朝鮮通信使と大坂の陣　

　昨年は、二つの市で、歴史の公演会に於いて、大坂の陣を語る機会がありました。そこで、世間では言われていない大坂の陣と朝鮮通信使の関係についての個人的な考察を語らせて貰いました。大坂の陣は徳川家康の一方的な野心によって引き起こされたように言われる場合が多いのですが、そうではないのではないかという視点からの考察です。

　豊臣政権は朝鮮に出兵して大変な戦乱状態を作り出しますが、撤収すれば終りと考えていたようで、朝鮮からの撤収後に朝鮮国との間に交渉を持つことはありませんでした。家康は放置しておいて良い問題ではないと考え、朝鮮国との修好と明国との貿易の再会に動き出します。

　日本軍は朝鮮で負けていますから、頭を下げての敗戦処理になりますが、こういう仕事は大変であるにも関わらず後世からは評価されません。今でも豊太閤の朝鮮征伐などといって快挙のようにいう人がいますが、攻めていくことは後世の人からは歓迎されるのです。

　家康は、秀吉が朝鮮国と直接交渉をして失敗していることを考えて、朝鮮国の内情に明るい対馬の宗氏に仲介させるかたちで、国交の回復と日本への通信使の派遣を求めます。

　朝鮮政府は、朝鮮から撤退するときに日本側が拉致した朝鮮人の返還を求めます、これは国内で返還を求める声が高くなってきていて、政府もそれに応えなければならない状況が生まれていたのです。

　対馬が介在する貿易の利も朝鮮国にとっては貴重なものでした、再び日本が攻め込んでこない保証があれば、拉致された人の返還を条件に国交の回復に応じても良いという姿勢になっていました。

　家康の交渉が功を奏して、慶長十二年（1607年）に日朝の国交回復を約し拉致された朝鮮人の返還を求める通信使がやってきます。

　二回目の朝鮮通信使は、元和三年（1617年）、家康が亡くなった翌年にやってきます、その二年前には大坂の豊臣家が滅びています。用件は、大坂滅亡による日本国内の統一の慶賀と拉致された朝鮮人の追加の送還でしたが、朝鮮側が、豊臣家が滅亡して日本が統一されたと認識していることは重要だと思われます。

　政権を失った豊臣家など問題にしていなければ、豊臣家の滅亡を祝うための通信使を出すことなどあり得ません、朝鮮国にとっては、豊臣家は許せない存在であり、家康が滅亡に追い込んでくれて始めて納得ができるという気持ちだったのではないでしょうか。

　家康が最晩年になって、無理を重ねて豊臣家を滅亡に追い込んだことに関しては、酷いことをやったというのが一般的な見方ですが、国交を回復しても豊臣家が滅亡しなければ日本が統一されたとは思えない、そのような朝鮮側の感情にも配慮をして無理をして大坂方を攻め滅ぼした、と考えれば、大坂の陣の景色は随分と違ってくるように思えます。