第266話 最強賢者、依頼を受ける
「私がここの支部長、ダークフです。……ヒルデスハイマー男爵、先ほどは係の者が大変失礼を致しました。……しかし、彼女も悪気があった訳では――」
なるほど。
そういえば俺は、臨時男爵という扱いなのか。
俺の爵位は人形と戦った時に、あくまで臨時という形でもらったものだが――国王は、俺に臨時爵位を与えっぱなしにしておくつもりらしい。
そのため、例の人形との戦いが終わった今も、俺は臨時男爵のままだ。
「いや、別にそこは気にしていないんだ」
「寛大なお言葉に感謝します、ヒルデスハイマー男爵」
……この貴族待遇、なんだか逆に居心地が悪いな……。
まあ、今みたいな交渉の場面では、多少は役に立つかもしれないが。
「それで、本題なんだが……俺は訳あって、この依頼を受けたいんだ。それか依頼人と会わせてほしい」
「……申し訳ございません。いくらヒルデスハイマー男爵のご命令とあっても、依頼人が決めた必要ランクを破ることはできません。……依頼人に関する情報も、たとえ領主様が相手でもお話しできない情報です」
「もし依頼人が、犯罪者だとしたら?」
それを聞いて支部長が、驚いたような顔をする。
そして……依頼書に目をやってから言う。
「依頼主のピーカス氏が、犯罪者だということですか?」
「その可能性がある」
「……申し訳ありませんが、可能性だけで依頼主の情報をお話する訳にはいきません。証拠でも用意していただければ、すぐにでも開示いたしますが……」
まあ、流石に証拠なしじゃ無理か。
領主でもない余所の貴族が『依頼主は犯罪者かもしれない』と言っただけで依頼主の情報をホイホイ話していては、誰もギルドを信用しなくなってしまうだろう。
……もし捕まえたところで、恐らく依頼を出しているのは『戦技の追求者』に雇われた手下とかだろうしな。
『戦技の追求者』に、ピーカスなんて名前の奴はいなかったはずだ。
ということで、元々の予定通り……ランクを上げる方針でいこう。
「じゃあ、ランクをAまで上げるしかないか。……前に魔族を討伐した件は、昇格条件としてカウントしていいんだよな?」
「もちろんです。……となると必要なのは、Cランクまでの昇格ですが……マティアスさん達なら、ギルドの上にかけあえば特例での昇格が可能なはずです」
特例の昇格か。
国王を通さなくても、そんなことができるんだな。
「……それ、何日くらいかかるんだ?」
「最速で2日、といったところでしょうか」
「遅いな。……それなら、普通に討伐依頼を達成してCランクまで上げた方が早そうだ。……Eランク依頼200回、Dランク依頼500回でいいんだよな?」
幸いここのギルドは、依頼が非常に豊富だ。
魔物を大急ぎで乱獲すれば、1日もかからずに500件の依頼が達成できることだろう。
使った魔力を回復するのにかかる時間を含めても、依頼達成の方が早い。
「……ヒルデスハイマー男爵の実力だと、特例より正規昇格の方が早いですか……。でしたら、いい依頼をご用意しましょうか?」
「いいのか?」
ランクを上げるための依頼を用意してくれるのなら、それはありがたい。
「ヒルデスハイマー男爵は、実力から言ってAランクであるべき方です。多少無理にAランクまで上げたところで、誰も文句は言わないでしょう」
そう言って支部長が、2枚の依頼書を書く。
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種別 :一般依頼
依頼ランク:E
要求ランク:E
報酬 :100エルミ
依頼地 :セニシエ平原
内容 :Eランク魔物1体の討伐
依頼者 :冒険者ギルド
備考 :複数回達成可能
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種別 :一般依頼
依頼ランク:D
要求ランク:E
報酬 :200エルミ
依頼地 :セニシエ平原
内容 :Dランク魔物1体の討伐
依頼者 :冒険者ギルド
備考 :複数回達成可能
――――――――――――――――――――
「この依頼をどうぞ。……私が知る限り、最も簡単に数をこなせる依頼です」
「……これを受けて、Eランク魔物200体とDランク魔物500体を倒せばいい訳か」
「はい。ランクさえ合っていればいいので、実力さえあれば非常に数をこなしやすいかと」
普通の討伐依頼の場合、沢山いる魔物の中から目当ての種類だけを探し出して倒さなければならない。
しかも、1匹の討伐で1回の依頼としてカウントされるかどうかも分からないのだ。
だが、この依頼であれば、適当に魔物を倒して回るだけで依頼を連続で達成できる。
Fランク以下の魔物を倒しても依頼達成と認められないのは弱点だが、流石にこれ以上簡単にすると、Dランク依頼として認められなくなってしまうのだろう。
「……ありがたい」
俺はそう言って、2つの依頼を受注した。
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