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世界最高の暗殺者、異世界貴族に転生する 作者:月夜 涙(るい)

第四章:暗殺者は探り当てる

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第十六話:暗殺者は王子殺しをする

 王都にやって来ていた。

 目的は建国祭であり、第二王子の暗殺だ。

 計画を練りながら第二王子の情報を収集していたが、ファリナ姫やローマルング公爵が手遅れだと言っていた意味がわかった。


 彼はもはや、国益などどうでもよく。蛇魔族ミーナの傀儡だ。

 なまじ、ファリナ姫たちの操り人形で動いていたときの功績があるだけに質が悪い。

 第二王子という立場と輝かしい実績があるせいで歯止めが利かないのだ。俺が暗殺を依頼されてからも、随分とやらかしている。


「可愛い従者さん達は連れてこなかったのですね」

「できれば、あなたも連れて来たくはなかった」


 俺は変装をして、建国祭に参加している。

 若手商人の一人、フランク・ハルツマンとして。

 フランク・ハルツマンの戸籍は父が用意したものではなく、俺が独自に手に入れたもの。


 行商中に魔物に喰われた商人で天涯孤独の身。名前を借りるにはうってつけの人物だ。

 建国祭には、多数の出店が用意される。

 そこにフランク・ハルツマンの名で店を開いていた。

 そして、なぜかその店をネヴァンが手伝ってくれている。もちろん変装をして。


 販売しているのはクレープだ。生地にジャガイモから作った片栗粉を混ぜている特別製。

 そうするとデンプン量が多くなって、もちもちとした食感になる。

 さらに食感だけでなく、薄く焼いても破れないというメリットも生まれるし、生地が透明に近づく。


 透き通るほど薄く焼き上げた生地は美しく、口の中に張り付き官能的。

 具材は上質な生クリームと旬のフルーツ。

 具では小細工をせずに、今一番美味しいものを包む。

 狙いは大当たりで、開店してからちょっとするぐらいには行列ができ、それが一度も途切れない。

 パトロンになるから王都で店を開かないか? という誘いまであったぐらいだ。


「舌の肥えた民ばかりの王都で行列ができるなんて、誇っていいですわ。あなた、料理人としても超一流ですのね。でも、ちょっとやりすぎじゃない?」

「ここは王都だ。王都に許可されるほどの屋台で、一流のもの以外を出すほうが目立つ」


 普通であれば、むしろ客なんて少なければ少ないほどいい。

 なにせ、あくまで王子を殺しうるポイントに、不自然に思われないよう居座るためのフェイクなのだから。


「それもそうですわね。でも、本業に悪影響はありませんの?」

「この状況でもやれる。むしろ、こうしてにぎわっていることがいい隠れ蓑になる」


 行列ができるほどの店で客を捌きながら殺せるなんて誰も思っていないだろう。

 ちなみに、今の会話はすべて音を発していない。


 唇を小さく震わせることで言葉を伝える暗殺者の符合でのやり取り。

 しかも、唇には注視せず視点は別に定め、目の端で捉えている。お互いの唇をガン見していれば、周囲に不審に思われる。

 ……暗殺者でもないのに、こういうことをさらっとこなせる辺りが化け物だ。


 タルトやディアを連れてこなかったのは、変装技術の欠如がある。

 変装するだけなら、俺が力を貸せばどうにでもなる。

 だが、あの二人の場合は振る舞いは二人のまま。


 別人を完璧に演じるということは、自らの内側に別人を構築し、その呼吸、くせ、話し方、仕草、思考法、人との間合いなどを無意識にトレースすること。

 それができなければ、ただのコスプレだ。

 一朝一夕にできることじゃない。

 しかし、ネヴァンにはそれができる。

 ファリナ姫の影武者は伊達じゃないということか。


「ふふ、あなたの殺しを見るのが楽しみですわね」

「計画書は渡しているだろう」

「ええ、だけども、ここから狙い病死をさせるとしか書いておりませんでしたわ」


 具体的な方法は伏せてある。

 少しでも情報が洩れるのを防ぐためだ。


「安心して見ていてくれ。見ていてわかるかはわからないが」


 この場所を確保できた時点で、作戦の九割は成功だ。

 事前に王族がパレードで使うコース、時間は調べつくしている。

 パレードの際、護衛を伴って馬車で移動する。加えて一般人が近づけないように等間隔に兵士たちが立っている。

 それをかいくぐることはできるが、そんな騒ぎを起こせば暗殺が疑われてしまう。


 ただ、進行ルートの中にかなり王子が走る馬車と観客が近づくポイントがある。道幅がせまいところだとやむを得ず近づきすぎる。

 それがこの屋台がある場所だ。

 王子の馬車との距離が三メートルまで近づく。

 その三メートルというのが、今回の条件で暗殺可能な距離。


 この位置に屋台を開くため、ローマルングの力を借りた。

 ローマルングなら屋台をねじ込んだ痕跡を隠しつつ、うまくやると信じ、事実その通りになった。

 クレープが順調に売れていく。

 そして、わずかに客の数が減っていく。


 パレードが始まったからだ。

 道幅がせまくなる関係もあり、行列整備に兵士たちがやってきて、行列の向きを変え、パレードの通り道を確保しだした。

 その後、王族たちが次々に目の前を通り過ぎていく。


 とくに人気があるのは第一王子だ。第一王子は武神とまで呼ばれている。本人自体が凄まじく強い上、その統率能力・軍略も素晴らしい。

 ただ、問題があるとすればあまりにも戦いのみに特化しすぎていること。戦略や戦術に長けていることから頭の回転はいい。多くの部下に慕われていることから人心掌握術にも長けている。

 なのに、政治になるとポンコツだ。おそらくは興味があることだけに熱中できるタイプ。


 そして、次に人気があるのがファリナ姫。暗殺の依頼主。彼女の魅力は圧倒的な美しさと、慈愛に満ちた微笑み。

 彼女は王都で月に一度、アルヴァン王国最大のホールでチャリティコンサートを開催し歌を披露するが、毎回超満員。チケットなんて数分で売り切れてしまう。

 そこを訪れた者によると、天使の歌声らしい。

 彼女の人気は偶像アイドルとしてのものだ。

 しかし、それは擬態であり策士としての顔を持つ。

 ここまで、第二王子を除くすべての王子・王女が通って行ったが、第一王子とファリナ姫を除くとあまり人気がない。

 ただ、王族に生まれただけと民からは思われている。

 そして……。


「いよいよか」


 締めは第二王子。

 トップバッターが第一王子であったことを考えると、実力者を最初と最後に持ってきたのだろう。

 第二王子は、第一王子とは対照的に政治や外交で実績を積み上げ評価されている。

 ……ファリナ姫とローマルング公爵の操り人形になっていたおかげだが。

 ただ、実績は実績だ。


 甘いマスクもあいまって、第一王子やファリナ姫に負けないぐらいに人気がある。

 人のざわめきの大きさで近づいているのがわかる。

 俺は集中力を高めていく。

 来た。

 第二王子はにこやかに笑っている。

 肖像画の通り、端整な青年で黄色い声が響く。

 だが……その瞳には生気がなかった。

 身にまとう気が乱れているし、空気が淀んでいる。彼はいま正気じゃない。


 そんな、第二王子をトウアハーデの瞳でみる。

 彼の魔力の色を、波長を分析する。

 魔力持ちというのは、平時ですら無意識に魔力を纏っており、一般人が剣で斬りかかっても致命傷にはならない。

 殺すには火力がいる。

 だが、そんな火力がある攻撃をしようものならどうしようもなく目立つ。

 火力がなければ殺せない、火力があれば暗殺を悟られる。


 暗殺と断定されていいのなら、超遠距離から【銃撃】で殺せる機会などいくらでもあった。

 今回は暗殺があったことすら悟られてはいけない。だからこそ、難しい仕事であり、こうしていろいろ仕込みをしている。


 詠唱を始める。

 唇をほとんど動かさず、目の前でクレープができるのを待っている客にすら聞こえない音量で。

 ディアと共に開発した新たな魔法。

 無属性の魔法であり、その用途は魔力の対消滅。

 人それぞれに魔力の波長というものがある。波長を合わせた魔力を打ち込むことで、対象が纏っている魔力の鎧に穴をあける。

 肉体的なダメージはないから、撃ちこまれたことに気付きすらしない。

 ……ただ、非常に難しい術式だ。

 まずトウアハーデの眼でもない限り波長を読めないし、必要以上の魔力を注ぐと、対消滅ではなく突き抜ける。

 だが、俺にならできる。

 通り過ぎる直前、詠唱が感性。

 首元に不可視の魔力弾がとび、第二王子が身に待とう魔力の流れに穴をあけた。

 そして、屋台の設備に偽装した暗器を使い、特別製の針を射出する。

 この暗器は大型であり、不審に思われずにこんなものを持ち込む手段が屋台ぐらいしかなかったのだ。

 第二王子が首筋を抑えて、首を傾げ護衛と何かを話している。

 ここからでは聞こえないので、読唇術を使う。


『王子、どうかされたのでしょうか?』

『ちょっとちくっとしてね。なんでもない、進んでくれ』


 第二王子が首筋から手を離す。

 そこには傷跡一つない。

 成功だな。

 何事もなかったかのように、第二王子が通り過ぎていく。


「さあ、お客様。注文のクレープです」


 にこやかな笑顔でクレープを渡す。

 俺はただクレープを焼いているだけに見える。

 誰一人として、今この瞬間に第二王子を殺したとなんて気付いていないだろう。


 ◇


 パレードが終わると同時に、建国祭終了のアナウンスが流れる。

 屋台はしまっていく、逆に飲み屋は熱心に客の呼び込みを始めた。

 俺たちもさっさと片づけを終えてしまう。


「ふう、疲れましたね。クレープたくさん売れて良かったですわ」


 ネヴァンが伸びをする。


「そうだな。宿に戻ろう」


 この時間に帰るわけにはいかず、フランツとして振舞っている以上、宿を取らないほうが不自然だから宿をとっている。

 当然、ネヴァンが変装している店員の分も予約している。

 この街を出る瞬間までは、フランツとしてつつがなく過ごす。

「遠く離れた地で、二人きりで宿。絶好の浮気チャンスですわね。私、釘は固いですわ」

「する気はない。俺の部屋には入ってくるな」


 念のために釘をさしておく。


「私は思うのです。これだけバカ売れしたら、ちょっと贅沢な店で打ち上げしたくなりません?」

「……そうだな。そういうものだ。いくぞ」


 筋は通っている、今の俺はフランツ。若手商人という生き物はイケイケで、大儲けしたら散財する。


「はい、是非。下々の店というのを見せてくださいな」


 王都の店は軒並み高い。

 それを下々の店扱いするとは、金持ちはこれだから怖い。


 ◇


 学園に居たころは、王都がほぼ唯一の遊び場だったこともあり、王都内の店に詳しい。

 そんな中で、個室かつ料理がうまい店を選んだ。

 個室にしたのは、おそらくネヴァンが話をしたがっているからだ。

 料理が一通りそろったタイミングで、風の魔法を使う。

 音を外に漏らさないための魔法だ。

 それを見て、ネヴァンが微笑む。

 周囲の状況から、この魔法を見抜いたらしい。


「さてと、お疲れさまですわ。いくつか教えてくださいな。第二王子、死んでいませんでしたが大丈夫ですの?」

「そのことですが、もうしばらくすると第二王子は死にます。城内の自室で。それが一番あとくされなくていい」


 王子のスケジュールは把握できている。

 自室に戻るころに死ぬよう調整した。


「あら、敬語に戻ってしまいましたね。残念ですわ」

「ここではフランツとしては振舞っておりませんから」


 風で音を遮断し、話す内容も内容だ。

 今ここにいるのは、フランツではなくルーグ。

 相手は公爵家で雲の上にいる人間だ。溜め口なんて恐れ多い。

「いったいどんな殺し方をされたの?」

「針を使いました。数ミリで髪の毛ほどの太さの針です。調理器具に見せかけて、その針を射出する装置を屋台に設置しておりました。小さな針を飛ばすのは難しく装置が大型化してしまい、今回屋台を開いたのは、その装置を隠し持ち最大射程の三メートル以内に近づくには、それしかなかったからです」


 第二王子にそんなものを背負って近づけば疑ってくれと言っているようなもの。

 屋台というのはいい隠れ蓑になった。


「そんな針で殺せるんですの?」

「ええ、普通の針では無理ですが。針自体が毒を固めたもの。針を首筋の動脈に撃ちむと血流にのって心臓まで運ばれていきます。そして、心臓で溶ける」


 これだけの精度を求められたのも装置が大型化してしまった理由であり、三メートル以内に近づかなないといけなかった理由。 首筋ではなく、首筋の動脈を狙う必要があった。


「溶けたらどうなるんですの?」

「筋肉を弛緩させます。心臓の筋肉が緩むと血流が止まる。いわゆる心臓発作となり、病死に見せかけることが可能です」

「毒だって特定されません?」

「針は溶けてなくなりますし、体の内側から筋肉を弛緩させるだけですから。普通の毒殺と違い、痕跡が残らないんです」


 少なくとも、この世界では。


「面白い毒があったものですね。勉強になりました」

「第二王子はパレードが終わって数時間後、古代道具アーティファクトに守られ、何物も侵入できない自室で心臓麻痺で死ぬ。病死で片付くでしょう」

「ふふふ、完璧ですわね。これで当面の問題は解決ですわね。……あとは私たちの仕事、この病死をうまく使って見せますわ」


 ネヴァンが妖艶な笑みを浮かべて酒を飲む。

 それだけなのに、凄まじい色気だ。


「料理も酒も楽しんだ。そろそろ戻りましょう」

「ええ、そうしましょう」


 ネヴァンが手を差し出してくれ。

 エスコートをしろということだ。

 それぐらいはいいだろう。

 彼女の根回し、それに店だって彼女がいたからちゃんと回せた。そのことに感謝をしなければ。


 ただ、注意をしないとな。

 今この瞬間も胸を押し付けて誘っている。

 それに、この香水はただの香水じゃない。男をその気にさせるためのもの。

 今思えば、すべての仕草がそのためにある。

 彼女は本気で俺を落とそうとしている。


「ふふふ、夜は長いですわよ」


 ……帰ってからが本当の戦いになりそうだ。

 だが、負けるわけにはいかない。

 ディアに念を押されたし、明日はデートがある。

 さすがに他の女の匂いをつけてデートに向かうわけにはいかない。特に明日は、滅多に会えないのに俺のために尽くしてくれるあの子に会うんだから。

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