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恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件 作者:雷田矛平

1章 魅了スキル

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5話 周辺探索

「よし、状況も確認できたし、次は周囲の探索をするよ!」

 魅了スキルの確認作業から立ち直ったユウカが全体に方針を伝える。みんながそれを当然の風景として受け取っていることが、彼女のリーダーシップの高さを表している。


「探索か……まあ妥当な判断だな」

 俺たちが召喚されたこの広場は、どうやら一通り拠点として機能するようだ。

 メッセージが記されていた石碑しか気にしていなかったが、広場の隅には倉があり中には一通りの得物や生活道具が置いてあった。田舎の公民館のような広いだけで中に何もない建物があり、そこにはみんなが寝るだけのスペースもある。


 しかし生活するために足りないものが一つだけある。

「とりあえず今日は食料を探すよ! 人里の探索はまた明日からね!」

 ユウカが目標として告げたように、この拠点には食料が無かった。

 おそらく俺たちを異世界に召喚した何かがこの地に拠点を築いたのだろうが、ここまで準備してくれたなら缶詰めの一つくらい置いてくれれば良かったのに。


 というわけで食料調達は急務だ。拠点は360°森に囲まれているため、そこで見つけなければならない。

 となると、現代の高校生が森の中で食べ物を見つけられるのか、見つけたとして毒があるのか判別出来るのかと疑問に思うだろうが……ここは異世界だ。


「可食かどうかは『鑑定』スキル持ちが確認するから、食べられそうなものがあっても勝手に判断しないで回してね! 倉に調理道具があったし、『調理師』スキルを持っている人もいるからちゃんとした食事にあり付けることは私が保証するから!!」


 スキル『鑑定』は、発動することで触れた物がどういうものなのか調べることが出来るスキルで、『調理師』は未知の食材であろうと調理方法が分かるスキルのようだ。どちらもクラスで四、五人ほど使い手がいる。

「使い勝手が良さそうなスキルだなー」

 もちろんそのどちらも俺は所持していない。俺のスキルは『魅了』一つのみだ。


「よし、というわけでみんな行くよ!」

 そのユウカのかけ声に、クラスメイト総勢28名は森に足を踏み入れるのだった。




 それから数分後。一同はすっかりピクニック気分だった。

「このキノコ食えるかな?」

「……その毒々しい紫色無理だろ。早く捨ててこい。それよりこのシイタケに似たやつ食えるんじゃね?」

「いやそっちの紫は可食で、しいたけっぽいのは猛毒持ちだ。鑑定して驚いたが」

「「マジかよ!?」」

 クラスメイトたちの和気藹々とした雰囲気の中。


「くっそ……俺はインドア派なんだっつうの……」

 俺は既に疲労困憊だった。

 体育会系の多いウチのクラスがずんずんと進んでいくのに着いていくだけで精一杯だ。それにみんな異世界でもらったジョブのおかげで体力面も補強されている。

 つまり特に力を持たない初期ジョブ『冒険者』をもらった俺は二重に遅れを取っている。




「ユウカさん、このキノコは食べられるでしょうか」

「ちょっと待ってね……『鑑定』発動! ん、食べられるみたいだよ」

「では同じものを集めるように言っておきますね」

「うん、お願い。あ、でも取ったキノコは全部鑑定するように言ってね。元の世界でも食べられるキノコとよく似た毒キノコを食べて病院に搬送されたなんてニュースを聞いたことがあるし、見た目が似ているからって全部食べられるって判断するのは危ないから」

「……流石ユウカさん、的確なアドバイスです! 分かりました!」

 集団の先頭でユウカが女子のクラスメイトの信用をさらに上げている。


 ジョブ『竜闘士』とスキルを複数持つユウカだが、どうやらその中に『鑑定』スキルもあるいるようだった。加えて『調理師』スキルも持っているという話で、どちらも持っているのはユウカだけらしい。……やっぱり元の世界と同じように、この異世界でも天は才あるものに二物も三物も与えるようだ。


「にしても魅了スキルがかかっているってのに、あんまり様子が変わらないな」

 クラスメイトと談笑するユウカの姿は、元の世界と変わらないように見える。

 魅了スキルのような人を強制的に虜にする力の出てくる創作物では、かかった相手が術者に病的なまでに心酔する様子がよく描かれるが、俺の魅了スキルはそこまで強力なものではないようだ。……いや、それとも……。


「どうしたんですか、サトルさん。そんなに考え込んで……いや、これは隙有りと見るべきでしょうか。ならば……」

「リオ、俺に近づくな、命令だ」

「ああもう、早すぎます」

 両手をワキワキさせているリオに、先手を打って命令する。


「全く、油断も隙もないな」

「少しくらい抱きつかせてもらってもいいじゃないですか。サトルさんの恥ずかしがり屋!」

 ぶうたれるリオだが、そんなことを許しては嫉妬された他の男子に何をされる分からないので、警戒するに越したことはない。


「しかし、ユウカはいつもと変わらない感じなのに、リオは結構ぐいぐい来るよな。何が違うんだ?」

「魅了スキルのかかり方の違いでしょう。状態異常耐性のせいで、ユウカはそこまで好意が上がっていないということになっています」

「なっていますというか、その通りなんだが……にしては振れ幅が大きいような……」

 色々あって流されたが、最初リオは子作りをせがんでくるほどだったのだ。それはもう結婚相手に感じるほどの好意であろう。耐性があるとはいえ、ユウカの態度と落差が大きい。


 俺のつぶやきに、リオが反応する。

「なるほど……それは私の価値観が原因でしょう」

「……え?」

「このような性格なので意外でしょうが、私は古めかしい家柄の出身で。幼いころから男女交際は生涯を共にする伴侶とのみするべきだという価値観を植え付けられているのです」

「そうか……」

 思いもよらなかった言葉だが、聞いてみれば腑に落ちた。

 好意を持った相手にどのような反応するかは人によって違う。照れて否定すればツンデレだし、相手を独占したいと思えばヤンデレだ。

 リオは好意を持った相手とは、結婚まで行くべきという価値観だった。だから子作りをせがんだと。


「一言でまとめると古きよき大和撫子というわけか。全然そう見えないけど」

「酷いです。私はこんなに一途じゃないですか」

「俺的にはいきなり押し倒して抱きついて子作りをせがむやつはビッチだ」

「あれはいきなり魅了スキルにかかったからですよ。突然好意が沸き上がるなんて初めてで、どう対応すれば分からなくて衝動的に迫ってしまったんです。でもほら、あれから子作りはせがんでいないでしょう?」


 言われてみれば俺もアニメで好きになったキャラのグッズを衝動的に買い集めたことがある。あれの人間版と考えるとリオの行動も理解できる……のか?


「もうこの状況にも慣れてきたのでいつも通り好意をコントロール出来ると思います。今後子作りをせがむような酷い暴走はしないと誓いましょう」

「……そうか」


 さらっと言われたが好意のコントロールか。

 おそらくだけど嫌っている相手にも好意的に対応しないといけなかったり、逆に好意的な相手にも他の人と同じように接しないとといけない立場だったが故に身につけたのだろう。

 好意を一律でシャットアウトしている俺より、よほど苦労している。




 俺がリオの立場をおもんばかっていると、そのリオが口を開いた。

「それより一般的にみればサトルさんの行動の方がおかしいですよ。こんな美少女に好意を持たれて、どんな命令でも出来る立場を得たのに、何もしないんですから」

「自分で美少女っていうか、普通?」

 軽口で返すが言われたことには分かるところがあった。女にどんな命令も出来るなんてR18展開に移ってもおかしくない。


 それでも俺は命令して欲望を満たすつもりはなかった。

 いや……俺の欲望を満たすことが出来ないと言った方が正しいだろう。

 心まで操ることが出来ないこのスキルでは、どこまで行っても人形遊びにしかならないからだ。


 ユウカと同じく、目の前の少女リオも過去と重なる。

 こうして俺に対して好意的に接している彼女……本当は俺のことをどう思っているのだろうか、と。




「………………」

 ズン、と落ち込む俺に対して、リオは気づいているのかいないのか、調子を変えずに聞いてくる。


「そういえば、そろそろいいでしょうか?」

「いいって何が?」

「忘れていますね……ならば、いいでしょう。えいっ!」

「っ!? だから、抱きつくなって!? くそっ、さっき近づくなって命令したはずだろ!?」

「ええ、ですがその命令も忘れていそうなのでいいかと思って」

「良いわけあるか! つうかこれも暴走じゃねえのか!?」

「こんなのただのスキンシップの範疇ですよ」

「ああもう、おまえの価値観は分からん!! もう一回離れろ、命令だ!!」




 そうやってサトルとリオがどたばた騒ぎしているのを、嫉妬の籠もった眼差しで見ている男子と他に見ている者がいた。




 イケメン副委員長のカイと委員長のユウカだ。

「サトル……か。リオが魅了スキルのせいで好意を持ってしまった相手は。ユウカも同じものにかかっているが、大丈夫か?」

「大丈夫だって、カイ君。そんなに心配しなくても」

「……少し警戒が薄いぞ。サトルは今、ユウカにどんな命令でも出来る。何をされるか分かったものじゃない」

「サトル君はそんなことしないよ。……ス、スリーサイズの件は、リオがけしかけたみたいだし」

「そうか……これが魅了スキル……。どうして…………」

「……? それよりリオもあんなにサトル君に抱きついて…………私も……いやでも……」




 異世界の森の中であることも忘れて、元の世界の教室のようなやりとりが続く……そんな気の抜けたタイミングでそれは起きた。




「っ……おいっ、何か現れたぞ!?」


 気づいた一人のクラスメイトが指をさして声を上げる。

 全員がその方向を見ると、森の奥から自分たちの腰の高さくらいあるイノシシに似た生物が三匹がそこにはいた。


「これが魔物か……」

 広場にあった倉にはこの世界における常識について書かれた書物があった。その中の一つを思い出す。

 どうやらこの異世界には魔物という、人間に害を為す生物があちこちに生息しているらしい。一般人にとってかなり驚異で、魔物に襲われて死亡するという事故はこの世界ではよくある話のようだ。


「っ、みんな魔物から離れて! 後衛職は遠距離から魔物を攻撃! 前衛は襲って来たらガード出来るようにして!」

 なのでユウカは最大限に警戒するように全体に指示を出すと、それが伝わったのかさっきまでの和やかなムードも一変して無言で動く。


 配置に付いた俺たち異世界召喚者と魔物との初めての戦いが幕を開けて。


「そして先手必勝! 『竜の拳ドラゴンナックル』!!」


 ――次の瞬間には終わった。


「……あれ?」

 『竜闘士』のユウカが出した拳の余波で三体のイノシシは一撃で倒された。


「牽制のつもりだったのに……」

 思ったよりの手応えの無さに、倒したユウカが一番驚いている。


「な、なんだ……びびったけど、弱っちいじゃねえか!!」

「おいっ、『鑑定』したらこいつらの肉食えるみたいだぞ!」

「おおっ、肉! キノコだけじゃ物足りないと思ってたんだ!」

「あっちにもいるぞ! 倒しに行こうぜ!!」

 調子に乗ったクラスメイトたちが、近くにいた別のイノシシに似た魔物に突撃。それを一撃で屠った。


「ふう、驚異じゃなかったのは良かったけど……あんまり離れすぎないでね!! はぐれたら探すのも大変なんだから!!」

 ユウカは緊張を解くと、今度は注意を飛ばす。


「危険といっても……それは一般人に限った話で、力を授かったやつらにとっては敵じゃないのか」

 どうやら俺たちが授かった力は、この世界基準でかなり強い方らしい。




 そうして人数分の食料を手に入れた辺りで、その日の探索は終了。拠点に戻って『調理師』のスキルを持つ者たちが、キノコとイノシシ肉のソテーを作って振る舞った。調味料は探索中に見つけた岩塩のみだったが、朝から異世界に召喚されて、昼の探索で腹ペコになった高校生にとってはごちそうであった。

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