第259話 最強賢者、一人で戦う
「……一人で戦うつもりか?」
弓を構えようともしないアルマを見て、グレヴィルが俺に問う。
「ああ。俺一人で十分だ」
俺はそう答えながら、剣を構える。
……まあ、この剣はルリイが作ったものなので、俺一人の力かと聞かれると微妙なところなのだが。
実のところ、この戦いにルリイ達を参加させないのは、単純に戦闘についてこれないからだ。
アルマでも恐らく矢を当てることができないし、イリスの力も当てられなければ意味がない。
戦闘慣れしていない相手であれば、それでも動きを攪乱できるかもしれないが……グレヴィルが相手となると、逆に利用される可能性すらある。
となると、1対1のほうが周りを気にしないで戦えるぶん、勝てる可能性が高いのだ。
実はちょっとした作戦があるのだが、それを使うためにも1対1のほうがいいしな。
「……十分かどうかは、戦ってみればわかることか」
「その通りだ」
そう言って俺は、構えた剣を振るい――グレヴィルの懐へと踏み込んだ。
グレヴィルは俺に合わせて、ちょうどぶつかり合うように剣を振ってくる。
――そして、剣と剣が激突した。
重い。
純粋な力で言えば、上級魔族の剣のほうが上だ。
だがグレヴィルの剣は、そこに込められている技術が違う。
ただ力で押し返しているように見えて、繊細な力でコントロールがされている。
剣を受け流そうとしても、グレヴィルの剣はその動きを許さず、逆にこちらの剣が操られるかのように動く始末だ。
剣に付与した魔法を切り替えてみても、対抗魔法がすぐに組み上げられる。
外からは俺とグレヴィルがただ剣で切り結んでいるように見えるかもしれないが、その裏では高度な魔法の駆け引きがおこなわれている。
グレヴィルの反応速度は、そこまで極端に速いというわけではない。
読み合いの技術も、俺に言わせればまだまだだ。俺が剣に付与するエンチャントを組み替えてからグレヴィルが対抗呪文を組み始めるまでには、それなりのタイムラグがある。
だが、筋力と身体強化、そしてエンチャントに使う魔力の差が、技術や読み合いの差をカバーしていた。
グレヴィルによる後出しの魔法が、グレヴィルの動きを読み切った俺の魔法に打ち勝ってしまうのだ。
――俺はまだ生まれて12年足らずだが、グレヴィルは何千年も生きて、鍛錬を続けてきた。
基礎的な体力や魔力は、俺とは比較にならない。
その優位を最大限に生かして、グレヴィルは俺に勝とうとしてくる。
――だが、まだつけいる隙はある。
「むっ!?」
俺が一瞬だけ剣から力を抜く素振りを見せると、グレヴィルは驚きを顔に出した。
もちろん、本当に力を抜いたわけではない。そんなことをすれば、一瞬で剣を押し込まれてしまう。
ほんの一瞬、ほんの僅かに力を抜いただけだ。
よほど戦闘技術を磨いた者でなければ、その力の変化に気付けないだろう。
だがグレヴィルには、それに気付くだけの鋭い感覚があった。
不自然な動きを見て、グレヴィルは戸惑ってしまった。
グレヴィルは相当の鍛錬を積んできたものの、このレベルの駆け引きには慣れていないのだろう。
その戸惑いは、剣に出る。
俺が戦況を変えるには、その隙だけで十分だった。
グレヴィルの剣がわずかに鈍った隙を突いて、俺は少しだけ剣の角度を変え、グレヴィルの剣を受け流した。
そして俺は体勢を崩したグレヴィルへと剣を向け、反撃の姿勢を取った。
「くっ……」
失敗を悟ったグレヴィルが、剣を引き戻して防御の姿勢を取る。
だが、それも俺の狙い通りだ。
俺が反撃を仕掛ける素振りを見せたのは、グレヴィルによる追撃を牽制するためだったのだから。
防御姿勢を取るグレヴィルの前で、俺は後ろへと数歩下がった。
ここで追撃をしても、勝ち目はない。
「……君、本当に子供かい? さっきの駆け引き、まるで師匠を相手にしている気分だったよ」
グレヴィルの口調が変わっていた。
さっきまでの芝居がかった口調とは違う――グレヴィル本来の口調だ。
「見ての通り、子供だ」
そう言って俺は、剣を構え直す。
――グレヴィルも、数千年見ないうちに随分と強くなったものだ。
グレヴィルは、絶望的に魔法の才能が無かった。
魔力回路は生まれつき細く、魔力の質は極めて低く、経験値を蓄積したときの成長も鈍かった。
紋章は、前世の俺と同じ栄光紋――戦闘において最弱の紋章だ。
にもかかわらずグレヴィルの魔力は、栄光紋が得意なはずの付与さえ、他の紋章よりややマシ程度でしかなかった。
それでもグレヴィルは、王族として強くなるべく愚直に鍛錬を続けていた。
その男がなぜ、今こんなところで俺と戦っているのか分からないが――あの状況からこれだけ強くなったことは、称賛に値する。
「さて……どう出るか」
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