えっ? あっ そうかい」。ねえ 帰らんけ?
し~っ。 静かにしな。
「お前さん逃げられちゃったんじゃねえか。えっ?ナカの若え衆が そんなことでどうすんだい 本当」。(子どもの泣き声)
「どうすんだ こんなバカでけえもん」。(子どもの泣き声)
「職人の手間代は まけといてやるから木口の代 10円だけ置いて 持ってけ」。
「いえいえそんな冗談言っちゃいけませんよ」。
ツイてんな おい 今日は。
(志ん生)<もう貧乏で博奕好きが集まってるから着るもんなんか とうに売っちまった>
何だ これ朝太って書いてあんじゃねえかよ。
構やしねえよ。とっとと帯締めて出ちまえよ。
勝鬨亭のね 何がいいって う~ん三度の飯が出て 楽屋に泊まれて近くにね 八百庄って 造り酒屋があっておまけに…。
(ちいちゃん)今日は特別。 大入りだで うなぎだに!
待ってました!お~ ありがてえ!
おいおい 俺の分 残しといてくれよ。
おうおう… 大丈夫だよ。行け行け 行け行け。
・うんめえ! うめえ!
ちいちゃん 悪いんだけどよ今月も いくらか前借りできねえかな?頼むよ。
(五りん)ちいちゃん?(知恵)えっ あたしと一緒だ!
こんなチンチクリンじゃねえよ。浜松のちいちゃんは小股の切れ上がった いい女だったな~。
あんたには フラがあるよ… なんてね。ありゃ 俺にほれてたな。
(りん)誰の話?
もう ちいちゃん もう 目が…。
もう一本 ちょうだい。はい。
あっつ!もっと買ってよ。
えっ いくらなら買ってくれんだい?もう 何言ってんだ。ありがと。
お前 どうだった?
とぼけんじゃないよ。聞いてたんだろ? 俺の噺。
はあ… まあ 大したもんだやぁと思いましたね。
んっ?前座だら? なのに長い噺覚えてつっかえずに言えて…た~んと稽古したんだな 偉いやぁって。
(ちいちゃん)八百庄の次男坊のまーちゃん。
(志ん生)<うん? まーちゃん?どっかで聞いたような…>
(ちいちゃん)お父っさのお供でバカちっせい頃から 寄席 通ってんだに。
うん? んっ んっ おい おい…。
「偉かった」ってのは?えっ ほかには 何かねえのかい?
面白かねえら。
ハハハ… 何だと この野郎!よしない 孝ちゃん!
子どもの言ってることだで。
いいや! 「付き馬」は大ネタだ。
どうせ 田舎だ 分かりゃしねえってかけたんだろうが目の肥えた客はお見通しさ。
ですがね お師匠さんいつまでも「子ほめ」や「やかん」じゃうまくなれやせんからね!
じゃあ お前の「付き馬」で客は沸いたかい?
なっ?真面目に稽古した大ネタより笑える前座噺だよ。
だったら てめえの人情噺はどうなんだよこのハゲ!
(万朝)よしなよ 孝ちゃん!(小円朝)何すんだよ こら!
眠くて聞いてらんねえや! 円喬師匠の爪の垢でも煎じて飲みやがれ!
知ってんだよ。 えっちいちゃんに夜這いかけようとしてしくじったことはな一座の連中 みんな 知ってんだよ。
えっ? 小せえ野郎だな。えっ? 小円朝の「小」は小者の小だ!
止めんなら 早く止めろよ!ごめん!
おい!痛っ!
(小円朝)出てけ~!
…ってんで 師匠に追ん出されましてその後はどうなったか。
続きはね また後で。(笑い声)
え~ 東京高師の最終学年を迎えた我らが韋駄天。
<嘉納校長に 結婚の報告をしなくちゃならないんだが…>
(治五郎)いつまで 金の話をしておるんだね!
せっかく 金栗君に選手の立場の話をしてもらおうとしているのに!
(岸)借金問題の解決は我が体協の急務ですから。
(武田)ストックホルムの惨敗で世間の 体協に対する風当たりも強い。
(治五郎)惨敗だと?そこじゃないんだよ そこじゃ。
(永井)基礎を侮るなかれ!
今は 私が書いた この要目に従い体操中心の学校教育を広く全国に推進すべきなんです。
ああっ。あ~!(可児)ああ ああ…。
あ~ 息が詰まる。すいません 拭くもんば…。
何だよ これは。 えっ?読むだけで 肩と首が凝る。
広まらんだろう こんなもん。
しかし 文部省と軍部の介入から体育を守ったという意味では永井さんの功績も…。(治五郎)何言ってんだよ。
あいつは もともと学生時代 テニスボーイだぜ?
えっ?はっ?
せい!(治五郎)朝から晩まで テニス漬け。あまりにも面白く 夢中になりすぎてある時 ふと 気が付いたそうだ。
これは いかん。 面白すぎて勉学と並立し難い… 害悪だ!
それで すっぱり テニスをやめたそうだ。
ハハッ。そういう極端なやつだから聞き流してればいいんだ。
(孝蔵)<結婚の報告を誰にもできず春が過ぎ…>
<待ちに待った夏四三は 灼熱の海へ繰り出した>
<日射病で負けた雪辱を晴らすためにどんな暑さにも倒れぬ体を作らねばならない。そこで 日中 最も気温が高い正午過ぎを練習時間とし炎天下の砂浜で帽子もかぶらずがむしゃらに走りました。まさに 耐熱練習>
(野口)金栗さ~ん!
あっ おい 大丈夫か!?
(野口)あ~ ちょっと 触んないで下さい!触んないで下さい!失格になりますから。金栗さん 間もなく8km。 頑張れ!
大丈夫ですから。
頑張れ。
♪~
(志ん生)<倒れない工夫をするのではなく倒れても起き上がって走る練習をする。バカと天才は紙一重といいますが…>
もう駄目だ… ああっ 歩けねえ。
(ベル)
おい… 何だ? ありゃ。
ありゃ… 河童だな。
そう。 彼らこそ 浜名湾の河童軍団。
詳しくは 弟子の五りんから。
はっ? えっ?(笑い声と太鼓の音)
(拍手)
あっ どうも…。
え~ 昔から 浜松はですね水泳が盛んな土地柄でして。
(五りん)<自分たちの泳ぎを浜名湾流と名乗るようになりました。旧制中学の生徒たちは毎年 夏に合宿を行いました。自らを河童と呼ぶほど水に親しんだのです>
さあ 行かざ~!
(一同)お~!
<当時の水泳は 速さを競うものではなく鎧姿でも泳ぐなど 戦国武士の修練を受け継いだものでした。立ち泳ぎをしながら 字を書いたり…>
(歓声)
<腹をわざと水面に当てて沈まぬことで水中に仕掛けられた罠をかわす技腹打ち飛び込み>
あっ… おい。あれ 八百庄のせがれじゃねえか?
おい 浜名の河童潜って うなぎでも取ってこい!
<合宿の総仕上げは6時間にも及ぶ大遠泳。その距離 なんと16kmですから浅草から芝なんてもんじゃありません。韋駄天が海岸を走っていた頃浜松では河童が泳いでいた。どちらが速いかは知りませんがどちらもバカなのは間違いございません>
(孝蔵)<しかし この河童軍団の中から金栗 三島に続くオリンピック選手が生まれます>
金栗さ~ん!あっ 大丈夫か?
触るな 触るな!
(野口)金栗さん 無理ですよ。
気温 摂氏36度 死んじまいますよ。
今しかなかばい… 今しかなかばい…。
次のオリンピックまで夏は あと2回しかなかばい!
<つらい時は ストックホルムの屈辱を思い出して 頑張った>
(ラザロ)ノー ノー ノー ノー ノー!
あ~!
頑張れ!頑張れ 頑張れ!
 回想 オリンピックに出るっちゅう大志のありますけん。
日本スポーツの向上のために雪辱ば果たさんといかん。
そんためには 脇目も振らんで何はさておき オリンピックだけん。
頑張れ!頑張れ 頑張れ!
♪~
<そして ついに1か月>
おっ 来たぞ 来た…。
あと50!頑張れ 頑張れ!
頑張れ 頑張れ。あんたなら できるよ。
頑張れ 頑張れ。
(野口)なんということだ 日本の金栗今 ぶっちぎりで ゴール!(歓声)
<40kmを倒れることなく 走り抜きました>
アハハ!
失敬。
<やがて 秋が過ぎ…冬になり東京高師の最高学年を修了する日が刻一刻と近づいてきた>
(平田)金栗君! 金栗君 ちょっと。
<東京高師を卒業した者は全国の中学に散らばり教壇に立つのが当たり前でした。徒歩部の橋本は 長野中学。平田は熊本。それぞれ 赴任先が発表になり辞令を受け取ったが…>
金栗君が こう 顔を真っ赤に染めてゴールした瞬間あれは忘れられないよ。すごかったんだから! アハハ。
(橋本)金栗君 これから どうすんだ?
実次~! 出てこい!
こんペテン師が! 実次!
どぎゃんしました?
どぎゃんも こぎゃんもなか!
あんたの弟が熊本に帰らんて言うてきたばい。 ほれ!
(実次)えっ?
「四三は 教員になる道ば捨てる決心ばしました」。
いや~ 教員にはならん。マラソン一本でいこうて思うとる。
(実次)「養子話も縁談も破談にして頂いて構いません。四三は退路を断って ベルリンを目指します」。
オリンピックまで2年半。 みっちりやれば最高の状態でベルリンへ行けるばい!
おのれ 四三!
片手間でやったら 一生後悔するけん。
卒業したら 帰るて言いよるけん養子にもろたとに だまされたばい!
よし! 俺も オリンピック目指します!
おっ そぎゃんね 野口!はい。
夏の合宿で あんなに何度も倒れてそれでも諦めない金栗さん見てバカだと思いましたよ。バカなんでしょうね~。 フッ。
こんバカタレが!あっ 痛い 痛い 痛い!
バカタレ バカタレ バカタレ…。(実次)すんません… あ~!
(永井)貴様 正気か!?
すいまっせん!(永井)4年間 官費の教育を受けておきながら教員になりたくないとは高師に学んだことをなんと心得る!?
教職に就くことは 高師卒業生の義務だ!来い!
肋木につかまれ!
(福田)金栗おるは 熊本中の校長も よう知っとる。お前が望めば 新任で雇ってくれるばい。
いや 熊本には帰りません!東京で トレーニングば します。
(福田)ばってん…2年間も無給でやっていけるとね?
教員やりながらでも十分 練習できるんじゃないの?
そぎゃ~ん生半可な気分では立派な先生にも立派な選手にもなれんとです!
金栗! こっち来い。はい!
靴を脱いで はだしになりたまえ。
は… はい!
(治五郎)汚い足だな~。
すみません!
ほら 見たまえ。
夏も冬も ぶっ通しで走ったせいだろう。血まめだらけじゃないか。なんと不格好でゴツゴツしたみっともない… 足!教師は 生徒の手本にならなくてはいかん。
こんな足では人の上には立てん。 不合格!
はい。
こんな足では世界一のマラソン走者ぐらいにしかなれんと言っておるんだよ。
校長先生…。
ハハハハ…。
走れ!君は何も考えず 存分に走りたまえ。文部省には 私が話をつけよう。
それで問題ないね?ただし 寄宿舎からは出ていってもらうぞ。
何だ そんなもん!衣食住の面倒ぐらい体協で見る。
(可児)校長!(治五郎)職にも就かずマラソンばかりやっているようなやつのことを何というか知っとるかね?
(永井)さあ?
プロフェッショナルだよ。
君は マラソンを極めて我が国におけるプロフェッショナルのスポーツ選手 第1号になりたまえ!
(福田)しっかりやれよ 金栗!
はい! ありがとうございます!
(スヤ)「スヤより。 お手紙拝読しました。進路の件 マラソンへかける思い私は理解しました。 お義母様はこれじゃ話が違うと騒ぎますが四三さんが オリンピック制覇の宿願を達成するまでの辛抱ですと言い聞かせております」。
あれ? 新しか旦那んさんは?
どぎゃんもこぎゃんも 祝言を挙げた翌朝東京に帰り申した。
(笑い声)
2年後のオリンピックまでの辛抱だけん。はい 皆さん ようがまだしたな!
「幾江殿 スヤ殿 私の身勝手な決断ご理解頂き ありがとう。四三は 幸せ者です。これを励みに日々 ますます精進する所存。スヤさんも お体 ご自愛下さい」。
「スヤさん」…。
「冷水浴は よかばい。いっちょん 風邪ばひかんけんだまされたと思って やってみなさい」。
えいっ 何事も経験ばい。
ひゃあ~!
ひゃあ~!
気持ちよか~!
(トクヨ)オリンピックなど開催できる状況ではない!
(治五郎)若者の夢を奪う権利は誰にもないんだよ!
<ベルリンオリンピックの前に立ちはだかる壁 壁 壁>
(スヤ)今から 東京に行ってもよかですか?
<やだ~ もう泣いちゃう>
熊本県玉名市。
金栗が婿入りした池部家です。
金栗とスヤが水浴びを行った井戸が今も残っていました。
孫の酒井さんは 今でも祖父との思い出を鮮明に覚えています。
近所に スポーツ用品店がなく金栗は縁側で子どもたちに足袋を譲っていました。
忙しく飛び回り家には不在がちだった金栗。
不在の理由は この先のドラマで。


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