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この作品 「私葬の所以」 は「ハリポタ」「レギュラス」等のタグがつけられた作品です。

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マシマシマコ

私葬の所以

マシマシマコ

2019年3月26日 22:46
*web再録本をBOOTHで通販しています→ https://masimasima.booth.pm/items/1296632
これでこのシリーズは完結となります。レギュラスの遺体に関するお話でした。ほんのり黒兄弟&黒姉妹。捏造過多。何でも許せる方向け。
Photo by Dieter Kühl on Unsplash
web拍手 http://clap.webclap.com/clap.php?id=masimasima
「ごめんなさい」
ナルシッサはその両手で──水仕事に縁のない少女のような手だ──顔を覆った。
「ごめんなさいドロメダ、わたし、皆に生きていて欲しかったわ」
金色の髪を振り乱して、震える指が、濡れた頬が、今にも潰えてしまいそうなその声を絞り出していた。
「生きていて欲しかったの! ごめんなさい、ごめんなさい、私にこんなこと言う資格なんかないのに……でもどうしても……ごめんなさい、姉様、ごめんなさい……」
彼女は少女のように泣いていた。
手で覆われたその目から何筋も、透明な涙が流れていく。厚く塗られたファンデーションが水に溶け、木の枝の形に跡を形作っていく。口元に刻まれた皺は唇を噛み締めることで深さを増した。
それでも、その涙は子どもの流す無垢なそれだった。



ブラックの姓を捨てて以来会うことのなかったその人物から梟便が届いたのは、娘夫婦の葬儀が終わり、ゴドリックの谷にある新居に身を寄せたすぐ後のことだった。アンドロメダは遺された小さな孫息子とたったふたりそこに住むことになっていたが、元騎士団のメンバー達が忙しい合間を縫って入れ替わり立ち替わり訪ねるその一軒家から話し声の絶えることはあまりなかった。
しかし英雄となった元騎士団メンバー達は多忙を極めている。そうしてぽっかりと静まり返ったある日、見事な毛並みの梟が窓から飛んでその手紙を運んで来たのだった。
空の向こうから優美な翼を直線にして、真っすぐこちらへ向かう梟を見て、アンドロメダはその主が誰であるのか理解した。その一週間後、短く了承の旨を記した返信を持ちその梟は再び空へ飛んでいった。

ぱちん。
唐突に、玄関近くで姿現しの音が聞こえた。アンドロメダは眠ったばかりの孫を窺い見る。幸い起きなかったようだ。アンドロメダは扉を開けて彼女を迎え入れる。
「ようこそ……ミセス・マルフォイ」
「その、ごきげんよう」
ぎこちない笑みらしきものを口の端に浮かべて、ナルシッサ・マルフォイは優美な挨拶をした。

「座っていて、今お茶を淹れるから」
「ミセス・トンクス、私、紅茶の葉を……持って来たのよ。よくうちで、飲んでいた銘柄の」
「ブラック家御用達のあの? まだ、やっていたのね」
「ええ、香りも変わらないわ。無理にとは、言わないけれど」
「いえ、喜んで頂くわ」

まだテディは眠っているようだ。窓際の木肌のテーブルに置いたカップに茶を注ぐと、小さな家に似つかわしくない上等な香りが広がる。ナルシッサは小さな窓から外の風景を眺めているようだった。この小さな新居には元々老いた魔女がひとりで住んでいたらしく、バーベナやローズマリー、バラなどの花々が雑多に植わっている。アンドロメダは来年はそこに水仙の球根を埋めようか迷っていた。
向かい側の痩せて尖った顎が、骨ばった綺麗な手に乗って横を向いている。アンドロメダは強張った舌を強引に動かし、随分と呼ぶことのなかった彼女の名前を呼んだ。
「ハリーから、手紙が来た?」
「ええ、クリーチャーが危篤だって」
「本家に仕えていた屋敷しもべね、もう随分と会ってないわ」
「ミセス……アンドロメダは、見舞いに行った?」
「いいえ。ナルシッサ、あなたも?」
「行く理由も、権利も、余裕もないわ」
「あなたは……それを口実に、私と話をしに来たのね」
ナルシッサは水色の目を彷徨わせ、小さく肯定を口にした。

二人はぎこちないながらも沢山の話をした。
離れていた空白を埋めようとするかのように、それぞれに過ごした年月の話をした。一番敏感な場所だけはお互い慎重に避けて通った。そこに触れてしまったらどうなるか二人には見当も付かなかったからだ。
話の中でアンドロメダが驚いたのは、夫であったテッドのことを妹が知りたがったことと、十七で死んだ従兄弟の墓が存在することだった。
「伯母様は、彼の死を認めていないんだとばかり」
「最終的には父様が押し切ったのよ。空っぽでも、無いよりましだって。今は私が管理してるわ」
「空っぽ? 遺体が無いの?」
「見付からなかったのよ」
ナルシッサはそう言ってショートブレッドを一口齧った。アンドロメダは冷めかけの紅茶を飲み込む。
「シシー……その、シリウスは、知ってたの?」
「その頃にはもう家を捨てていたもの、知らないと思うわ。知っていてもきっと、来なかったでしょう」
「そう、だったのね」

二人の沈黙を破ったのは赤子の泣き声だった。テディが起きたのだ。
「ドロメダ、その子……」
「孫よ。ちょっと待ってて」
アンドロメダは赤子をあやす。抱きかかえミルクを与えるとテディは再び眠りについた。今日はピンク色に落ち着いたらしい柔らかな髪を撫でつむじにキスを落とす。
「お茶、冷めてしまったわよね。今淹れ直……」

そうして振り向くと、ナルシッサは「ごめんなさい」と繰り返し泣いていたのだった。



バーベナの花が風にそよいでいる。そこはブラック家の別荘地だ。今はもうそうではないだろう。私は姉妹と従兄弟達と子供だけでそこにいる。一面に敷き詰められた花々の真ん中に座り込んだ少女は泣き声を上げている。何が気に入らなかったのか、とめどなく流れる涙が止む気配はない。はちみつ色の髪が風に巻き上げられて曇り空を彩っている。淡いパープルのワンピースは袖と胸元がぐっしょりと濡れて濃い灰色に変わっている。妹よりも幼い従兄弟達が不安そうにその顔を覗き込む。兄のほうが乱暴に毟ったバーベナを差し出したが、妹は見向きもせず泣き続けている。なだめ透かしても抱きしめてキスをしても妹は泣き止まない。万策尽きた私達は傍らの姉と顔を見合わせている。
「どうしたもんかねぇ」
私と同じ形の眉を下げ困ったように笑う、姉の顔がアンドロメダの脳裏に浮かび上がった。
その姉も、既にこの世にいない。

アンドロメダは泣きじゃくる妹の頬にそっと、手を伸ばした。
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