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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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268 裏

本日二話目

 さて、転生者の現状を説明したところで話はおしまい、とはいかなそう。

 むしろ、鬼くんの本題は別にあると見た。


 私は鬼くんが本題を切り出すまで待つことにした。

 なんか今は魔王と話してて、どういうことなのか鬼くんに第八軍を任せるとかなんとか、不穏な流れになってるけど。

 うん、そこは私にはどうにもできないから、頑張れ鬼くん。


 ついでに吸血っ子も軍団やるかい? って、いい笑顔で誘う魔王。

 遠慮します、とこれまたいい笑顔でキッパリと断る吸血っ子。

 笑顔なのに二人の間に火花が散っているように見える。

 残念ながら吸血っ子は学園を卒業し次第強制的に第十軍に引っこ抜く気でいるので、他に持って行かせるわけにはいかんな。

 まあ、ここは様子見で参戦しないでおこう。


「白さん。確認したいことがある」


 吸血っ子と魔王が見えない火花を散らせる中、ついに鬼くんが本題を切り出すべく口を開いた。

 覚悟完了って感じでキリっとしてるからわかりやすい。

 どうも、この雰囲気は私も真面目に対応しなきゃならない感じだわ。

 神妙な態度、て言っても多分鬼くんの目からは普段通りに、頷く。


「白さんが隠してることを、明かしてほしい」


 随分と曖昧なセリフだこと。

 けど、鬼くんが何を言いたいのかはわかった。

 ていうか、予想はしてた。


 鬼くんの今までの態度から、私のことを警戒してるのはわかってた。

 そして、言葉数の少ない私とまともに意思疎通ができる、お前エスパーかと突っ込みたくなるほど察しがいいことから、私の言葉の裏も相当理解してるだろうということも。

 そこから、私が隠しごとをしてると確信してるだろうことは、初回の神言教との会談の時の様子からして明らかだった。

 鬼くん、神言教との対話をしつつ、私からも情報を引き出そうとしてたからね。


 鬼くんは気づいてた。

 私が隠しごとをしてると。

 多分、それが何かまではわかってない。

 わかってたらホントのエスパーだから、流石の鬼くんもわかってない、はず。

 けど、それが良くないことだろうっていう予想はしてるんでしょう。

 でなければ、ここまで警戒感も顕に、覚悟を決めて問い質したりしない。

 そして、その予想は外れてない。


 どうしたものか。

 これを話すのは、賭けになる。

 これを知った上で、どう選択するのか。

 私には読めない。

 私に賛同して協力者となるか、逆に反対して敵対するか、それともなければ傍観して第三者となるか。


 どの選択をしようとも、私は責めない。

 ただ、私の邪魔をするのであれば、容赦をするつもりもない。

 魔王には転生者に手を出すなと言いつつ、矛盾してるけどね。


 考えているうちに、私は目を開けていたらしい。

 透視越しじゃない、直接この目で鬼くんの顔を見る。

 その顔は真剣そのもの。

 鬼くんくらい察しが良ければ、この質問がどれだけ重要なものなのか、わかってるはず。

 わかった上で、聞いてきている。

 生半可な覚悟じゃないってことだ。

 だって、最悪私とことを構える覚悟ができてるってことなんだから。


 私が隠してることを暴く。

 その結果、私の不興を買うかもしれない。

 そんなことがわからない鬼くんじゃない。

 そして、私とことを構えるってことは、それすなわち鬼くんの死を意味する。

 それをわかった上で、それでも聞いてきている。


 私も、腹を決める覚悟をしたほうがいいか。


 この場にいる全員を異空間に飲み込む。

 黒に聞かれないように。

 ここから先の話は、黒にはまだ聞かせられない。

 吸血っ子と魔王も一緒に連れてきたのは、鬼くんに伝えるならば、同時に伝えてしまおうと思ったから。

 特に魔王には、近いうちに話しておかなければならなかったから。


 突如異空間に放り込まれた鬼くんたちは、慌てると同時に酷く緊張している。

 混乱してるところ悪いけど、とっとと話を始めてしまう。


「世界はシステムによって生かされています。が、それも死ぬ寸前まで来ています」


 話すと同時に、異空間に切れ目を入れて、この星の俯瞰風景を見せる。

 宇宙から見たこの星。

 その、裏側を。


 吸血っ子と鬼くんが息を飲んだ。

 そこには、海が枯れ、ひび割れた大地が広がる星の半分があった。


 人族の領域も、魔族の領域も、生物が生活するのに不自由はしないだけの豊かさがあった。

 けど、それはその領域だけの話。

 そこから一歩外に出れば、この星には不毛の大地しかない。

 海を越えた先には、海がない。

 海が枯れ、乾いた大地が広がる。

 その大地もひび割れ、巨大な谷を作っている。

 それは星に入った亀裂。

 砕けた星の姿。

 生物が生きていられる領域なんて、システムによって生かされた一部でしかない。

 この星は、死にかけの状態を、無理矢理システムによって生かしているだけに過ぎないのだから。


「システムが集めたエネルギーにより、星の再生を行う。それが本来のシステムのあり方。けれど、現状ではシステムを稼働させるエネルギーを回収するだけで、再生にまでは手が回らない」


 Dを攻撃するために、そのエネルギーの大半が消費されてしまったため、星の再生はストップしてしまっている。

 吸血っ子と鬼くんはこの景色を見て息を飲んだけど、実はこれでも相当回復した方なのだ。

 システムの履歴を盗み見た限り、最初の頃は、星の半分が文字通り砕けてたんだから。

 砕けて崩壊する一歩手前。

 その状態から、ひび割れ程度まで回復させた。


 エネルギーの大量消費がなければ、正攻法での完全回復も可能だっただろう。

 それでも、魂が耐えられずに脱落していた人は多かっただろうけど。

 それは仕方がない。

 何度も同じ魂で転生を繰り返せば、魂が摩耗していくのは必然。

 Dもそれは見越していたに違いない。

 システムには、魂が限界に達したら保護するような機能があらかじめ作られていた。

 私はそれを起動させて、鬼くんが虐殺した人々の魂を保護している。

 保護された魂は、しばらく休養させて、再びこの世界に転生させる。

 尤も、傷ついた魂の回復には相当時間がかかるため、事実上脱落するものと思っていい。


 もはやエネルギーが大量消費された今、正攻法での完全回復は見込めない。

 不可能、とまでは言わないけど、そこに至るまでに最低でも現在の人口の四分の一が脱落することになる。

 あくまでも最低でもだから、最悪の場合全滅ということもあり得なくはない。


 そしてなにより、システムの核として働く女神の魂がもたない。

 今ですら女神の魂はかなり摩耗している。

 神言教が把握しているように、女神の寿命は長くない。

 今、女神はその身を削ってシステムを回してるんだから。


 女神の寿命が尽きれば、次はその後釜に黒が就く。

 そして、私の予想が正しければ、黒は急速にその身を削って、己の全てを捧げて星の再生を敢行するだろう。

 黒にとってこの世界を見守っているのは女神のため。

 女神のいない世界で生きていこうとはしない。

 そして、女神の守ろうとしたこの世界を救うために、死ぬ。

 女神と同じ死に方をする、黒にとっては最高の自殺方法。

 そして二柱の神を生贄にして、この世界は救われる。

 魂の消失という、二度と生まれ変わりもできない、完全なる死を押し付けて。


 私の提案したシステムを崩壊させ、そのエネルギーで世界を再生させる方法なら、女神を犠牲にせず救い出すことができる。

 ただし、既に女神は生命を維持できないほど損耗しているので、あくまで輪廻の輪に戻すことができるだけ。

 その死は免れない。

 それでも、完全な消滅は避けることができる。


 ただし、そのためにはシステム崩壊時の犠牲が伴う。

 スキルを多く持つ生物は、それらを回収される際のショックに耐えられずに死ぬことになる。

 最悪、魂の崩壊もあり得る。

 システムが崩壊するのだから、システムによる魂保護もできない。


 つまり、私の提案する方法とは、女神を救うために多くの犠牲を出すということ。

 それが嫌ならば、女神と黒を犠牲にするしかない。

 結局のところ、そのどちらかしか選択肢はない。


 私はそのことを、包み隠さず説明した。

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