額から滴り落ちた汗が視界を滲ませ、彼は鍛錬を一旦中止した。
冬の凍った空気を大きく吸い込んで息を整えつつ、静まり返ったひとりきりの練兵場から夜空を見上げる。
人には決して手の届かない場所から、冷たく揺らぎ、色とりどりの光を放つ星々の美しさに一瞬息を呑んだ。
彼は親の顔など知らない。
だが公費で運営される孤児院で育ち、物心ついた時から自分は特別な人間だと感じていた。
その足は他の誰よりも早く駆ける事が出来たし、同年代が相手なら力比べでも負けた事がない。
恵まれた身体能力を買われて十歳になった時、この戦技院に入学した。
白兵戦の才能を持つと見込まれた者達に幼い頃より、戦士としての教育を施し、いずれは国家を守護する優秀な兵士へと育て上げる事を目的とした教育機関。
法国中から優秀な子供達が集まるそこでも、彼の才能は周囲よりも明らかに突出していた。
入学時から訓練で頭角を現し、二年目には引退したとは言え、元は熟練の戦士だった教員相手の実技試験で圧勝してしまう。
三年目には法国の軍部からも目を掛けられ、既に卒業後の花形部隊への配属が決まっていた。
そして彼はもう十四歳。
年が明けて春になれば、正式に軍へと配属され兵士と国に尽くす毎日が始まる予定だった。
この戦技院で五年近く鍛え上げた剣の腕は、もはや並みの熟練では敵わない領域に達している。
何の後ろ盾も無い孤児の出身から己の腕一つで評価を勝ち取ってきた。
戦技院では同期で一番の成績だし、卒業後は数多くの戦場で活躍して多くの者が羨む名声を手にする事も出来るだろう。
「だけれど、何かが違う気がする」
星を眺める内に、何故か口から声が漏れる。
彼は今の言葉を自分が言ったのだと自覚し、思わず苦笑してしまった。
(何が違うというのでしょうね。 護国の英雄として称えられ、偉大なる六大神の御心のままに人類に仇なす異形を討つ。 勝利と栄光の人生……、私が望んだものじゃないですか)
そして僅かな休憩を終えると、再び想像上の敵を相手に剣を振る訓練へと戻る。
人の上に立つ快感と、名声への飽くなき向上心、そして自分の力が増していく喜びが彼を突き動かし続けていた。
孤児院の前に捨てられていた彼には家名は無い。
薄い布が敷かれた揺りかごの中で、まだ赤子だった彼は教会の前に捨てられていた。
手に握られていた一枚の紙片には汚い文字でエルヤー、とだけ書かれてあったという。
それを名とし、神殿で受けた洗礼名だけを後につけている。
彼の名を、エルヤー・ウズルスと言った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
戦技院には卒業を間近に控えた生徒に対し、討伐遠征と呼ばれる特別訓練が課されることになっていた。
卒業予定の生徒達は十名前後の班に振り分けられ、法国の兵士達と共に人類の生活圏の外で三週間程旅をする。
当然その間には、モンスターとの戦闘が発生する事も珍しくなく、稀にではあるが死者を出すこともあった。
スレイン法国の北方にあるバハルス帝国の魔法学院でも似通った形式での試験が行われているが、戦技院での討伐遠征は、春から兵士としての任務につく生徒達に実戦の経験を積ませ、命懸けの職務を行う心構えを身につけさせるという意味合いが大きい。
無論強力なモンスターと遭遇する可能性が高いような場所は道程から外されているが、それでも確実に数度はモンスターと遭遇する事が初めから想定されていた。
卒業を間近に控えたエルヤーも同様に班に組み込まれて、街道からかなり外れた草原の上で物資を載せた馬車に随伴して歩いていた。
「この辺りは森や地形の起伏など、モンスターが潜む場所が多い。 常に警戒は厳としておけよ」
訓練に同伴する兵士が、学生達に呼びかける。
その声に班員達は一斉に頷くが、彼らの多くは身を縮めて震えており、歩幅も安定していない。
モンスターと何時遭遇するか分からない状況では、いちいち鎧を着替えている暇など無い。
故に彼らは革製の鎧を常に身につけて旅をしていたが、鉄製よりは軽いとは言え、モンスターの鋭い爪や牙に対抗する為に何枚もの革を重ねて作られた鎧の重さは重く体にのしかかり体力を消耗させる。
更にその重さは全身の筋肉に負担をかける事で、班員の服の内側に汗を滲ませ、急速に体温を奪っていく。
疲労と寒さ。
この二重苦に耐え、常にモンスターの脅威を警戒しながら旅路を行く事こそが、学生時代の甘えを一掃し優秀な兵士となる下準備を整えさせる討伐遠征の真髄だった。
(案外、平穏ですね……)
遠征に出発してから既に十日。
同伴の兵士ですら学生ほどでは無いにしろ疲労を滲ませるなかで、殆ど顔色を変えずに歩くものが一人いた。
その少年、エルヤーはいつ現れるか分からないモンスターへの恐怖に怯える事なく、むしろ想像よりも戦闘が少ない遠征に退屈さえ感じている。
途中で野獣に遭遇する事はあったが、兵士が弓矢で威嚇射撃をしたことで、直ぐに逃げ出してしまい、結局本格的な戦闘はこれまで一度も体験していない。
班員達は自分たちの班は運が良いと喜んでいるが、軍に入隊する前の最後のイベントである討伐遠征で手柄を立てておきたい、と考えていたエルヤーにとっては拍子抜けと言っても良かった。
「こんな寒い中でモンスターなんかと戦いたくねえよ……、な、流石のエルヤーだってそう思うだろ?」
「ええ……、凍えた手で武器を振るうのは危険ですからね。 このまま何事も無く終わって欲しいものです」
班員の同級生の話にエルヤーは調子を合わせておく。
軍では個人の実力もそうだが、規律を乱さない協調性も同様に重要視されている。
自分の思いなど外に出さず適当に周りに合わせておけば、とりあえず問題は回避出来る。
エルヤーは思ったことを何でも素直に口に出す事はトラブルを招く……、という事はこれまでの人生で十分すぎる程に学習しており、戦技院でも、この遠征でも心からの言葉が出る事など滅多にあることではなかった。
(自分より弱い奴らに追従し、教員相手の試合ではたまに負けた振りをしてやらなきゃならない。
我ながら馬鹿らしくなってくる生活ですが、軍に入れば少しは変わりますかね)
神の名のもとに剣を振るい、強大な異形共を打ち砕く聖なる英雄。
己を見上げる羨望の視線を一身に受け、名声を国中に轟かす。
かつてはその姿を想像しただけで、興奮が胸の奥から湧き出てきたものだが、最近はどこか冷めた気分になってしまう。
「寒いですね」
自分の心情を思ってぽつりと漏れた言葉は、隣で聞いていた班員に気温の事だと誤解され、軽く相槌を打たれただけだった。
そんな中、班員の一人、野伏としての技能を身につけている少年が進行方向を指差して声を上げた。
「あそこの岩陰……、何かが飛び出したぞ」
エルヤーがそちらに視線を移せば、確かに遠くに影が見える。
皆一様に警戒しつつも、影は一つきりであり、付近に他に大勢のモンスターが身を隠せるような場所も無いことから、馬車の進行方向は変えない。
近づいていくにつれ、その影は人型をしている事が明らかになってくる。
向こうからも一行へと歩み寄って来ているようで、ついには全貌が明らかになると、その姿に誰もが違和感を覚えた。
背の高さからは恐らく人間か、もしくはそれに近しい体格を持つ種族だと思われる。
身につけているのは頭から足先までを覆う、光沢の無い灰色の全身鎧。
全身鎧は作るのに多大な手間が掛かる防具であり、通常は式典に参加する際の見栄えを良くしたり、戦場で己の活躍をアピールする為に何らかの装飾を施す事が多い。
だが、その鎧は不必要な装飾を徹底的に排除し障害物に引っかからないようにする為か、滑らかな曲面で全体を構成しており、機能を追求したその形状がむしろ一種の優雅さを印象づける。
関節などの可動部分は鎖帷子になっているのだろう事を差し引いても、こちらへと歩いてくる者の動きは重たい鎧を纏っているとは思えない程滑らかだった。
視界と空気を確保する為に複数の小さな穴を開けられた、無骨なバイザーの向こうからは、エルヤー達の一行を見つめる視線が感じられる。
両者の間が二十メートル程に詰められた時、兵士が全身鎧の人物を誰何した。
「我らはスレイン法国戦技院、討伐遠征隊。 貴殿の名を名乗られたし」
その声を受けた人物は数秒ほど黙りこんでいたが、やがて低い男の声で返答する。
「私はスレイン法国軍所属、ケーン・マウナ・レイナンド。 私の部隊はモンスターの討伐任務でこの地に派遣されていたが、強大なモンスターの襲撃を受けて他の隊員は全滅してしまった。 貴官らもこの先へ向かうのは危険だ、まずは私の部隊に起きた出来事について説明させてもらいたい」
「………了解した。 ただ、腰に下げている剣は一旦地面に置いて頂きたい。 まだ、その話だけでは貴官の身分の保証にはならないし、我々には学生を守る任務がある」
「ああ、勿論受け入れよう」
男が大人しく、剣を草地へと置いた様子を見て、張り詰めていた一行の空気が弛緩する。
そして男が言った強大なモンスターという言葉。
もしかすると今後の自分達の行動を左右するかも知れない情報を聞こうと、一行の全員が男の近くへと近寄った。
「迂闊だな」
一言、男が呟く。
誰もが言葉の意味を理解出来ないうちに、男が纏う鎧が一瞬光輝き、周囲に半透明の光る波動を放出する。
エルヤーは咄嗟に飛び退こうとはしたが、不意をうたれた為に反応が遅れ、到底間に合わない。
いや、この早さでは不意打ちでなくとも躱す事は難しかっただろう。
彼の体を波動が通り抜けた瞬間に、体内に氷を直接入れられたような冷たさを感じ、気が付けば指一本動かせずにその場に棒立ちしてしまっていた。
辛うじて動かせる眼球で男の姿を追うと、彼は背中の背嚢を降ろして、中から金具のついた黒い輪のような物を複数取り出す。
「戦技院か……、懐かしいなぁ。 私もそこの卒業生なのだよ。 六大神に選ばれた、人類の守護者としての理想を胸に仲間達と切磋琢磨していたっけ。 ………でもね、そんな理想に燃えた学生が軍で見たのは、ロクでもない世の中だったのさ」
誰に語りかける風でもなく、独り言のように呟きながら男は班員達の首に黒い輪をかけていった。
「家柄だけが取り柄の横柄な上官に、人々の危機を見捨てる同僚、軍の名誉を守る為という大義名分の元に不祥事をもみ消す奴もいた。 ………そして私はついに我慢の限界が来て、上官相手に刃傷沙汰を起こしてね。 軍事裁判に掛けられる事になった私に、同じ師団の上層部が自分達の不祥事をついでとばかりに引っ被せて、出された判決が終身の労役刑さ。 ………囚人となった時、私は決めたね。 もしここから自由になれば、このスレイン法国という国家を根本から否定してやろうと」
やがて男が語り終えた時、兵士を含めた班員達の首には同じ黒革の首輪がかけられていた。
「もうじき拘束も解けるだろう。 六大神の祝福としか思えない幸運で刑務所から抜け出した私は、堕落したこの国に復讐する力をも得た。 それはその力で服役していた刑務所を襲った時に得たマジックアイテムだ。 使い捨てではあるが、その首輪には強力な雷の魔法が掛けられていて、私の合図一つで首輪を身につけた者の命を奪う。 使いどころに悩んでいたが、ここで君達のようなカモに出会えたのも六大神の導きだろう。 ……殺し合いたまえ。 最後に残った一人は、法国へ私の怒りを伝えるメッセンジャーとして生きて帰してあげよう」
男の言うとおり拘束は解け、班員達は体の自由を取り戻す。
だが一方的に伝えられたあまりに理不尽な命令に、班員達は動揺するばかりで動き出す者は誰もいない。
その様子を見た男は、ため息を一つつくと、口を開いた。
「五番、弾けろ」
瞬間、大量の羽虫が羽ばたくような音と共に雷が爆ぜる。
一人の兵士が身につけていた首輪から、眩いばかりの閃光が走り、兵士は押しつぶされたような声と共に全身を痙攣させ地面を転がり、光が止むと同時に身動き一つしなくなった。
明らかに生きてはいない。
軍事訓練は受けているとは言え、学生達に共に旅をした人間が目の前で呆気なく生命を失った経験などある訳がない。
体から煙を立ち上らせる兵士の遺体を見て、誰かが限界を迎え叫び声を上げる。
僅か数秒後、最初の流血が凍てつく草原に降り注いだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
怒声、悲鳴が耳障りに響く。
血が滴る剣を手に班員の一人が虚しい謝罪をするが、直ぐにその首に別の者の剣が突き立つ。
目の前に広がる修羅の体現を、彼はその剣で尽く切り伏せる。
草原に再び静けさが戻った頃には、既に立っている人間はエルヤーとケーンと名乗った男だけだった。
エルヤーは地面に転がる班員達の遺体を見渡して、やがて薄曇りの空を見上げた。
その瞳には悲しみの色では無く、無念さを宿している。
(どうしてあの兵士が殺された後、一息落ち着く事が出来なかった。 察するに、この首輪はそれぞれの番号を呼ばないと発動しない仕掛け、全員で反撃すれば無傷とはいかないまでも、ここにいる殆どの者は生き残れたかも知れないのに)
いや、最初に兵士を殺したのはそれをさせない為だったのか。
班員達は興奮状態となり、誰も会話など出来る状態ではなかったからこそ、エルヤーも全員を斬らざるを得なかった。
クラスでも若干浮いた存在だったエルヤーは、同級生に特別な友情を抱いていた訳ではない。
ただ五年近くもの間、共に訓練を乗り越えてきた者達に、怒りにも似た思いを抱く。
(人類を守る為に、生命をかけて外敵に立ち向かう。 ………彼らが何時も口にしていたその言葉に、一片の真実くらいは含まれていると思っていたんですがね)
エルヤーが男の方に目を移すと、彼は少しずつ後ずさりしている最中だった。
「ふふふ、本当は最後に生き残った一人はこの手で直々に殺して、希望から絶望へと突き落とされる瞬間を楽しみたかったのだが……、やめておこう。 お前は危険だ、残念だが首輪で死んでもらうとするよ」
「……なる程。 まあ、法国を否定する、なんて言っておきながら、学生を殺して満足している時点で大した人間じゃない事は分かっていましたが、そこまででしたか」
「……そんな安い挑発に乗るほど私は馬鹿ではないのだよ。 それではな、仲間殺しの学生くん」
そして薄ら笑いを浮かべた男が口を開こうとする………、が、そこに割り込む声があった。
「つまらん、とことんまでつまらん奴だ」
「なっ!」
慌てる男が身につけていた全身鎧が再び淡く光るが、先ほどとは様子が違う。
鎧はまるで実体がないかのように、男の体をすり抜けると、中に入っていた男を残して後ろにずれる。
鎧はその後も、中に人が入っているかのように自立して動き、呆れたように腕を組んだ。
「実力は今ひとつだったが、復讐に燃える男も面白いかと思って力を貸したが大失敗じゃな。 どんな苛烈な復讐を遂げるかと思えば、こそこそ忍びながら格下相手にせっかく貸した力を振るうのみ。 恨みがあるはずの刑務所を襲った時だって、所長の家族を人質にとっての姑息な手段。 あんなものは襲撃では無く、こそ泥じゃ。
復讐の名目でただ憂さを晴らしているだけの、ちんけな悪党。 怒りに駆られてなお、恐怖という軛から逃れられぬお主に、成し遂げられる事など何もない。 契約しないで正解じゃったわ」
「き、貴様……。 私をそそのかしたのは貴様だろうが! ……ふん、所詮異形の力など借りようとした私が馬鹿だったわ。 私には六大神の加護がついている。 大いなる神は私にスレイン法国を裁く使命を与えられたのだ!」
「はん、とうとう神頼みしか無くなりおった。 おい、小僧。 お主の実力なら、首輪の雷も一撃くらいなら耐えられるかも知れんぞ、どうせ死ぬなら……」
「……く、くくく」
繰り広げられる言い争いを遮ったのは、エルヤーが漏らす含み笑いだった。
やがてそれは、天をつくような大笑いとなり、血塗られた景色とは場違いな明朗な笑いが響いた。
「はぁ………、そうでしたか。 あなたのおかげで最近私を悩ませていた疑問がやっと解けましたよ。 富、名声、地位。 既に踏み固められた道の先にある手垢に塗れた宝石を幾ら拾おうが私は満ちない。 信仰、連帯、主義。 あらゆる虚飾を施された軛に縛られる事は、ただ身動きを封じるだけ。 ………恐怖に支配された彼らと、見たこともない神にすがるあなたは何も変わらない。 ………やっと私の進むべき所が分かりました」
「ざ、戯言を。 さっきはガイアルドが何か言っていたが、お前の生命は既に私に握られている。 勝ち誇りたくば、続きはあの世でやる事だ!」
「へえ……、鎧、あなたはガイアルドと言うのですか。 じゃあ、勘違いはしないように。 私はあなたに唆されてこうするのではない、ただこんな首輪で私を縛れると思われている事が気に食わないだけです」
男が口を開くと同時に、エルヤーは土を蹴散らして駆け出した。
激しく動きながらも、俊敏性を高める武技を発動していく。
男が首輪を発動させるのと、エルヤーの剣が男の胸に突き刺さるのは、ほぼ同時だった。
エルヤーの視界を白い閃光が多い、全身を無数の針に刺されるような今までに感じた事のない痛みが精神を苛む。
だが、彼の傲慢なまでの誇りがその足を大地に固定し続けた。
やがて痛みが若干和らぎ、赤く滲んだ視界が僅かながら開けてくる。
胸に突き刺さった剣を掴もうとするかのような姿勢で、地に伏せられた男を見て、エルヤーは薄く笑った。
「やはり、こんな首輪が私を縛れる訳は無かったですね」
勝利を確信し、気が緩んだのだろう。
エルヤーも直ぐに意識を失い、地面に力なく崩れ落ちる。
立てていたのが奇跡的な程の瀕死の重傷を負った彼を、動く全身鎧が見下ろした。
「その傲慢、その無謀。 たった一つの生命を燃やせるか。 ………面白いぞ、今まで出会った誰よりも」
その年の戦技院の討伐演習では、未帰還の班が一つあった。
一つの班の生徒と兵士が全員失踪。
近年無かったその被害の大きさに軍が調査に乗り出した結果、予定されていた道程の途中に彼らの馬車が見つかった。
付近には班員達のものと見られる遺体の残骸が見つかったが、モンスターや獣によるものと思われる損傷が激しく、持ち去られたらしい遺体も多いため、死因の究明には至らない。
軍は強大なモンスターに襲撃された事による想定外の事故、としてこの一件を処理し班員達は全滅と断定する。
孤児であったエルヤーの死を悲しむ者は、誰一人として居なかった。