2話 魅了スキル、暴発
暴発してしまった魅了スキル。
その効果と思われるピンク色の光の柱は1秒ほど光った後に消える。
俺は周囲を見回すとクラスメイトたちは何が起きたのかと一様に疑問顔を浮かべていた。光に攻撃力は無かったようで誰も傷ついている様子はない。
「………………」
えっとこれはどうなるんだ……?
俺は事態を理解するために『魅了スキル、発動します』という表示から戻ったスキルの詳細画面をもう一度見てみる。
スキル『魅了』
効果範囲:術者から周囲5m
効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ
・発動すると範囲内の対象を
・
・
・元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない。
・一度かけたスキルの解除は不可能。
効果範囲5m……ちょうど今、光の柱が立ち上がったのがそれくらいの範囲だった。ということはクラスメイト全員に魅了スキルをかけてしまったということだ。
ということは……えっ、男たちにもかけてしまったのか!?
クラスメイトは全員で28人。男女ともに14人ずつである。俺以外の13人の男子が俺の
「今の光……何なんだ?」
「特に変わりはないが」
「えっと……トオルだったか、おまえの仕業なのか?」
男子たちの様子は変わりない。というか名前を間違えられる始末だ。俺はサトルだっつうの、教室じゃ空気みたいな存在だったから名前を覚えられてなくてもしょうがないけど。
でも、これはどういうことだ? 魅了スキルが失敗した様子は無かったし……と、考えて気づく。
あ、効果対象に『異性のみ』って書いてあるな。つまり対象じゃない同性、男には効果がないのか
ならば女子14人には全員かかったのか……と、見てみるが。
「その変な浮かんでるやつ何なの?」
「ステータスって……ゲームとかで見るあれ?」
「さっさと教えなさいよ」
女子たちの様子も変わりがない。どころか、ろくに説明しない俺に対して剣呑な視線を向ける者もいる。
おかしいな……ウィンドウの表示からして、スキルはちゃんと発動したはずだ。それなのに
一体何が起きているのか、混乱しているところに拍車をかける出来事が起きる。
「えいっ♪」
背中に衝撃を受けたかと思うと、後ろから誰かに抱きつかれたのだ。
俺は首だけ振り向いてその者を確認する。
「リオさん……何しているのでしょうか?」
クラスメイトなのに思わず敬語で聞いてしまう。
いや、スクールカースト上位の美少女に突然抱きつかれたら、誰だって面食らうだろう。
「駄目でしたか、サトルさん?」
「え、あっ、いや……」
理由を聞いたのに質問が返ってきてあたふたする俺。その間もリオは俺に抱きつくのをやめない。おっとりしている中にも芯のある彼女らしい行動。
どうしていきなりこんなことを……リオとは同じクラスだが、ほとんど話したことがない。当然だ、相手はクラスの中心的グループの一人に対し、俺は隅でひっそり生きているだけの人間だったから。
なのに今こうして抱きつかれている。その表情は無理やりや強制によるものではないとはっきり示すように、まるで彼氏彼女のような好意を俺に向けているのが見て取れた。
……好意? もしかして魅了スキルが関係するのか? でもどうして他の女子にかからず、リオにだけ効果が現れて……。
「リ、リオっ!? 何してるの!? ちょっと離れなさいよ!」
委員長のユウカが気づいて注意する。クラス二大美少女とも呼ばれるユウカとリオの二人は親友だったはずだ。親友の奇行を止めたいのだろう。
しかし。
「ユウカの言葉でもそれは聞けません」
「は?」
「え?」
きっぱりと断ったリオに俺もユウカも間抜けな言葉を漏らす。
その隙に俺の腰に抱きついていた腕を首元まで回して上体を起こしたリオは、しなだれかかるようにしながら俺の耳元で囁く。
「ねえ、サトルさん。私、もう抑えられないんです」
「な、何が……?」
呑まれっぱなしの俺はしどろもどろになっている。
体勢を変えたことでリオの二つの膨らみが背中で押しつぶされてその柔らかさを伝えてくる。彼女いない歴=年齢の男子高校生の俺には耐え難い刺激だ。
ステータスウィンドウを開いていたこと、魅了スキルを暴発したこと、そしてクラスの有名人であるリオに抱きつかれていることで、ここまでクラスメイト全員の視線を俺は集めている。
その注目の中でリオは爆弾発言を投下した。
「私と子作りしませんか?」
「……、……、……。……なっ!??」
余りに衝撃的すぎて数瞬も脳が理解を拒んだ。
そしてようやく驚く反応を取れた俺と同じくして。
「リ、リオっ!? な、何を言っているの!?」
「これは……」
「そうよ、考え直しなさいよ、リオ!!」
「リオってその冴えないやつが好きだったの? 趣味悪っ」
「リオさんがぁぁぁぁぁっ!? どうしてあんなやつに!?」
周囲のクラスメイトも口々に叫ぶ。かなりのオーバーリアクションを取っている者もいるようだ。
自分よりも驚いている人間がいると逆に落ち着くことが出来るということで、俺は幾分か正気を取り戻す。
このままじゃまずい……何がまずいかはよく分からないが、とにかくまずい。リオから離れなければ。
「ぐっ…………って、動かねえ!?」
俺は首元に回されたリオの腕を力ずくで離そうと手をかけるが……ビクとも動かない。どうやら力はあちらの方が上のようだ。男なのに女に力で負けて少々凹む。
「もう、照れ屋さんですね。でも逃がしませんよ」
俺の抵抗を涼しい顔で受け流したリオの言葉。
深呼吸をして心を落ち着けてから、俺は質問する。
「どういうつもりだ? 何が狙いだ?」
「人を腹黒みたいに言って酷いですね。純粋な好意ですよ」
「これまで特に接点が無かったのにこんなことされたら裏を警戒するもんだろ」
「それにつきましてはさっきの光を浴びてからどうにもサトルさんが愛しく思えてきて」
「光……やっぱり魅了スキルが影響して……」
会話している間もどうにか拘束を外そうと試みるが、まるで子供のようにいなされる。さすがにここまでの力の差はおかしいと思って気づいた。
そうか、俺の魅了スキルと同じようにリオも異世界に来て力を授かっているはず。その影響なんだろう。
そして一連の会話からリオに魅了スキルがかかっているらしいことも判明する。
『
急に抱きついて子作りをせがむほどの好意を持ったのは魅了スキルによるものだろう。どうして他の女子に変わった様子が無く、リオにだけ効果が発揮されたのかは分からないが、ならば出来ることがある。
「まあそんなことより子作りです。皆に見られるのが恥ずかしいなら、そこの森にでも入って……」
「互いに愛し合っていない関係でそんなこと出来るか。――離れろ、これは命令だ」
『
魅了スキルの効果の一つ。
それによってあんなにも固執していたリオが自分から抱きつくのをやめて俺と距離を置いた。
「……あれ?」
自分で自分が何をしたのか理解できないように手元を見つめている。命令に身体が従うということで、心の方の理解が追いついていないのだろう。
異性に好意を抱かせて命令できる……ちょっと不明な部分もあるが、魅了スキル、これチート過ぎるだろ。