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え~ 母牛はいくら血統がいいからといっても体形を無視していいことはない。
ここにあるように遺伝的に高い泌乳能力を母牛から受け継いでいてももし 足腰が弱ければ冬の凍結した地面で転倒して骨折するかもしれない。
(なつ)よっちゃん。
大事なとこだよ。(良子)うん…。
よっちゃん。
もう分かったってば 母ちゃん!
えっ?
居村! おめえの母ちゃんのことでねえ!
母牛の話してんだべ!
(笑い声)
やだ… ひどいわ なっちゃん。
えっ 私は 何も。おい 大事なとこだぞ。 静かにしろ。
ここ 十勝農業高校では ほとんどの生徒が将来は 家業を継ぐために学んでいます。
女性の仲間は少なく 貴重な存在でした。
中には お菓子屋を継ぐために農業高校に通う変わり者もいました。
ん。ありがとう。
組合のことでかい?そう。
じいちゃんと父さんが もめてんの。
(剛男)じいちゃんに言ってくれないか。農協との話し合いに応じるようにって。
私は 農協に賛成だって。
(泰樹)あいつに言っとけ。わしの牛乳は 農協には絶対に売らんと。
なつに言っても無駄だと。
どうしたらいいか分かんなくて…。
雪次郎君に言っても しょうないけど。
ハハハハ…。
あっ そういうことなら倉田先生に相談すれば?
倉田先生? 国語の?
そう 俺ら演劇部の顧問だよ。
あの先生ならいい答え 出してくれるかもしれんよ。
あの先生が?うん。
よし 行くべ!あっ…。
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
十勝農業高校 略して勝農は意外にも 演劇部が盛んでした。
なつたちが入学する前には北海道の演劇コンクールで1位になったこともありました。
全ては この倉田先生がいたからなのです。
(倉田)なるほど…。
おじいさんは組合のすることに反対なのか。
いや 反対ではないけど勝手にやれって言ってます。
それは反対だということじゃないのかい?
第三者から見ると そういうことだと…。
お前から見たおじいさんでいいんだ。
はい…。うん。
そんで 組合の考え方は正しいんでしょうか?
うん…。 これ 正しく行われれば正しいと言える。
正しく行われなければ間違ってると言える。
当たり前ですね。うん…。
なら 今のところ 間違ってるのはどっちなんでしょうか?
問題は お前が どう思うかじゃないのか?
えっ 私が?お前が 自分で 答えを見つけなきゃおじいさんにも お父さんにも何も ものが言えないんじゃないのか?
ああ…。うん。
自分の問題として考えてみれ。
したら おのずと答えが見つかるはずだ。
はい…。うん。
ねえ どういうこと? さっぱり分からん。
私の問題って…。
自分で 答えを見つけるってどういうことかな?
(天陽)それは なっちゃんが柴田牧場のあるじだったらどうするのかってことじゃないのか?
私が あるじなんか なれるわけないべさ。
だから もし そうだったら。
なっちゃん自身が 農協が 牛乳を集めて売った方がいいと思うのかそれか 直接 メーカーに売った方がいいと思うのか… うん。
その答えを見つけれってことじゃないのかな?
違うかい?
ねえ なして天陽君ってさ私が 一生懸命 悩んでることにそうやって さらっと答え出せるわけ?
ものすごく当たり前のことしか言ってないけどな。
うん…。(鳴き声)
(鳴き声)
あっ!えっ?
(鳴き声)
どしたんだ?
発情だわ。発情?牛が発情してるんだわ。
だから 落ち着きがないの。
明日の午前中までに種牛に連れてくといいわ。
午前中か?うん。分かった。
あっ… ああ もう行かんと!
(鳴き声)
ただいま。(富士子)お帰んなさい。
遅くなって ごめんなさい。いいから 着替えといで。
母さん ワラビ採ってきた。どこ行ってたの?
天陽のところか?じいちゃん…。
子牛を見る約束だったぞ。あ~ 忘れてた…。
ごめんなさい。でも やっぱり 天陽君の牛も心配で。
天陽君の牛が発情してたんだわ。
今 種付けしたら来年の春には生まれてくるね。
人間が発情したら どうするんだ。はっ?
世間の目も考えろ。何言ってんのさ じいちゃん。
お前らは もう子どもじゃないんだ。
世間からふしだらと思われるようなことすんな!
ちょっと!
そったらことじいちゃんが言ってるって知ったら天陽君 悲しむよ!バカ者!
そう言われない方が男として 見くびられとる!
♪~
(太田)乳牛のメスはおよそ21日ごとに 発情を繰り返す。え~ 94ページの図にあるような牛の卵巣中の ろ胞と黄体の大きさの変化はハモンドという学者が解明した。発情を見逃すことなく…。
♪~
(良子・大声で)なっちゃん 何描いてるの?シ~!
やめてや よっちゃん…。
また漫画?漫画映画。
(雪次郎)なっちゃん!なっちゃん なっちゃん なっちゃん…。
もし 興味があるならこれ読んでみるかい?
何? これ。
私は なんも 演劇には興味ないから。
いいから読んでみなよ。
それから 今度の日曜日うち来てくれんかな?
雪月に?
会わせたい人がいるんだわ。誰よ?
まあ 来たら分かるさ。
さっぱり分かんねえ…。
それから 次の日曜日なつは 久しぶりに 帯広の街に来ました。
(妙子)ありがとうございました~。
こんにちは。あ~ なっちゃん いらっしゃい。
久しぶりだね。お久しぶりです。
あの 雪次郎君いますか?うん なっちゃん待ってたよ。
すぐ呼んでくるから 座って待ってて。ありがとうございます。
あっ 倉田先生。
おっ もう来てたか。
えっ?
えっ 雪次郎君が会わせたい人って先生のことですか?
まあ 座れ。
はい。
奥原なつ。
お前…演劇やれ。えっ?
何ですか!? いきなり。
なっちゃん な~したの?そんな大きな声出して。
ご無沙汰だね。とよばあちゃん お邪魔してます。
なっちゃん いらっしゃい。おじさん お久しぶりです。
雪次郎と ここで会う約束したんだって?はい。
こらっ!えっ?高校生がたばこなんか吸うんじゃないよ!
自分で稼いでから吸うもんだよこんなもんは。しかし 老けて見えるね この子は。とっても 雪次郎の同級生には見えないわ。
よっぽど苦労してきたんだろうね。
いや 苦労と呼べるようなことは 何も。
言うことまで老けてるね。違うの とよばあちゃん。
なっちゃん 苦労というのは人には分かんないもんだよ。
倉田先生! もう来てたんですか。おう。
先生? おかしいと思った! ハハハ…。
だから高校生に見えないって言ったんだよ。
失礼なこと言うんじゃないよ。ハハハハ…。
孫が いつもお世話になっております。ああ いえ…。
息子が いつもお世話になっております。ああ…。
こちらこそ ご挨拶が遅れまして失礼いたしました。
演劇部の顧問をしている倉田と申します。ああ~…。
(雪次郎)ばあちゃんと父です。ばあばでございます。
あ 痛っ…!すいません ごめんなさい…!
先生 おたばこ…。あ~ いえいえいえ…。
ハハハハ…。もう やだ お義母さん。
あんたも!先生のこと分かんなかったのかい?
だってよ…演劇を見に行ったことなんてなかったからな。
うちはね あの~ 商売をしてるものでどうも すいませんね。
あっ いえ。だって 高校生にしちゃ老けてるけど大人にしちゃ子どもっぽく見えたんだもの。
また 失礼を上塗りして。
いや おっしゃるとおりです。
紛らわしいので… うん今日から禁煙します。
それがいいね。似合わないのに お金がもったいないわ。
失礼を普通にするなって だから。
すみません 先生。もう母は 悪気しかないんですよ。
えっ?(妙子)あっ いえわざと 人をからかうようなこと言っちゃうんですよ 母は。癖なんです。私の意見は な~んでも癖で片づけちゃうのよ この人は。
だって そうじゃありませんか。いいから やめれって。ほら 先生の混乱が止まらんだろ。ハハハ…。先生 おわびと言っちゃなんだけど今日は うちのお菓子存分に食べてって下さい。
あ~ いえ 結構です。
うちのお菓子が食べれんって言うんかい?
いえ! えっ…。
今が 一番混乱してるよ おじさん。
いえいえいえ… 冗談。待ってて下さいね。
冗談…。それで 雪次郎 今日は何なのさ?
先生までお呼びして。あっ。
今日は 先生なっちゃんに会いに来たんだわ。
あっ そうだ!どういうことですか? それは。
あっ… 奥原にも演劇に参加してもらいたいんだ。
あら なっちゃんも出るの?出ません。
おじいさんのためにもなると思うんだ。
じいちゃんのために?うん。
おじいさんの問題をお前が表現するんだよ。
表現?うん。
じいちゃんのことを芝居にするんですか?
そうしたいと思ってる。
柴田のじいさんに何か問題でもあるのかい?
農協と 何だか もめてるらしいわ。
あ~ あの人は 協調性がないからね。
誰かと一緒で。
先生 やっと 新作のテーマ見つかったんですね。
まあ そういうことになるな。
本当に それがじいちゃんのためになるんですか?
分からん。
そのためには 取材をしてもっと深~くそのことを知らなくちゃならん。
あっ…。
それを 奥原に手伝ってもらいたいんだよ。
当事者の目で。
当事者?うん。
なつよ さて どうする?