西成の最危険区域は
なんと警察署付近!
静かに暮らす“手配中”の住民とは違い、多くの住民は行政や警察といった“官”を毛嫌いし、徹底的に反抗する。過去、幾度となく警察相手の暴動も起こしてきた。
「西成署の警察官が暴力団から賄賂をもらっていた」(1990年)、「大阪市による資金貸付を資金枯渇を理由に中止」(1992年)、「飲食店への支払いを巡るトラブルで日雇い労働者が警察に連行されたこと」(2008年)などなど、暴動のきっかけはさまざまだが、いずれも行政や警察への不満を露わにしたものだ。
今でも、1990年の暴動時、テレビの全国ニュースでも放映された、怒る住民たちに土下座する西成署員の姿を捉えた映像が残されている。その西成警察署の建物は、こうした西成の住民性に配慮したのか、まるで要塞のような作りだ。地域住民らによると、夜、あいりん地区では、この西成警察署付近がもっとも危険な場所なのだという。
「公園でモノ盗られたとかチンコロ(密告)しよるヤツがおる。その前にいてまえ(やってしまえ)ってことやな」(70代路上生活者・日雇い労働者)
年が明けてすぐのある日の夜19時過ぎ、その西成警察署付近を歩いていると、「ウー」「ワー」と叫ぶ声が聞こえた。地域住民は、「シャブ中(覚せい剤中毒)やろう」と、何をごく日常のことを聞くのかという口調で記者に話す。
この地域住民によると、あいりん地区周辺のあるコンビニのトイレには、「便器に注射器を捨てないで下さい」という張り紙がしてあるという。
事実、覚せい剤とあいりん地区は“相性がいい”。同じ日の夜21時過ぎ、西成警察署裏の路上を歩いていると、目が合った60代と思しき男性が「元気になるもんいる?」と声掛けしてくる。記者が「もしかしてシャブ?」と問いかけると、こう返ってきた。
「いや、バイアグラの代用品やけどシャブがええん?せやったら今週はあかんな。来週くらいにまたこの辺いてくれるか」――。
真に受けていい話なのか、それとも西成ならではの“ジョーク”なのかはわからない。それでも住民たちの話によると、ここ西成に何度も夜通っていれば覚せい剤を手に入れることはさほど難しくはない、ということで一致していた。