重いピンチに3度マウンドに向かい、100%の確率で「鎮火」した。この試合で阿波野投手コーチが最初にタイムをかけたのは、5回、2死二塁。代打・荒木を迎えた場面だった。まだ早い。僕はそう思ったが、阿波野コーチには2つの根拠があった。
「(直前の)小川に予想以上に球数を要した(9球で三振)でしょ? 投手はひと息つきたくなるもの。でもそれが安堵(あんど)になっちゃまずいと思いました。それと荒木は神宮で笠原が投げた試合(5日)に1番で出て、いきなりヒットを打った。そのイメージがあると嫌だったから」
つまりは初球に気を付けさせたかった。しかし、そうは伝えずに「間」だけを取ってベンチに引き返した。
ここは見逃し三振でしのいだが、6回も無死一、三塁。打席はバレンティンとさらに危険度は上がっていた。ここでは「ピンチになっちゃったな。がんばれよ」と声をかけた。何だそれ? そこにも理由がある。
「1点もやれないって雰囲気をつくりたくなかった。(2点差だが)1点は仕方ないって考える投手はいないんですよ」。内野は二塁での併殺をねらう中間守備。1点はいい。走者はためるな…。ベンチはこう考えるが、投手心理はそうではないことを、元近鉄のエースは知っている。ここもバレンティンを三振。谷元への継投もはまり最少失点で切り抜けた。
3度目の7回、2死一、三塁でもロドリゲスのところへ向かい、青木を高く弾んだ三ゴロで窮地を脱した。「投手コーチがマウンドに行った直後は打たれる」。これは野球記者あるあるだが、阿波野コーチはこの3連勝の間は5度タイムをかけ、すべてのピンチを止めている。
「僕も他球団でやったときは叱咤(しった)したこともありますよ。でも、今は投手の顔を見ます。勝負に行けそうにない顔をしているかどうか。今日の祥太郎はいい顔をしていましたから」。絶妙の「間」の秘密は、この言葉にある。