- 須田:凱旋門賞といえば、海外の数ある大レースの中でも特別なレースだと思うんですけど、
テレビ観戦等を含めて、平松さんが最初に凱旋門賞を観戦したのはいつですか? - 平松:シリウスシンボリ(14着)が挑戦して、ダンシングブレーヴが優勝した1986年ですね。
- 須田:昭和の頃は、まだ“勝てる”というリアルなイメージはなかったような気がします。
その後、日本馬の足跡を振り返ると、やはり可能性を感じたのはエルコンドルパサーですかね。 - 平松:エルコンドルパサーには驚きました。ここでも通用するんだと。
何より、サンクルー大賞の相手が相当なメンバーで、サガミックスやボルジア相手での
完勝劇でしたから。本番の凱旋門賞でも期待は膨らみましたよ。 - 須田:勝ったモンジューは3歳馬で56kg、5歳馬のエルコンドルパサーは59.5kg。
3.5kg差の斤量面も影響したんでしょうね。
とはいえ、世界に衝撃を与えたエルコンドルパサーの好走要因として挙げられるのは、
遠征戦略じゃないですか。これだけ長期滞在したのはエルコンドルパサーだけです。 - 平松:確かに。遠征の形はポイントの一つですね。
- 須田:エルコンドルパサーの例もありますが、“どんな遠征が一番良いのか”という結論はまだ出てませんけど、いずれにしても出走を続けることで、今後、挑戦する人への参考になるのは
間違いないですね。
- 平松:須田さんが最初に凱旋門賞へ行かれたのはいつですか?
- 須田:実は、まだ1回しか行ったことがないんですよ。
2007年のディラントーマスが勝った年で、敢えて日本馬不在の年に行きました(笑) - 平松:その年を含め、私も日本馬がいない年に何回も行っていますけど、そういう時は日本のメディアやファンはほとんどいませんよね。
日本馬が参戦すると競馬場の雰囲気が変わるほど人も増えますからね(笑) - 須田:日本とは違って、フランスの競馬は大レースの日でも拍子抜けするほど、
閑散としている時があります。
ただ、凱旋門賞はそういった意味でも別格です。指定席のチケットも入手困難ですし。
改装工事も終わり、今年から再びパリロンシャン競馬場が舞台となります。 - 平松:以前は、混雑している日だとパドックからゴール前までの移動に時間がかかりました。
先日、パリロンシャン競馬場へ行ってきたんですが、その点は動きやすくなった感じがします。 - 須田:僕も行ってきたんですけど、初めてパリロンシャン競馬場へ行かれる方にとっては、競馬場の全体図が分かりやすくなった気がします。
ともかく凱旋門賞は本当に特別なレースであり、特別な雰囲気の中で行われるので、
ぜひ皆さんには一度行っていただきたいなぁと思います。 - 平松:そうですね!個人的には凱旋門賞とオーストラリアのメルボルンカップは、オススメです。
- 須田:そんなビッグレースを“日本馬が勝つには?”という話題に移ります。
よく言われるのは「馬場適性」や「遠征中のコンディション」。
このあたりについてはどうお考えですか? - 平松:馬場適性などは勿論重要なファクターではあります。
ただし、私はその前に、もともとのポテンシャルが必要だと思うんですよ。
昔は、ただ単に地力が足りていなかったから好走できませんでしたが、
最近はポテンシャルが高い馬が多いとみています。 - 須田:なるほど。確かに今年に限っても、ディープインパクト産駒やハーツクライ産駒が世界中で活躍してますからね。
- 平松:その上で馬場を考えると、パリロンシャン競馬場で言えば「フォルスストレート」があります。
特徴としてレースの後半は下り坂と平坦しかなくて、ラップを見るともの凄く速い!
つまり、日本馬のような瞬発力がある馬には向いている馬場。
冒頭で紹介したエルコンドルパサーをはじめ、近年ではオルフェーヴルが2年連続2着など、挑戦した頭数から考えれば、全く悲観する成績ではないと考えています。 - 須田:馬場適性の問題で勝てない…なんて言い訳する時代ではなくなりつつある気がしますよね。
僕も今後のテーマは“どういう形の遠征をするか“ではないかと思います。
仮に平松調教師ならどんな遠征方法にしますか? - 平松:私が調教師なら…ですか(笑)
個人的にはじっくり腰を据えての長期滞在がベターかと思いますが、最近の傾向としては国内である程度仕上げて短期で遠征する形が増えているようですね。
国内に東西トレセン、大山ヒルズやノーザンファームなど素晴らしい調教施設があるので、
敢えて不慣れな遠征先で調教するより、国内で管理して仕上げた方が
良いという考えなのでしょう。 - 須田:なるほど。
- 平松:それと傾向として挙げられるのは前哨戦です。
過去に2着した4頭の共通点として、本番と同じ舞台のフォワ賞を使って中2週で向かう過程。ただし、欧州勢に関して言えば、最近はその傾向が少し変わってきた気がします。
アイルランドのチャンピオンステークスの賞金が増額されたことで、フォワ賞ではなく、
チャンピオンステークスに実力馬が出走する傾向が目立っています。
そうなると、フォワ賞へ出走する馬が減少し、ペースやレース自体の質が本番と全く違ってきてしまう。異質なレースになるため、仮に勝利しても本番の凱旋門賞につながるか微妙です。 - 須田:確かにフォワ賞は、4頭立てなんていう年もありますからね。
- 平松:とはいえ、前哨戦として理想的なのは、中2週で本番へ挑めるフォワ賞やニエル賞かな。
過去の傾向をみるとフォワ賞は勝利が条件になるけど、ニエル賞は勝ち負けにこだわる必要はない。ただ、いずれにしても頭数が揃うなど、少しでも本番に近いレースになって欲しいですね。 - 須田:変則的に札幌記念から一発勝負、もしくは別路線からの挑戦という手もあるんですかね。
個人的には、馬場適性や前哨戦云々もありますが、“どんな馬が遠征すべきか“を考えると、
”脚が丈夫な馬が行くべき“だと思うんです。
日本の施設より負荷をかけにくい条件下で調教することになりますので。
特に2走使いの前提で行くなら、中間にどんな調教ができるかに関わってきます。
- 須田:さて、今年はクリンチャーが挑むわけですが。
- 平松:これまで多くのGI馬が敗れてきたわけですから、GI未勝利のクリンチャーは普通に考えると難しいと思います。
でも、私は結構可能性を秘めているような気がするんです。
昨年の菊花賞(2着)、そして今年の天皇賞・春(3着)だって、“勝つかな”と思わせるようなシーンがありましたからね。 - 須田:まだ、適性がどこにあるのか分かりづらいところがありますね。
- 平松:そうかもしれませんね。
あとはコースを熟知している経験豊富な鞍上(武豊騎手が騎乗予定)という点も
期待したいです。 - 須田:対する外国馬の面々ですが、このタイミングで挙げるのは難しいですよ。
なんせ週末(収録2018年9月4日)に昨年の優勝馬エネイブルが出走予定ですからね(笑)
その結果如何でどうなることか。※2018年9月8日セプテンバーステークス1着 - 平松:しかもオールウェザーというのが微妙(苦笑)
- 須田:それでは、一部ブックメーカーの前売りオッズで1番人気のシーオブクラスはどう見てますか。
- 平松:愛オークスもヨークシャーオークスも後方一気の競馬で勝ちました。
豪快で見事なレースでしたね。
多頭数の凱旋門賞で同じレースができるかがポイントでしょうね。 - 須田:3歳牝馬に有利な凱旋門賞(※シーオブクラスは3歳牝馬)ですが、一線級牡馬とは
戦ってない点が気になるところです。そして気になると言えば、ゴスデン厩舎です。
エネイブル、クラックスマン、ラーティダーといった、可能性のある馬が揃ってます。 - 平松:エネイブルは週末のセプテンバーステークス、
ラーティダーはヴェルメイユ賞を予定しています。 - 須田:そうなると、全ての主戦を務めるデットーリ騎手の動向が気になります。
その他では、ポエッツワードあたりも上位人気に支持されてますが、
5歳以上の牡馬が苦戦傾向にある凱旋門賞。
2002年のマリエンバード以来、優勝馬が出ていないんですよ。 - 平松:ポエッツワードはアメリカへ行く可能性もあるらしいです。
- 須田:総括すると、エネイブルの動向が大前提ですが、混戦模様と言えそうですね。
- 平松:地力に優るエネイブルですが、オールウェザーを叩いて……というのが唯一の気がかり。
同じゴスデン厩舎のジャックスホブスが以前、同じ臨戦過程で英チャンピオンSで負けた例もありますから。
あとは昨年2着のクロスオブスターズを始めとしたファーブル勢、カプリらのオブライエン勢など出否未定の馬もいますからね。本当に楽しみです。
- 須田:昔は海外競馬というと、日本調教馬が出走して応援するだけでしたけど、今は馬券も買えるので競馬ファンの皆さんもより楽しめるようになりました。
- 平松:個人的には応援馬券は一切買わない人間なのですが、日本でのオッズをみていると、やはり日本のファンは日本馬に票を入れる傾向がありますね。
オッズ的に妙味のある外国馬の馬券を買って、“外国馬が勝てば懐が豊かになり、日本馬が勝てば心が豊かになる”という買い方がオススメです(笑)。 - 須田:馬券発売をきっかけに海外競馬の注目度が上がることは良いことだと思うんですよ。
メディアが取り上げ、さまざまな意見が飛び交うことで、遠征する陣営にとって何かヒントになることが出てくるかもしれませんから。
ということで、10月7日に行われる凱旋門賞をお楽しみに!
平松さん、ありがとうございました。 - 平松:ありがとうございました!