この記事を共有する:
2018年11月30日
【POINT】
「ブリージャー(Bleisure)」という言葉を聞いたことはあるだろうか。ビジネス(business)とレジャー(leisure)の合成語で、「出張休暇」と訳されることが多い。出張先で観光も楽しむことを指す言葉で、多くは延泊をともなう。このブリージャーが、旅の新たな商機として旅行業界から注目を集めている。では、ブリージャー客とはどのような人たちなのだろうか。
かつては、「出張は社用であり、現地までの交通費を会社で負担している以上、延泊して楽しむのは公私混同」という暗黙のルールがある企業も多かった。社員側が自主規制する側面も強いだろう。
一方、多くの海外企業の社員たちにとってブリージャーは楽しみの一つであり、会社側も推奨しているところが多い。ブリージャーが組織への帰属意識を高める存在になっているためだ。実際、booking.comの調査によると、就職や転職にあたって「出張の機会が多いなら、年収が下がってもその仕事を選びたい」と答える人が3 割に上ったという。
何より、延泊を認めても企業にとって損失はなく、場合によっては、出張帰りで混み合う金曜夜より、日曜の方が航空運賃は安いケースもある。いま、日本でもルールを設けてブリージャーを積極的に認める企業が増えてきた。そして旅行業界は、ブリージャー需要が一般的な旅行客のものとは異なる点があることを認識し始めている。ブリージャーを広くとらえ、出張先で楽しむ少し豪華な食事やアクティビティも彼らのニーズであると考えて、さまざまな提案をしようと動き始めているのだ。
提案を考える際、重要なポイントは2つある。
ブリージャー客の現地での時間は限られている。仕事が終わった後の時間と延泊時の数日がターゲットとなる。その時間を有効に使って、狭い移動範囲の中ですばらしい体験を提供することが求められる。
ブリージャー客は、比較的“使えるお金”を持っている。移動には個人の交通費はかかっておらず、出張手当も出ている。持ち出しは延泊の宿泊費のみであり、「出張手当はすべて使って問題ない」と考えている人が多い。実に魅力的なターゲットなのだ。
このような人たちを対象に、旅行業界はどのような戦略を打ち立て、どのように施策を実行すればいいのだろう。
まだ新しい分野となるため、各社が知恵を絞っている段階にありそうだが、その答えの一つは、いわゆる「タビナカ需要」を喚起するマーケティングアイデアであることは確かだ。例えば、旅行先での食事を含むさまざまなアクティビティをリアルタイムに提案することが考えられる。
同様に、「タビナカ」から「タビアト」で行われる情報拡散にも期待できる。ブリージャーが公認されている人たちは、旅先で出会ったすばらしい体験をSNSなどに公開し、仲間や同僚に伝えてくれる。その影響を受けた同僚が出張の際に同じ店に出向くなど、“仲間うちの名所”が出来上がることもある。
では、すでにブリージャーが一般的となっているインバウンドについてはどう対応すべきだろう。日本でもいくつか成功事例がある。ヒントを示してくれるのは、アドビのプラブネ マニッシュだ。彼はインド生まれで日本在住。約20年を日本で過ごしてきた。
「私は日本が好きだから日本で働いています。ブリージャーで日本を好きになってもらって、日本で働きたいと思ってくれる外国人が増えるとうれしいですね」と語る彼の話には、インバウンド需要を喚起するいくつかのヒントがある。
「ビジネスで日本を訪れ、ブリ―ジャーを楽しむ場合、数日が限界です。あまり遠くへ行くことはできない。それでも、彼らは存分に日本を楽しもうとしています。そこで類似性を提案するのです。
例えば、なんらかのきっかけで神戸という土地に憧れを持っている人が、東京で仕事を終えた場合には、ブリ―ジャーの旅先に横浜を提案します。港があり、中華街もある。街の成り立ちも近しいので、その人たちの心に刺さりやすいでしょう。横浜を訪れ、古い倉庫のある景色を気に入ってくれたら、機会到来です。次はプライベートな旅行で日本を再訪したいと検討してくれたなら、小樽などを提案すると効果的かもしれません。ブリージャー旅行客に類似性を提案するのは、日本をもっと好きになるきっかけとなるでしょう」。
「欧米や中国では、日本のアニメが大人気。アニメのモデルになった場所は、それだけで十分な観光地になります。たとえモデルになっていなくても、アニメに登場したシーンに似た景色があれば、それだけで彼らにアピールできるかもしれません。それは、ブリ―ジャーのように行動範囲が限られるケースにも有効です。
たとえばインドでは、1960年代に『Love in Tokyo』という映画が流行し、その映画を観たことのある人たちは、日本でそのロケ地を巡りたがります。彼らに最も有名なロケ地は、一般的な観光名所ではなく、東京の日比谷公園です。国や地域によって、彼らの持つ日本のイメージはさまざまであり、意外な観光地候補が全国に眠っているかもしれないのです」。
「例えばAirbnbは、宿泊を体験に変えました。ホストとの交流を楽しみたいという旅行客のニーズに応えたことで、広く知られる存在になったのです。Airbnbで宿泊予約するのと同様に、日本人と交流したいと考えている人たちは多い。ブリージャー客は、すでに日本でビジネスを行った人たちなので、『日本人の日常』に興味を持っています。苔やすすき野を眺めるとか、神社仏閣を観光するとかいった“お決まりの日本らしさ”ではなく、外国語対応可能な定食屋などが好まれるケースもあります。インバウンドの旅行者と日本人が共通の趣味でつながる何らかのイベントを開催する、というのも一つのアイデアでしょう」。
―――
「ブリ―ジャー」という分野は、日本ではまだ新しい。国内に対する認知拡大も、インバウントにおける取り組みも、さまざまなアイデアを試して、成功体験と失敗体験を重ねていく必要があるだろう。今後、いくつものすばらしい事例が報告されることを期待したい。
UNITE編集部
顧客の期待に応える体験を提供するためには、一人ひとりの顧客、つまり「個」客を知ることが前提条件となります。匿名顧客と認証済顧客の双方を対象としながら、顧客ライフサイクルの全般にわたって顧客一人ひとりを理解するためのベストプラクティスを紹介します。
おすすめ情報
あらゆる業界で市場構造が激変している、デジタル時代。いま企業に求められているデジタル変革のあり方と、目指すべき企業の姿「エクスペリエンス ビジネス」(顧客体験中心のビジネス)とは、どのようなものでしょうか。「デジタル変革ナビ」で、確かめてみましょう。
デジタル変革ナビを見る