第265話 最強賢者、交渉する
「この依頼、受け手がいないんだよな? 必要ランクAの依頼だが、低いランクで受けさせてもらうわけにはいかないか?」
「えっと……必要ランクを下げるには、依頼主さんの同意が必要なので……」
なるほど。
強い冒険者と戦いたい『戦技を極めし者』は、まず下げてくれそうにないな。
やはり、ランクをあげる必要がある。
問題はランクの上げかただが……。
「ランクって、どうやって上げればいいんだ? 今はEランクなんだが……」
俺は受付嬢に、そう聞いた。
もしランク昇格に必要な依頼数が膨大だったり、時間のかかる試験が必要だったりしたらお手上げだ。
その時には、大人しく国王に昇格を頼もう。
数日かかるが、運が良ければまだ依頼は残っているだろう。
運が悪ければ……その時には、また『戦技を極めし者』の探し直しからだ。
高ランク冒険者の不審死でもあれば、そこから辿れるかもしれない。
……被害が増えることになるので、可能ならここで仕留めておきたいが。
ランクアップについて考えていると受付嬢が、1枚の紙を差し出した。
それから、申し訳なさそうに言う。
「これがランク昇格基準ですが……残念ながら、Aランク昇格は難しいと思いますよ? 強い人でもCランクは何年もかかりますし……」
受付嬢が差し出した紙には、こう書いてあった。
――――――――――――――――――
ランク昇格基準一覧表
Eランク昇格 Fランク依頼を50回達成した者
Dランク昇格 Eランク依頼を200回達成した者
Cランク昇格 Dランク依頼を500回達成した者
Bランク昇格 Cランク依頼を2000回達成した者、または災害級魔物の討伐に参加し、活躍を見せた者
Aランク昇格 災害級魔物の討伐に参加し、主力級の活躍を見せた者
――――――――――――――――――
昇格に必要な依頼数が、随分と多い。
今までに倒した魔物を全て依頼扱いだったら、Cランクあたりまでは届いていたかもしれないが……俺が倒していた魔物はほとんど依頼対象外のようだったので、俺のランクはEのままだ。
まあ、今のランクが低いのは仕方がないのだろう。
そもそも、第二学園生がまともにギルド登録してランク認定を受けるようになったこと自体が、かなり最近のことなのだから。
だが、この条件だと……もしかしたら簡単にランクが上げられるかもしれない。
「……魔族は、災害級魔物に入るのか?」
「もちろん入りますよ。災害級魔物の中でも最悪の存在が、魔族です」
「じゃあ……もしEランク冒険者が魔族を単独討伐した場合は、すぐにAランクまで上がるということか?」
俺の質問を聞いて受付嬢は、少しだけ考え込む。
それから、微笑ましい物を見るような顔になって答えた。
「残念ながらBランク以上になるためには、まずCランクになる必要があります。だからEランクが魔族を倒しても、ランクは上がりません。……その後でCランク昇格条件を満たしたら、自動的にAランクまで上がることになりますが」
「……なるほど」
どうやら災害級魔物の討伐自体は、Cランクになる前でもいいようだ。
ということは、俺が以前に魔族を倒したことがギルドの記録に残っていれば、俺はCランクまで上げる分の依頼を達成するだけで、Aランクになれる訳だな。
そんなことを考えていると、受付嬢が諭すように言った。
「でも、いきなり魔族を倒そうとしちゃダメですよ。その年でEランクなら、将来有望な冒険者さんですけど……早くランクを上げようとして、死んでしまったら本末転倒ですから」
受付嬢は俺達を、上級冒険者に憧れる新人冒険者だと思ったようだ。
……新人冒険者という部分はあながち間違っていないのだが。
「……いや、魔族はもう倒したんだ」
「そんな嘘をついてもダメですよ。……魔族の討伐履歴は、ギルドでちゃんと管理しています。嘘をついても、データと照合すれば一発でバレちゃいます」
ほう。
討伐履歴のデータがあるのか。
それはありがたいな。
「じゃあ、データを調べてみてくれ」
それを聞いて受付嬢は、やれやれ、といった感じの表情で肩をすくめた。
そして、あきらめたような顔で俺に聞く。
「分かりました。調べてみますから、ギルドカードを渡してください」
「ああ」
そう言って俺は、ギルドカードを受付嬢に渡す。
俺が渡したカードを見て――受付嬢は驚きに目を見開いた。
「マッ……!?」
それから、俺の顔とギルドカードを交互に見比べる。
受付嬢は少しの間、そうした後――俺に聞いた。
「もしかして……例の第二学園の、マティアス=ヒルデスハイマーさんですか?」
「ああ。そうだが――」
「す、すみませんでした! 支部長を呼んできます!」
そう言って受付嬢が、一目散にギルド内へと走っていく。
少しして戻ってきた受付嬢は、初老の男性を連れていた。
男の名札には、『ギルド支部長 ダークフ』と書かれている。
★新刊発売です!!!★
『失格紋』原作8巻、漫画版が、今月15日に発売しました!
もちろん両方とも、私の書き下ろしがついています!
書籍版も、よろしくお願いします!
拙作『異世界賢者の転生無双』の書籍版が、【4月14日】に発売します!!
書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!