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恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件 作者:雷田矛平

1章 魅了スキル

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1話 クラス転移

 中学に入学して、席が隣だったことから交流が始まったクラスメイトの女子がいた。


『あ、ごめん! 消しゴム貸してくれる?』

『ちょっと、それ面白すぎ!』

『あー、そうだそうだ。一緒に帰ろーよ!』


 忘れ物を貸しあったり、ちょっとした冗談で笑いあったり、タイミングがあえば一緒に帰り道を歩いたり……。


 俺はそんな彼女に次第に惹かれていった。




『好きです! 付き合ってください!!』


 ある日の体育館裏、俺は呼び出したその子に対して右手を突き出しながら頭を下げた。

 告白するのは初めてだった。

 断られるとは思っていなかった。

 どっちから告白するかだけが問題で、ここは男である俺からだろうと一念発起して行動した結果だった。




『……あー、勘違いしちゃったか。女慣れしてなくてからかうの面白かったよ、おもちゃ君』




 俺は男として、いや人間として見られていなかった。


 両思いだと思っていたのは……幻想で。


 自分の都合の良いように思いこんでいたのだ。




 このときから俺はその失敗を否定するように――恋愛アンチになった。






「…………っ!!」


 俺はバッと目を開く。

 またあの夢か……。


 あれから三年経ち、遠くの高校に進学して中学のメンツとは顔を合わすこともなくなった。

 それなのに今でも夢に見るトラウマ。朝から嫌な物を思い出してしまった。


「ていうかいつの間に寝てしまったんだ?」

 今日は月曜日、一週間の内で一番憂鬱な日。

 登校した俺は喧噪溢れる教室をかき分け自分の席に座ったが、駄弁る友達もおらず授業の予習をするほど真面目でもないため、机に突っ伏し寝たフリを始めたはずだった。

 なのに寝オチしたのか……? 確かに昨日は夜遅かったが……。


 少しの混乱と共に地に伏していた体を起こす。

 そして周囲の状況を確認したところで――それ以上の混乱に陥った。


「ここは……どこだ?」

 目の前にあったはずのカバンや机、それどころか教室すら無くなっている。

 現在地は屋外。中央に身長ほどの高さのある石碑が鎮座している広場。どうやら俺は……俺たちはそこに寝ていたようだ。


「何が起きたんだよ?」

「え、私たち教室にいたはずだよね?」

「集団誘拐……いや、でも……」

 そうだ、この変事にはクラスメイトたち――数えてみると俺を含めて28人全員いる、ちなみに先生はいない――も巻き込まれているらしい。だが、俺と同じように事態を飲み込めていない。




 何が起きたのか、俺は少し記憶を振り返してみる。

 そういえばいつも通り寝たフリをしていて……でも、ある時ピタリと教室中の話し声が止まったんだったっけ? 珍しくはあるが、不思議ではない。俗に天使が通ったとか言われる現象だ。

 問題はその後だ。クラスメイトたちが理解できないといった様子で。


「何……この模様?」

「これってアニメとかである魔法陣……?」

「つうか何か光ってるぞ……!?」


 そんなことを口にして、俺も異様な雰囲気に目を開けようとして……その後の記憶は途絶えている。




「魔法陣か……見てはいないけど、超常的な現象に巻き込まれたってところか?」


 自分でも荒唐無稽なことを言っているとは思うが、現状を見るに認めざるを得ない。

 広場の外は森に囲まれている。学校の近くにこのような場所は無かったはずだ。俺たちクラスメイト28人全員に気づかせないまま学校から遠くまで運び出すといった芸当が常識的に出来るとは思えない。

 だとしたら……俺たち全員を一瞬で別の場所に転移させるような、魔法が発動されたのだと考えるしかない。


「いや魔法と決めつけるのは早すぎるか……? 全員を催眠ガスのようなもので眠らせてから運べば……でもその場合流石に他のクラスや先生たちが気づいて警察に連絡するはずだし……」


 俺が現実的な可能性も検討を始めたそのとき。


「みんな見て!! この石碑なんだけど……」


 クラスの委員長、ユウカがみんなに呼びかける。その声に従って石碑の前に集まると、そこにはこのような文章が書かれていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 異世界の子らよ、まずは謝らなければならないでしょう。


 申し訳ありません。


 この世界に突然呼び出したことを。


 混乱しているであろう、あなたたちに使命を課すことを。


 無礼は承知…す。


 で…がこの手段しか無かっ…のです。


 この世…に散っ…渡世とせ宝玉ほうぎょくを集め…くだ…い。


 そ…がこの世界…救い、…なた…ちを元…世界に戻す…しょう。


 為すた…の力は…なた…ちに分…与えま…た。


 武運…祈っ…いま――――――――


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 途中から記述が霞んできて最後の方に至っては途切れている。これが限界だったという事だろうか?

 必死さは伝わってくるが、それを汲んでやるには現状がキツすぎた。


「異世界の子……って、ここ違う世界なのか?」

「勝手に呼び出しておいて、使命って何なのよ!?」

「つうかさっさと元の世界に返してくれよ!!」


 石碑に罵声を浴びせ始めるクラスメイトたち。

 当然ながら返事はない。

 だが、その行為を一向に止めようとしない。


 こんな事態に巻き込まれて参っていたんだろう。今までは不平・不満をどこにぶつけていいのか分からなかったが、こうして主犯らしい者が残したメッセージが見つかった。感情を爆発させてしまうのは仕方ないことだ。


「早く出てこい!!」

「ドッキリなんだろ!! どこかにカメラでもあるんだろ!!」

「お母さん……っ」


 しかし、ヒートアップしすぎている。

 このままでは集団パニックに陥る。それはマズい……と思ったそのとき。


「みんな落ち着いて!」


 毅然とした声を上げたのは先ほど石碑を見るように呼びかけた委員長のユウカだった。

 整った顔立ちに手入れの届いた黒髪。学業優秀で容姿端麗ながらも、お高く止まらず気さくに接してくれることで、男女問わずに慕われている。クラス内のカーストの頂点に位置する人物である。


「落ち着いてって……でもどうすればいいの、ユウカ」

 異世界でも変わらない調子のユウカに、突然の事態で憔悴したクラスメイトたちは縋る。


「まずは現状を認識しないと。どうやら私たちは違う世界ってのに呼びだされたみたい」

「だからその違う世界ってどういうことだよ!? この世界は何なんだ!? どうして俺たちが呼び出されたんだ!?」

「それは……私にも分からない。でも元の世界に帰る方法はそこの石碑に書かれている」

渡世とせ宝玉ほうぎょく……っていうのを集めるんだよね?」

「そうみたいだね」

「そんなの集められるのかよ!? そもそもそれはどこにあるんだ!?」

「分からない、でも――」

 ユウカに文句を言っても仕方が無いのに、ユウカは嫌な顔をせず一人一人の不安を解きほぐすように答えた後、宣言した。




「絶対にみんなで元の世界に戻ろう!! 私たちクラスメイト28人が団結すれば、不可能な事なんて無いはずだよ!」

 根拠など無いはずなのに力強く断言する。




「……そうだな、現状を嘆いたところで何が始まるわけでもないし」

「私たちなら出来る……うん、そうだよ」

「訳わかんねー事態だけど……頑張ってみるか」


 するとそれに触発されるように、ポツポツと前向きな言葉が口をつき始めた。


「一応収まりはしたか……」

 毅然とした態度で応えることでみんなの不安を和らげて、元の世界に戻ると目標を掲げることで現状の不満から目を逸らさせる。

 誤魔化しな面もあるが、パニックを防ぐのには十分だ。


「ほっ……」

 ユウカがみんなの注目を外れた場所で胸をなで下ろしている。

 それだけ緊張していたという事だろう。確かに簡単なことではない。ユウカが少しでも不安を見せれば、たちまちこの場が崩壊していた可能性だってある。


 しかしそれでも成し遂げた。

 俺にはそこまでの度胸はないし、もしやれたとしてもクラスでの影響力皆無な俺では意味がない。

 ユウカの胆力とカリスマが為した結果だ。


 感心していると、ふと気になることを思い出した。

「為す……そういえば石碑にそんなこと書いていたな」

 気になってもう一回見てみると『為すた…の力は…なた…ちに分…与えま…た。』とある。かすれているが『為すための力はあなたたちに分け与えました。』といったところか?


 つまりは呼び出した者が、俺たちに力を分け与えた。

 渡世とせ宝玉ほうぎょくとやらをその力を使って集めろということなのだろうが……一体何の力を与えられたんだ。


(どうにか力を確認したいところだが)


 と、思考したところで、音もなくホログラムのようなウィンドウが目の前に展開された。


「……は?」


 テレビの次世代技術特集で見たことがあるような光景。いや、そのための機材が見当たらないのでそれ以上だ。


 驚きながらそのウィンドウを確認すると枠の上部に『ステータス』と書かれている。

 これは……あれか? ゲームとかによくあるステータス画面ってやつか?

 だとすると力を確認したいという思考に反応して展開されたという事だろう。どういう技術だ? いや、異世界だとしたら、超常の力が働いているとかなのか?


 ステータス画面枠内の一番上段には『名前ネーム:サトル』と俺の名前が書いてあり、その横に『ジョブ:冒険者』と表示されている。筋力値などのパラメーター数値は存在しないタイプのようで、画面の残り9割はスキル欄という項目が占めていた。


「もうちょっとレイアウトのバランス考えろよな……スキルが一つしかないからスカスカじゃねえか」


 そう、俺には一つだけスキルが備わっていた。

 これが分け与えられた力なのだろう。

 『魅了』とだけ書かれている。


「どんなスキルなんだ?」


 試しにその『魅了』という表示をタッチしてみると、どうやら反応したようで詳細が展開される。




 スキル『魅了』


 効果範囲:術者から周囲5m

 効果対象:術者が魅力的だと思う異性のみ


・発動すると範囲内の対象をとりこにする。

とりこになった対象は術者に対して好意を持つ。

とりこになった対象は術者のどんな命令にも身体が従う。

・元々対象が術者に特別な好意を持っている場合、このスキルは効力を発揮しない。

・一度かけたスキルの解除は不可能。




「これは……」

 思っていたより説明が長く細かい。もっとこう『対象をメロメロにする』みたいな短文を想定していた。

 とりあえず俺に唯一備わっているスキルの力を確認していると。


「ねえ、サトル君。それ何なの?」

「っ……委員長!?」

 委員長のユウカがいつの間にか近くまで来ていて声をかけられた。

 教室の隅でひっそり生きていた俺とはほとんど接点が無いのに、こちらの名前を覚えている辺りが人気の秘訣の一つなのだろうか。そんなどうでもいいことを考えてしまう。


 しかしどうしてこのタイミングで声をかけられたんだ……? と少し考えて当然のことだと判断した。

 気づけばクラスメイト全員が俺の方を、正確には俺の少し前方を注目していたからだ。どうやらこのステータス画面というのは俺以外にも見えているようだ。

 異世界で未だに右も左もよく分からない中、偶然とはいえステータスを開き覗いている人間がいれば目立つ。声をかけられて当然だ。


「えっと、これは……」

 周囲の目を気にするのを忘れていたのは失態だ。さて、どう説明すればいいのかと慌てている間にも。

「スキル……魅了……? 効果が…………」

 気になるのかユウカの視線は俺の開きっぱなしのステータスウィンドウの文字を追っている。


 まずはステータスを閉じるか。文字が小さいため近くにいるユウカにしか読まれていないようだがそれでも気になる。その後偶然見つけたステータス確認方法をみんなにも教えればいい。


 俺は判断して行動に移そうとするが、そこで一つ問題があった。

 どうやってこのステータスを閉じればいいんだ?

 開いたときと同じように(ステータス閉じろ!)と思考してみるが反応はない。

 だったら魅了スキルの詳細を展開したように、ウィンドウにタッチすればいいのか? でもどこをタッチすれば………………。




 ――後からの結論なのだが、ステータス画面枠の右下に小さく×のマークがあり、そこにタッチすればステータスを閉じることは出来た。


 しかし閉じるといえば右上という固定観念を持っている俺はテンパってたこともあり気づけない。


 とりあえず画面の中央辺りをタッチすると。




『魅了スキルを使用しますか?』




 という表示が出てくる。

 いやいや、今は使用している場合じゃねえ! いいえだ!




『いいえ はい』




 俺は迷わず右をタッチして…………タッチした項目を二度見した。


 ………………。


 ………………。


 ………………。




「……このクソUIユーザーインターフェイスがっ!!!」




 思わず叫んだ俺を誰が責められるだろうか。


『魅了スキル、発動します』


 そんな表示が出るとともに、効果範囲の周囲5m――石碑の前に集まっていたクラスメイト全てをその中に捉えてピンク色の光の柱が立ち上がった。




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