----N----014----------------
----a-----------------------------
----t-----------------------
----u-Z-o-r-a--------------
-----------------------------------
-----------------------------------
---------------------------------------------------------------
(なつ)今朝 子牛が生まれてそれが 逆子の難産で大変だったんだわ。
見したかったなあ 人工呼吸したのさ。
口で 子牛の鼻に詰まった羊水吸い出したんだから。
それで やっと息したんだわ。
(天陽)なまらすごいなあ なっちゃんは。
なんも。 学校で習ったことをしただけさ。
ぜいたくに 農業高校まで行かせてもらってんだからこれくらいは当たり前しょ。
そんなに大変だった日にわざわざ ここに寄ってくれたのかい。
フフ… だからね 今日は夕方の乳搾りは しなくていいってじいちゃんが。
そっか。 じゃあ やってくかい?
うん やろう!
♪~
♪「重い扉を押し開けたら暗い道が続いてて」
♪「めげずに歩いたその先に知らなかった世界」
♪「氷を散らす風すら味方にもできるんだなあ」
♪「切り取られることのない丸い大空の色を」
♪「優しいあの子にも教えたい」
♪「ルルル…」
ちょ… 動かんで。(天陽)うん。
ちょっと。うん。
ねえ ちょっと。うん。
あっ なっちゃん 来てたのか。いらっしゃい。
おばさん お邪魔してます。
また 絵描いてるの? あんたら。
見れば分かるべさ。ちょっとでも 天陽君から絵を教わりたくて。
どら 見してちょうだい。
お~ 天陽の特徴をよく捉えてるわ。よく描けてる。
でもね… ちょっと 天陽君の見して。
ほら~ やっぱり違う。
天陽君の絵はうまいんじゃなくて すごいんです。
私 何だか 背中まで見られているような気がしてきました。
でも なっちゃんの絵はいつも 躍動感があるんだよな。
今にも動き出しそうなんだよ。
あんたたち そんなに 絵好きなの?
本当は 陽平みたいにもっと 絵の勉強がしたいの?
んなこと 誰も言ってないだろ。
違いますよ おばさん。
私たちは この十勝で働いてるから絵を描くのが好きなんです。
どういうこと?
絵を描くのが楽しいと働くのも楽しくなるんです。
牛を見ても 空の雲を見ても雪が 大地に降り積もってもああ いいなあって感じられるじゃないですか。
自然が厳しくて つらいことがあっても生きていることに向き合えるんです。
う~ん… 絵を描きたいと思うこととここで生きたいと思うことは同じなんだって私 天陽君から教わったんです。
えっ 天陽が そんなこと言ったの?
そんなこと言わないよ。
絵を描きたいっていうのと便所に行きたいっていうのはおんなじだって言ったんだよ。何? それ。
それを きれいに言うとそういうことしょ?
うん… そうかな?きれいに言い過ぎだと思うよ。
まあ とにかく 私も 天陽君もここで 絵を描くことが好きなんです。
そう。 なっちゃんもず~っと ここにいたいのね。
それは… まだ分かりませんけど。
(タミ)分かんないの?
ここにいたいけど いてもいいのかなって。
東京に 本当のきょうだいがいるもんな。
ああ…。
東京にいるかどうかも。
うちの兄貴に捜してもらおうか?
ううん 柴田家の人たちも手を尽くしてくれたんだけど兄は 私を 捨てたかったのかもしれない。
ハハッ…。
そんなことないよ。 うちの兄貴だって家族を捨てたわけじゃないもん。 ね?
そうよ。 うん。そうだね。
うん。
天陽君の兄 陽平さんは 東京に出て芸術大学に入りました。
天陽君は お兄さんとは 同じ道を選ばずここで 農業をしながら絵を描くことに決めたようです。
私 そろそろ行くね。少しは 牛のこと手伝わんと。
(天陽)あっ なっちゃん。うん?
実は 今 うちにも 牛がいるんだ。
えっ?
(正治)やあ なっちゃん。おじさん。
牛飼うことにしたって本当ですか?
うん。 乳牛を 一頭だけ農協から借りたんだわ。
農協から?農協が 牛を貸してるんですか?
そうだよ。あれっ 剛男さんから聞いてないかい?
剛男さんに勧められたんだわ。
うちの父さんに?
いい牛じゃないですか!
健康そうな黒白だわ。クロシロ?
ホルスタインは黒の部分が多かったら黒白白が多かったら白黒っていうんです。
乳は よく出ますか?
出ますよ。既に 子牛を産んだ牛だからね。
搾乳は うちじゃ 天陽が一番うまいかな。
本当だ うまい!
この牛に 子牛を産ませてそれがメス牛なら 農協に返せばいいんだ。
あ~ そうか。
牛乳は これから どんどん高く売れるってじいちゃん言ってたから牛を飼うことは いいことですよ。
だけど これからは牛の飼料になる作物だって育てないば ダメだろ。
その分 畑も広げないとな。
それじゃあうちのサイロにあるサイレージ少し分けてもらえるかどうかじいちゃんに聞いてみる。
きっと じいちゃんも喜んで協力してくれると思うよ。
天陽君が 牛を飼うと知ったら。
喜ぶかな?ハハハ… 喜ぶに決まってるっしょ。
じいちゃんと天陽君は馬が合ってるんだから。
なつは 今では すっかり柴田家の人間です。
だけど 名前は 奥原なつのまま…。
いつか そこに 戻らなければいけないような気もしていました。
♪~
この時計は 高校に入る時にじいちゃんから もらったなつの宝物です。
母さん ただいま。(富士子)お帰り。
(菊介)なっちゃん お帰り。(悠吉)お帰り。
遅くなっちゃって ごめんなさい。(悠吉)な~んもだ。
今日は いいって言われたしょ。
うん…。
母さん 天陽君とこにも 牛がいたんだわ。
牛?うん。
天陽君とこ寄ってきたの?
母さんも聞いてない? 父さんから。
じいちゃんは?子牛んとこいるよ。
じいちゃん 照男兄ちゃん ただいま。(照男)お帰り。
どう?(泰樹)もう大丈夫だ。
乳も よく飲む。
こいつは なつの子だな。
えっ じいちゃん…。
そったらこと言ったらほかの子牛が ヤキモチ焼くべさ。
ああ それも そうじゃ。 ハハハ…。
あっ じいちゃん今 天陽君とこ寄ってきたんだわ。
おう 元気だったか?うん。 そんでね牛がいたのさ。牛?
そう。 農協から 搾乳のできる牛を一頭だけ借りてきたんだって。
その牛が 子牛を産んでそれが メスだったらまた 農協に返すんだって。
すごいよねえ 父さんら農協が農家の救済のために始めたんだって。
そんでね まだ牧草を作ってないからうちのサイレージ少し分けてあげてもいい?
なつ。うん?その牛はわしの牛とは 何の関係もない。
それは そうだけど天陽君とは関係あるしょ?
お前も その牛の面倒を見ることは許さん。
どうして?どうしてもだ。
♪~
えっ? えっ… どういうこと?
ダメってことだろ。それは 分かってるけど 何で?
農協と うまくいってないんだよじいちゃんは 今。
父さんとってこと?
♪~
(田辺)柴田さん ちょっと いいかい?
(剛男)はい 組合長。
どうですか? その後は。まだ 牛のこと反対してますか?
はい それが まだ… すいません。
音問別きっての酪農家である柴田泰樹さんが 賛成に回らなければ農協の足並みも そろいませんから。
よろしくお願いします。
分かりました。 必ず説得します。
♪~
(夕見子)おなかすいた~。明美ちゃん ごはん まだ?
(明美)「まだ?」じゃないよ。 手伝ってよ。
この家で 暇な女は夕見姉ちゃんしかいないんだから。
あんたがいるじゃない。私は女じゃない 女の子だ!
あんたには まだ分かんないと思うけど体を使うことだけが労働じゃないのよ。
私も こう見えて暇じゃないの。
こっちは そんなことを聞いてる暇がないんだよ。
そうやってね ものを考えずにバカになってくのが一番怖いんだよ 女にとって。
いいから手伝え! 女らしくしろ 夕見!
何 騒いでんの?
あっ 明美ちゃん ごめん すぐ手伝うから。
なつ姉ちゃんこのバカに 何か言ってやってよ。自分は 何もしないで人を バカにするんだもん。
はい 分かった 分かった。
夕見子を当てにした明美も悪いよ。
は~い 分かった 分かった。おとなしくしてますよ。
夕見 何もしないなら人の心を ひっかき回すな!
(戸が開く音)・(剛男)ただいま!
父さん帰ってきた。お帰んなさい。
ただいま。お帰りなさい。 すぐ ごはん支度するね。
なつ おじいちゃんは まだ牛舎か?
そうだけど 何があったの?
えっ?お帰んなさい。
ただいま。
お義父さん…。
♪~
おいしい!今日のごはん よく炊けてるね 母さん。
うん 本当ね。でしょ。
「でしょ」って おかしいでしょ。
どうして 何もしてない夕見姉ちゃんが「でしょ」って言うのさ。
あんたが そうやって怒ると思ったからよ。ヘヘ…。
くぅ~…。やめなよ 夕見。
人の心を ひっかき回さない。
明美が偉いのは母さん ちゃんと分かってるわよ。
いっつも感謝してる。本当に 料理が上手になったわね。
そういえば なつ お前天陽君ところで 牛を見たんだって?
えっ?
電気も通って 明るくなった柴田家にその夜は 暗雲が立ちこめそうな気配です。
なつよ ご用心あれ。