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蜘蛛ですが、なにか? 作者:馬場翁
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265 ニートだけどヒキコモリではない魔王

「じゃあ、行こうか!」


 とてもいい笑顔でのたまう魔王をとりあえず蹴倒す。


「酷い! こんな美少女が訪ねてきたのに、歓迎の挨拶が蹴りだなんて!」

「呼んでない。帰れ」


 床の上にわざとらしく顔を手で覆いながらうずくまる魔王を、そのまま蹴り転がして部屋の外に追い出す。

 扉を閉めて一息。

 何しに来たんだあれは?


「イヤイヤ。今回は真面目に連れてってよ。神言教のとここれから行くんでしょ?」


 せっかく閉めた扉を開けて、魔王が戯言をほざきながら再び入ってきた。


「ニートを連れて行くような場所じゃない」


 ガーン、という擬音が聞こえてきそうな感じで、魔王が仰け反る。


「白ちゃんまで私のことをニート呼ばわりするか……」


 実際ニートじゃないか。

 仕事のほとんどはバルトがしてるんだから。


「こうなったら、私一人で世界を滅ぼすしか!」

「やめい」


 魔王が本気出すと実際できちゃうから。

 冗談だけど冗談にならない。


「まあ、冗談はさておき、連れてって」

「え?」

「え?」


 しばしフリーズする魔王。


「もしかして、白ちゃん本気で私のこと役立たずのニートだと思ってないよね? ね?」


 なんか本気で涙目になってるんですけど、どうすればいいですかこれ?

 助けを求めてフェルミナちゃんを見るも、私仕事中ですって感じで書類を片付けてる。

 強固な関わりませんという意志を感じるわ。

 なんかこの子、図太くなってきた気がする。


「お? その子が白ちゃんの拾ったっていう子?」


 魔王が私の視線に気付いて、フェルミナちゃんをロックオンした。

 ロックオンされたフェルミナちゃんは、顔を上げ、魔王と目を合わせた。


「初めまして。フェルミナと申します。家名はありません」


 さっきまで我関せずの態度を貫いていたくせに、嫌な顔一つせず丁寧な挨拶をしてる。

 さすが元貴族。

 元ゆえに家名はない。

 ないけど、それまでに培われた鉄壁の淑女的ご挨拶は完璧である。

 けど、内心めんどくせーって思ってるよね、絶対。


「おう。これはご丁寧にどうも。私はアリエル。魔王やってます」


 魔王の自己紹介に、フェルミナちゃんの動きが一瞬止まる。

 チラッと私に視線を向けてきたので、軽く頷いておく。


 うん。

 フェルミナちゃん魔王のこと初めて見たからね。

 ていうか、魔王を魔王だと知ってる人のほうが少ないと思う。

 こんなのが魔王だなんて思いもしなかっただろうよ。

 表情は必死に取り繕ってるけど、内心冷や汗ダラダラなんじゃないかな?

 その証拠に、心音は激しくなってるのが聞こえる。


「で、何しに来たの?」


 魔王の興味をそらすべく、話しかける。

 部下の心臓の心配をしてあげる私、いい上司。

 だっていうのに、フェルミナちゃんの心音はさらに加速しちゃった。

 解せぬ。


「イヤイヤイヤ! 白ちゃんさっきから話聞いてたよね? 神言教のところ行くんだったら私も行くからねってもう何回か言った気がするんだけど!?」


 あ、それ冗談じゃなくてマジでマジな本気だったのね。

 ニートが働くわけがないって思い込んでたわ。

 めんごめんご。

 しかし、ニートが働く気を起こすなんて、これは明日にも世界が滅ぶ前兆か?

 ええい、ギュリギュリは一体何をしているんだ!?

 世界のピンチだぞ!


「ねえ、なんかものすごく失礼なこと考えてない?」


 ないない。

 事実を考えたところで失礼には当たらない。


 まあ、魔王連れてっても問題ないわな。

 どうせ残していっても働かないし。

 だってニートだもん。


 仕方がないので突撃神言教部隊にニートを一人追加。

 吸血っ子と鬼くんにも一応声をかけてみると、両方とも行くとのこと。

 念のためフェルミナちゃんにも行くか聞いてみたけど、「残念ながら私ではお役に立てませんので」という日本人的謙遜お断り文句を言って行かねーぞアピールをしてきた。

 なんか無理矢理連れて行ったら面白そうな気がしたので、ひとつ頷いて「そんなことないから行こうか」と宣告しておいた。

 強制死の宣告である。

 答えははいかイエスで。

 君に拒否権はない!

 鉄壁の淑女微笑が引きつって見えたのはきっと気のせいではないはず。


 というわけで、魔王とフェルミナちゃんを引き連れて吸血っ子と鬼くんを回収しに行く。

 というところで、バルトの弟のチンピラに遭遇してしまった。

 こいつ、普段この城にはいないはずなのに、どうしてこう遭遇率が高いんだか。

 向こうもこっちに気づいたようで、私のことを見てきた。

 多分そんなつもりはないんだろうけど、もともとの目つきが悪いからめっちゃ睨んでるように見えるからやめてほしい。

 私の願いが聞き届けられたのか、チンピラの視線が私から隣の魔王へと注がれる。

 表情が険しくなる。

 やっぱりさっきのは睨んでたわけではないらしい。

 魔王へ向ける視線こそ睨んでるって言えるんじゃなかろうか。


「てめぇ、どこに行くつもりだ?」


 チンピラがガンをつけてきた!


「どこに行こうと私の勝手でしょ?」


 魔王は平然としている!


「兄貴が寝る間を惜しんで働いてるっていうのに、てめぇは呑気にお散歩か?」


 ビキビキって効果音が聞こえてきそうなくらい、チンピラが切れてるのがわかる。

 額に浮かんだ血管が見えそう。


 これから向かう場所は決して遊びで行くわけじゃないんだけど、それを言ってもチンピラは納得しないよなー。

 それどころか、ホントのこと言ってもいらぬ誤解を与えそう。

 だって、これから向かうのは敵陣ど真ん中みたいなもんだし。


「キャー、こわーい! 白ちゃん助けてー!」


 全然これっぽっちも怖がってない口調で助けを求めながら魔王が抱きついてくる。

 うざい。

 けど、こっちも暇じゃないからチンピラとここで口論してる時間はないんだよなー。


「おい、お前もそんな奴の下についてる必要はねえ。嫌なら嫌ってはっきり言え」

「イヤ」


 チンピラの言うとおりにするのは癪だけど、抱きつかれるのはイヤなので言って引き剥がす。


「ガーン!」


 なんか、なんだろう。

 やっぱ置いてこうかな、これ。

 いろいろ面倒になってきたので、魔王もチンピラも無視して歩き出す。


「おい、ちょっと待て!」

「待ってよ白ちゃん!」


 無視無視。

 チンピラは諦めたのか追ってこず、魔王は私の腰にタックルしながら追ってきやがった。

 おい、背骨折れたぞ。

 軽くイラっとしたので蹴倒しておいた。

 そのまま放置しようかとも本気で思ったけど、仕方ないので首根っこ掴んで引きずっていった。

 本番の前だっていうのに、なんでこんなに疲れなきゃならんのか。

 先が思いやられる。

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