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空飛ぶクジラの幸せ生活 ~神代の無敵艦と融合した俺は、背中に獣人たちの街をつくる~ 作者:じゃき

第一章

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15.キート、蒼穹の公爵と対峙する。

 イスラフィルが座す霊峰は、鋭く険しい岩山であった。


 幾本もの槍が天に向かって突き出されているような地形から、この岩山を俺たち人間は『怒れる撃槍』と呼んでいる。


 俺は霊峰に到着すると、その麓にある巨大な洞窟へと足を踏み入れた。

 広大な内部は鍾乳石が至る所から生えており、さながら牙を持つ獣の口内だ。光の届かない場所ではあるが、壁に生えている光苔のおかげで明るかった。


 流れる川に沿って、下へ下へと降りていく。

 しばらく歩き続けると、一層開けた場所に出ることになった。


 そして、その中央で、あのグランホーリー・ドラゴン――イスラフィルが、鼻から炎を吐きながら寝息を立てている。


 見つけた。さて、どうやって逆鱗を手に入れたものか。

 案としてあるのは、二つ。

 一つ、力ずくで奪って手に入れる。

 一つ、譲ってもらえるよう交渉する。


 どちらにしても大きな労力を払うことになるだろうが、俺としては平和的に解決したかった。だが、簡単にもらえるだろうか?


 物理魔法両方に強い耐性を持つ龍の鱗鎧の中で、唯一なんの耐性を持たない首元に生えた鱗、その急所とも言える部分こそが逆鱗だ。

 そんなナイーブな部位を、譲ってもらえる状況が思い浮かばない……。

 ましてや、俺とイスラフィルの間には、ちょっとした因縁があるのだから。


 ……ええい! 迷っていても埒があかん!

 男は度胸だ! 正々堂々と誠意を尽くして頼んでみよう!


 俺は軽く咳払いをし、それから声を張り上げた。


「我が名はキート! 偉大なる蒼穹の公爵にして、誇り高き聖龍イスラフィルよ! その眠りを覚まし我が呼びかけに応えたまえ!」


 すると、イスラフィルは巨体を震わせ、獰猛に吠え猛りながら身を起こした。


「GURUOOOO……キートだと? なにゆえ、我が眠りを妨げる……」


 目覚めたイスラフィルは、その眼で俺を捉えると言葉を詰まらせた。


「……き、きき、きさまは! あの時の!」


 あら~、やっぱり覚えていたか。忘れていたら、ラッキーだったんだが。

 そうそう上手くはいかねえか。


「おのれ、人間! この前はよくも!」


「待ってくれ。話があるんだ。聞いてくれ」


「話を聞けだと? ふざけるな! 貴様には、この前の礼をたっぷりと……」


 勢いづいて立ち上がろうとしたイスラフィルは、だが途中で激痛に呻くような声を上げて寝転がってしまった。


「ぐががががががっ、こ、こしがぁ……」


 聖龍の無様な姿に、俺は察するものがった。


「まさか、おまえ、こないだの傷がまだ……」


「だ、だまれ! この程度の痛み、我の前では! うおおおおっ!」


 気合いを入れてイスラフィルは吠えるが、一向に動き出すことはなかった。

 ずっと、うおおおお! だの、どりゃああああ! だのと叫んでいるだけだ。


「もういい! もうやめてくれ! 俺は、そんな恥ずかしい姿を見に来たんじゃないんだ! いいから黙って寝てろ!」


 俺がたまらず制止すると、イスラフィルはやっと叫ぶのを止めてくれた。……と思ったら、今度はすすり泣き始めた。


「……ひっ、この我が、ぐす……この我が、こんな人間なんかに……」


 うわぁ……ますます見たくないものを見せられてしまった。


 最強のモンスターであるドラゴンのこんな姿を見てしまった人間は、世の中で俺だけじゃなかろうか?

 子どもの頃に憧れていたモンスターが、実はこんな糞雑魚だったなんて……。

 ショックだ……ただただショックだ……むしろ俺が泣きたいわ。


 だが、ここで俺まで凹んでいては、話がまったく進まない。

 さっさと本題に入って、さっさと逆鱗もらって、さっさと帰ろう。


 俺は膝を突き、恭しく礼をした。


「偉大なる蒼穹の公爵にして、誇り高き聖龍イスラフィルよ! ここにやってきたのは、貴殿の逆鱗を譲り受けたいがため! なにとぞ、聞き届けたまえ!」


「……ぐすっぐすっ、え? ……なんだと? 我の逆鱗が欲しいだと?」


「そうだ! そのために、俺は来たんだ! 頼む、譲って……」


「貴様! なんてハレンチなことを我に頼むのだ! この変態が!」


 は、はれんち? ……逆鱗って、そういう部分なの?

 ま、まあ、いいや。ともかく、謝っておこう。


「気を害したのなら申し訳ない。だが、どうしても貴殿の逆鱗が欲しいんだ」


「おのれ! まだ言うか!」


「頼む! 貴殿の逆鱗が無いと駄目なんだ!」


「……ううむ、しつこい奴め。……ちなみに、どうして必要なのだ?」


「貴殿の逆鱗があれば、病に苦しんでいる者を救える。だからだ」


「ほお、なるほどな。それで、相手は誰だ? 妻か? 恋人か?」


「そのどれでもない。ただ知り合っただけの相手だ」


 俺が答えると、イスラフィルは盛大に炎を吹きながら笑った。


「ぐわっはっはっはっ! ただ知り合っただけの相手だと? なんと見え透いた嘘か! 人間は嘘を吐くことだけを得意とする生き物だが、貴様はそれすらできんようだな。まったく、呆れたものだ」


「嘘なんかじゃない! 本当のことだ!」


「仮に、真実だとしよう。だが、それはなおのこと失笑ものだな。他人に施すためだけに我を訪ねてくるなど、愚かとしか言いようがない」


「笑うなら笑え。だが、逆鱗だけは譲ってほしい。願いがあれば聞かせてもらう用意はある! だから頼む!」


「断る! 偽善者に与えるものなど、爪の先すら無いわ!」


 言うや、イスラフィルの鼻から、小さな火球が俺目掛けて射出された。


「うお! あぶね!」


 咄嗟に避けることに成功したが、俺がいた場所は黒くすすけていた。


「てめえ、なにしやがる!?」


「ちっ、外したか」


「なにいっ!? やろう! そっちがその気なら!」


 俺はフォトン・リパルサーを抜き、イスラフィルの角の一部を撃ち抜いた。


「ぬおっ!? 我の角が! 貴様、何をする!?」


「うるせえ! 先に仕掛けてきたのは、おまえだろうが!」


「おのれ、正体を現したな人間。我が火球の餌食にしてくれるわ!」


「上等だ! 返り討ちにしてやる!」


 俺とイスラフィルは睨み合い、互いに互いの隙を窺う。


 そんな時だった。目の前の空間に、突然としてヒビが入ったのは。


「双方止めなさい」

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