日本の観光地を台無しにする「看板公害」の実情

マナー違反を止めるには「看板」しかないのか

私は日本の「神道」に関心を持ち、インバウンドツアーに向けた特別参拝の手配や、神道の歴史についてのレクチャーなどを行っています。神社と神道の儀式は、水で「禊」、「大幣」で清め祓いを行い、「祝詞」をあげて「祓へ給ひ清め給へ」と願うなど、あらゆる形で潔癖で、清らかな「神の世界」を表しています。

「神社の境内は『神が宿る地』ですので、参拝する際には手と口を清めます」と、外国からの参加者には説明しますが、その後でみんなを連れて神社を訪れると、境内は見苦しい看板だらけ。潔癖どころか、ゴミゴミした環境を見て、「清らかさはどこにあるのか」とびっくりされます。

確かに近ごろの神社仏閣は、歴史や信仰というよりも「指示」と「注意」、または客を迎える「商売」の場になってしまっています。

寺社がそのような状況であれば、街中はいわずもがな。通りを歩けば、店や商品の宣伝看板の洪水。聖域から俗域まで、そして都会から田舎まで、至る所看板だらけで、それが景観への大きな阻害要因になっているのです。

キリがない「多言語表示」は必要なのか

看板公害とは、インバウンドが急増する以前から、日本の観光名所に長く存在していた問題でした。つまり、観光に関連した「公害」とは、全部が全部、インバウンドによって引き起こされたものではない、ということです。

最近では、世界各国から観光客を日本にお迎えしましょう、という背景もあり、英語、中国語、韓国語、フランス語、スペイン語、アラビア語と、看板に記される言語もキリがありません。国際的な観光機運の中で、多言語表示は、基本的にはいいことではあります。

ただし日本の場合、インバウンド増加を呼び水に、もともと過剰な看板が多言語化して、2倍、3倍と増えていく事態を招きかねません。

実際に福岡県のあるお寺では、外国人観光客が急増したことで、境内での飲酒飲食やスケートボードの乗り回しなどマナー違反も急増。12カ国語でマナーを喚起する看板を設置しました。しかし、それでも効果はなかったそうです。

さらに気をつけるべきは、観光名所や商業施設などで、マナー喚起のアナウンスを多言語でエンドレスに流す動きです。

看板は目をそらせば見なくてすみますが、耳を直撃するアナウンスからは逃れられず、それは精神的なストレスになります。アナウンスにも適切なやり方を取り入れなければ「視覚汚染」のみならず「聴覚汚染」も広がってしまいます。

次ページ頼るべきは看板よりもテクノロジー
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
  • 晩婚さんいらっしゃい!
  • 若者のための経済学
  • 就職四季報プラスワン
  • シリコンバレー起業日記
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
0/400

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

  • 通りすがりfd109db72aef
    看板公害の問題は、さまざまな日本らしさが背景にあり、
    長らく、そして今でも放置されている問題ではないかと。

    ひとつは役所や管理者のアリバイ作り。

    何かの問題が生じた時、問題解決のための検証や、
    具体的な対策を立てる代わりに、「警告してたのに」で、
    済ませてしまうことが多いです。

    次に、パブリックな空間に対する認識の欠如。

    自分が所有している建物やスペースなら、何してもいい。
    そういう意識がまだ強く残っているので、
    街並み全部の雰囲気に責任を持つ意識が、まだ十分ではないかと。

    正しい意味での開き直りと緻密さの欠如。

    パリ滞在経験がある方はお分かりと思いますが、
    メトロの入り口って本当に分かりづらい。
    でも、観光客向けに目立つ看板を立てると、
    街並みの景観に影響が及ぶ。
    だから、多分今後も分かりにくい。

    成り行き任せではなく、
    設計、デザイン、ルールの「設計」が必要ですね。
    up61
    down10
    2019/3/17 11:23
  • NO NAME6e3ffea316b5
    とりあえず、公共の場では韓国語と中国語の看板はいらない。日本語と英語で十分。観光客の呼び込みに力を入れている東南アジアの国々も母国語と英語が基本。
    日本は、中国語とか韓国語に手を広げる前にもっと英語を充実させる方が急務。
    「市役所」を「shiyakusho」とか言って案内している公共交通機関など論外。
    up51
    down9
    2019/3/17 13:33
  • NO NAMEd32192b223d3
    昭和型・農協型団体旅行に最適化された「日本型観光地」の名残りですね。無くすのは簡単ですが、そうすると今度は烈火の如く、鬼の首でも取ったかのように「看板が無い」と喚き散らす御老人が大量発生するのです。
    up50
    down11
    2019/3/17 12:24
  • すべてのコメントを読む
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
先端医療ベンチャー<br>バイオ・AIが巻き起こす長寿革命

GAFAなどのIT大手や名だたる世界の投資家たちが今、医療ベンチャーに熱い視線を送っている。投資額は約1.7兆円、10年で7倍近くに膨らんだ。ゲノム、AIとの融合、異端技術による創薬、不老長寿研究……。次世代医療の覇者は誰か。