タグボート「イマーラ」 |
その頃は、ライブスチームつまりミニSLに興味があって、アメリカの雑誌「LiveSteam」をとっており、模型船作りは念頭になかったのですが、ある号に載った広告のタグボートの写真に一目惚れしてしまいました。 その雑誌はもう手元にありませんのでお見せできませんが、完成した姿を数方向から撮ったモノクロ写真でした(ここに挙げた写真はメーカーのカルダークラフト社のカタログのものです)。 そこで早速、それがイギリスの製品だとは知らずに、広告主のアメリカの Aeromarine Laminates という店に注文書を送りました。 ところが届いた見積りを見ると、送料がキットの価格の半分以上かかるのです。 これじゃぁどうもと、その旨を書いて注文をキャンセルしたところ、それではここに依頼せよと日本国内の店を紹介してくれましたが、そこの見積もりも同じようなものでした。 そうこうするうちに、大阪にモデルショップ・キャプテンという模型船の専門店があることに気付き、ツインスクリュータイプのキットを購入しました。 なお、その後イギリスから模型船のハルをいくつか買いましたが、軽い割にはかさばるせいで航空便の送料は高く、今作り始めたタグボートTIDでは、送料のほうが本体価格を上回りました。 |
エッ? 最上級者向け、 エニグマですって?! |
主な構造材として、プラスチックのものではGRPの船体、船室、煙突と真空成形スチロールの救命艇が2艘、木材では甲板などに使う薄い合板に切れ目を入れたダイカットシートが6枚と、甲板のプランキングや木製船室の内外装用のドアなどの輪郭を印刷してあるごく薄い合板が4枚、長さ90センチほどの角材や丸棒が1束があります。しかしこのダイカットシートの合板は品質が良くないうえに反ったりしているのは少々困ったもんだと思います。 さて、かつてない緻密さを誇るこのキットの1400を超える部品数の大半を占めるのは、大小さまざまなホワイトメタル鋳物製のパーツです。 大まかに分類されて28のポリ袋に入っていますが、その袋には説明はおろか番号記号のたぐいは何にも付いていません。 図面は横幅が1メートルを越す大きな原寸大の平面図と側面図が1枚ずつありますが、これは設計図というよりは各部品の名称や位置を知るための見取り図といった性質のものです。 A4判18ページのインストラクションブックレットが付いていますが、そのページ数の半分はパーツナンバーとその名称の表になっているので、どのパーツが何という名前でどこに使われるのかこのリストと図面とを照らし合わせて各自が考えよというわけですから、それだけでも長時間たっぷり楽しめそうです。 残りのページのインストラクションマニュアルの部分は文字ばかりでイラストのたぐいは一切ありませんので、これまたたっぷり楽しませてくれそうな手ごわいキットです。 さて、一目惚れで買い込んではみたものの、その大きさと部品の多さにたじろぎ、手を出しかねているうちに年月が流れました。 その後、小さなスチームボートを何艘か作ったりして模型船の世界に踏み込み始めたところ、ある模型店のネットカタログではイマーラを最上級者向けと位置づけていることに気付きました。 つまり、模型船の製作経験ゼロの者がこれに手を出すのは、それまで鉄道の無かった国がいきなり新幹線を敷設しようとするようなものだ、とやっと気付いたのです。 しかも、イギリスのある本には「このキットはある種のエニグマ(謎)ともなっている」とまで書かれているのです。 イマーラは発売されるやメーカーのカルダークラフト社のベストセラーキットなり、メーカーが数えるのをあきらめたくらいの数が国内外とくにドイツに販売されたのだが、完成された姿をほとんど見かけないことがエニグマなんだそうです。 そうと聞いちゃぁニッポンモデラーとして頑張らざるを得ないじゃありませんか! |
パワープラント |
甲板にはキャビンがのる部分を切り欠いた穴が二つあり、その大きい方の穴から出し入れできるようにと作ったのがこのパワープラントで、エンジン・ボイラーなどはすべて自作です。 普通はエンジン・ボイラーなどは船底に固定するのでしょうが、それらの信頼性に自信が持てない自作品なので、後々の点検整備のために全体をそっくり船外に持ち出せるようにしました。 エンジンは、イギリスのHarley氏の設計図によって作った、2気筒首振りスチームエンジンです。 真鍮製ですので出来上がったときはきれいに光っていましたが、今はすっかりくすんでしまいました。 イマーラのキットにはシングルスクリューとツインスクリューとがありましたが、ツインを選んだのは、実船に忠実であるということだけでなく、ふたつのスクリューの回転を別々にコントロールすることで、ラダーコントロールと合わせて、操船が容易になるであろうことを期待したからです(その効果についてはいずれお話しします)。 このHarley氏の設計図には組み合わせるボイラーも載っており、それも作ったのですが火力の弱いアルコール炊きで、このエンジン2台を回すだけの蒸気を作れませんでした。 そこでイマーラを作り始める前に作ってあった、ガス焚きの横型ボイラーを使うことにしました。 そのボイラーは、イギリスのチェダーモデルという会社(その後スチュアートモデル社に吸収されて今は無い)の商品発送ミスで思いがけず手に入った設計図で作ったものです。 チェダーに注文したのは下の画像左のパッフイン・バーチカルボイラーの材料キットだったのですが、キットに入っていた設計図がパッフインのものではなく、画像右のCMB6ホリゾンタルボイラーのものだったのです。 このボイラーは、戻り炎管式と言うのでしょう、ボイラーの太い炎管に吹き込まれたガストーチの炎が、奥の空所で折り返し、細い炎管2本を通って煙室に戻って煙突へ抜けるという構造になっているので、沸き上がる時間も短く、発生する蒸気の圧力も高めの効率の良いものです。 しかし、メーカーがこのボイラーと組み合わせるエンジンとしているのは、ボア・ストローク共に11ミリの2気筒首振りエンジン2台なのですが、イマーラ用に組み合わせたエンジンはボア12ミリストローク18ミリなので蒸気従ってボイラー水の消費量が多く、何十分も運転することが出来ないのが残念です。 エンジン駆動の給水ポンプの組み込みも考えたのですが実現できませんでした。 |
ボイラーの熱源 |
チェダーのCMB6横型ボイラーの熱源は、直径3/4インチの炎管バーナーというものなのですが、 このガストーチは旧型で点火装置が付いていないので、画像手前に置いてある秋葉原で買ってきた圧電素子を取り付けて点火させることにしました。 噴出するガスの中でスパークさせれば簡単に着火するだろうと思っていたのですが、ことはそう単純ではなく、なんとか火が付くまでの試行錯誤が大変でした。 このトーチのガスノズルの穴は直径0.3mmなのですが、テスト運転してみると火力が強すぎるので、0.2mmのノズルに付け替えてみました。 その結果、火力は弱まったのですが、思わぬ不都合が生じました。 スパークを飛ばしても点火しにくくなったのです。 どうやらこのガストーチは、0.3mmのノズルからのガスと空気との混合物が点火容易でよく燃えるように作られているようです。 そこで、直径1インチの真鍮パイプでセラミックガスバーナーを作り、0.2mmのガスノズルで点火してみました(画像右)。 この太さのセラミックバーナーでは0.2mm穴からのガスは多すぎるようで、長い炎が立ちのぼります(炎が赤いのは赤熱しているセラミックの反映だと思われます)。。 ボイラーに付けて燃やしてみると、空気中の解放状態での燃焼と違って空気が足りず、不完全燃焼になるため火力が弱く、使い物にはなりません。 結局、トーチのノズルを0.25mmにすることで、なんとか点火しやすく、やや弱めの火力になりました。 |
水に浮かせてバランスを見る |
そこで、初めは特価販売の子供用円形プールを買って来てテスト水槽にしたのですが、かなりの水量が必要な上に、排水口が無いのでサイフォンを使うなど水の流し出しが大変だし、折りたたんでしまうのも面倒なので、結局捨ててしまいました。 今ではコンクリートブロックで囲いビニールシートを張って水槽にしています。 この模型船キットを買った時に気付かなかったことが、製作の難易度以外にもう一つありました。 それは、船というものは水の浮力によって支えられるので、その重量が安定性に大きな意味を持つということです。 イマーラについて初めて知ったAeromarine社の広告には、この模型船の大きさだけではなく重量も挙げられていたのですが、当時は何で重さなんか書いてあるのだろうと不思議に思っただけだったのでした。 しかし、こうして水に浮かせてみると、この船は幅広で下膨れの船体なので排水量も大きく、軽々と浮いてしまってスクリューも水面上に出てしまう有様なのです。 喫水線まで沈み込むように鉛ブロックのバラストを積み込んでみると、総重量は20㎏近くになりそうなのです。 インストラクションマニュアルにも完成時には42ポンドまたは19㎏になるであろうと書かれてあり、運搬時のためにバラストの一部は取り外せるようにしたほうがよいとも書いてありますが、私の船ではバラストを外すためにはパワープラントも外さなければならないので出来ません。 この重量は後期高齢者の身には極めて厳しいので、スクリューがなんとか水没するところまでバラストを減らし、フル装備15㎏で折り合いをつけることにしました。 |