第262話 最強賢者、事情を聞く
「ご説明しましょう。今この世界に訪れている脅威について」
厳重な盗聴対策の施された部屋で、グレヴィルがそういった。
グレヴィルが自分の命と引き換えに無詠唱魔法を広めようとした理由を、ようやく聞かせてもらえるようだ。
「『壊星』という存在を、ご存知ですか?」
「存在だけは知っている。……宇宙の魔物の、破片だよな?」
グレヴィルの問いに、俺はそう答えた。
『壊星』は、前世の時代から存在した、宇宙の魔物――の、死体だ。
今からおよそ5000年前、2体の宇宙の魔物が戦ったことがあった。
ここから100万キロ以上先で起きた戦いにもかかわらず、戦闘の余波だけで当時の文明は大きなダメージを受け、吹き飛ばされた隕石の影響で1つの国が滅んだくらいだ。
俺も友好国から要請を受け、余波から国を守るような結界を作ったことがある。
星を砕き、空を白く染めた戦いは、1ヶ月ほどで決着した。
敗北した宇宙の魔物は砕け、宇宙を漂っている。
その破片が『壊星』と呼ばれていた訳だ。
あの時、宇宙の魔物同士の戦いを見た事は、俺が宇宙の魔物に勝つために転生を決めた理由の一つだったりもする。
「はい。その『壊星』の一部が、この星に降ってきたのです」
「……宇宙の魔物の破片が?」
宇宙の魔物は、物理法則や魔法の法則を超えた存在だ。
たかが死体の破片とはいえ――その影響は推測がつかない。
「はい。……その影響は幸い、直接的にこの星を滅ぼすようなものではありませんでしたが――魔法の常識を凌駕するようなものでした」
「もったいつけないで、結論から言ってくれ」
分かりにくい言葉を使うグレヴィルに、俺はそう言った。
昔からグレヴィルは、こういう言い回しをする癖があったな。
「……分かりました。要するに、死者蘇生です」
――死者蘇生。
それらしい事は、つい最近にも聞いたことがある。
「第六源流にいた魔族か?」
サイヒル帝国の第六源流で、滅んだはずの魔族がなぜか生きていて、グレヴィルと手を組んでいた(実際のところは、捨て駒としてグレヴィルに利用されていただけだが)。
その魔族は、自分が蘇ったようなことを言っていたはずだ。
「その通りです。……第六源流にいた魔族は『壊星』の影響で復活した者です」
なるほど。
納得のいく話だな。
死者蘇生など通常の魔法では不可能だが、宇宙の魔物が関わっているのであれば、驚くには値しない。
宇宙の魔物とは、そういう存在なのだから。
『もしかして、お前もか?』
俺はルリイ達に気付かれないよう、通信魔法でグレヴィルに問う。
今までグレヴィルは不老魔法で生き残ったものだと思っていたが、もし不老魔法を使っていたとしても、前の文明を滅ぼした魔導融合炉の暴走を生き残れるとは思えなかったのだ。
『……ご明察です。私も『壊星』の影響で復活し、なぜか若返りました。……死んだ頃の私は、80歳の老爺でしたよ』
『若返りまであるのか……』
『はい。……とはいえ、蘇生者の中で若返ったのは私だけです。私だけが若返った原因については……見当もついていません。申し訳ありません』
『謝る必要はない。宇宙の魔物絡みの現象のことなんて、分からなくて当然だ』
そう通信魔法で話しながらも、俺はグレヴィルに聞く。
「第六源流にいた魔族は、全て俺が倒したが――まだいるんだな?」
「蘇生した魔族のうち、私が利用できたのはごく一部です。多くの魔族が蘇っていますし――もっと厄介な存在も蘇りました」
「……人間か」
古代文明時代の魔族は確かに危険だが、もっと恐ろしいのは人間だ。
人間は組織を作り、強敵には対策を立てて挑む。
単純な力の強さでは魔族に及ばなくとも、人間相手の方が対処はしにくい。
……まあ、人間の強さは個体差が大きいので、雑魚であれば簡単に倒して終わりなのだが。
「はい。『壊星』による蘇生者の中で、私が最も危険視しているのは……古代の戦闘者集団『戦技を極めし者』です」
――『戦技を極めし者』。
俺の前世の時代に、強さを求めて戦いを続けた戦闘者10人の集団だ。
戦う理由自体は俺と似たようなものだが、『戦技を極めし者』には俺とは違った点が一つあった。
連中は、自分が強くなるためであれば、戦う相手を選ばなかったのだ。
軍人から一般人まで、戦って強くなれる相手とみれば戦いを挑み、そして殺した。
本人達は本気で強くなるためにやっていたようだが、やっていることは連続無差別殺人犯と変わらない。
当然、彼らは殺人者として手配され、最終的には国の命令を受けた魔法戦闘師の手で殺された。
もし彼らが蘇ったとしたら、今の時代では最悪の殺人鬼集団として君臨することだろう。
――そんな内容を、グレヴィルは俺達に話した。
俺はすでに知っていることだが、ルリイ達は知らないので、3人のための説明だ。
だが、俺は疑問に思ったことが一つあった。
19時
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