反対派・擁護派がそれぞれの持論を展開し、大論戦となることも多いソーシャルゲームの「ガチャ」を巡る問題。先日もガチャについては法律で徹底的に規制すべきという立場を取る世界的エンジニアの中島聡さんのツイートが炎上し、擁護派からさまざまな「もっともらしい」指摘が寄せられました。今回中島さんは自身のメルマガ『週刊 Life is beautiful』でガチャの問題点を記すとともに、擁護派の意見についての反論を展開しています。

ガチャという悪徳ビジネス

私のメルマガを購読している方は既にご存知だと思いますが、私は、ガチャやパチンコのような「弱者から搾取するビジネス」は法律で徹底的に規制すべきだと考えています。

先日、この件についてTwitterでいくつか呟いたところ、大きな反応がありました。強い反対意見や、私に対する個人攻撃までしてくる人がいるので、「炎上」と呼んでもよい状態です。特にリツイートが多かったのが、下のツイートです。

ここ数年、日本のIT業界で起こった、もっとも嘆かわしいことは、良い人材を抱えるモバイル・ウェブ系の企業の多くが、儲かるという理由だけで「ガチャ」という何の価値も生み出さない「搾取ビジネス」に手を染めてしまったこと。これでは、GAFAとの差が開くばかり。

— Satoshi Nakajima (@snakajima) 2019年4月2日

日本を代表するITベンチャーの多くが、収入の多くをソシャゲ・ガチャで得た結果、被害者が増えて社会問題になっているにも関わらず、あまり表立って直接的な批判をする人がこの業界にいなかったので、「よくぞ言ってくれた」と感じた人が沢山いたのだと思います。

ガチャとパチンコに共通するのは、人の射幸性を上手に操り、頭の良くない人・心の弱い人に大量のお金を使わせるというビジネス・モデルです。

パチンコの場合、出玉が一気に増える「大当たり」状態になるととても幸せな気持ちになるため、それを一度でも経験した人は、ついついお金を突っ込んでしまいます。業界はさらに、この「大当たり」が連続して出る「確率変動」(確変)というものを導入し、多くの人々を中毒状態に落とし入れています。

稼いだお金を全部パチンコに費やしてしまったり、車の中に残しておいた子供のことを忘れて夢中でパチンコを遊び続けてしまう人がいるのは、すべてこの射幸性を活用したビジネスモデルの結果です。

「レジャー白書2018年」によると、パチンコの参加人数は約900万人、市場規模は約20兆円(レジャー市場全体は69兆円)なので、一人当たりの売り上げは、年間20万円を越しています。日本の人口の1割近くが、パチンコというギャンブルに膨大な時間とお金をつぎ込んでいる、それが日本の現状なのです。

お隣の韓国は、パチンコの問題点にすぐに気がつき、法律で禁止することにより水際で止めましたが、素晴らしい政治判断だったと思います。日本の場合、パチンコ業界が、警察官僚の天下り先になっていることもあり、これから非合法化は難しいと言われています。

「擁護派」の意見を論破する

ソシャゲ(ソーシャル・ゲーム)のガチャ(英語ではRoot Box)も同じで、ガチャと呼ばれる「クジ」を使って、ゲームを有利に進めるためのアイテムが入手できるようになっていると、射幸性が強い人は、ついつい莫大なお金をガチャに注ぎ込んでしまうのです。私から見れば月1万円でも十分に中毒状態に思えますが、夢中になった人は月10万円超のお金を注ぎ込んでしまうそうです。その結果、家族を失ったり、借金まみれになる被害者が後を絶ちません。

パチンコと違って、ソシャゲはどこからでも簡単に無料で遊べるため、より多くの人が手軽に遊ぶことが出来ます。しかし、大半の人は課金もせずに無料で遊び、実際にガチャに課金をして遊ぶ人は一部で、その中のさらにごく一部の人が、ギャンブル中毒になり、月1万円とか10万円とかを使ってしまうのです。

運営している業者もそれを十分に理解しており、プレーヤー全員から薄く浅く課金するよりも、射幸性の強い(つまり心の弱い)一部のユーザーに散財させる方が、トータルでは儲かることを知っており、ゲーム全体がそんな設計になっています。

以前に紹介した記事(参照:「『わが子をスマホゲーム中毒にしたくない』すべての親に読んでほしい、あるゲーム開発者の話」)にも書かれていましたが、無料で遊ぶユーザーが「雑魚キャラ」の役目を果たし、一部の課金ユーザーを楽しませる、という構造になっているのが今のソシャゲなのです。

このツイートに関してのコメントは、賛成意見の方がはるかに多かったのですが、いくつかの反対意見もいただきました。

ガチャ=何の価値も生まない悪、というのは現時点だけを見た話で、関連して生まれたサーバ構築技術や感情の揺さぶり技術が今後別の分野で花開くことも十分あるし、直接的にはガチャが規制されてクリーンになるためにも一旦流行って社会問題になる必要もあった

確かにガチャによって日本のIT業界が潤ったことは事実だし、そのおかげで上場した企業もあるし、技術者の給料が上がったのも事実です。しかし、それがガチャのような搾取ビジネスを正当化することにはならないと私は思います。社会問題化するまで国は動かないのはいつものことですが、私から見れば、国の動きは遅すぎるし甘すぎます。

自己責任か社会的問題かを判断する線引きはすごく難しいと思う。自己責任を無くして、すべてを社会的制度を原因とすると、サイコパス的な国民管理が必要になるし

これも一見もっともな指摘ですが、株式市場やカードローンのようにしっかりとしたルールがあった上での「自己責任」と、ガチャのように人間の心理を操るビジネスにおける「自己責任」は根本的に違うと私は思います。ガチャにハマる人は、意図的に操られているのであり、そんな市場で「自己責任」という言葉は使うべきではありません。

姑息な手段でしか稼げない事が問題

起業リスクが違うし、大手信仰でスタートアップが銀行、客に相手されないとか、やりたくてもできなかった事情がもろもろあると思います

米国と比べると、日本でベンチャー企業を立ち上げるのは、色々な意味でとても難しく、ガチャのようなビジネスに手を出すしかお金を稼ぐ方法はないと言っているのです。これは確かに正しい指摘ですが、この問題は、社会全体として別の手段で解決するべきだと私は思います。

そのガチャのマージン抜き取って儲けるのはG(Google)とA(Apple)なんですが

これも正しい指摘ですが、最も大きな違いはGoogleやAppleは(OSやアプリストアなどの)プラットフォームを提供する立場にある点にあり、そこで大きな差をつけられてしまっているからこそ、日本のベンチャー企業の多くは、ガチャのような姑息な手段でしかお金を稼げないという情けない立場にあるとも言えるのです。

何れにせよ、この問題は、業界の自粛や自主規制などの生ぬるい方法では解決できないので、早急に新しい法律を作り、厳しく規制すべきだと私は思います。そんな規制には、当然、業界は猛反対するでしょうが、弱い人をこの手の搾取ビジネスから守ることこそ国の役目だと自覚して、厳しい態度で対処することを期待しています。

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