こんにちは。
性懲りもなく、週末に、ふなっしーランド船橋本店4周年イベントに出掛ける予定のしづです。(←カテゴリ違い)
前回と同じ船橋市民ホールですが、今回はなんと、一番前の席! しかも真ん中! いいんだろうか、わたしみたいな中途半端なファンが。抽選とはいえ、コアなファンの方に申し訳ない気がします。
今度は土曜日だから、そのまま泊まって翌日ゆっくり帰ろうと思ったら、漏水当番が重なってしまいました。そう上手くはいかないね。梨神さまは見てるね(笑)
先月、騒いでいた水道工事の検査は、昨日、2つとも無事に終わりました。
大した手直しもなく、後はお金をもらうだけなのですが、実績報告書を防衛省に出すから、添付書類として工事写真をあと3部作って欲しいって言われました。工事写真1000枚からありますが、全部付ける必要あるんですかね? 既に1部は竣工書類で出してあるわけだし、抜粋でいいんじゃないのかなー。
……年取ると、愚痴が多くなっていけないねえ。どうせやらなきゃいけないんだから、素直にやっときゃいいんだよね。
今日もがんばってお仕事します。
さて、お話の方はこちらで最終話です。
読んでくださってありがとうございました。
パートナー(9) 二人の姿がマンションから遠ざかり、角を曲がって見えなくなる。門前で彼らを見送っていた薪は、そうなってようやく、肩の強張りを解いた。ため息とともに吐き捨てる。
「あのクソオヤジ」
「……ぷっ」
毒づく様が、薪らしくて笑えた。
「青木、無理して合わせる必要ないからな。友好的に付き合うこと自体が不可能なんだ、あの人とは」
「オレは史郎さんのこと、嫌いじゃないですよ」
薪が、胡乱な目つきで見るから青木は正直に答える。本当は薪が非難する相手を好ましく思うなんて、彼の怒りを買うに決まってるから口にしたくないけれど、青木は嘘が下手くそだ。嘘だとバレたら薪の怒りは倍になる。
「人が善いのも大概にしろ。あそこまで言われて嫌いじゃないとか、あり得ないだろ」
太陽が東から昇るがごとくに、薪は断ずるけれど。
「本当です。嫌いじゃないですよ」
嘘じゃない。
快く受け入れてもらえたわけではないが、青木には、史郎を嫌うことはできなかった。
青木が心の底から尊敬するひとの、その気高い精神を、育み導き磨き上げたのはあの人たちなのだ。もちろん子供の薪にはその資質があった、でもそれはあくまで種の状態。日の下に出し水をやり風よけを作り、時には叱咤という名の肥料を与えて、類まれなき美しい花を咲かせたのは彼らの功績。
そんな偉大な人をどうやって嫌えと言うのか、青木にはそちらの方が無理難題に思える。
「本気なのか? 少なくとも、おまえのお母さんにあんなん言われたら僕は」
自宅への道すがら、それまで軽快に階段を上っていた薪の脚が、ガクッと崩折れる。咄嗟に抱いた細い肩が、小刻みに震えていた。顔も真っ青だ。想像して怖くなったらしい。
「大丈夫ですよ。何度も言いますけど、うちの母は薪さんの大ファンなんですから」
そもそも、親に否定されたところでどうということはない。青木は薪の親が好きなのではなくて、薪が好きなのだ。薪だって同じだろう。そう割り切ってしまえばいい。でもそれができないのが薪のダメなところで、それ故に青木は薪を放っておけない。薪のように完璧とも思える人間に何処かしら弱いところがある、そのギャップが青木を捕えて離さないのだ。
「無理難題押し付けやがって。僕の立場でそんなこと、できるわけが」
家に帰り、休日らしいラフな服装と体勢でリビングのソファに落ち着いた薪は、背もたれを枕代わりに、天井を仰のいて呟いた。そしてそのまま、ひどく難しい顔になる。まるで天井に、幾何学の難問でも見つけたみたいに。
「……青木。正直に言って欲しい」
その呼びかけで青木には分かった。薪がまた何か余計なことを考えている。
「おまえももうガキじゃない。ひと年締めて、大人の考え方もできるようになっただろう。もしも少しでも、僕を選んだことに後悔があるなら」
「『叔父さんの言うことは気にするな』。そう言ったのは薪さんですよ」
ほーら始まった、と心の中で青木は指を鳴らす。薪の困った癖は相変わらずだけど、その兆候を捉えられるようになった。事前に分かれば狼狽えることもないし、対処も早い。青木は淀みなく言い返した。
「僕はいいんだ。人生、拾ったようなものだから。儲けものだと思ってる。でもおまえはそうじゃない。やっぱり将来の保証とか、自分の子供とか」
「薪さん。薪さん」
ひとり先走る薪の身勝手な思考を、引き留めようと青木は懸命になる。やや尖った声で、薪の名を繰り返した。
「分かってますよね? オレが欲しいものがなんなのか」
うん、と薪は頷いた。じゃあこの話はこれで終わり、と青木は休日の仕事に戻ろうとした。掃除、洗濯、車磨き。日曜日の青木はけっこう忙しい。なのに、薪の応えが青木をナマケモノにする。
「でもそれに、そこまでの価値があるのか」
絶句した。
脱力感がハンパない。何をする気もなくなった。
瞬く間に消え失せた勤労意欲の腹いせに、青木は声を張り上げる。
「当たり前じゃないですか!」
そう断じたけれど、これはあくまで青木だけの世界標準。身勝手は承知の上、だけどこの際、薪の価値観なんか知ったこっちゃない。てか腹立つ、マジで腹立つ。
「オレがどれだけ苦労して手に入れたと思ってるんですか? あなたの隣に立つために、オレがどんなに努力してきたか、薪さん、ご存知ですよね?」
一番頭にくるのは、こんな言い方でしか彼を納得させられないことだ。
薪は、自分の価値を認めない。
青木がいくら薪の素晴らしさを説いても、その偉業を褒め称えても、彼にとってはできて当たり前のこと。何故なら薪は天才だから。普通の人間より優れている分、自分に課したハードルは、一般人には想像もつかないほど高い。
天才で有能で、およそ人の憧れる何もかもを持ってて、なのに彼は自分が取りこぼしたものしか見ないのだ。それも、仕方のなかったこと、誰がやっても同じ結果か、より悪くなったであろうこと、そう言った責任の有無すら怪しいことを全部自分の責として背負ってしまう。
だから青木は自分の利害を主張する。憤慨の理由を、自分の努力をないがしろにされたことにすり替える。本当はそれこそ当たり前のことなのに。凡人の自分が、天才のパートナーになろうというのだ。世界でもトップクラスの優秀な遺伝子を、彼の代で断ち切ろうというのだ。その罪の重さを思えば、死に物狂いの努力くらいしてなかったら、いくら青木が呑気者でも罪悪感で潰れる。
「それと、ご自分の人生を軽く扱うの、止めてください。オレがこんなに大事にしてるんですから」
自分の人生を大事にするなんて、子供に言い聞かせるようなこと、それだって薪は理解しようとしないのだ。青木が大事にしているものだからそれを傷つけないで欲しいと、これはあなたのためでなく人のためになるのだと、そんな回りくどい説得の仕方をしないと効果が無い。「あなた自身のため」なんて一言でも言ったら、優先順位は最下層に回り込む。
思春期真っ盛りの中学生みたいに七面倒くさい、だけど彼がそうまでして自分の価値を認めようとしないのは、その手で人を殺しているから。
結局はそこが原点なのだ。青木が何を捨てても彼の側に居たいと願う、その要因もまた。
「うん、分かった。おまえの言う通りだ。ごめんな」
僕ってバカだな、と彼には珍しい反省の言葉を、やわらかなくちびるがため息とともに吐き出した。それで青木は、彼が嘘を吐いていると分かる。
素直すぎる。この手の話は平行線だと分かっているから、とりあえずは納得する振りをして、終わらせようとしているのだ。
歯がゆくもあり、愛おしくもあった。風切り羽を抜かれた鳥のように、無様に地べたを這い回る。その羽根はとっくに生え変わっているのに。ずっと下ばかり見ていたから、空を見上げることができない。自分の居るべき高みを忘れてしまっている。
仕方なく、青木は非難の言葉をくどくどと繰り返す。
「本当に分かってます? だいたい薪さんは」
あの時もこの時も。あれやこれや。
「そもそも薪さんは人の言うことを聞かないから」
小野田さんに心配ばっかり掛けて、オレもそうですけど、岡部さんも中園さんも、後始末に四苦八苦して。
「いい機会ですからハッキリと言わせてもらいます。これからは、――はっ」
音を立てて息を呑む。軽くくちびるを噛んで項垂れていたはずの素直な恋人は、いつの間にか、ソファの肘掛けに頬杖を付いた女王様になっていた。それもアンデルセン童話で一番こわい、雪の女王だ。
「偉くなったなあ、おまえ」
まるで氷のような冷ややかさと、高慢な口調。いつもの薪らしくなってきた。
「すみません、調子に乗り過ぎました。薪さん、ごめんなさい」
「大したものだ。この僕にそんな口が利けるなんて」
うわあ。『この』って言ったよ、「この僕に」って。
「ただ、ひとつだけ覚えておいて欲しいことがあるんだ」
ちょいちょいと指で呼ばれる。近付くと、襟元を掴まれた。ぐいと締め上げられて、青木は引きつった声を出す。
「僕はな、説教するのは好きだけどされるのは嫌いなんだ」
それは誰でもそうだと思いますけど、それを堂々と口にするのは薪さんくらいです、お見事ですっ。
「今日から2,3日、官房室に泊まり込むから」
すみません、それだけは勘弁してください。薪さんが居ないとごはんが食べられません。
青木が雨に濡れた子犬みたいな目で薪を見上げると、薪は、氷河期だった雰囲気をほんの少し和らげて、
「仕事だ。さっきの電話、中園さんからだった」
話しながら書斎にこもってしまったから、仕事の電話だとは思っていた。日曜日に掛けてくるくらいだから、急ぎには違いない。でも、薪が飛び出して行かなかったと言うことは、事件ではない。おそらくは法案関係。薪の嫌いな書類仕事だ。
数年ぶりの叔父の来訪を理由に、一旦は断ったのかもしれない。しかし来客は帰ってしまった。そこで職場に向かうところが実に薪らしい。ちょっとした怠け心すら、彼は自分に許さない。その頑ななまでの厳しさ。だから青木は本当は、休日の彼には指一本動かして欲しくないのだ。
「着替え、用意しますね」
「頼む」
シャツと下着と靴下、ネクタイにハンカチ。ボストンバックの底には秘密の写真を入れておく。仕事に疲れた彼への栄養剤代わりだ。
同居も1年を超えれば、何がどこにあるかは青木の方が詳しいくらい。3日分の着替えと洗面用具をボストンバッグに詰めるのに青木が要した時間は、薪が仕事用のスーツに着替える時間とほぼ同じであった。
インターフォンが鳴って、階下に迎えの車が来たことを知らせる。青木も今日は休日、だから送迎には官房室の車を使う。もちろん薪を警察庁まで車で送るのはやぶさかではない。むしろ一緒に行きたいくらいなのだが、休みの日は薪はいつもこうして、青木の休日を奪わないようにしてくれる。
「いってらっしゃい」のキスもおざなりに、何故ならスーツに着替えた薪はすっかり仕事モード。好みでなくても仕事は仕事。すでに頭の中にはいくつかの草案が出来上がっていて、それを検証している最中なのだ。きっと今回も、ボストンバッグの一番下に忍ばせた青木とのツーショット写真には気付かないまま、洗濯物と混じってしわくちゃになって帰ってくるに違いない。
でもそれは、薪が仕事に集中できた証拠。彼の時間が充実してそれに彼が満足してくれれば、青木の目的も達成されたことになるのだ。昔は自己完結型の薪のスタイルに悲しくなることもあったが、大事なのは薪の満足度であって、それを必ずしも青木がコーディネイトしなければいけないわけではない。最近やっと、そんなふうに考えられるようになった。
エントランスまで見送りに出た青木を一度も振り返らずに車に乗り込むと、薪はすぐに書類を取り出した。耳に電話を挟み、何事か喋りながら、指先で紙面をパシリと弾く。運転手がぎょっとした様子で後部座席を振り向いたから、多分、トラブル発生。車の窓が白く凍っていくように見えたが、見間違いだと思いたい。
運転手が慄きながらも車をスタートさせ、ブリザードを連れ去った。後には休日の昼前の、のんびりした空気。
「さて。薪さんがお帰りになるまでに、家中磨いておこうかな」
まずは洗濯、と青木は足取りも軽く、自宅への階段を昇って行った。
おしまい(2019.1)
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。
次のお話は、なっしーと薪さんのコラボです。←え。
(頼まれても困ると思いますけど)よろしくお願いします。
テーマ : 二次創作:小説
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