「今からはじめなきゃ!核のゴミ処分 マジ討論」
~20代の私たちが考えたこと~

※以下のコンテンツは、2016年に産経ニュースに掲載した広告企画であり、
登場人物の肩書や映像・記事の内容、データ等は掲載当時のものです。

若者たちと考える「原子力発電のごみ」問題

 発電コストが安く、CO2をほとんど排出しないため環境にも優しい発電方法として、高度経済成長期から日本の電力を支えてきた「原子力発電」。一方で発電の結果生み出される、高レベルの放射性廃棄物が相当量発生している。この「原子力発電のごみ」の最終処分は、原子力発電を利用する世界の国々で大きな課題となっている。

 「何万年も人の手で管理し続ける」「ロケットで宇宙に放出する」「海洋に沈める」「南極の氷の下に埋める」など、様々な方法が検討されてきた。その中で、処分の確実性や、自国で最終処分すべきという国際的な議論の結果、「安定した地層の中に埋める=地層処分」が最適と考えられるようになり、各国がこのプロジェクトに取り組んでいる。しかし、実際に処分場建設が始まっている国は、2016年現在フィンランドのみである。日本では、原子力発電環境整備機構=通称「NUMO(ニューモ)」が安全な地層処分を実現するためにプロジェクトを進めているが、地層処分の候補地さえ決まらない状況にある。

 処分場建設地の調査から建設・操業・閉鎖まで100年以上に及ぶ地層処分プロジェクトは、次世代にもかかわる課題だけに、若年層の理解や議論への参加も重要になる。そこで今回、総合オピニオンサイト「iRONNA(イロンナ)」で特別編集長として活躍する現役大学生の山本みずきさんと、日本や地層処分の先進国であるフィンランドの若者たちとの意見交換を通じて課題解決へ向けた手がかりを探った。


日本の若者たちの本音

 2016年10月、資源エネルギー庁が主催する同問題に関する座談会に参加した山本さんは、フィンランド取材を前に、同世代の若者たちと意見交換を行なった。

 若者からは、以下のような意見がでた。

 「“原子力”というとなんか悪いものがくる、みたいなイメージがある」「安全だよってわかっていたとしても、やっぱり自分の子供がそこで働いて欲しくない」「誰かが背負わなければならないが、自分はちょっと抵抗がある。誰かが背負ってくれるのであれば……」「地盤の安定した他国に処分をお願いしたらどうか」などの意見が聞かれた。

 「今ある“ごみ”はどうにかしたほうが良い」と理解を示す一方で、漠然とした安全性への危惧から地元に処分場は受け入れたくないという様子だった。

 昨年北海道幌延にある地層処分の研究所も見学した山本さんも例外ではなく、「地層処分で適切に処分すべきとわかっているつもりでも、福島の原発事故の経験から安全面での不安は拭いきれない」と語った。

 世界に目を向けると、現在フィンランドでは世界に先駆けて最終処分場=通称オンカロを建設中だが、現地ではどのような気持ちでこの施設を受け入れたのか。処分場周辺には、地層処分に反対する人はいなかったのか。そもそもなぜ、フィンランドは処分地を決定することができたのか。手がかりを探るため、若者世代の代表として山本さんと現地へ向かった。


なぜフィンランドの人たちは「地層処分」を受け入れたのか

 まずはオンカロから250キロ離れた首都・ヘルシンキで街頭インタビュー。
「地層処分をあなたはどう思いますか?」の質問に対し……

「私は、反対ね、安全じゃないと思うから」40代女性

「原子力発電には反対だけど廃棄物を処分する責任はあると思う」10代女性

「原子力のエネルギーを使うならどこかに処分しなきゃいけないと思う」30代男性

「地下の最終処分場を見学したことがあるよ。すっごい地下の方まで行くんだこれは安全だと思ったね」50代男性

 同意、反対がほぼ同数という結果に。原子力発電を利用したからには処分するのが当たり前という意見が聞かれたほか、安全面を懸念する声も聞かれた。

 それでは処分場に近い町では、どんな意見が聞けるのか。オンカロから約30キロの地方都市「ポリ」で街頭インタビュー。

「反対です、私はこんなゴミ欲しくなかったんだけど、生まれてしまったものは仕方がない。気持ちの上では受け入れたくないけどいまあるゴミの処分については理解できます。使用済燃料は地下に処分するしかないです」40代女性

「処分した後どうなるか不安はあるけど、どこかに処分しないといけないものだから」20代女性

「いいんじゃない、地上にあったら危ないものだし、どこかに処分しないといけないでしょ」20代女性

「正しいところに処分するなら賛成」20代男性

 日本の学生の意見にもあった他国のごみの受け入れについては……

「自分の国のゴミなら自分の国で処分すべきでしょ、他の国におしつけちゃダメだよ」20代男性

 インタビューをした人13人のうち反対は2人のみ。ほとんどが「同意」という結果に、「若い人のほうが地層処分に賛成していることに驚いた」と山本さん。また他国のごみの受け入れについてはすべての人が「反対」と即答した。

 いよいよ最終処分場を建設中のエウラヨキへ。ここは人口わずか6千人ほどの小さな田舎町。フィンランド国内では「原子力発電所の町」として知られていたが、その原発の近くで、世界初となる「最終処分場」の建設が決まり、世界中に知られるようになった。

「地下水に影響がでると思うし、将来に影響するとおもうといいとは思えない」40代女性

「危険なイメージは無いです。放射線なんて自然界にもあるから」40代女性

「自分の目で施設を見て、どんな安全対策をとっているか分かっているし、技術者や科学者を信頼している」10代男性

「ポシヴァ社(日本のNUMOにあたる組織)を信頼している」10代男性

 エウラヨキでも、話を聞いた17人中反対は2人のみ。地層処分の実施主体である「ポシヴァ社」を信頼しているという声も聞かれた。また原子力施設が町にもたらす減税効果や雇用効果など具体的なメリットについて話を聞くことができた。

 フィンランドでは、1970年代後半から使用済燃料の処分方法についての検討が始まり、100近くあった候補地から4つに絞られ、住民からの支持率がほぼ同じ割合だったエウラヨキとロビーサが最終候補地に。その後ロビーサで反対運動が起き、最終的にエウラヨキに決まったが、決定当時それでも反対する人が3割以上いるなかで、なぜ受け入れがスムーズに進んだのか、また街頭インタビューで賛成する人が多数になったのはなぜか、自治体の議員にも話を聞いた。

「確かに最終処分場に否定的な考えを持つひとはいました。それでも発電をしているこの町で安全に処分をするのはある種の責任行為なんだと思ってます」

「情報を共有して理解することで、(放射能への)恐れが減ってくるんだと思います」

 担当者の言葉では「様々な安全に関する検証データが住民理解に一役買った」のだという。街頭インタビューでも名前の上がったポシヴァ社以外に、どこにも依存しない独立機関の「規制当局(STUK)」が迅速に透明性の高い情報を提供してくれたことも重要だと話してくれた。(STUKは日本の「原子力規制委員会」にあたる組織)。

 中立的な立場で十分な情報を発信し続け、40年もの長い間国民全体で議論してきた過程が、フィンランドで地層処分に対する理解が進んだ理由のようだ。

 またフィンランドで山本さんたちは原子力発電や地層処分のことが学べる「広報施設(ビジターセンター)」も訪れた。年間15000人もの人が訪れるビジターセンターでは、処分方法の紹介や、処分施設が人の手を離れ最終的に閉鎖されるまでのロードマップなどが事細かく紹介されている。

 またフィンランドでは中学生くらいまでに放射線に関する教育を受けるという。ただ教育内容は政府から賛成・反対の押し付けではなく、あくまで中立的で、論理的な情報を開示してあとは国民一人ひとりがどう受け止めるか委ねられているように感じられた。

 一連のフィンランドの取材を終えた山本さんは……

(理解した上で地層処分を受け入れているフィンランドの人々と比較して)知らないことがあまりに多すぎて、もっと勉強しないといけない。そうしなければ、地層処分のことや原子力に対して、正しい判断を下せない。なるべく自ら情報にアクセスしないといけない

とコメント、また同世代の若者たちが、自らの意見を筋道立てて述べる姿に圧倒されたという。

 処分場を受けいれた地域への十分なサポートだけではなく、原子力発電とその廃棄物に対する教育の機会、関係する組織の中立性と情報公開の徹底、何十年にもわたって密に行なわれた国民的な議論をへて、地域住民及び多くの国民はこの問題を「自分ごと」としてとらえ、地層処分を受け入れる素地になったと言えそうだ。


知識を得ることで、日本の若者たちにも変化が

 フィンランドの取材から1週間。新たなメンバーも加わり再び座談会が開催された。フィンランドの若者たちの原子力に関するリテラシーの高さや、筋道だった意見を聞き驚くメンバー。現地で取材をした山本さんは「一番の違いは政府や関連機関への信頼感だった」と報告した。他の参加メンバーも「確かに日本では、原子力に関する政府のイメージが悪く、信頼感が無い」と同意した。

 安全や健康など、特に国民生活に深く関わるテーマだけに、関係する組織や情報に信頼感がなければ、前に進めることが難しい。現にドイツでは処分地決定後の反対運動により撤回を余儀なくされた。日本でも2011年の原発事故以来、原子力施設に対する不信感は少なくなく、たとえ技術的な問題がなくても、それを信じ受け入れてくれる信頼関係が構築できなければ、処分地を決めることも難しいと考えられる。

 一方で、「地上にある原子力発電所と地下にある地層処分場というのは全く機能が異なり、リスクも異なるので、切り離して考えないと理性的な議論にならない」と冷静な意見も聞かれた。

 座談会が進むにつれ若者たちの発言も活発になり、「自分ごと」としてとらえ始めていることが伺えた。またそれに答えるべくNUMO担当者より、地層処分の安全性に関する技術的な説明も行われた。なぜ地下300メートル以深に埋めるのか、地震が起きた時どうなるのか、これからどのようなステップを踏んで処分地を絞り込んでいくのかなど、科学的な分析による説明を、若者たちも真剣な眼差しで聞き入っていた。

 座談会を終え、参加したメンバーからは、

「技術的なことは加味せず、安全か安全でないかを漠然と自分たちの中で決めているのでは。感情論とは別に、何を根拠にして自分の意見を構築するかが大切」

「今も地層処分の安全性には疑いの目を持っているが、座談会の中で技術的な話を詳しく聞けたので、今までよりも安全と感じられるようになった」

「NUMOに対して批判的な目で見ていたが、それを承知した上で公表できる情報は公表してくれている。自分たちも現実を受け入れた上で、正確に認識しなければいけないと感じた」

など、1回目の意見交換会から意識の変化が見られた。

 また、地層処分の必要性を理解する一方で安全性に不安を持っていた山本さんも、一連の座談会・取材を経て、

地層処分が本当に安全かどうかは技術面を含めて地道に「知識」を積み重ねて判断しなければいけない。(今回の取材で)ようやく基礎的な知識を得て、判断できるようになった。今回の取材がなければ、地層処分場の建設地に住みたいかと言われても、怖いから絶対住みたくないって言っていたと思う。今なら「住んでもいいかな」と思えるほど変化があった

と語り、より深く客観的な知識を得ることで、自身を含め地層処分への理解が変わるのではないかと、取材を通じて起きた心境の変化を話してくれた。

 フィンランドの地層処分を実施するポシヴァ社が、処分地エウラヨキに会社を置くことで、地元から信頼を得たように、地層処分事業を実施するNUMOでも、最終的な処分地が決定した際には会社を移転し、社員は地元の人と暮らしていく方針を立てている。その土地の一住民として、NUMOのスタッフ自身が安全な地層処分と地域の発展について真剣に考えていくためだ。

 たまり続ける「原子力発電のごみ」は将来的に解消しなければならない課題だが、「自分に影響を及ぼさない範囲」でと、議論を避け続けていては解決できない。それぞれの人が当事者として情報を得る努力をする必要があるだろう。

 一方でフィンランドのポシヴァ社や規制当局STUKのように、関係組織は偏りの無い正しい情報を提供し続け、長い期間をかけて国民的合意を得ていく努力が必要である。

 日本政府は今後、全国各地の地下深部等の科学的な特性について、マップの形でわかりやすく公表する予定だという。これは議論のスタートに過ぎず、最終処分地決定までには長い年月を費やすことになるだろう。

 100年先の未来が明るいものであるために、現世代の責任ある行動が求められる。(産経デジタル編集部)


提供:NUMO(原子力発電環境整備機構)


TOPへ戻る