262 この先に進みたくば私を倒していくがいい!
鬼くんがビックリしてるのも当然やね。
鬼くんも憤怒に我を忘れて虐殺したこともあるけど、それはあくまで憤怒に支配されてのこと。
自分の意志でやったことじゃない。
けど、私の場合、私の意志で進んでやったからね。
カッとなってやった。
けど、後悔も反省もしない!
それに、これからすることに比べれば、今までに私がやったことなんて可愛いもんよ。
何を言っていいのかわからないのか、口を開こうとしては閉じを繰り返す鬼くん。
吸血っ子は自分の発言のせいで流れた微妙な空気に、居心地悪そうにしている。
ふむ。
ここらで少し、私の考えを宣言しておくか。
今後二人がどういう道を行くにせよ、それは二人が決めること。
私は関知しない。
けど、それはあくまで私の道を邪魔しなければの話。
「これからも私は虐殺をします」
まずこれは確定。
直接私が手を下すわけじゃないけど、魔族と人族の大規模な戦争を引き起こす黒幕の一人なんだから。
私が暴れたサリエーラ国と神言教との戦争なんて比じゃないくらいの戦死者が出るのは間違いない。
それに、そこで多分私は今代の勇者をこの手で殺す。
こればっかりはシステムに干渉しなければならないから、私自身の手でやるのが一番確実。
勇者が大軍を引き連れて攻めてきた場合、私はそれもろとも殺すことになるかも。
場合によっては、勇者がいる軍を全部私一人で処理することになっても不思議じゃない。
大虐殺やね。
まあ、どっちにしろ直接か間接かの違いで、私が虐殺を引き起こしたことに変わりはない。
「それをどう思うのかは二人の勝手です。が、邪魔をするならば容赦しません。邪魔をしないのであれば、好きに生きればいいでしょう」
半目を開けて吸血っ子と鬼くん、両方を見ながら宣言する。
私の目は見るだけで相手に恐怖を与える。
多分、この世界で抵抗できるのは魔王と黒くらいのものだと思う。
この恐怖を知ってなお挑んでくるのであれば、その決意は本物だと思う。
それなら、それに敬意を表して本気で潰す。
敵対者には容赦しない。
たとえそこに覆しようがない戦力差があろうと、微塵の手心も加えない。
私は弱い存在が、戦力差を無視して生き残り続け、ついには圧倒的強者にまで上り詰めた事例を知ってる。
他ならない私自身のことなんだから。
だから、弱いからといって油断はしない。
弱者は弱いなりに、強者を屠ることもある。
だからこそ、もはや覆しようがないように、私は淡々と準備を進めてる。
強者も弱者も関係なく、どうしようもなくなるように。
私の勝利条件を満たすために。
私は蜘蛛なのだから。
獲物が糸に絡まった時にはもう勝敗は決しているように、事前に罠を張る。
今はその巣を作っている段階。
広く広く、私の糸を世界中に伸ばすように。
私の都合のいいように舞台を整えていく。
「すぐに結論を出せとは言いませんが、身の振り方を考えておいてください」
吸血っ子と鬼くんがどういう選択をするのか。
それによってシナリオを修正していく必要がある。
舞台をより完璧な状態にするために。
少しでも、その計画に支障が出ないように、不安要素は早い段階から取り除いておく。
吸血っ子は、多分この様子を見る限り敵対はしなさそう。
けど、鬼くんはわからん。
前世の若葉姫色としての記憶では、鬼くんの人となりがよくわからない。
今世でいろいろあったし、それでどう変化したのかも。
忠告はした。
この後どういう行動をするのか、少し様子見かな。
あー。
喋ったら疲れた。
というか、この前から私ちょっと喋り過ぎじゃない?
このままでは喋り過ぎで私の喉が潰れてしまう。
私の喉は一日に十個以上の単語を喋れるようにはできていないのだよ!
ちょっと日本に行ってのど飴買ってこようかな?
とりあえず喉を潤すためにもなにか飲み物を。
あ、ちょうどD宅に大量にあったコーヒー缶があるわ。
そういえばコーヒーなんか一回も飲んでないな。
喉を潤すって意味ではコーヒーってどうなのって思うけど、これでいっか。
収納空間からコーヒー缶を取り出す。
プルタブを開け、一飲み。
ぷはあ。
ブラックだわぁ。
Dはブラック派だったのね。
「え? ちょっとそれ!? 缶コーヒー!?」
あ。
しまった。
吸血っ子や鬼くんの前で飲むもんじゃなかった。
喋りすぎて、正常な判断力が鈍っていたに違いない。
さて、どうやってごまかしょうきにゃ?
ん?
ゴンッ!
「え!? なに? どうしたの!?」
おにゃろ?
にゃんれ、へのあえあまっくおいなるれんお?
「ちょっと!? ご主人様!? 大丈夫!?」
吸けうぅおがないかいぅてるけお、ないお言っえるのあわわんんい。
緊急事態発生。
本体の思考能力大幅低下。
身体能力異常察知。
異常事態につき分体より本体の異常除去を外部より敢行。
特定物質が本体に影響しているのを確認。
除去作業開始。
除去作業中止。
除去担当分体にも悪影響を検知。
重大な機能障害ではないと判断。
時間経過で回復の見込み有り。
本体を一時的に異空間に隔離。
回復を待つ方針に変更。
「あれ? 消えちゃった」
「空間魔法かなにかかな?」
「なんだったの、あれ?」
「コーヒーを飲んでからおかしくなったみたいに見えたけど」
「コーヒー。なんか、どっかの雑学で、蜘蛛はコーヒー飲むと酔っ払うって聞いたことがあるけど、まさかそれじゃないでしょうね?」
「まさか。そんなことであんなフラフラにはならないでしょ」
「いきなり倒れるからビックリしたけど、自力で空間魔法使ったってことは大丈夫なのかしら?」
「さあ?」
D「私がはったおしに行く前に自滅するなんて。毎回こちらの予想を斜め下に突っ切っていきますね」