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はじめまして

 はじめまして。

 しづ と申します。
 薪さんに幸せになって欲しいと、こころから願う腐女子です。


 以下、このブログについての説明、注意事項等を記載しますので、初めての方は必ずお読みになってください。

 
 なお、当ブログは秘密二次創作(腐向けギャグ小説)専門サイトです。 
 原作に関する感想・レビュー等はございません。
 二次創作に不快感のある方、原作の世界観を大切になさりたい方は、ご遠慮いただいた方が無難かと思われます。

 管理人の原作に対する意見は、時折コメント欄で語っております。
 図らずもネタバレになっておりますので、ご了承ください。

 



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パートナー(9)

 こんにちは。

 性懲りもなく、週末に、ふなっしーランド船橋本店4周年イベントに出掛ける予定のしづです。(←カテゴリ違い)
 前回と同じ船橋市民ホールですが、今回はなんと、一番前の席! しかも真ん中! いいんだろうか、わたしみたいな中途半端なファンが。抽選とはいえ、コアなファンの方に申し訳ない気がします。
 今度は土曜日だから、そのまま泊まって翌日ゆっくり帰ろうと思ったら、漏水当番が重なってしまいました。そう上手くはいかないね。梨神さまは見てるね(笑)

 先月、騒いでいた水道工事の検査は、昨日、2つとも無事に終わりました。
 大した手直しもなく、後はお金をもらうだけなのですが、実績報告書を防衛省に出すから、添付書類として工事写真をあと3部作って欲しいって言われました。工事写真1000枚からありますが、全部付ける必要あるんですかね? 既に1部は竣工書類で出してあるわけだし、抜粋でいいんじゃないのかなー。
 ……年取ると、愚痴が多くなっていけないねえ。どうせやらなきゃいけないんだから、素直にやっときゃいいんだよね。
 今日もがんばってお仕事します。


 さて、お話の方はこちらで最終話です。
 読んでくださってありがとうございました。





パートナー(9)




 二人の姿がマンションから遠ざかり、角を曲がって見えなくなる。門前で彼らを見送っていた薪は、そうなってようやく、肩の強張りを解いた。ため息とともに吐き捨てる。
「あのクソオヤジ」
「……ぷっ」
 毒づく様が、薪らしくて笑えた。

「青木、無理して合わせる必要ないからな。友好的に付き合うこと自体が不可能なんだ、あの人とは」
「オレは史郎さんのこと、嫌いじゃないですよ」
 薪が、胡乱な目つきで見るから青木は正直に答える。本当は薪が非難する相手を好ましく思うなんて、彼の怒りを買うに決まってるから口にしたくないけれど、青木は嘘が下手くそだ。嘘だとバレたら薪の怒りは倍になる。
「人が善いのも大概にしろ。あそこまで言われて嫌いじゃないとか、あり得ないだろ」
 太陽が東から昇るがごとくに、薪は断ずるけれど。
「本当です。嫌いじゃないですよ」
 嘘じゃない。
 快く受け入れてもらえたわけではないが、青木には、史郎を嫌うことはできなかった。
 青木が心の底から尊敬するひとの、その気高い精神を、育み導き磨き上げたのはあの人たちなのだ。もちろん子供の薪にはその資質があった、でもそれはあくまで種の状態。日の下に出し水をやり風よけを作り、時には叱咤という名の肥料を与えて、類まれなき美しい花を咲かせたのは彼らの功績。
 そんな偉大な人をどうやって嫌えと言うのか、青木にはそちらの方が無理難題に思える。

「本気なのか? 少なくとも、おまえのお母さんにあんなん言われたら僕は」
 自宅への道すがら、それまで軽快に階段を上っていた薪の脚が、ガクッと崩折れる。咄嗟に抱いた細い肩が、小刻みに震えていた。顔も真っ青だ。想像して怖くなったらしい。
「大丈夫ですよ。何度も言いますけど、うちの母は薪さんの大ファンなんですから」
 そもそも、親に否定されたところでどうということはない。青木は薪の親が好きなのではなくて、薪が好きなのだ。薪だって同じだろう。そう割り切ってしまえばいい。でもそれができないのが薪のダメなところで、それ故に青木は薪を放っておけない。薪のように完璧とも思える人間に何処かしら弱いところがある、そのギャップが青木を捕えて離さないのだ。

「無理難題押し付けやがって。僕の立場でそんなこと、できるわけが」
 家に帰り、休日らしいラフな服装と体勢でリビングのソファに落ち着いた薪は、背もたれを枕代わりに、天井を仰のいて呟いた。そしてそのまま、ひどく難しい顔になる。まるで天井に、幾何学の難問でも見つけたみたいに。
「……青木。正直に言って欲しい」
 その呼びかけで青木には分かった。薪がまた何か余計なことを考えている。

「おまえももうガキじゃない。ひと年締めて、大人の考え方もできるようになっただろう。もしも少しでも、僕を選んだことに後悔があるなら」
「『叔父さんの言うことは気にするな』。そう言ったのは薪さんですよ」
 ほーら始まった、と心の中で青木は指を鳴らす。薪の困った癖は相変わらずだけど、その兆候を捉えられるようになった。事前に分かれば狼狽えることもないし、対処も早い。青木は淀みなく言い返した。
「僕はいいんだ。人生、拾ったようなものだから。儲けものだと思ってる。でもおまえはそうじゃない。やっぱり将来の保証とか、自分の子供とか」
「薪さん。薪さん」
 ひとり先走る薪の身勝手な思考を、引き留めようと青木は懸命になる。やや尖った声で、薪の名を繰り返した。
「分かってますよね? オレが欲しいものがなんなのか」
 うん、と薪は頷いた。じゃあこの話はこれで終わり、と青木は休日の仕事に戻ろうとした。掃除、洗濯、車磨き。日曜日の青木はけっこう忙しい。なのに、薪の応えが青木をナマケモノにする。
「でもそれに、そこまでの価値があるのか」
 絶句した。
 脱力感がハンパない。何をする気もなくなった。
 瞬く間に消え失せた勤労意欲の腹いせに、青木は声を張り上げる。
「当たり前じゃないですか!」
 そう断じたけれど、これはあくまで青木だけの世界標準。身勝手は承知の上、だけどこの際、薪の価値観なんか知ったこっちゃない。てか腹立つ、マジで腹立つ。

「オレがどれだけ苦労して手に入れたと思ってるんですか? あなたの隣に立つために、オレがどんなに努力してきたか、薪さん、ご存知ですよね?」
 一番頭にくるのは、こんな言い方でしか彼を納得させられないことだ。
 薪は、自分の価値を認めない。
 青木がいくら薪の素晴らしさを説いても、その偉業を褒め称えても、彼にとってはできて当たり前のこと。何故なら薪は天才だから。普通の人間より優れている分、自分に課したハードルは、一般人には想像もつかないほど高い。
 天才で有能で、およそ人の憧れる何もかもを持ってて、なのに彼は自分が取りこぼしたものしか見ないのだ。それも、仕方のなかったこと、誰がやっても同じ結果か、より悪くなったであろうこと、そう言った責任の有無すら怪しいことを全部自分の責として背負ってしまう。
 だから青木は自分の利害を主張する。憤慨の理由を、自分の努力をないがしろにされたことにすり替える。本当はそれこそ当たり前のことなのに。凡人の自分が、天才のパートナーになろうというのだ。世界でもトップクラスの優秀な遺伝子を、彼の代で断ち切ろうというのだ。その罪の重さを思えば、死に物狂いの努力くらいしてなかったら、いくら青木が呑気者でも罪悪感で潰れる。

「それと、ご自分の人生を軽く扱うの、止めてください。オレがこんなに大事にしてるんですから」
 自分の人生を大事にするなんて、子供に言い聞かせるようなこと、それだって薪は理解しようとしないのだ。青木が大事にしているものだからそれを傷つけないで欲しいと、これはあなたのためでなく人のためになるのだと、そんな回りくどい説得の仕方をしないと効果が無い。「あなた自身のため」なんて一言でも言ったら、優先順位は最下層に回り込む。
 思春期真っ盛りの中学生みたいに七面倒くさい、だけど彼がそうまでして自分の価値を認めようとしないのは、その手で人を殺しているから。
 結局はそこが原点なのだ。青木が何を捨てても彼の側に居たいと願う、その要因もまた。

「うん、分かった。おまえの言う通りだ。ごめんな」
 僕ってバカだな、と彼には珍しい反省の言葉を、やわらかなくちびるがため息とともに吐き出した。それで青木は、彼が嘘を吐いていると分かる。
 素直すぎる。この手の話は平行線だと分かっているから、とりあえずは納得する振りをして、終わらせようとしているのだ。
 歯がゆくもあり、愛おしくもあった。風切り羽を抜かれた鳥のように、無様に地べたを這い回る。その羽根はとっくに生え変わっているのに。ずっと下ばかり見ていたから、空を見上げることができない。自分の居るべき高みを忘れてしまっている。

 仕方なく、青木は非難の言葉をくどくどと繰り返す。
「本当に分かってます? だいたい薪さんは」
 あの時もこの時も。あれやこれや。
「そもそも薪さんは人の言うことを聞かないから」
 小野田さんに心配ばっかり掛けて、オレもそうですけど、岡部さんも中園さんも、後始末に四苦八苦して。
「いい機会ですからハッキリと言わせてもらいます。これからは、――はっ」
 音を立てて息を呑む。軽くくちびるを噛んで項垂れていたはずの素直な恋人は、いつの間にか、ソファの肘掛けに頬杖を付いた女王様になっていた。それもアンデルセン童話で一番こわい、雪の女王だ。

「偉くなったなあ、おまえ」
 まるで氷のような冷ややかさと、高慢な口調。いつもの薪らしくなってきた。
「すみません、調子に乗り過ぎました。薪さん、ごめんなさい」
「大したものだ。この僕にそんな口が利けるなんて」
 うわあ。『この』って言ったよ、「この僕に」って。
「ただ、ひとつだけ覚えておいて欲しいことがあるんだ」
 ちょいちょいと指で呼ばれる。近付くと、襟元を掴まれた。ぐいと締め上げられて、青木は引きつった声を出す。
「僕はな、説教するのは好きだけどされるのは嫌いなんだ」
 それは誰でもそうだと思いますけど、それを堂々と口にするのは薪さんくらいです、お見事ですっ。

「今日から2,3日、官房室に泊まり込むから」
 すみません、それだけは勘弁してください。薪さんが居ないとごはんが食べられません。
 青木が雨に濡れた子犬みたいな目で薪を見上げると、薪は、氷河期だった雰囲気をほんの少し和らげて、
「仕事だ。さっきの電話、中園さんからだった」
 話しながら書斎にこもってしまったから、仕事の電話だとは思っていた。日曜日に掛けてくるくらいだから、急ぎには違いない。でも、薪が飛び出して行かなかったと言うことは、事件ではない。おそらくは法案関係。薪の嫌いな書類仕事だ。
 数年ぶりの叔父の来訪を理由に、一旦は断ったのかもしれない。しかし来客は帰ってしまった。そこで職場に向かうところが実に薪らしい。ちょっとした怠け心すら、彼は自分に許さない。その頑ななまでの厳しさ。だから青木は本当は、休日の彼には指一本動かして欲しくないのだ。

「着替え、用意しますね」
「頼む」
 シャツと下着と靴下、ネクタイにハンカチ。ボストンバックの底には秘密の写真を入れておく。仕事に疲れた彼への栄養剤代わりだ。
 同居も1年を超えれば、何がどこにあるかは青木の方が詳しいくらい。3日分の着替えと洗面用具をボストンバッグに詰めるのに青木が要した時間は、薪が仕事用のスーツに着替える時間とほぼ同じであった。

 インターフォンが鳴って、階下に迎えの車が来たことを知らせる。青木も今日は休日、だから送迎には官房室の車を使う。もちろん薪を警察庁まで車で送るのはやぶさかではない。むしろ一緒に行きたいくらいなのだが、休みの日は薪はいつもこうして、青木の休日を奪わないようにしてくれる。
「いってらっしゃい」のキスもおざなりに、何故ならスーツに着替えた薪はすっかり仕事モード。好みでなくても仕事は仕事。すでに頭の中にはいくつかの草案が出来上がっていて、それを検証している最中なのだ。きっと今回も、ボストンバッグの一番下に忍ばせた青木とのツーショット写真には気付かないまま、洗濯物と混じってしわくちゃになって帰ってくるに違いない。
 でもそれは、薪が仕事に集中できた証拠。彼の時間が充実してそれに彼が満足してくれれば、青木の目的も達成されたことになるのだ。昔は自己完結型の薪のスタイルに悲しくなることもあったが、大事なのは薪の満足度であって、それを必ずしも青木がコーディネイトしなければいけないわけではない。最近やっと、そんなふうに考えられるようになった。

 エントランスまで見送りに出た青木を一度も振り返らずに車に乗り込むと、薪はすぐに書類を取り出した。耳に電話を挟み、何事か喋りながら、指先で紙面をパシリと弾く。運転手がぎょっとした様子で後部座席を振り向いたから、多分、トラブル発生。車の窓が白く凍っていくように見えたが、見間違いだと思いたい。
 運転手が慄きながらも車をスタートさせ、ブリザードを連れ去った。後には休日の昼前の、のんびりした空気。

「さて。薪さんがお帰りになるまでに、家中磨いておこうかな」
 まずは洗濯、と青木は足取りも軽く、自宅への階段を昇って行った。




おしまい(2019.1)




 最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
 次のお話は、なっしーと薪さんのコラボです。←え。
(頼まれても困ると思いますけど)よろしくお願いします。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

パートナー(8)

 こんにちは、また広告出ちゃいました、すみません、てへ。
 
 更新少ないのに、毎日、ご訪問&拍手、ありがとうございます。
 仕事がんばります。←??

 でも、ちょっと聞いてくださいよ、奥さま。
 今年は水道工事2件やってたんだけど、12月中に工事終わってるのに、役所の都合で工期2月22日まで延ばされて、仕方ないからそれで書類作ったら、今度は3月15日まで延ばすって始まりやがった、みぎゃー!
 竣工書類、日付入れちゃったよ! 全部やり直せってか!?
 データ渡すからてめえの方でやり直せ言いたい。

 書類は手戻りになるわお金は入って来ないわ、工期が延びていいことなんかなんもない! ですわよ、奥さま。

 今月末のメロディを心の支えに、がんばるです。あとふなっしーね(笑)



パートナー(8)



「私にも頼む」

 はい、と気持ちよい返事をして青木がキッチンに下がった間、リビングには客人2人だけが残された。そこでどんな会話が交わされたのか、青木には分からない。知らなくてもいいと思った。青木がコーヒーを持って居室に入った時には、二人は何やら思い出し笑いをしていたからだ。
「剛が私の前であんな顔をしたのは、子供の時以来だ」
 昔話ではなく、さっきの薪の様子を思い出して笑っていたらしい。青木は薪の、ポーカーフェイスの下に隠された多様な表情を見ている。それを自分だけが知っていることに優越感もあった。だけどやっぱり、彼を育てたこの人たちには敵わないだろうと思う。
「それだけ、素直に自分が出せていると言うことか」
「だからわたしが言ったでしょ。青木さんはとてもいい子よ、って」
 勝ち誇ったように顎を上げる文代に、史郎はむっつりと腕を組む。口をへの字に曲げて、「しかしなあ」と口の中でぼそぼそ呟き、お終いにはやるせない溜め息。

「剛みたいな意地っ張りにはぴったりですよ。いいじゃないですか。あの子が自分で選んだんですから」
「せめて子供だけでも遺せないものかなあ。剛の天才性を後世に受け継ぐものが居ないというのは、どうにも耐え難い。男なら可能だろう」
「IPS細胞ですか? わたしは個人的には反対ですけど、それも二人が選ぶことですから。でも剛の性格だと、自分の遺伝子は残したくない、とか言うでしょうねえ」
「ああ、いかにも言いそうだ。しかし、そこをなんとかするのが我々の」
「そうなると子供は難しいわね。剛は絶対に自分を譲らない子だし、青木さんを口説いたとしても、青木さんが剛に逆らえるようにはとても見えないもの」
「それも問題じゃないのか。あの二人、パートナーと言うよりは主従関係に近いぞ。青木くんの忍耐力に限界が来る可能性も視野に入れないと」
「大丈夫よ。青木さんのさっきの話、聞いたでしょ。史郎さんは心配しすぎよ」
「おまえは楽観的すぎる」
「人生、なるようになるわよ。会社が潰れても子供ができなくても、わたしたちはそれなりに幸せだったでしょ。剛たちもきっと同じよ」
 文代は、史郎の複雑な胸中を思いやるでもなく諭すでもなく、ただただ自分のペースで話を進める。

「どこにそんな保証がある。いいか、私たちは剛の親としてだな」
「親バカもいい加減にしなさいな。剛がいくつになると思ってるの」
「親バカなんかじゃない。剛はいくつになっても危なっかしくてだな、だから私は」
「そのために青木さんがいるんじゃない。大丈夫よ、あなたが心配してもしなくても、結果は同じ。剛はどうせあなたの言うことなんか聞かないんだから」
「おまえ、そういう言い方は」
 薪の将来が心配でたまらない様子の史郎に引き換え、文代の方は糠に釘と言うか暖簾に腕押しと言うか、史郎の喧々諤々の苦言を春風のように受け流す。
 ――ちょっと待って、これ、どこかで見たような。
 ああ、そうだ。官房室の二人の会話にすごくよく似てる。

「もう十分でしょう。ロスに帰りましょ」
 会話が途切れたところを見計らって、青木はコーヒーを二人の前に置いた。「ありがとう」と微笑む文代に頭を下げて、向かいに腰を下ろす。史郎はと言えば、文代が嬉しそうにカップを取り上げるのを横目で睨みつつも彼女に倣ってコーヒーを口に含み、ゆっくりと飲み下してから、重々しく首を振った。
「いや。まだだ」
 ぎろりと睨め上げられて、青木は焦る。何をダメ出しされるのだろう。主従関係がどうとか言ってた、もっと対等の立場にならないといけないとか、時には薪を叱らなきゃいけないとか言われるのかな、でもそれは無理。そんなことしたら殴られる。殴られるのはいいとして、薪の手が痛くなったら可哀想。だから無理。

「あ、あのですね。ご存知かとは思いますが、薪さんは口より早く手が出るタイプで」
「叔父さん。お説教はもう十分ですよ」
 空回りする青木の思考を他所に史郎の視線は、緊張で強張った青木の顔を飛び超して、左奥のドア口に注がれていた。いつからそこに居たのか、書斎のドアにもたれ、薪は尊大に腕を組む。

「顔を見れば文句ばかり、それでは相手は委縮してしまいます。もっと公正に、穏やかに話をしないと」
 え、それ、薪さんが言います? 今年も、警察庁警視庁・怖い上司総選挙ぶっちぎり№1でしたけど、誰からも結果聞いてませんか? あ、そうですよね、誰も面と向かって言えるわけないですよね、怖いもん。
「まったくあなたは昔から、人から素直に聞こうという気持ちを奪う名人ですね」
 こないだの飲み会で小池さんがそっくり同じことを言ってましたけど、どこかで聞いてました? さすが薪さん、科警研主催の地獄耳選手権、出場申し込んでおきますねっ。

 心の中で突っ込む青木の隣に腰を下ろし、当たり前のように青木のコーヒーを横取りして、薪は脚を組んだ。膝の上にカップとソーサーを置き、ソファにふんぞり返る。前かがみになって膝に拳を載せた史郎とは対照的だ。
「これだけは言わせてもらおう」
 薪の一方的な糾弾に鼻白みもせず怒りも見せず、史郎は凛然と背筋を正した。薪が訝し気に眉を顰める。
「彼の家族の気持ちを、おまえは考えたことがあるのか」
 カチャン、とソーサーとカップがぶつかり合う音がした。カタカタと小刻みに揺れ続けるそれを、見かねて青木が取り上げる。刹那、余計なことをするなとばかりに、ものすごい目つきで睨まれた。この薪の殺人ビームを日常的に浴びているのだ、大概怖いものなどなくなる。ていうか、薪さんに睨まれるとドキドキしちゃう。
 それが恐怖なのか恋のときめきなのか、胸の中の境界線が限りなく曖昧になっている青木の変態性は置いといて。史郎が提起した最後の質問は、いささか難問であった。

「考えましたよ、さんざん考えました。でも」
「過程はいい、言い訳もいい。大事なのは結果だ」
 自分が部下たちの前で口癖のように繰り返したことが木霊のように戻ってきて、さしもの薪も困窮する。なるほど、薪の結果至上主義のルーツはこの人だったかと、まことに家庭教育というのは人を形成するものだと、どこぞの教育評論家のような考えを青木は抱き、息を殺して二人の様子を見守った。
 論点は薪と自分のことなのに他人事みたいに、でも仕方ない。反論は、青木の立場からはできなかった。逆に青木に、薪の家族のことを考えたのかと聞かれれば、青木は沈黙するしかなかったから。

「別に、許してもらおうなんて思ってません。僕も彼も覚悟を決めて、一緒に暮らし始めたんです。これは二人の問題で、親は関係ありません」
 やや投げやりでつっけんどんな口ぶりは、その言葉が真実でないことを物語る。史郎相手だから強硬に突っぱねたが、薪は青木の親には異常なくらい気を使う。傍から見ても痛々しいくらいだ。盆と正月は青木だけでも実家へ帰そうとするし、帰省の休暇を得るために前後2ヶ月間ぶっ通しで働いたこともある。自分が青木のパートナーであることを申し訳なく思って、罪滅ぼしに必死になっている証拠だ。そんな必要はどこにもないのに。

「何がどうあっても、おまえはこの男と添い遂げるつもりなんだな」
「そうですよ。何度も言わせないでください」
 つんと反らせた顎は、言いたいことを飲みこみ過ぎてか少し震えていた。薪はいつだって我慢のしどうしで、その小さな身体に、この世に生まれ出でなかった思いや言葉たちのありとあらゆる死骸を溜め込んでいる。それらが腐食し醗酵し、ぱんぱんに膨れ上がって、だから時々爆発するのだ。
 この時も薪は限界まで広げた堪忍袋に一触即発の危険を孕んで、それを理性で押さえつけている状態だった。だからこそ、意外過ぎる史郎の言葉に突然ガスが抜けたように、突拍子もない声を上げて狼狽えてしまったのだ。

「だったらどうしてパートナー申請をしない」
「はひゃ!?」
 自分でもおかしな声だと分かったのだろう、薪は慌てて両手で口を押えて、だけどもしかするとそれは、瞬時に赤くなった顔を隠すためだったかもしれない。
「ぱ、パートナーってあれ、手持ち式の電動カッターのことですよねっ。僕は免許持ってませんけど、こないだ岡部が資格取ったって」
「薪さん、その辺で」
 挟むつもりのなかった口を、青木は咄嗟に挟んでいた。薪のごまかし方が苦しすぎて我慢できなかった。
 さすがに親と言うか、あるいは年の功か。慌てふためく甥を冷ややかな視線で沈黙させ、史郎は先の質問をもう一度繰り返した。
「なぜだ」
「そ、それはその」
「明日おまえが死んでも、彼には何も遺せないんだぞ?」
 安心してください、残るのは254円の通帳とマンションのローンだけですから。できれば受け取りたくないです。

 ぎゅっと眉をしかめて、薪は俯いた。口元に宛がわれた右手の下で、ふっくらとしたくちびるが破れるほどに噛み締められていた。見かねて、青木が再度口を挟む。
「あの、薪さんもオレも警察官ですし。そういうのはちょっと」
「警官にはパートナーシップ制度は使えない、と言う特例でもあるのか」
 それはない。
 ないが、しかし。
「真実を公にもできずに、何が覚悟だ。片腹痛いわ」

 史郎の言葉は正論過ぎて、薪は一言も返せない。取調室で言う完落ちの状態になった薪に溜飲を下げたか、史郎はふんと鼻を鳴らし、妻に向かって「帰るぞ」と声を掛けた。あらかたの荷造りは済ませてあったらしい文代が、部屋の隅から2つのキャリーケースを引いてくる。2つとも受け取って、史郎は立ち上がった。
「次、会う時までに、パートナー申請を済ませておけ。でないと、どんな手を使っても別れさせるからな」
「ちょ、待ってください、叔父さん。こっちにも都合ってものが」
「おまえの都合なぞ知るか。それ以外で、青木くんの親を安心させてやれる方法を見つけ出せるというなら話は別だが」
 余計な借金背負わなくていい分、今の方がマシなんじゃないかと思います。
 青木は真面目にそう思ったが、賢明に沈黙を守った。その言い訳は別れを早めるだけだ。

 訪れた時と同様、否、それ以上の唐突さで、彼らは去って行った。甥の顔は見れたことだし、帰りの飛行機までの1昼夜、久しぶりの日本を楽しむそうだ。ドライと言うか合理的と言うか、飛行機の時間ギリギリまで家にいた青木の里帰りとは対照的だ。
「また来てくださいね!」
 マンションのエントランスから、通りに向かって歩いていく客人に、青木が手を振りながら呼びかける。文代は笑って手を振り返してくれたが、史郎は振り向きもしなかった。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

パートナー(7)

 ご無沙汰してます、忙しかった、のではなく~、(いや、それなりに忙しかったけども)
 ちょっち、浮気しておりました、薪さん、ゴメン。

 ふなっしーのwebshop3周年イベントに、軽い気持ちで応募してみたら当選しまして、12/18に船橋市民ホールへ行って参りました(*‘∀‘)
 ふなっしーイベントだから、周りは子供ばかりだろうと思ってたんですけどね、
 夜、7時半の開演と言うこともあってか、子供がいないんですよ。ご婦人率99.9%でございました。わたしくらいの年の方も、かなり多かったですよ。ふなっしーっておばちゃんにもモテるんですねえ。

 本人をこの目で見るのは、実は初めてでございまして、
 それが可愛かったのなんのって。いや、マジで驚きました。画面で見るのと全然違うのよ、印象が。
 トークもアクションも楽しくてね~、みんな大笑いしてました。すごい盛り上がってた。司会の方と、ふなっしーの掛け合いがいいんですよ。割とグダグダで、ゆるいのがGOOD。
 隣の席の、わたしと同年代のご婦人が(つまり50代ですね)、ふなっしーが出てきた途端、「ふなちゃーん! かわいいー!」と、でっかい声で叫ぶの、初めは正直引きましたけど、イベントが終わる頃には、その気持ち分かる! と思ってしまうくらい、楽しかったです。

 ファンサービスも、とても良かったです。
 着ぐるみって、すごく疲れるから30分が限度だそうですね。この日は時間が超過してしまって、45分くらいやってました。
 司会の方が、何度も、「体力大丈夫?」とふなっしーに訊いてて、ふなっしーは元気に「大丈夫なっし!」と答えてたけど、夜だし、疲れてたんだろうな、と思います。それでも、最後は会場の通路をくまなく回って、退場していきました。
 わたしは1階の12列目、通路から3番目の席だったので、かなり間近で見ることができました。手は届きませんでしたけど。
 ふなっしーが後ろのドアから出て行って、司会の方も締めの言葉を口にして、みんなが帰り支度を始めた、その時。
 2階席から歓声が上がりました。
 何事かと見上げると、2階席のファンのために、ふなっしーが会場に帰ってきた!
 感動しましたね~。
 ふなっしー、現在はテレビには出てないけど、人気は衰えてなくて、日本中のイベントで引っ張りだこなんですよね。(ツイッターチェックすると分かる) あんなに売れっ子なのに、こんなにも、ひとりひとりのファンを大事にしてくれるなんて。これ、webshop利用者対象とはいえ、無料イベントなのに。
 お疲れさまでした、と心から感謝した次第です。

 ここしばらくは、「ふなっしー」でググる毎日(笑)
 とうとう、「ふなのみくす」(ふなっしーのDVD) まで買っちゃいましたよ……タハハ(;^ω^)


 あ、そうそう、
 わたしが参加したイベントの様子は、ふなっしーwebshopのHPで公開中です。
 ふなっしー好きの方は、ぜひチェックしてみてくださいね!


 えーと、なんのブログだっけ(笑)
 お話の続きですー。





パートナー(7)





 叔父の来日の目的が判明したのは、休日のやや遅めの朝食の後の、ゆっくりとしたコーヒータイムであった。
「あら、おいしい」
「ほう。なかなかのものだ」
 シアトル系コーヒーに慣れた彼らの舌に、青木の作り出す奥深い味は、新鮮な驚きを以て受け入れられた。「ありがとうございます」と青木は謙虚に礼を言い、薪は自慢そうに肩をそびやかした。

 絶品のコーヒーを4人が飲み終えた頃、史郎がそれを持ち出してきた。叔母の文代は夫の行動を咎めるような顔をしたが、慎ましき妻の恭謙を守って沈黙した。
「すまんが、君は席を外してくれんか」
「青木、行かなくていい。ここにいろ」
 立ち上がりかけた青木の膝を、薪が抑える。恋人と恋人の叔父、二人の板挟みになって青木は迷ったが、薪の強気の視線に折れた。ソファに深く座り直すと、気を使ってやったのに、と史郎が声に出さずに呟くのが見えた。無意識に唇の動きを読んでしまうのは、第九職員ならではのデメリット。
「彼に聞かせられないような話なら、僕も聞くつもりはありません」
 勝手にしろ、と史郎は今度は言葉にして、大判の茶封筒から書類らしきものを取り出した。

「昨夜は話どころじゃなかったからな」
 おまえも一晩眠って落ち着いただろう、と彼が差し出した冊子を見て、薪の眼がすうっと細くなる。
 金髪の女性のポートレート写真と経歴書。そう若くはないが、なかなかの美人だ。ロサンゼルス大学卒業、U社取締役とあるから経歴も申し分ない。
「取引先の社長のお嬢さんでな、5年前に夫を事故で亡くして、再婚相手を探しているそうだ。年は38歳。おまえとは5つ違いでちょうどいい」
 ――びり。
「ミドルスクールに入ったばかりの子供が一人いて、つまりは社長の孫娘なんだが、その子がネットでおまえのことを見たらしい。是非にとも会いたいと言い出して、それならばひとつ、娘の結婚相手としても検討したいとのことでな」
 びりり。
「多くの場合、再婚の問題となるのは子供の存在だ。今までの相手も、みんなそれで駄目になったらしい。しかし今回は、その子供がおまえに熱を上げているわけだから」
 びりびりびりびり。
「この縁談はまとまる可能性が高いと社長も期待して――、さっきからビリビリビリビリうるさいぞ、剛。人の話は静かに、て、こら!! 見合い写真を破くやつがあるか!」
「すみません。シュレッダーは書斎にしか置いてないもので」
「そうか、それなら仕方ない、じゃない!」

「おじさん、ノリよくなりましたね。すっかりアメリカ人ですね」
「おまえは人を小馬鹿にした口を利くようになった。他人を見下す警察官僚そのものだ」
「それは相手によりけりですよ。僕だって、尊敬に値する人の前では謙虚ですよ」
 逆説的に『あなたのことは尊敬できない』と言い切った甥に、叔父は昨夜と同じ不快な表情を浮かべ、
「一晩おいたからと言って、話し合いができるようになるとは限らんな」
「一晩経ってこちらの状況を理解してくれたかと思いましたが」
 現在の自分には大切な人がいる。育ての親より彼が大事――昨夜の部屋割りは、それをハッキリと表明するためだった。今更ながらに青木はそれに気づいて、感動に胸を熱くする。薪の愛は言葉にはならない、いつだって行動に表れる。だから青木はそれを取りこぼさないよう見逃さないよう、彼から目を離してはいけないのだ。

「僕は青木のお母さんに、彼を一生守ると約束しました。男に二言はありません」
 薪の宣言に、硬い沈黙が落ちる。そのタイミングを計ったかのように、薪の携帯が鳴った。「はい、薪です」とかしこまった声で電話に出たから、おそらくは仕事だ。基本的に、警察官僚に休日はない。
 電話で相手と話をしながら、薪は書斎に入ってしまった。青木には見慣れた光景だが、叔父たちにはどう映っただろう。数年ぶりに顔を合わせた自分たちより仕事優先の甥に、がっかりしていないとよいのだが。

「え、と。コーヒー、もう一杯いかがですか」
 少しでも彼らの気持ちを宥めようと、青木は自分の特技を再度披露しようとした。それに対して、「いただくわ」と笑顔を返してくれたのは文代だけ。史郎は薪に破り捨てられた写真の破片を拾って茶封筒に戻しながら、
「君はどうなんだ」と低い声で訊いた。
「剛と一緒に、一生生きる気なのか? 家庭も持たず子孫も残さず、二人して老いさらばえて朽ち果てるだけの、虚しい人生を送るんだぞ。それでいいのか」

 初め青木は反論しようと思った。思って、やめた。
 家庭や子供を持たずとも、薪と過ごす人生は、決して虚しいものではない。本音を言えば、薪と二人で居られるなら、史郎が充実した人生の象徴として取り上げたものたちはどうだっていい。
 だがそれは青木の価値観であって、青木が「どうでもいい」と切り捨ててしまえるものを生き甲斐にしている人たちも大勢いるのだ。彼らが青木の気持ちを理解できないのと同じように、青木にも彼らの気持ちは想像することしかできない。ならば反論はするべきではない。
 大切に思う気持ちはどちらも同じ。反対したり否定したり、できるものではない。

「少し前のことですけど。夢を見ました」
 考えた末、青木は口を開いた。
「お年を召した薪さんが認知症になってしまって。オレのこと、忘れちゃう夢でした」
 唐突な夢の話に面食らう様子の史郎に、しかし青木は構わず続ける。
「とっても悲しくて辛いはずなのに、夢の中のオレは楽しそうにしてて。薪さんが忘れちゃうのをいいことに、毎日、薪さんに恋心を打ち明けるんです。その度に薪さんはびっくりして慌てて、それが可愛くって」
「ちょっと待て。可愛いって、認知症になるような年齢だろう。ビジュアル的にどうなんだ、それ」
 突っ込みどころはそこですか、と吹き出しそうになるのを抑えて、青木は夢の中と同じ笑顔で答えた。
「薪さんの外見は今のままでした。夢ですから」
「そうか。都合よくできてるな」
「でもあの子、高校生の時から全然変わってないわよ? 70歳になってもあの顔なんじゃないの」
「羨ましいわ」「化け物だな」と両極端に分かれる夫婦の意見のどちらにも青木は賛同せず、だって二人とも間違ってる。いくつになっても薪が世界一美しいのは当たり前のことだから。
 さすがにそうとは言えず、青木は何食わぬ顔で話し続ける。
「薪さんのお顔のことはともかく、目が覚めた時に、オレ、思ったんです。将来、あの夢が現実になっても、それでもオレは薪さんの側に居たいって」

 たとえ彼の心が壊れても。
 彼の記憶から自分との思い出が消えてしまっても。
「ずっとずっと、一緒にいます。もう絶対にあの人を、一人にしません」

 それは史郎の問いの答えにはなっていないと、分かっていながら青木にはしかし、それ以外の解答は導き出せない。その答えに、子孫を残せないこと、大人の責務を果たせないことへの十分な弁護能力はないなど百も承知、それどころか相手からもその選択肢を奪う非道な行為だと知った上での発言だから、ますます罪は重くなる。己の罪深さを理解して、だけど意見を変える心算は毛頭ない。
 こりゃ地獄に落ちるしかないな、とそこに至って初めて青木は悩むのだ。
 ――どうしよう。天国にいる薪さんに会えないかもしれない。
 まあ、それはまだ先の話だ。今はとりあえず。

「コーヒー、淹れてきますね」
「青木くん」
 立ち上がった青木の背中に、史郎の声が掛かる。史郎は空になった自分のコーヒーカップを見つめたまま、平静な声で言った。
「私にも頼む」


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

パートナー(6)

 メロディの懸賞に応募し忘れました、しづです。(地団駄)
 不覚……。

 もうちょっとで施工計画書が出来上がりそうです。(道路は)初めて自分一人の力で作りました。
 前回、下請のせいでヒドイ目に遭った、書類全部自分でやらなきゃいけなくなった、て言いましたけど、そのおかげですね。自分でやったことは覚えてるものね。あの経験も、糧になったんですね。ピンチはチャンスなんだな。




パートナー(6)





「史郎さん。新聞」
「ん。ああ」
「薪さん。書類」
「ん。ああ」
 生返事と、紙をめくる音が重なり、文代の「もう」と言う声と青木の溜息が重なった。
「休日の朝くらい、難しい顔するの止めたら」
「休日の朝くらい、仕事から離れてくださいよ」
 ほとんど同時に横から詰られて、箸を持ったまま身を引いた。まるで鏡に映ったようにそっくりの仕草で、だから青木は笑ってしまう。血の繋がりは無くても、この二人は確かに親子だ。

「女はうるさくてかなわん」
「まったくです」
 二人は持っていた紙の束をしぶしぶテーブルに置き、示し合わせたように味噌汁の椀を手に取った。品よく啜って、箸で豆腐を器用に挟む。常々、薪の食べ方は美しいと思っていたが、なるほど、向かいの男もきれいな食べ方をする。血縁関係のある叔母よりも、義理の叔父に多くの共通点を見つけて、青木は薪の生真面目な性格のルーツを探り当てた気分になった。

「この卵焼き、美味しいわ。青木さん、お料理上手なのね」
「いいえ。薪さんに比べたら、まだまだ。レパートリーも少ないし。そうだ、この機会に文代さんの得意料理とか、教えてもらえますか?」
「いいわよ。わたし、あんまり料理は得意じゃないんだけど、茶わん蒸しだけは自信があるの」
「茶碗蒸しかあ。じゃあ、今夜はお刺身にでもしましょうか。何の魚がいいですか?」
「サンマがいいわ。旬だし。それに、あっちでもマグロの刺身は食べられるけど、青魚は無いのよ」
「へえ。そうなんですか」
 青木が向かいの女性とにこやかに夕食の話などしていると、斜め前の席に座った男が不機嫌そうに眉を寄せた。
「なんなんだ。その嫁姑みたいな会話は」
「嫁姑、になるんじゃないですか」
 一応、と付け加えた薪の横顔は完璧なポーカーフェイスだったけれど。亜麻色の髪に半分くらい隠された耳の、下の部分が赤くなってた。

「文代、おまえも少しは危機感を持ったらどうだ。剛の相手がこの男で、本当にいいのか?」
「いいじゃない。青木さん、とてもいい子よ」
「簡単に懐柔されよって。嘆かわしい」
 夫婦のやり取りに思わず微笑む。良人がいくら眉をしかめても妻はどこ吹く風。この人はこの顔で生まれてきたのよ、とでも言うように、まったくプレッシャーを感じていない。なるほど、こういう風に扱えばいいのか。

 薪は、岡部の家から貰ったきゅうりの糠漬けに箸を付け、叔母が、叔父の不平を上手に受け流すのを真似て、
「青木は年上に可愛がられるタイプなんですよ。素直で謙虚だから」
「惚気はけっこうだ」
 青木の味噌汁の椀に、きゅうりの漬物がぽちゃんと落ちた。咄嗟に箸が滑ったのだろうが、隣の椀に落とすところはさすが薪だ。
 意識せずに出てしまった言葉だから、薪は不意を衝かれる。耳下だけだった赤味がどんどん上に昇って行き、ポーカーフェイスの頬が赤く染まった。

「や、あの、ノロケとかそういうんじゃなくてですね、僕は一般論を」
「『素直で謙虚』か。ヘタレ男を褒めにゃならん時の言葉選びだな。どうせ周りの評価も低いんだろう」
「あ、青木はっ」
 恋人をバカにされて、薪が怒った。昨日ほどではないが、額に青筋が立っている。
「見かけはバカっぽいですけど、僕と同じ東大法学部出身で、Ⅰ種試験をパスしたエリートなんです。幹部候補生の選抜試験も次席で通ってます。なんであの解答で受かったんだか分かりませんけど、僕が試験官だったら絶対に落としてますけど」
 薪が一生懸命に青木を褒めてくれる。でも褒め言葉に聞こえないの、なんでなんだろう。
「武道にも秀でていて、剣道4段、柔道初段、AP射撃は5段の腕前を持っています。本当に見かけによりませんけど、彼はとても強い。知り合った頃は軟弱で2キロも走れなくて、僕にもポンポン投げ飛ばされるくらい弱かったんですけど、て言うか今でも負けませんけど、なあ青木。こないだの試合、僕が勝ったよな?」
 薪は言葉が上手くない。人を褒め慣れていないから言葉選びに不自由しているだけ、ちゃんと分かってる、だって薪さんはオレの恋人だもの。でもなんか、なんかその。
「とにかく青木はバカだけど素直でやさしくて、だから余計バカなんです!」
 それは結局バカってことですよね?
「仕事も全然ダメっていうかそもそも警官に向いてないと思うんですけど、それでもずっと頑張ってるんです。無駄な努力を何年も続けられるのは、いくらバカでも大したものだと――青木? なんで泣いてるんだ?」
 ハッと何かに気付いたように、薪はパッと振り返って、
「叔父さん。青木を苛めたでしょう!」
「「「あんただよ」」」

 3人そろって突っ込んだのに、薪は心底不思議そうに首を傾げて、その仕草が可愛いのなんの、二人きりだったらとっくに抱きしめてる。そこにはほんの少しの悪意も存在しない、天使顔負けのイノセント。なんて純粋できれいな人なんだろう、彼の恋人になれた自分は世界一幸せな男だと、事故か偶然か、味噌汁の中に落とされた複雑怪奇な味わいの胡瓜を噛み締めながらそんなことを思う。これだから青木はどんなに苛められても薪の傍を離れられない。
 それから青木は流したばかりの涙を忘れ、感動を胸に恋人の弁護に回る。
 さっきの言い方だって、悪気があったわけじゃない。薪は青木の人となりを叔父に理解して欲しいと願って、懸命に願って、力み過ぎて男爵スイッチが入っちゃっただけなんだ、きっと。

「ところで叔父さん」
 自分の味噌汁を飲み干し、箸を置いてから薪は言った。
「どうして青木がみんなに『ヘタレの中のヘタレ』とか『キング・オブ・ヘタレ』とか呼ばれてバカにされてるの、知ってるんですか?」
 ……絶対わざとだ、このひとっ!



テーマ : 二次創作:小説
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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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