2016年の開局から丸3年を迎えた「AbemaTV」。しかし、「色々とチャンネルあるけど何が強み?」「新しい地図の番組以降バズってないよね」といった厳しい意見も多く、識者たちからも次のような指摘がなされてきた。
「(予定されている投資額が)あと残り300億円とすると、1年半しかこのペースだと持たない」「その程度では駄目ですよ」(元TBSメディア総研社長の氏家夏彦氏、2月の『The UPDATE』にて)
「『72時間ホンネテレビ』は大きな事件だと思うけど単発では意味がない」(元日本テレビプロデューサーの土屋敏男氏、2018年9月の『AbemaPrime』にて)
「AbemaTVは失敗すると思うんですよ。内容が地上波テレビと完全にバッティングしてるから」(西村博之(ひろゆき)氏、2017年5月の『エゴサーチTV』にて)
「Netflix」や「Amazonプライムビデオ」、民放各局による「TVer」、さらにはNHKのネット同時配信進出など、群雄割拠の中で勝算は見えているのだろうか。12日のAbemaTV『AbemaPrime』では、上記の識者に加えYouTuberのラファエル氏、NewsPicksの佐々木紀彦氏を迎え、「赤字でヤバイのに、どこまで続けていくのか?」「地上波の真似事ではないのか?」などの率直な疑問を藤田晋社長本人にぶつけた。(文中敬称略。)
■「AbemaTVをマスメディアにする」発言の意味
AbemaTVのダウンロード数は3700万ダウンロードを突破。WAU(1週間に1度でも利用したユーザー数)の最高記録は918万人で、主な視聴者は10代~30代前半で、男女は半々。また、月額960円の「Abemaプレミアム」の登録者数は35.8万人に上っている。
藤田:今までの頑張り度合いでいうと、現状は100点満点のうち80点ぐらい。決して簡単なビジネスモデルではないので、我ながら"よく健闘しているな"と思う。世の中がAbemaTVの話ばかりしている状態になればいいが、そんなことはないだろうということで事業プランを作った。これに対して"あまりよくないだろう"というラインよりは良い。僕はいけると判断している。何とかなると。
ひろゆき:利益が出ていない事業で「80点」というのは、今後も利益を出さないということか。普通は利益を出して初めて合格点、利益が大きくなってきて80点となると思うが、赤字の状態で80点ということは、ただの趣味なのかなと思ってしまう。
藤田:ひろゆきさんが出ると聞いて、絶対に議論したくないなと思った(笑)。ひろゆきさんはプロなので。
ニコ生が生まれる直前、ひろゆきさん、ドワンゴ(当時)の川上量生さん、ホリエモンと4人で食事をした。その時、ニコ生について川上さんとひろゆきさんは"いけるいける"と言っていたが、僕はビジネスモデルを聞いて"絶対に無理だろうな"と思った。それでも実際にはうまくいったので、そういう意味ではひろゆきさんに一目置いているし、言うことは的を射ていることが多いと思う。でも、今の質問には答えたくない(笑)。
ひろゆき:YouTubeやニコニコ動画などがうまくいっているのは、自分たちでコンテンツを作る必要がなく、利益率がめちゃくちゃ高いから。でもAbemaTVはコンテンツ制作費に毎年100億円くらい出しているものの、視聴者数はそんなに増えていない。NetflixやHuluは何年も見られるような映画やドラマを作っている。でもAbemaTVのコンテンツは、後から見ても面白い、DVDにしても売れるコンテンツを作っていない。ただ芸能人がだべっているみたいな、今見なくてもいいし、今後も見なくてもいいようなものばかりにお金を使っているように見える。将来的に利益をあげるビジョンもないのだろうなと思う。
藤田:本当に答えたくない。議論すると負ける(笑)。だけど言えることは、一緒の時期に会社を作って、少なくとも僕はこうして生き残っている。しかし、なぜか外から評論家的に言っているひろゆきさんや堀江さんの話をみんな正しいと思う。それは言い返してもキリがない。
氏家:藤田さんの頭の中には年200億円というバジェットをかけて続けていけば何とかなるというのが見えているんだと思う。そしてCMと有料会員の両方を伸ばしていけばどこかで閾値を超え、後は楽になると思う。だからAbemaTVには死なないで頑張ってほしいし、うまくいってほしい。そうでないと、地上波を含めたテレビの未来自体が本当に暗くなってしまう気がしている。
そこで藤田さんに聞きたいのは、「マスメディアになる」というのが、どれぐらいの規模をイメージしているのかということ。在京キー局やそのネットワーク局を合わせると相当な規模になってしまうし、そこまで行くのは遠すぎる。例えばTVKとかMXとか、ユニークなやり方でちゃんとやっていけている独立U局のようなものをイメージしているのか。
藤田:それは方向性を示して意思統一するために言った。基本的には広告モデルなので、視聴者の規模がなければ十分な収入は得られない。ただ、ネットは趣味嗜好が偏った人が集まりやすいし、みんなの意識がみんなぶれてしまう。だから意思統一のためにバンと示したようなものだ。その規模がどれくらいかと言えば、WAUで1000万人。それを目指してやってきたし、そのためのベースはできてきたという感覚がある。
氏家:日本のネット広告の単価はアメリカと比べてすごく安いし、危ういコンテンツが出ているようなところにまで広告が出てしまうという問題も注目されている。
藤田:テレビ、新聞、雑誌を見なくなった若者たちがこれだけスマートフォンを覗き込んでいるのに、広告を出すところがないというのが問題だった。つまり、個人が作るメディアにバナー広告を出すというような形だったので、出し先のクオリティが保証されておらず、ナショナルクライアントやブランドを非常に大事にする企業が怖くて出稿できなかった。YouTubeもそうだ。それがAbemaTVであれば、ある程度は安心だということもあって、引き合いが非常に伸びてきている。「AbemaTVをマスメディアにする」という発言や、コンテンツ制作費にお金をかけてクオリティの高いものを揃えるというのは、そういう広告の出し先を作るという考えもあってのことだ。
乙武洋匡(作家):これだけ赤字が出ているのに、なんでAbemaTVをやっているのか。
藤田:経営をしたことのない人は赤字のことを言ってくるが、たとえば1000億円かけてディズニーランドを建設したら、利益が出て黒字が出るまでは赤字。事業の立ち上げの特性上、何年かに分けて考え、ユーザーを増やそうとしているだけだ。たしかに「赤字、赤字」と言われると、キレてすぐに黒字化したくなるが(笑)、それではダメ。投資家も怒り始めるが、投資規模に関しても問題があるとは思っていない。麻雀もそうだが、AbemaTVをやっていることで、今までなかなか目に触れなかったものも届けることができるし、それを楽しんでくれている人もいる。そういうメディアをつくる価値は大きい。色々言われるが、僕はこれからもユーザー数を増やして売り上げを作り、利益をあげていくということを粛々とやっていきたい。
■「地上波と同じではダメだということを一番感じているのはテレビ朝日の社員」
ラファエル:AbemaTVにはテレビがやっている企画をそのまま携帯でも見られるようにしたイメージがある。だったら馴染みのあるのテレビを見るか、となってしまうのではないか。
藤田:ニュース速報もそうだし、プロ野球や将棋をHuluやNetflixで流すといっても、みんなピンと来ないと思う。それをやってきたテレビを代替するものは、今のところAbemaTVしかないと思っている。これを成功させれば、結構大きなものが取れる。
宇佐美典也(元経産官僚):『AbemaPrime』の企画で、これは"ネットのマスメディア"だと思ったのが、ひろゆきさんと唐澤貴洋弁護士と対決。あれは地上波では絶対にできないし、何年間もこの2人の対決を見たいと思っていたネットの人たちはめちゃくちゃ楽しみにしていた。だから地上波的な"マス"なのか、ネットをよく使っている人のコンセンサスという意味でのネットの"マス"のどちらに寄っていくのか。
藤田:もちろんそういうコンテンツも面白いが、基本的には元号の発表やイチロー選手の引退会見を中継したように、全国民というか、誰にとっても関心があることを基本的にはやっていく。
ひろゆき:みんなが同じ時間に同じものを生放送で見る、という需要そのものが無くなってきたからテレビの視聴率が下がってきた。それをネットに移行したとしても、そこまでの規模にならないのではないか。
氏家:それはちょっと違うと思う。たしかに20%以上あった巨人戦の視聴率が10%ぐらいになった。でも、10%でもすごい。ネットでテレビの世帯視聴率10%に匹敵するユーザ数が取れたら、パンクして見られなくなってしまうくらいだ。むしろスポーツ中継などはネットの中にこそ可能性がある。
ひろゆき:日本テレビが「第2日本テレビ」、フジテレビが「ゼロテレビ」を作ったし、ニコニコ動画もオリジナルコンテンツを作って競い合っている。AbemaTVのコンテンツが他の会社に勝てるという根拠や理由があるのか。
土屋:第2日本テレビは無くなってしまい、形を変えて今はHuluの中で地上波と連携したコンテンツを配信している。『3年A組』のスピンオフのコンテンツが爆発的にヒットした。テレビ朝日の社内にも「(AbemaTVとの)一枚岩」というポスターが貼ってあるが、日本テレビの場合、それを言う必要のないくらい一緒にできていると思う。
紗倉まな(AV女優):視聴者の方からは、テレ朝以外の他の局や地方局との別のタッグの可能性や、コンテンツの過激路線についての質問が寄せられている。
乙武:民放の中で、テレビ朝日1社と組んでいることでのメリットとデメリットをどう感じているか。
藤田:AbemaNewsチャンネルをサービスの根幹に置いているが、間違いなく地上波の力なくしてニュースはできない。スポーツ中継や将棋・麻雀なども、日本では基本的にはテレビ局からしか話が通らない。その意味では、メリットというよりも必要なパートナー。テレビ局と組まないければ、この事業自体立ち上がらなかった。他の局と組めばよかったということも、意外とない。
視聴習慣をつけようと頑張っている最中なので、そのきっかけとなるようなエッジが必要だと思っている。社内では「トンガリ」と呼んでいるが、この人が出るから見よう、この企画だから見ようというようなものが必要だ。ただ、それが過激さとイコールだとは思っていないし、過激なものがいいとも全く思っていない。
乙武:最初はどういう媒体なのか、みんなが手探り状態だったと思う。開局1年目の時に出させて頂いた番組で、地上波だったらピー音が入るような言葉を言ってしまった。CMに入るとすぐにディレクターが飛んできて、「まずいので気をつけてください」と注意された。その時に僕はAbemaTVでも言葉を規制していくなら、テレビの焼き直しになってしまわないのかなと、どこに行くのかな、と気になった。
藤田:テレビ朝日と二人三脚で3年間やってきたが、最初はどの程度まで許されるのか、その温度感がなかなか難しかった。僕としては自主規制とか慣習を一度リセットして、必要なものを組み直したいと思ってやっていて、今はそれが伝わって来ていると思う。僕もそのままではダメだと強く言ってたが、テレビでやっている番組をそのままネットでやってもあまり見られないということを一番強く感じているのは、AbemaTVに出向してきているテレビ朝日の社員たちだ。
パンサー・向井慧:『AbemaPrime』以外の番組にも出させていただいているが、過激であれば視聴数が取れるかといえば、そうでもない気がしている。AbemaTVができることの範囲は地上波よりも広いと思っていて、例えば『ブステレビ』『新しい地図』のように、地上波ではちょっとできない内容や、出られない方でも出られる。そこが強みだと感じるし、場所が増えるというのは我々にとってもいいこと。我々みたいな者でもMCをさせてもらえたし、AbemaTVがどんどん有名になってくると、最初は「AbemaTVだったら出くなてもいいや」と考えていた芸能人も出演するようになってきたので、地上波との差は埋まってきている感じがある。
藤田:それまでのインターネットテレビは、どちらかと言うとちょっと仕事がない人がやるといった印象があった。そこを一気にガラッと変えなければならないと考えて、最初からドンとテレビ局のクオリティでやった。このスタジオもテレビ朝日の中にあるし、そうすることで一段高いフェーズにうまくいけたと思う。
ひろゆき:それって「うまくいっている」と言えるのか。今の若い人たちはテレビに出ている芸能人に興味がなかったりする、それなら若い人たちが知っている人たちで新しいものを作るという方が伸びる気がする。
■現場は藤田さんに「いいね」「再生数上がったね」と言われたい?
土屋:AbemaTVがスタートした3年前とは状況が変わっているということは藤田さんも痛感されていると思う。NetflixやAmazonがコンテンツ制作費に数千億円をかけていて、そこに今年はDisney+やAppleも入ってくる。そして先日はNetflixで配信された『ROMA』がアカデミー賞を取った。派手な映画ではないが、すごく良い。インターネットはインターナショナルだと思っているし、日本のプラットフォームからも幅広いコンテンツが生まれてほしい。
映画とラジオの時代にテレビが出てきた時にはベンチャーのような感じがあったし、「あんなもの誰も見ない」と言われていた。でも、映画やラジオにはない、何かが起こりそうなところを映すということができたので、ここまでテレビが来たんだと思う。テレビを40年やってきて、テレビなんかなくなってしまえばいいくらいの感覚で『電波少年』をやったみたいなところもある。そうやって破壊してきたことで、テレビは進化してきたと思う。「テレビがやっていたことに対して、このくらいの幅までできるよね」というようなことではなくて、「こんなものAbemaTVじゃない、こんなものインターネットじゃない」と言われるようなところに新しいコンテンツがある気がしている。
例えば渋谷の交差点でハロウィンが盛り上がった時に、「AbemaTVなら絶対にやっているだろうな」と思って付けたら、やっぱり生中継をしてくれていた。あるいは石橋貴明君の『芸能界カジノ王決定戦』もそう。確かに自分の興味の中でハマるものもあるが、そこに"みんな"というものがない気がする。そこでAbemaTVが"みんな"を狙うというのはどういうことなのか。例えばAmazonプライムビデオがやっている松本人志の『ドキュメンタル』だって、ものすごい下ネタをやっている。松本がああいう表現を切り拓いて、それがアリだとしたがゆえの広がりだと思う。どちらかというと、プラットフォームがやるのではなく、作り手の誰かがちょっと無茶をして、「こんなものはダメだ」と言われながらもやり続けるということを世界中でやっていると思う。
藤田:『72時間ホンネテレビ』でバーンと跳ねて、去年はレギュラーに力を入れてきたが、今一つ、ちゃんとした受け皿が作りきれていなかった。今年、もう一度大きな話題をということで、蒼井そらさんの出産を生中継して皆で喜びを分かち合おうとか、那須川天心の企画にも挑戦者が集まってきている。ただ、土屋さんの言う通り、マスに届くコンテンツというものが非常に難しい時代になっているということは正直思っている。
土屋:AbemaTVの番組を見て、お話を聞いていると、全て当たることを前提に当てようとしていると思う。藤田さんがしっかりやっていて現場にもいるし、社員の皆さんも藤田さんのことを好いているのだろう。だから藤田さんに「いいね」「再生数上がったね」と言われたい。でも、当たるものって、現場はぐちゃぐちゃで、「こんなものはテレビじゃないんだ、ふざけるな」とか言われるようなものが、実は次のユーザーが求めているものだと思う。"当たりそうなもの"ではないものを、こっそり、藤田さんの目の届かないところで作れるAbemaTVになればいい気がする。
ひろゆき:昔はテレビ局がそういうのを深夜にやっていた。企画だけで何だか分からない面白くもない、みたいな。ネットだからこそ、そういうのをちょこちょこ作れば1発当たるようなものがでるかもしれない」
藤田氏:色々なトライアルをしている。例えば『AbemaPrime』の裏番組で『Abemaミッドナイト競輪』というのを始めた。毎晩8時半~11時半まで競輪を流し、その場で予想しながら投票券を買える。家でお酒を飲みながら競輪に賭けるというのはこんなに面白いのかと思う。