負けてなお強し。決勝打のヤクルト・雄平は、ヒーローインタビューでこう言った。「ドラゴンズは勢いがあって、すごく強い」。社交辞令だけではないはずだ。
流れが変わったのは7回。代打の松井雅が右翼線に二塁打を放ったところからだ。二ゴロで三進し、犠飛で1点差のホームを踏む。8回の2死満塁では2球で追い込まれながら、久々に3万人を超えた本拠地の大声援の後押しも受け、4球連続でボール球を見極めた。
「(近藤は)持ち球もわかる。追い込まれてからは何とか三振はしないようにと思っていました」
昨季は自己最多の92試合に出場した男も、今季は初出場。体制が入れ替わり、バズーカを持つ加藤中心に捕手は回っている。開幕は2軍で迎えたが、こちらも育成の論理がまかり通る。高卒新人の石橋に経験を積ませるため13試合の出場にとどまっていた。2軍戦の打率1割1分1厘。結果を重んじるのなら、彼が1軍に呼ばれる理由はない。しかし、加藤を使おうが、石橋を育てようが、あらゆる選手を殺しはしないのが与田体制の特長だと僕は思っている。
「1軍だったら、2軍だったらじゃなく、同じように考えてやってました。そりゃ緊張感は違うのかもしれませんが、ユニホームを着れば関係ない。やらなきゃ自分が損するんです」
不運だと嘆き、上司の愚痴を言い、朽ち果てていく選手をたくさん見てきたが、彼は違った。試合で残した数字だけではなく、松井雅の取り組む姿勢は2軍から1軍に報告されていた。16日に昇格。21日には初先発が有力だ。
「出られるとしたら、結果はわかりませんがその場面でやれることをやるだけです」。昇格も先発出場もゴールではない。2軍で過ごした日々があればこそ、9回に決勝打を浴びた敗戦捕手の悔しさも味わえた。今度は吉見とのコンビで勝利の喜びを-。