第258話 数の優位を覆す
「イリスさん、ありがとうございます!!」
「いえ! それがワタシの役目ですから!」
そう言ってイリスは、扉へ近付こうとする魔族への警戒を続ける。
数と魔法能力では敵の方が上だが、もはや戦況は一方的と言ってよかった。
一度距離が詰まるたびに俺は『魔力の槍』を魔族に当て、無傷で撤退して距離を取る。
魔族がそれを追おうとすれば、アルマの矢が先頭の魔族を妨害する。
魔族が俺を包囲しようとしても、アルマの矢が敵の体制を崩し、できた隙をついて俺が包囲を抜ける。
魔族が矢を避けようとしても、俺から見れば隙ができるのと同じことだ。
「な、なぜだ……なぜこうも一方的に!」
魔族は疑問の声を上げながら、俺の『魔力の槍』を避けようとする。
だが、その魔族の体にアルマの矢が刺さり、回避を妨害した。
「戦うのが下手だからだろ」
そう言って相手を挑発しながらも、俺は戦況を分析していた。
――そろそろ、とどめを刺せる頃だな。
もはや今の魔族に、戦闘開始当初のような動きのキレはない。
全員の体には『魔力の槍』やアルマの矢が刺さり、魔族は魔力も体力も消費していた。
一人に被弾が集中しないようにして各個撃破されるのを避け、数の優位を守ったあたりは高位魔族というだけある。
だが……そういった工夫が有効なのも、数の優位のあるうちに戦況を変えられればの話だ。
一方的に攻撃を受けるような状況で被弾を分散させても、敗北を先延ばしにする以上の意味はない。
そして、今まで守ってきた数の優位も、もう崩れる。
「なっ……」
俺の動きが変わったことに、魔族が驚きの声を上げる。
今まで俺は『魔力の槍』を主な攻撃手段としていたため、距離をあまり極端に詰めなかった。
その方が俺は自由に動くことができて、一方的な戦況を維持しやすかったからだ。
だが、もうその必要も無くなった。
『アルマ、もう矢は大丈夫だ。魔力を温存しておいてくれ』
『了解!』
俺はアルマに戦闘の終わりを告げながら、剣を振る。
魔力で強化された剣は、すでに体力と魔力のほとんどを失って脆くなっていた魔族の首を、あっさりと切り落とした。
だが俺の剣は、まだ止まらない。
振った剣の勢いをそのままにして、俺は近くにいた2人目の魔族の懐まで踏み込んで、心臓をひと突きした。
息絶えた魔族が、声もなく崩れ落ちる。
これで3対1だ。
5対1でさえ俺達に手も足も出なかった魔族が、3対1でまともな抵抗などできるはずもない。
それから30秒もしないうちに、魔族は全滅した。
◇
「……ここか」
5人の魔族を倒した俺達は城の奥へと進んでいくと、そこには巨大な部屋があった。
中には、グレヴィルが一人で立っている。
「いや、お見事お見事。……まさか貴様らがここまで辿り着くとは、我も思っていなかったぞ」
「……その演技、まだ続けるつもりかよ……」
グレヴィルの言葉は、俺達自身というよりも部屋の隅――そこにある『広域型通信魔法』へと向けられていた。
『広域型通信魔法』が展開されている場所は、この城の中のどこよりも強力な結界で守られている。
どうやらグレヴィルにとって、この演出はとても重要らしい。
「世紀の戦いには、それにふさわしい演出が必要だ。そうは思わんか?」
そう言ってグレヴィルは、ギラギラとした趣味の悪い装飾が施された剣を抜いた。
だがグレヴィルの剣は、お飾りの剣というわけではない。
むしろ、いい剣――というか、元々は俺が前世でグレヴィルのために作ってやった剣だ。
悪趣味でゴテゴテした装飾だけが、そこに追加されている。
剣としての性能は、俺が持っている剣をはるかにしのぐ。
グレヴィル専用にチューニングされているため、際立った性能や特殊な能力こそないものの、グレヴィルの実力を完全に引き出せる力を持った剣だ。
そのために、剣の重心を0.001ミリ単位で調整したほどだ。
その剣に、余計な飾りを付けやがって……。
「思わないな。……さっさと始めようぜ」
そう言って俺は、一歩前に出る。
それと同時に、ルリイ達が後ろへと下がった。
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