第268話 共闘する
少しだけ遅れて、ルリイ達も反応する。
「えっ! この魔力反応……!」
「さっきまではなかったのに!」
「ああ。『戦技を極めし者』だな」
ルリイ達も、魔力反応に気付いたようだ。
ただの魔力反応なら、ルリイ達も気付かなかっただろう。
だが相手の魔力反応は、魔物のものとも、ただの人間のものとも違った。
もっといびつで、不自然な魔力反応だ。
「この魔力反応って……『壊星』のせいですか?」
「……違うな。同じ『壊星』で蘇生したグレヴィルの魔力反応に、こんな不自然な部分はなかった」
魔力反応の不自然さは、『壊星』によるものというより……もっと雑で低品質な加工が施されている印象だ。
前世の時代で、人間の魔力回路を無理やり組み替えることによって紋章の特徴を改変するという人体実験が行われたのだが……その実験体と似ている気がする。
……その研究に俺は関わっていないので、詳しいことは知らないけどな。
「隠蔽魔法を解除したんだろう。……逃げも隠れもしないという意思表示だ」
「不意打ちを仕掛けられる状況なのに、わざわざ姿を現したってこと?」
「ああ。……連中は別に俺達を殺すのが目的な訳じゃないからな」
『戦技を極めし者』の目的は、あくまで戦うことだ。
不意打ちなどを仕掛けて勝っても『戦技を極めし者』にとっては全く嬉しくないだろう。
「だったら、殺さなければいいのに……」
「本当にな。……連中がただ戦うだけで殺さない存在なら、放っておいてもよかったんだが」
そんなことを話しているうちに『戦技を極めし者』との距離が詰まってきた。
「来るぞ、気をつけてくれ!」
そう言って俺は、ルリイ達を守るように数歩前に出る。
そんな俺の前で――一人の男が立ち止まった。
「『強制探知』を使ったのは……お前だな」
男は、ボサボサの髪に髭を生やしている。
目は血走っており、その息は荒い。
――明らかに、普通の状態でなかった。
だが、それは戦闘のことばかり考えているせい――ではないだろう。
いびつな蘇生により、体がボロボロだ。
これでは本来の力の10分の1も発揮できないどころか、むしろ生きているのが不思議なくらいだ。
それでも上位の冒険者を倒せるあたり、流石は『戦技を極めし者』といったところか。
「そうだ」
俺はそう答えて、男に相対する。
黙って攻撃を仕掛ければ、この男を倒すのは簡単だ。
だが、こいつをただ倒してしまうと、俺は2人目の『戦技を極めし者』をイチから探さなければいけないことになる。
こいつには、ちゃんと他の連中を俺のもとへと案内してもらう必要がある。
「美しい魔法だった。魔力に一切の無駄は感じられず、まるで前世の精鋭の魔法戦闘師が使うような術式だ」
「……それで?」
「その腕を見込んで、この『戦技のミラ』と手合わせを願いたい。……無論、アレを処理してからだが」
そう言って男が、俺達に背を向ける。
そこには『強制探知』で集まってきた魔物が、こちらへと走ってきていた。
『……手伝ってくれるのかな?』
『と見せかけて、不意打ちを仕掛けられる可能性とかは……』
敵の目の前で背を向けた『戦技のミラ』を見て、ルリイとアルマが困惑の声を上げる。
『戦技のミラ』の、行動原理が理解できないのだろう。
……まあ、これは戦闘自体を目的にして生きたことがある奴にしか分からない感覚なのだろう。
『不意打ちはない。……あいつからすれば、俺達はやっと見つけた戦闘の相手だ。不意打ちで殺すなんてもったいないだろ? まずは邪魔な雑魚を処分してから、万全の状態で戦いたいと思うはずだ』
『敵を倒すのが、もったいない……?』
『わ、訳が分かりませんけど……マティ君は分かるんですか?』
『ああ。……まあ、それで戦った相手の人間を殺してしまうのは分からないけどな』
そう言いながらも俺は、突っ込んできた魔物を剣でなぎ払う。
倒した魔物は、猪の姿をしていた。
……そこまで強い魔物ではないが、恐らくDランクは超えているだろう。
そんな俺の剣を見て、『戦技のミラ』が呟く。
「いい剣の腕だ。この時代には雑魚しかいないと思っていた。……殺すのが惜しいくらいだな」
「……誰が誰を殺すって?」
「俺が、お前をだ。敗者には死を。俺はいつもそうしてきた」
言いながら『戦技のミラ』が、近くに来た魔物をなぎ払った。
『戦技のミラ』の剣を受けた魔物が、斬られたことにすら気付かないまま数歩進み――そこで真っ二つになって倒れた。
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