日大 地球システムのスタッフブログ

日本大学文理学部 地球システム科学科 のブログアーカイブ

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 教員インタビュー、記念すべき御一人目は『茶色いテフラの宣教師』と若手スタッフが密かに心の中だけでお呼びしている、宮地直道教授です。
 宮地教授は、指導教員と学生の距離が近い地球システム科学科の中でも、特に親身なご指導をしてくださっています。インタビュアーが研究室に伺った時も学生と談笑しておられました。そんな宮地教授に研究への思いを語っていただきました。



―――前から伺ってみたいなと思っていたんですが、先生はご自分で畑を作っておられますよね。

えぇ。富士山の近くでやってますよ。ピーマン、トウモロコシ、ジャガイモ、ナス、ニンジンなどなど。標高1100メートルあって、冬は早く来るし春になっても土は凍っていてなかなか融けないし、作期が短くて大変。


―――それは趣味でなさってるんですか?それとも研究の一環でしょうか。

まぁ両方ですね。趣味もあるし、学生を連れて行って土壌の研究に使ったりもするし。穴掘って、肥料や堆肥を使うとこんな風に土の中を窒素が浸透していくんだよ、とかね。あとは子供の教育にも使ってますよ。家庭菜園用のトラクターを運転させて耕したり。


―――なるほど・・・。いいフィールドになってるんですね。そもそも先生は、どういった経緯で富士山などの火山や環境の研究を始められたのでしょうか?

私がこの学科の学生だったときは、火山を学べる研究室はなかったんですよ。でも当時の学生は、先生に教わらなくても自分で好きな課題を見つけて、若手同士切磋琢磨しながら育っていく風潮があったので、私も火山学会の巡検に参加したり、学科の3年生向けの巡検に参加して先輩と先生が激論を交わしているのを見たりしていて、火山の研究って面白そうだなぁと思ってました。
それとは別に、祖父が植物学者でもあったので、その影響を受けて花粉の研究をやろうかなぁ~という気持ちもあって。遠藤先生(遠藤邦彦教授:第四紀地球環境研究室)の研究室に入りましたけど、何を研究しようか迷っていたんですね。
どうして火山の方に決めたかというとですね、まず顕微鏡で花粉を見続けるよりフィールド調査する方が好きかなってことが一つ。それと、生まれが静岡の清水で、富士山に慣れ親しんできたのが一つ。その富士山は当時研究し尽くされていると言われていたけど、溶岩層の研究とテフラ(火山灰)の研究が全く分かれていたので、テフラも火山噴出物なのだから溶岩と一緒に層序を考えていかなきゃいかんだろうと思い立ったのが一つですね。


―――新しい発想だったんですね。

そりゃもう(エッヘン)。


―――では卒論は富士山のテフラですか?

そう。富士山の最新の噴火である1707年噴火(宝永噴火)のテフラがどのように風にのって関東一円に広がったかを研究しました。


―――その後大学院まで行かれた後、公務員になられたのですね。

このまま研究を止めたら後悔すると思って大学院に進学し学位を取ったのですが、大学の教員になる道は容易ではありませんでした。いろんな大学の公募に出したけど、落ちまくっちゃった(笑)。そうこうしているうちに公務員試験を受けたらまぐれで農水省に入りました。北海道の農業試験場勤務になったんですが、実は北海道は農地開発のためにテフラの研究が進められた、テフロクロノロジー発祥の地なんです。これは自分の専門を生かせるぞと思ったんですけどね、実はそうでも無かったんです・・・。


―――えぇ。

まぁ社会はそんなに易しいものじゃないから(しみじみ)。


―――・・・(一緒にしみじみ・・・)

その当時、農作物の生産量を増やすのは技術的に頭打ちになり、生産より環境対策のための研究に移行していたんです。あと湿原保全。全然経験がないうちに突然農家のおじさんに「環境に良い肥料作ってくれない?」と言われたりして四苦八苦。もう実務を重ねて無理やり勉強しましたよ。


―――現場で鍛えられたんですね

本当に。わからないからできないとか言ってる場合じゃなかったですよ。でもその後もいろいろな職場を転々としましたが、そうやって農家の人など現場の生の声を聞き問題点は何なのかを感じ取る力が今の研究に生きてるかなと思いますね。


―――というと?

まず現場の人の立場でも考えられるようになったということ。
静岡では長年、茶園にたくさんの窒素肥料が使われてきました。私が静岡に赴任し、茶園の地下水を調べてみると、ほとんどの場所で窒素が変わってできた有害な硝酸で汚染されていることが分かりました。
そういうネガティブなデータを「研究結果だから」という理由で公表するのは簡単ですが、それだけでは問題の解決にはなりません。農家の人だって美味しいお茶を作るためにやっているのだし、そもそも消費者がそれを求めているんだから。だからといって害のあることを隠すのもいけないですよね。

我々は「何故この研究するか、そしてその結果をどうするか」という点まで考えなければなりません。研究結果を踏まえてどのような対策をたてるべきかまで考えるのが、研究者の社会に対しての責任なのだと思います。

環境問題というのは時間的・空間的にも、さらには理学以外の人文・社会学といった分野的にも幅広い視野を持って研究をして、対策を練っていかなければならないんですよ。
先のお茶の例でも、たとえうまみが低下したとしても環境のため、安全のために肥料を減らしたお茶を飲む、という私たち消費者の意識の改革が必要です。また、肥料を減らしても茶園の土の中の窒素はすぐには無くなりません。実は昔から茶園の下流側には田んぼがあり、茶園からの湧き水をこの田んぼに入れることにより、微生物の力で有害な硝酸を浄化していたのです。ところが、米を食べなくなり田んぼが減り浄化ができなくなったため、河川の汚染が深刻になったのです。そう考えると、もっと水質浄化の場としても田んぼは見直すべきでしょう。

今、食べものの安全性について関心が高まっていますが、環境を守ってくれる田んぼや安心して食べ続けることができる日本のお米のありがたさをもっと感じて欲しいと重います。

「自然との共生」なんて言いますけど、地盤が弱い場所や火山の麓など本来は住んではいけない場所に人間が住んでいるのだから災害も起こる。人間が便利さや欲望を満足させようとする結果、環境破壊も起こる。
このような環境や防災の問題の大半は誰が悪いといった善悪をつければ済む問題ではありません。まず自然のことを正しく知ることが大切なんですよね。その上でどのような問題が起きているかを正確に理解して、対策・解決をする力をつけていく。時には私たちのライフスタイルを変えるような提案をすることになるかもしれない。それが求められていくと思います。


―――なるほど。環境や防災問題について興味を持って先生の研究室を訪れる学生は多いと思うのですが、まず初めにどうやって一歩を踏み出してほしいと思っていますか?

先ほども言いましたが、環境や防災の問題は簡単には善悪の区別がつけられないことがほとんどです。それでもテレビやネットなどの情報でイメージばかりが先行してしまうんですね。
この学科では、環境や防災に関するさまざまな科学的なデータを得ることができます。それをもとに、多面的に問題をとらえて知恵を出していくことが必要です。

この分野では風評被害というウワサ話による産業への被害がよく話題にのぼりますが、そういった問題は正しい情報がない時ほど起こりやすいんですよ。だから環境・防災を学びたい人は、ウワサ話ではなく正しい情報を集めること、できれば現場に行って本当に問題とするべきなのは何なのかを、自分の目で確かめてもらいたいです。ゴミ焼却所でもどこでもいいからまず現場。そしたら何が本当に大変なのかわかるから。



―――わかりました。本日はありがとうございました!!




(インタビュー後記)
 熱いお話が聞けて、私もとても勉強になりました。「問題を知って、理解して、対策・解決をする力をつけていく」という姿勢はどの分野でも必要なことですね。漠然と「環境問題やりたいな~」と思っていた方は、ご参考になりましたか?多面的に問題をとらえるのは大変そうですが、自然との共生を考えるときは不可欠なことなんですね。
宮地先生、お忙しいところありがとうございました。


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