フォーサイト、魔導国の冒険者になる 作:塒魔法
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一方。
王国、エ・アセナルにて。
ゴーレム軍団と相対した漆黒の英雄は、快進撃を演じていた。
「ふむ。なかなかだな」
モモン……もといパンドラズ・アクターは、率直な感想を述べる。
「これほど大量かつ強力な
「お褒めにあずかり恐悦至極……だが」
褐色肌をスーツで覆う少年は、半壊状態の巨兵の頭頂部で、悠然と語る。
「それを言うのであれば、貴殿の戦闘能力こそ、卓越している──卓越し過ぎている。貴殿は、いったい何者だ。我が無双を誇る兵団が、ここまで消耗するのは久方ぶりのこと。だというのに、貴殿は未だ“余力がある”」
「そんなことは」
「事実だ」
ゴーレム使いは英雄の武勲を謳う吟遊詩人のごとく述べ立てる。
「まったく底が知れぬな。これだけの兵力差を、ほぼたった一人で滅ぼしておいて、──たわけたことを申さぬことだ」
少年はガラス玉のような瞳で、すべてを見透かしたように告げる。
「私は、貴殿の話を聞いてから、ずっと気がかりでしようがなかった。貴殿の
パンドラズ・アクターは、兜の下に隠すモモンの顔を歪めかけた。
無論、英雄モモンを演じる以上、そのような些少の変化を感づかれるほど、彼の演技能力は大根ではない。
モモンは整然と述べる。
「失礼ながら。君の見識が狭かった可能性は?」
「ありえない、と言わせてもらおう。私のかわいいゴーレムたちは、様々なモノに化け、諸国で情報収集に勤めている」
言って、少年は都市上空で戦う冒険者二名を見つめた。モモンもそちらを見上げる。
轟く〈
輝く〈
モモンを空から狙う敵を相手取る、ナーベラルとイビルアイ。二人の魔法詠唱者が空戦を繰り広げるのは、
ナーベラルであれば、本気を出せば竜のゴーレムなど、〈
そんな空戦仕様ゴーレムを使う少年は、手品師のように一羽の小鳥を山高帽の中から取り出して見せた。
体毛も仕草も鳴き声も、ただの鳥類にしか見えないそれは、パンドラズ・アクターの鑑定眼によって、まったくの非生物体であることが看破される。
「
「うむ、その通り。これらは我が
当然、パンドラズ・アクターは理解した。
目の前の少年──彼の持つだろう情報……その危険性と可能性を。
ゴーレム使いは小鳥を夜空に解き放った。山高帽を粛々とかぶり直し、ステッキを振って再疑問する。
「もう一度、
パンドラズ・アクターは一瞬の内に思考する。
『モモンは南方の出身者だ』という風説は、別にモモン本人が広めたものではない。一度だってモモン自身が出身地を明言したことはなく、周囲の人間がモモンの兜の下の造形を見て、唯一の相棒ナーベの容姿なども参考にし、勝手に解釈をくだしただけのこと。なので、この場を誤魔化し白を切ることは、容易といえば容易であった。
しかし、それはモモンを作った至高の御方……アインズ・ウール・ゴウンの望むところか?
(偉大なる我が創造主──聡明無比を誇る父上──アインズ様が、この程度の事態を予期されていないはずもなし)
ナザリック最高位と謳われる三者の内の一人、パンドラズ・アクターの頭脳が冴えわたる。
そう。
モモンが南方の出身者に偽装されていることは、この状況を……いずれ南方に住まう存在にバレる可能性を見越してのこと。
であれば、答えは一つ。
(つまり、この少年のように、モモンの存在に懐疑的な存在を釣るために──)
そう考えれば辻褄は合う。
実際として、南方の地に詳しい現地の存在……御方の計略の糸に引っかかったのが、目の前の少年。ならば、蜘蛛の巣に絡めとられた蝶を手中に収めることが、アインズの狙いに相違あるまい。
おまけに、これだけの
無論ながら、少年が虚偽情報として南方に住んでいると吹聴している可能性もゼロではないが、蒼の薔薇などのさまざまな情報源から、南方では少年のようなスーツ姿が見受けられるという話を聞く。確定とまではいかずとも、信憑性は十分高いはず。
それに、たとえ少年が虚言を吐いているとしても、パンドラズ・アクターの仕事は変わらない。御方にとって必要となる情報や人材を確保することは、ナザリックの軍拡を推し進めるうえで重要な要素だ。
さらなる可能性があるとすれば──
(仮に、ユグドラシルの存在だとしたら、“アインズ・ウール・ゴウン”魔導国の冒険者に喧嘩をふっかける理由はない、か)
ユグドラシルにおいて、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンを知らぬ者がいたとは思えない。アインズが折に触れてNPCたちに話していた、アインズ・ウール・ゴウンを敵視するプレイヤーの存在。希少鉱石の鉱山や、
(やはり、ズーラーノーンの最高幹部を炙り出して正解だったようですね。以前、帝都で闇金融の連中をおさえた繋がりから──まさかこれほどの逸材に巡り合うこととなるとは)
ワーカーだったフォーサイトと、偶然にも出会ったあの時。
ナーベラルが捕縛し、デミウルゴスが調教に向かった、闇組織の協力者ども。
そこから生じた新たな計画立案に至るまでの一連の流れ……これもアインズ・ウール・ゴウンの
(しかし、父上ならば私たちが考える以上の知略を張り巡らせているやも……)
「降伏するのであれば今のうちだ……と言わせてもらおう」
「心遣い、痛み入る。だが、私はまだ、私の試しを終わっていない」
何を試す?
そう疑念するよりも先に、モモンは大剣を盾のごとく構えた。
続く衝撃に、漆黒の全身鎧が軋みをあげる。
思わず後退するパンドラズ・アクター。
「む……これは」
これまで、王都での事件・ヤルダバオト(デミウルゴス)との戦いでしか壊れたことのなかった双剣の一本が、兵団との連戦の結果とは言え、盛大にひび割れ砕け散る寸前となっていた。
モモンは下手人たるゴーレムを見据える。
ゴーレム使いの少年──ズーラーノーン十二高弟──トオムは語る。
「我が400年の研鑽の中で建造した、最強最高のゴーレム……アダマンタイト・ゴーレム」
女性的と言える優美なフォルムと飾り毛を宿す全身鎧──というよりも当世具足の鎧武者は、アダマンタイトの甲冑に覆われていた。その両手には、闇夜に煌々と輝く黒鉄の金棒一本と、南方の地で鍛造される“刀”が一振り。腰の鞘には、脇差がもう一本。兜の奥にある白磁のような面覆いは、額部分から一本角を生やし、鬼の姫君とも称すべき細微を極めた造形が見て取れる。鬼は人間とそう変わり映えしない様子で瞼を開き、ガラス玉の眼球をモモンの全身に睨み据えた。
「いい加減、力を抑えたまま戦える相手ではないと、忠告させてもらう。そして──」
少年は、これまで乗機としていた岩と泥の巨人──崩れていくゴーレムから降り立ち、モモンと同じ大地に仁王立つ。
十二高弟──トオムは宣言する。
「これを倒せば、貴殿の勝ちだ」