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失格紋の最強賢者 ~世界最強の賢者が更に強くなるために転生しました~ 作者:進行諸島

第二章

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第261話 最強賢者、戦いを終わらせる


「真の魔法技術?」


「ああ。詠唱を使わない、真の魔法だ。……それを広めるために、私は真の魔法を使っているお前達に負けて、英雄に仕立て上げるつもりだったんだ。……それも失敗に終わったがな」


そう言ってグレヴィルが、機能しなくなった広域型通信用魔道具を見る。

どうやら広域型通信用魔道具は、そのためにあったようだ。


あれを使って大々的に宣戦布告をし、王都大結界を破壊して力を示す。

その上で俺達に敗北し、その様子を中継で流せば、俺達を英雄に仕立て上げられると踏んだのだろう。

そして英雄の技となった無詠唱魔法を学ぼうとする者は増え、無詠唱魔法が普及する……という訳か。


……正直、うまい手とは言えないな。

そんなことをしなくても、王立学園の手によってちゃんと無詠唱魔法は広まっていくだろうに。

むしろ無詠唱魔法が『一般人には使いこなせない、英雄のための技術』という認識でも固まってしまえば、逆に普及を遅くすることになる。


だが、グレヴィルらしいといえばらしいな。

グレヴィルはいつでも、どうやったら国がよくできるか考えていた。

そのグレヴィルが魔族と組んで人類に宣戦布告したということを、俺はとても不自然に感じていたのだ。


しかし、これで納得がいった。

グレヴィルは失われた魔法技術を取り戻すべく、このような荒療治に出たのだ。


「……どんな目的であろうと、私は魔族を操って人類に宣戦布告をして、人類を魔族から守る結界を破壊した。……その罪は死をもって償うつもりだが、その前に私の話を聞いてほしい。……真の魔法技術を、君たちに継承してほしいんだ」


「真の魔法技術というのは『一般魔法教本』のことか?」


そう言って俺は、収納魔法で『一般魔法教本』を取り出した。

グレヴィルが関わった場所で、何故かよく見かけた本だ。


この本をよく見かけるのは不自然に思っていたが、グレヴィルが無詠唱魔法を俺達に教えようとしていたのなら納得がいく。

『一般魔法教本』はお世辞にもクオリティが高いと言える本ではないが、あの時代に最も有名だった魔術教本であることに間違いはないからな。


「その通りだ。……だが、その『一般魔法教本』は古代文明語で書かれているから、今の人間が読むのは難しいだろう。私が現代語に訳したものが、この部屋にある。……受け取ってはもらえないか?」


そんなことまでしていたのか。

その努力のことを考えながら――俺は答えた。


「断る。あんな本を現代語に訳されてたまるか」


「……頼むよ。本物の魔法を使いこなせなければ、これから先の世界で人類が生き残ることはできない。確かに君たちは本物の魔法を扱っているようだが、我流ではいつかつまずく時が来る。……この本には、ガイアス様を含む古代の魔導師達の英知が収められている。きっと君たちの力に――」


「もう一度言うが、いらん」


俺に断られてなお、グレヴィルは俺に本を押しつけようとする。

そんなグレヴィルに、俺は通信魔法で言った。


『俺がそのガイアス本人だ。だからそんな本は必要ない』


『……は?』


その言葉を聞いて、グレヴィルは信じられない顔をする。


『手紙なら出しただろう。確か『転生します。探さないでください』と書いたはずだが……届かなかったのか?』


『そ、その手紙は確かに受け取りましたが……まさか、本物?』


『本物以外に、誰が俺の出した手紙の内容を知っているんだ。……まさか、グレヴィルに魔術教本を押しつけられる日が来るとは思わなかったぞ。しかも、こんな間違いだらけの本をな』


そう言って俺は『一般魔法教本』を見る。

俺がいなければこんな本でも役に立ったが、今から魔法を教えるなら、俺が作った教本の方がよっぽどいい。


『……ああ、ガイアス様。まさか本当に転生されていたとは……』


そう言ってグレヴィルは、涙を流した。

その様子を見て、ルリイ達が困惑する。


「え、何でこの人、急に泣き始めたの?」


「本を断られたのが、そんなに悲しかったんでしょうか……」


これ以上、通信魔法で話すのはやめたほうがよさそうだな。

そう考えて俺は、声に出してグレヴィルに伝えることにする。


「……本はいらんが、罪は償ってもらおう」


「分かっています。私はこの命をもって――」


「断る。……死んでも何の意味もない」


そう言って俺は、グレヴィルの言葉を遮った。

グレヴィルに死なれては困る。


「生きて役に立ってくれ。……無詠唱魔法を教える人手が足りていないんだ」


なにしろ、グレヴィルは古代魔法をしっかりと学んだ、今の時代では絶滅危惧種とも言っていい人間なのだ。

しかもグレヴィルには絶望的に才能がなかったため、才能が無い人間でも無詠唱魔法を扱う術をよく知っている。

無詠唱魔法を教えるための人材としては、俺以上の適任と言っていい。


俺の言葉を聞いて、グレヴィルは目を見開いた。

信じられないと言った表情だ。


「私が、無詠唱魔法を?」


「ああ。ただし教科書は、これを使ってもらうけどな」


そう言って俺は、グレヴィルに第二学園の教科書を渡した。

その中身を見てグレヴィルが、叫び声を上げる。


「こ、こんな完璧な教本がこの世に存在したなんて! ……いったいどこで、この本を手に入れたんですか?」


「俺が書いた」


俺の言葉を聞いて、グレヴィルが納得のいった顔をした。

そしてグレヴィルは、涙を流しながら跪く。


「……この命、魔法教育に捧げさせていただきます」


「ああ。頼んだ」


――こうしてグレヴィルとの戦いは、終結を迎えた。



それから、2週間後。

破壊された結界の修復が終わった頃、第二学園に新たな魔術教師が就任した。


こんなに早く就任が決まったのは、俺がエデュアルト校長を通してねじ込んだからだ。


「本日から学園に、新たな先生が来られました。……グレヴィル先生です!」


グレヴィルが拍手とともに、学園生達に出迎えられる。


広域型通信魔法で王都に宣戦布告をしたのがグレヴィルだということは、俺とルリイ達しか知らない。

あの時、グレヴィルが魔族に変装していたのが功を奏した形だ。


「新人教師のグレヴィルです。無詠唱魔法のことなら、何でも聞いてください」


グレヴィルはそう言って、そこそこ複雑な魔法を組んだ。

限界まで複雑な魔法を見せず、生徒が分かるギリギリのラインでとどめているあたり、やはり教師には向いているのだろう。


もちろん、グレヴィルのような身元不明の人間がいきなり第二学園の教師になるのには、反発もあった。

だが最初は反対した教師達も、グレヴィルの圧倒的な魔法知識を見て、『魔法教師として、第二学園に必要な人材だ』と、認識を改めたようだ。

実際、グレヴィルがいるといないとでは、生徒達に教えられる内容のレベルが変わってくるだろう。


まだ信頼されてはいないだろうが、信頼はこれから積み重ねていけばいい。

グレヴィルであれば、絶対に信頼を築けるはずだ。



その翌日。

俺はルリイ達とともに、第二学園へと来ていた。


話したいことがあるから、グレヴィルの部屋に来てほしいと言われたからだ。

第二学園の教師には、第二学園内に自室が用意されているのだが……。


「……随分と厳重だな」


グレヴィルに案内されて部屋へと辿り着いた俺は、そう呟いた。


部屋には、過剰なまでに多くの結界が張られていた。

この部屋には単純な防御用のものから盗聴防止用、魔力遮断用まで、100枚近くの結界が存在する。


部屋の半分以上を、結界のためのスペースが占めているほどだ。

床も、重ねられた結界の厚みで1メートルほど高くなっている。


「これでも、十分かどうかは分からないんですけどね」


「……何のために、ここまでの警戒網を?」


「それを話すために、マティアスさん達をこの場にお呼びしました。……私があのような無茶な手を使ってまで、この世界に無詠唱魔法を広めた理由にもつながる話です」


そう言ってグレヴィルは、俺達を部屋へと招き入れる。

今までこの話をしなかったのは、この部屋の対盗聴結界がなければ話せないということか。


敵が生半可な魔族などであれば、グレヴィルが持っていた『破壊の光』でも撃ち込めばそれで済む話だ。

また、普通の魔族相手なら、ここまで厳重な盗聴対策は必要ない。


しかしグレヴィルは、あんな無茶な真似をして、自分の命と引き換えに俺を英雄に祭り上げてまで、無詠唱魔法を広めようとした。

そこまでしたのは、他の方法では対処ができないと考えたからだろう。

この部屋に施された結界も、そうする必要があると判断したからのはずだ。


グレヴィルにそこまでさせる相手など、想像もつかないが……話を聞けば分かることか。


「分かった。話を聞かせてもらおうか」


俺はそう言って、グレヴィルに向き合った。


……どうやら、グレヴィルの起こした騒動が終わったから一安心、という訳にはいかないようだな。

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