WTCビル倒壊原因について
これは筆者がインターネット向けに書いた最初のレポートです。最近インターネットを見ているとこれ関連のサイトがあって、それに無断掲載されていました。懐かしいので再録します。なお、同サイトの同種レポートを見るとろくなモノがない。内部爆発や小型核爆弾などというものもあった。一般に物理学や建築工学の知識のないモノが勝手に想像力を発揮しているにすぎないものが多い。
ワールドトレーデイング センター崩壊原因について
有限会社横井調査設計 技術士(応用理学部門)横井和夫
先日、世界を賑わした、NY ワールドトレーデイングセンター(以下、WTC)特攻攻撃の映像は極めて衝撃的であった。我々技術者にとって、更に衝撃的であったのは、同ビルが殆ど瞬時に崩壊してしまったと言うことである。この映像を見て当初、筆者はアメリカのビルは何と華奢に出来てるんだろうう、と思ってしまったのである。しかし、その後引き続いて、隣接する二つのビルも崩壊してしまった。その結果、事はどうもそれ程単純な問題ではないような気がしてきた。以下は今までの情報に基づく私なりの仮説である。
先ず、事件の経過を見てみる。時間は日本時間
1、9月12日午後9時45分 WTC第1ビルに突入、爆発炎上
2、 同 午後10時3分 WTC第2ビルに突入、爆発炎上
3、 同 午後10時30~50分 WTC第1、第2ビル崩壊
4、9月13日6時半頃 隣接するホテル(45F)崩壊
5、9月14日朝 別の隣接するビルが崩壊
一方、これらの事故(但し、WTCに限定)原因に関する専門家(主に建築家)の所見は、今までの報道からは次のように要約される。
1、同ビルの構造はセンターコアタイプであったこと。つまり、各階フロアーはセンターコアから張り出し形式(構造力学的には片持ちバリ形式)で設置されていたこと。
2、爆発その後の炎上による高熱で、鉄骨が溶解しセンターコアと張り出し部の接合が切れて順次落下していった。
接合部が溶解して、上層階が下層階に落下すれば、下層階はその重量を支えきれないから、順次崩壊は下方に進展していくのは当然である。
しかし、それだけで全体の現象が説明出来るだろうか。
疑問点は次のとおりである。
1、炎上時の炎の色から推すと、温度はせいぜい数100゜C程度と見積もられる*1。鉄の融点は約1500゜Cだから、この程度の温度で溶解するとは考えられない。
2、内部では更に高熱になっている可能性もある。特に破壊された窓やセンターコアから 酸素が大量に供給されると相当の高熱になっている可能性は考えられる。但し、これは突入部位より上層階に留まる現象である。生存者証言では、出火と同時にスプリンクラーが作動しており、又、突入後約1時間半かかって、脱出した人もいるわけだから、下層階では鉄が溶けるほどの高熱に達していたとは考えられない。
3、更に上層階から順次落下していったとしても、接合部での溶解であれば、センターコアは例え残骸でもいくらかは、残っているはずである。しかし、TV映像で顕かなように綺麗さっぱり無くなっているのである。出火から僅か1時間かそこらでセンターコアは溶けてしまうのでしょうか。
4、鉄の強度は数100゜C程度で低下するが、その場合おそらく現象的にはグニャと曲がる程度で全般的な破壊には至らない。破壊は瞬時に発生しているので明らかに何らかの原因による脆性破壊である。
つまり、熱ではビル全体が一気に崩壊する現象は到底説明出来ない。
5、当日のTV映像(何度も繰り返し放映されている)を見ると、第一ビル頂上のアンテナ塔が先に落下し、その後外壁の崩壊が発生している。もし、センターコアとの接合が先に破壊し上層階の重量により、下層階が崩壊したのであれば、下層階は外向きに崩壊していくはずである。しかし、外壁破壊は殆ど垂直乃至内向きに崩壊している。
これらは各階フロアーより先にセンターコアが破壊されたということを意味している。
6、WTCの崩壊に続いて隣接ビル2棟が数時間乃至10数時間を置いて、相次いで崩壊している。これらのビルはWTC突入時の発熱とは何ら関係はない*2。
7、ある生存者証言では2~3回の縦揺れを感じた、という。その他の生存者証言でも地震のような強い揺れを感じたというものがある。一般に爆発(バースト)の場合の衝撃は1回だけで複数回の振動が発生することはない。これは地下核実験の地震波記録からも顕かである。特にジェット燃料はケロシンが主体だから、燃料タンクが分離されていたとしても、誘爆に要する時間は極くわずかであり、人間が感じ取られるほど時間が空いているとは思われない。少なくとも映像では明瞭な時間間隔で爆発したとは見られない。
どうも、この辺りに謎を解く鍵がありそうに思える。
結論を言うと、熱は殆ど関係はなく、爆発と同時に発生した衝撃波により、建物の構造骨格が破壊されたということである。更に、我々はこれと同じような現象を、既に「阪神淡路大震災」で見てきた、ということも付け加えておく。
1、先ず飛行機が突入爆発すると、それに伴って、当然衝撃波が発生する。
2、突入位置はビル上層部で閉鎖空間だから、衝撃波の大部分はセンターコアを通して下に伝播すると考えられる。
3、伝播した衝撃波は基盤層から反射し、上から来た波と重なって振幅を増幅させる。 これは、「2~3回の縦揺れを感じた」、という生存者証言を裏付ける。
4、その結果、センターコアの構造が破壊され
①先ずセンターコアが落下し
②それに引きずられる形で各階フロアーが落下する。
これは第1ビルでのアンテナ塔の落下、各ビルで外壁が内向きに崩壊しているように見える現象を説明出来る。
5、衝撃波は地盤を通じて隣接ビルにも伝わるから、同じようなメカニズムで隣接ビルの構造も破壊される。但し、衝撃波は鉛直方向に伝わるから、伝播範囲は局所的に留まる。
6、マンハッタン島の基礎地盤はプレカンブリア系の片麻岩だから、これが強い反射層になっていたとも考えられる。
以上はあくまで推論であるが、崩壊原因究明には
①ビルの構造(特に高周波領域での動的特性)
②基礎構造
③これらと基礎地盤との関係
を考える必要があるように思われる。特に、当日は何処かで必ず地震波観測記録があるはずなので、これを付き合わせて検討すれば、興味ある結果が得られるかもしれない。
2001、9、14
*1 ;この後、再放送画面をよく見ていると、爆発直後では中心部で1200~1300゜C程度の高温域が発生していたと見られる部分がある。しかし、この高温は一瞬のことであり、直ぐに温度は低下してしまう。
*2 ;隣接ビルの倒壊は、WTCの崩壊の振動によるものというような見方もあるようだが、こんな馬鹿げた話はない。
地上40~50階の近代ビルが崩壊するだけの振動が発生するとすれば、振動はそれこそ震度7超級の地震に匹敵する。その場合、人間は立っていられなくなるし、周辺の古いビルは皆潰れてしまう。しかし、TV映像では、人々は走って逃げているし、TVレポーターは立って報道している。ロックフェラーセンターの周辺には多くの古いビルが多い。中には1930年代のものもある。これらが耐震設計をしているわけはないので、まずこれらの古いビルが先に崩壊しなくてはならない。実際は、周辺の古いビルはそのまま残っているのである。
これらの点からも、隣接ビルの崩壊はWTC崩壊の振動によるものではないことは顕かである。熱に無関係な隣接ビルが同じような壊れ方をしているのだから、WTCの崩壊も熱には無関係という事になる。
*3; 衝撃波が地盤内をどういう形で伝わるのかは、よく判らない。もし、性質がS波に似た表面波のような形で伝わるとすれば、今後かなり広い範囲で建物の崩壊(特に古い建物)が継続する可能性も考えられる。
その後の情報によれば、各ビルは地下街で連続していたと言われる。そうすると、衝撃波は地下街を通して隣接ビルに直接且つ瞬時に伝播する。これは衝撃波説を補強するものである。