第267話 最強賢者、目的を果たす
『こ、こんな裏技があったんですね……』
『……でも、700匹の魔物を倒さなきゃいけないのには変わりないんだよね?』
『まあランクなんて、元々短時間で上がるようにはできてないだろうからな……』
ギルドのランクは本来、何年間もかけてゆっくり上げていくものなのだろう。
それをたったの1日で上げようなどというのが、そもそも無理筋なのだ。
『でも、特別昇格を断ったってことは……もっと早い方法があるんですよね?』
『……ああ。とはいっても、前と同じやり方だけどな』
『アレですか…』
『ああ。アレだ』
前にラジニア連合でギルドランクを上げたとき、強制探知を周囲にバラまいて魔物をかき集め、片っ端から倒して依頼を達成した。
あの方法を使えば、700匹の魔物を倒すくらいは簡単だろう。
『セニシエ平原は広いですし、あの方法に向いていそうです!』
『……逆に広すぎて、魔物が集まりすぎないか心配だけど……』
『そこは『強制探知』の出力を調整すれば大丈夫だ』
そう相談しつつ、俺達は支部長に礼を言ってギルドを出た。
さあ、サクッとランクを上げてしまおう。
◇
それから少し後。
俺達はセニシエ平原の、街から離れた場所にいた。
ここでなら『強制探知』を使っても、街に迷惑がかかることもない。
「……準備はいいか?」
「もう2回目ですし、大丈夫です!」
「いけます!」
「なんかちょっと、嫌な予感がするんだけど……まあ、準備はできてるよ!」
俺が確認を取ると……ルリイ達3人が、そう答えた。
普通なら、予感がどうとかはあまり気にしないのだが……アルマのカンって、よく当たるんだよな……。
「嫌な予感か?」
「うーん、なんか目当ての魔物じゃなくて、変なのが来そうな気がするというか……」
「ああ。……確かに、変なのが寄ってくる可能性はあるな」
そう言って俺は、『受動探知』で周囲の魔力反応を探る。
俺も大分魔力回路が育ってきたので、『受動探知』の範囲は以前よりだいぶ広くなった。
それでも探知できる範囲内に、強そうな魔力反応は見当たらない。
普通なら、周囲に強い敵はいないと判断するところだが……今回に限っては、探知できない敵がいるんだよな。
まあ、そいつが釣れてくれれば、それはそれで楽ができるのだが。
「変なのって……魔物ですか?」
「いや、人間だ」
「人間……あっ! もしかして『戦技を極めし者』!?」
「そういうことだ」
『戦技を極めし者』は、このセニシエ平原に潜伏している可能性が高い。
セニシエ平原は広大だが、たまたま『強制探知』の効果範囲に『戦技を極めし者』がいる可能性はある。
『受動探知』で『戦技を極めし者』を見つけることはできないが、もし『強制探知』が『戦技を極めし者』に届けば、敵は確実に気付くだろう。
戦いの相手を探している『戦技の追求者』が、俺に喧嘩を売りに来ても、全く不思議ではない。
「魔物が一杯いるところに『戦技を極めし者』まで来たら、大変だね……」
「やってみてのお楽しみだな。……向こうから来てくれるのなら、依頼を受ける手間が省ける」
そもそも、冒険者のランクを上げるのは『戦技を極めし者』と戦うためなのだ。
敵が自分からやってきてくれるなら、まさにラッキーといったところか。
「……魔物と『戦技を極めし者』をいっぺんに相手にして、勝てるの?」
「勝てる。……襲撃を想定して、強制探知の使い方を少し変えておくからな」
俺の言葉を聞いて、3人が頷いた。
確かに前世の時代の『戦技を極めし者』は、強かった。
だが今の『戦技を極めし者』は、ただの高ランク冒険者に手を出すところまで落ちぶれている。
連中は格下にも戦闘を挑むが……極端な格下には手を出さない。
……たまたま被害に遭った冒険者がギルアスくらい強かった訳でもない限り、『戦技を極めし者』は普通の魔族より弱いくらいだろう。
そんなことを考えつつ、俺は『強制探知』を発動する。
「『強制探知』! ……敵は向こうから来るぞ!」
前回は全方位に向かって強制探知をバラ撒いたが、今回は方向を絞った。
全方位にバラ撒いた方が魔物が集まるのは早いのだが、それだと全方位から襲撃されて囲まれることになる。
今回は方向を絞ることで、もし『戦技を極めし者』からの襲撃があっても対処ができる余裕を確保したのだ。
だが……。
「まさか、ここまで早く来るとはな」
俺は周囲の魔力反応を探りながら、そう呟いた。
――ここから1キロほど離れた位置に、急に魔力反応が現れたのだ。
そして――その魔力反応は、急速にこちらへと近付いてくる。
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