第260話 最強賢者、目的を見抜く
この戦いは、前の魔族との戦いのように長引いたりはしない。
グレヴィルは魔族のように頑丈ではないし、防御力を補うような魔法も一切使っていない。
適切に魔法を付与した剣で首あたりを斬れば、それで勝てる。
――だが、それが非常に難しい。
今の駆け引きの感覚だと、たとえ多少の小細工で出し抜いたとしても、すぐにカバーされてしまう。
大きな隙ができるほどの罠を仕掛けて、成功すれば剣が届くかもしれないが――大体の罠は、予測されているだろう。
やはり、あの手を使うしかないか。
『ボクが不意打ちを仕掛けるとか、どうかな?』
俺が攻め方に悩んでいるのを見て、アルマがそんな提案をした。
だがアルマの矢は、俺とグレヴィルの戦いに割り込むには遅すぎる。
『いや、この戦いは不意打ちでどうにかなるような代物じゃない』
そもそもグレヴィルの感知能力があれば、この距離からの不意打ちなど成立しない。
それと……。
『ちなみに、通信魔法は聞かれてるからやめた方がいいぞ』
『その通りだ。君の通信魔法はこの時代にしては中々のものだが、僕のような相手には盗聴されてしまうよ。気をつけたほうがいい』
俺の言葉を聞いて、グレヴィルが通信魔法に割り込んでくる。
俺達の短距離通信魔法など、魔法に習熟した者にとっては普通に会話しているのと大して変わらない。
もしグレヴィルによる盗聴を回避しようとすれば、今の10倍は複雑な通信魔法が必要になるだろう。
『通信魔法に割り込むって……化け物?』
『化け物ではなく、人間だ。……むしろ私なんて、才能がないほうだよ。本来はそうなんだ』
グレヴィルは、残念そうに言った。
だがそれは、グレヴィル自身が弱いことを残念がっているというより、今の人間が弱いことを残念がっているように見えた。
……グレヴィルの目的が、分かってきた気がする。
『まあ、こうやって話していても仕方ない。戦いの続きをしよう』
『……そうだな』
グレヴィルが、剣を構え直した。
今度は、グレヴィルの方から俺に向かって踏み込んでくる。
「次はこっちが受ける番か」
そう言って俺は、グレヴィルの剣を弾く構えを取る。
だがこれは、守りの構えではない。
むしろ、勝負を決めるための構えだ。
本人は気付かれていないと思っているようだが、実はグレヴィルには致命的な弱点がある。
危険な賭けではあるが、その弱点を突くことができれば、勝負を決めるのに十分な隙ができるはずだ。
俺はグレヴィルの剣から目を離さず、剣を斜めに構えながらグレヴィルの出方を窺う。
そしてグレヴィルの剣に最も勢いが乗ったところで――俺は剣を下ろし、グレヴィルの剣の軌道へと無防備に首を晒した。
「……は?」
グレヴィルが、困惑の声を上げる。
そして――グレヴィルは全力で、振り下ろそうとしていたはずの剣を引き戻した。
まるで俺を守るかのような、戦闘中にはありえない行動。
致命的な隙だ。
俺は剣を引き戻すために無理な姿勢を取ったグレヴィルの首に、剣を突きつけた。
敵の目の前であんな行動を取れば、俺でなくても勝てる。
「お前、俺を殺すつもりがないだろ?」
グレヴィルに、俺達を殺す気がないことは、すでに気付いていた。
というのも、途中で出会った魔族には、翼の辺りに小細工がしてあったのだ。
その術式はまるで、魔族が俺達を殺せないようにする目的で組まれたかのようだった。
「……何故気付いた」
「確信を抱いたのは、魔族に仕込まれた魔法だな。……それで、何が目的だ?」
「なぜなら、我の目的は貴様を殺すことでは――」
「ああ、演技ならもういいぞ。あの魔道具は無効化してあるからな」
そう言って俺は、部屋の隅にある広域通信用魔道具を指す。
広域型通信用魔道具自体を壊すことはできなかったが、その先の通信を遮断することで、王都へと映像が届かないように細工をしておいたのだ。
そのため、俺がこの部屋に入った時点から、あの魔道具は機能していなかった。
「……俺の目的は、真の魔法技術を世の中に広めることだ」
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