3話 魅了スキル、考察
リオの拘束から命令で開放された俺。
そのまま魅了スキルについて考察したいところだったが、周囲を囲むクラスメイトたちがそれを許さない。そろそろ何が起きているのか事態を説明しろという圧力をひしひしと感じる。
そのため俺はステータスの開き方をみんなに教えた。思考するだけで開けるという言葉に半信半疑の表情だったが、直後ステータスウィンドウが次々に浮かぶのを見て払拭される。
「
「魔法使いって……え、魔法が使えるの? 呪文は……『ファイア』! あ、炎が出た」
「『影分身』! うおっ、ニンジャ凄え!!」
広場に散ってそれぞれに備わった力を確認するクラスメイトたちだが……え、何その戦闘に使えそうな力? 俺には何も無かったんですけど?
どうやら
『
『誰もが最初に通る
『使える
うん、どうやら俺だけ初期の何も力を持たない
「えー……何この不公平さ……」
俺だって剣を使って戦ったり、ド派手な魔法をかましてみたかったのに。
「リオの『魔導士』ってすごいね。たくさん魔法が使えるみたいだし」
「ユウカの『竜闘士』程じゃありませんよ。それにスキルもたくさん持っているみたいですし」
委員長のユウカと俺に抱きついてきたリオの二人が互いのステータスを確認している。二人とも親友とは聞いていたが、ずいぶん仲がいいようだ。
にしてもステータスウィンドウの9割を占めてレイアウトを考えろと思っていたスキル欄も、それぞれたくさんのスキルに溢れているようで結果的にバランスが良くなっている。
俺のようにスキルが『魅了』一つだけといったものは誰もいない。
「もしかして……俺、外れを引かされたのか?」
初期の
クラスメイトたちは一通り力を確認したところで、みんな石碑の前に戻ってきた。もう一つの疑問を解消するためだ。
「ステータスウィンドウについては理解したよ。これがあの石碑にかかれていた力ということだね。でもリオが君に抱きついたり、子作りをせがんだりした理由はまだ不明だな。僕が知らないだけで、君たちそのような仲だったのかな?」
副委員長のカイがみんなの疑問を代弁する。爽やか系のイケメンでトップグループの一人だ。リオもそのグループの一人のためこのような物言いになったのだろう。
ここで「実は隠れて付き合っていたんですよ、HAHAHA」と言っても信じてもらえないだろう。おそらく冗談とも認識されないかもしれない。
手の内を明かすのは嫌だったが、このままだと納得してもらえなさそうだったため、俺は魅了スキルの詳細について開示する。
スキル『魅了』
効果範囲:術者から周囲5m
効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ
・発動すると範囲内の対象を
・
・
・元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない。
・一度かけたスキルの解除は不可能。
スキルの詳細を見たクラスメイトの反応はというと。
「……はぁっ!? 何だよこれ!? 男の夢みたいなスキルじゃねえか!! 俺の『剣士』の
「ハーレム作り放題じゃねえか!! くっそリア充爆発しろ!!」
「おう、俺爆発魔法使えるけど、手伝おうか?」
男子からは羨望の声が飛び。
「……汚らわしい」
「それでリオさんをあんな目に合わせたってことね」
「外道め」
女子からは罵声が飛ぶ。
見事に分かれたなー……まあ当然の反応だが。
リオもその表示を見てなるほどと頷いている。
「ということは私はその魅了スキルにかかったからサトルさんに好意を持ったということですね?」
「その……リオさん。ごめんなさい。こんなことになってしまって」
「リオ、でいいですよ。それに元々サトルさんには興味を持っていましたし」
「興味?」
「……あ、でも悪いと思っているならば、お詫びに抱きついてもいいでしょうか? 抱き心地も素晴らしかったですし」
「それは駄目だ。……ったく」
異性に対する免疫の足りない俺は、蠱惑的な態度のリオの対応に苦労する。
「リオの件は分かった、魅了スキルにかかってしまったということか。対象は異性のみということで男がかからなかったようだが、他の女子が魅了スキルにかかっていないのが気になるな」
カイは次の疑問点を提示すると、声を上げた女子が一人いた。
「もう、カイ! 自分の彼女があんな冴えないやつを好きになって良いっていうの!?」
「そんなことないさ、愛しているってエミ。だけどエミだってあの光には飲み込まれたはずだろ? 不思議じゃないのか?」
「そう? かかってないんだからどうでもいーじゃん」
ギャルっぽい見た目そのままの中身のエミ。トップカーストの一人で、カイと付き合っている。
俺のことを冴えないやつとさりげなくディスってくることから分かるようにプライドや攻撃性が高い。俺の苦手なタイプで――だからこそ魅了スキルがかからなかったのかもしれない。
そう、俺は魅了スキルの説明を改めて見たことでエミやクラスの女子たちが魅了スキルにかからなかった理由に気づいていた。だが、それを口走ると余計な争いを招くので黙ったままに――。
「ひょっとして魅了スキルの『効果対象 魅力的だと思う異性のみ』が原因じゃないでしょうか? サトルさんがエミさんを魅力的に思っていないから、魅了スキルがかからなかったと」
「あっ、バカっ!」
余計な言葉を投げたリオに、俺は思わず言葉が口を突いて出る。
さっきまで見落としていたが魅了スキルの対象は正確にいうと『効果対象 魅力的だと思う異性のみ』である。これはつまりブスに魅了スキルを間違ってかけてしまい迫られたりしないというわけだ。都合のいいスキルだ。
だが、問題はこの『魅力的だと思う』という表記だ。
……正直に言うとエミの容姿だけなら整っている方だと俺も思う。だが、高圧的な態度に苦手意識を感じていた。魅了スキルはどうやらそこらへんの事情も組んで、やつを魅力的ではないと判断したらしい。
つまり魅力的かどうかは基準は個人の主観によるものということだ。例えばブス専であるなら、ブスにも魅了スキルをかけることも出来るということだろう。
それはいいが……不名誉なことを指摘されたエミはというと。
「……はぁ? 何それ? エミに魅力が無いっていうの? 別にカイの彼女だからそいつに好かれる必要なんてないけど……何かムカつく」
予想通りの反応。自尊心が高く自分の容姿に自信を持っているエミに、魅力が無いなんて言えばどうなるか火を見るよりも明らかだ。
「少なくともサトルさんの中ではエミさんより私の方が魅力的だったということです」
その反応に面白くなったのか、リオは新たな爆弾を投下する。
「リオ、ちょっと黙ってろ!!」
「……絶対に潰す」
あわてて命令するも時すでに遅し。ドスの利いた恐ろしい言葉が聞こえた気がする。
「もう、そんなに怒ったら愛らしい顔が台無しだよ、エミ」
「……でも、カイ。あいつが」
「大丈夫だって、俺の中ではエミが一番だから」
「カイ……っ!」
エミのご機嫌を取る彼氏のカイ。これで一件落着――。
「(キッ……!)」
とは行かないようだな。カイに抱きつきながらも、こっちを睨んでいる。
怖くなってきたためそちらから視線を外すが、その移動先であるクラスメイトの女子たちにも敵意を向けられていた。
「リオさんに勝っていると自惚れるつもりはないけど……こうも魅力がないと思われると癪だわ」
「ボッチのくせに生意気」
「あんたの方が魅力無いわよ」
エミと同じように他の大多数の女子を俺は魅力的だと思われなかったわけで、その扱いに腹を立てられている。
とはいっても教室というのはその人の素が出るものだ。一目惚れという言葉があるように内面を知らない方が夢を見れる。
つまり内面を知ってまで魅力的と思えたクラスメイトはリオだけということに…………いや。
「ですがそうなりますと、ユウカも魅了スキルにかかっていないのは彼女を魅力的に思っていないからということになりますが……どうなのでしょうか、サトルさん?」
「ほんとおまえも懲りないよな。それにちょっと黙ってろと命令したよな……魅了スキルで
「ですからちょっと黙ってましたよ」
微笑を浮かべるリオ。どうやら命令内容の曖昧な部分は受け手側が解釈出来るようだ。一時間は黙っていろと命令するべきだったか。
「うーん……でも、それは俺も分からないんだよな……」
エミや他の女子が魅了スキルにかからなかった理由は分かったが、委員長のユウカが魅了スキルにかからなかった理由が分からない。
容姿や性格、異世界に来てすぐみんなをまとめた度胸、全部評価しているし特に悪い印象は持っていない。
「親友の私が言うのも難ですが、非の打ち所が無い美少女ですし、性格も文句無いですよ」
「……まあ、その、俺もそう思う……って何言わせてるんだ」
「ノリツッコミですか、面白い人ですね」
ああもう余計なことを口走ってしまった。リオが相手だと調子が狂う。
「も、もうそんなに誉めても何も出ないって!」
ユウカにも聞こえていたらしい。恥ずかしいやつだな俺。
「でも……このままだと………………なら」
「……?」
ぼそぼそつぶやいたユウカは何やら決心をした顔で告白した。
「私もサトル君の魅了スキル……かかっているかもしれない」