124 上層よ、私は帰ってきた!
食べる。
食べる。
食べる。
糸を手繰るように。
ゆっくりと慎重に。
啜るように咀嚼する。
《熟練度が一定に達しました。スキル『飽食LV2』が『飽食LV3』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『神性領域拡張LV4』が『神性領域拡張LV5』になりました》
《熟練度が一定に達しました。スキル『禁忌LV8』が『禁忌LV9』になりました》
ペースを上げて進み続けて幾日か。
叡智様が描くオートマップを眺めてみると、相当な距離を移動してきたことが分かる。
どうやらこの中層は、上層と下層の間をうねうねと蛇行しつつ、全体を満遍なく覆っていたっぽい。
上層とかと違って1本道なのはいいんだけど、呆れるくらいに長大な道のりだ。
途中でいくつかマザー用通路と思しき縦穴も見つけたけど、もちろん近づきませんでした。
火龍を倒したからって調子に乗ってはいけない。
マザーには未だに勝てる気がしない。
というか、中層で見かけたときに放ってたあの謎の攻撃、あれ、龍力のブレスなんじゃねって思い始めた。
推測の域を出ないけど、あのマザーなら龍力持ってても不思議じゃない。
だとしたら、マザーは龍殺し達成済みってわけね。
ハッハー。
勝てるわけねー。
そんなもんが徘徊してるかもしれないようなところに近寄るかっての。
道中特に危険らしい危険もなく進めた。
火龍はおろか、火竜さえいなかった。
やっぱりというのか、中層は全体的に下層よりもだいぶ魔物のレベルが下がる。
そのせいで強い魔物も育たないのかもしれない。
鰻はそれらしき魚影をいくつか探知したんだけど、マグマから出てくることはなかった。
ブレスとか魔法とか撃ってみたんだけど、余計引きこもらせるだけだった。
ナマズも同じ。
というか、最初の頃はあんなに鬱陶しいくらい突っかかってきたタツノオトシゴでさえ、私の姿を見た瞬間逃げる始末。
ブレスとかを気付く前に叩き込めば、ワンキルできるんだけど、それやっても消費はでかい上に死骸は残らない。
仮に残ってもマグマの中に沈んでいくから意味がないっていうね。
それじゃ、ご飯にありつけないんだよ。
経験値の足しにはなるけど、費用対効果を考えると、あんまやりたくない。
そういうわけで、魔物はたまたま陸上に上がってたやつだけをチマチマ倒していった。
それで、SPは無駄に消費しなければ充分保つ。
経験値もちょっとずつ貯めて、火龍と戦ったときに比べれば残り半分くらいにまでなった。
それでも半分。
進化までの道のりは遠い。
そんな感じで、SPの消費を抑えつつ進んだので、SP関連のスキルはあまり伸びなかった。
まあ、仕方ない。
ご飯が思いっきり食べられれば節制する必要もないんだけど、いつ火龍みたいな強敵に出会ってもいいように、ある程度のSPは貯蓄しておきたかったしね。
そうでなくとも、陸上にいる魔物がいなかったら普通に飢える可能性もある。
SPの消費は無節操にできなかった。
代わりにMP関連は随分伸びた。
魔法各種に毒合成、魔闘法、邪眼各種。
魔法は影魔法がレベル10になった。
予想したとおり、派生スキルは闇魔法だった。
影魔法はカンストしても微妙な感じは相変わらずだったので、闇魔法の方を今後鍛えていこうと思う。
空間魔法もそこそこレベルが上がったけど、まだテレポートは覚えない。
着実にレベルアップはしてるから焦る必要はないけど、他の魔法に比べて成長も遅いしヤキモキする。
毒合成と毒魔法もカンストした。
意外というかなんというか、派生したスキルは似たような感じのやつで、それぞれ薬合成と治療魔法だった。
あれかな?
毒は薬にもなる的な感じ?
何はともあれ、私にも回復手段がついに手に入ったわけだ。
今まで回復はレベルアップと自動回復に頼りっきりだったから、自発的に怪我を回復できるようになったのは大きい。
まあ、まだレベルも低いし、HPが減るような事態になってないから効果の確認もできないんだけどね。
そのうち余裕が出来たら自分でHP減らしてみて試してみようと思ってる。
外道魔法もカンストした。
でな、こいつの派生スキルが大問題だった。
禁忌だった。
幸いレベルは上がらなかったけど、心臓止まるかと思ったわ。
いや、その時は確かに上がらなかったんだけど、いつの間にかレベル9になってた。
あと1でカンスト。
ちょっとヤバげかもしれない。
邪眼もいくつかカンストした。
呪いの邪眼は呪怨の邪眼に進化した。
なんとこの邪眼、呪いによって減らした分のHPとかが私に還元されるのだ。
純粋な攻撃力も上がっているので、効果は進化前より断然高い。
ステータスまでは流石に吸収できないけど、SPが吸収できるっていうのは大きい。
邪眼で吸って、さらに食事で効果は加速した!
麻痺の邪眼も進化して静止の邪眼になった。
どうもこれ、麻痺だけじゃない、時止めに近い属性が付与されてるっぽい。
麻痺ってもプルプルくらいはしてた魔物が、この邪眼だとピタッと静止するのだ。
多分、麻痺と、私の知らない属性が混合になってるんだと思う。
スキル一覧を見てもそれらしき属性はないから、確証はないんだけどね。
まあ、かかった時点で勝ち確っていうのは相変わらずだから、単純に強くなったということだね。
重の邪眼はレベル上がったけど、流石にカンストまではいかなかった。
代わりに、自分にずっとかけ続けたおかげで、重耐性なる耐性をゲットした。
ただ、これゲットしちゃったせいで筋トレ効率が落ちちゃったのは誤算だった。
で、最後に望遠。
これが進化して千里眼になった。
効果は望遠の強化に、透視の効果がプラスされた。
壁を突き抜けてその先の景色を見ることができるようになったのだ。
ただ、千里眼って聞くとイメージする、世界中のどこでも見れるっていう感じとは若干違う。
あくまで望遠の延長って感じ。
その千里眼に、少し前からとあるものが映っている。
上へと登る、長い坂が。
長かった。
ここまで散々な目にあった。
それもようやく一段落する。
このクソ熱い場所からもお別れだ。
ただいま、上層。