第257話 引っかき回す
「ぐっ……」
翼の一部を切断された魔族が、速度を落とした。
魔族は加速しようとしているようだが、翼の魔力回路が不完全な状態では、魔族の機動力は生かせない。
そんな魔族に、俺は本命の攻撃魔法を撃ち込んだ。
――『魔力の槍』。
単純にして貫通力が高く、魔力の質がいいほど高威力が出る魔法だ。
「ぐあああああぁぁぁ!!」
『魔力の槍』が、魔族の体を貫通する。
失格紋は、距離の問題さえ解決すれば最強の紋章だ。
経験値稼ぎによって質の上がった魔力と、鍛錬によって強化された魔力回路。
この2つが合わされば、高位魔族の硬い体も貫くことができる。
……大体5本ほどで、1人を倒せそうだな。
そんなことを考えながら、俺は後ろへと飛び退いた。
その直後、魔族による高位攻撃魔法が俺のいた場所へと降り注いだ。
一箇所にとどまって攻撃を続ければ、敵に反撃の機会を許す。
純粋な魔法能力や身体能力では、相変わらず俺より魔族の方が上だ。
俺が敵に勝るのは、戦闘経験と技術。
その差を最大限に生かそうとすれば、常に戦況を引っかき回して、純粋な力勝負を挑ませない必要がある。
それに――戦況を混乱させられるのは、俺だけではないのだ。
「くそ、忌々しい!」
俺を追撃しようとした魔族が、苛立った様子で吐き捨てた。
俺の移動先に向かって攻撃魔法を放とうとしたところで、アルマによって放たれた魔力阻害の矢が刺さり、魔法の発動に失敗したのだ。
アルマとルリイが鍛えてきたのは、単純な付与や攻撃魔法だけではない。
戦況を瞬時に理解し、戦闘を最も有利に運べる攻撃の選択肢を選び取る。
そのために必要な判断力は、今までの魔族との戦闘経験で培われていた。
『次は、普通の攻撃系です!』
『分かった!』
今までは、それを十分に生かせるだけの力がなかっただけだ。
だが今は違う。
ルリイは必要な付与魔法をすぐに理解し、必要な魔法をすぐに付与する。
使う魔法陣は暗記しているものなので、その場で構築するのに比べれば柔軟性で劣るが……それでも戦況を変えるには十分だ。
アルマは付与する魔法の種類だけを聞いて、すぐにそれをどこに撃ち込めばいいかを判断し、正確に敵を射貫く。
目標や魔法の付与だけに集中せず、戦場全体を見回す余裕があって初めてできることだ。
「先に向こうをやるぞ!」
「おう!」
俺達をまとめて相手にするのは不利だと見たのだろう。
魔族の一人が俺を無視して、ルリイ達がいる部屋へと突撃しようとした。
そこで俺は、イリスに指示を出す。
イリスは今まで戦いに関与していなかったが、それは別に怠けていた訳ではない。
確実に自分の役目を完遂するため、持ち場を守っていただけだ。
「イリス!」
「はい!」
イリスが短く答えを返して、先ほど蹴破った扉の位置に立ち――右足を地面へと思い切り振り下ろした。
地面が砕け、イリスの右足が地面へとめり込む。
激突の衝撃で吹き飛ばされることがないよう、右足を杭代わりにして地面に固定したのだ。
――そしてイリスは、ルリイ達を狙いに行った魔族の肩に槍を突き込んだ。
「がっ……」
槍を受けた魔族が、空中で数メートルも後ろへと吹き飛んだ。
その肩は、完全に粉砕されていた。
「があああああああああぁぁぁ!」
「あの威力……本当に人間か?」
恐らく魔族は、たとえイリスの槍が当たったところで、人間と魔族の力の差があれば弾き飛ばせると思ったのだろう。
だが残念ながらイリスは、暗黒竜だ。
今は人間の姿になっているとはいえ、その力は圧倒的だった。
「ここは通しませんよ!」
イリスは魔族の質問に答えず、槍を構えて宣言する。
その手に持った巨大な槍は、扉を通るルート全てを射程に収めている。
イリスを扉の前からどけないことには、魔族はルリイ達へとたどり着けない。
だが、あのイリスを吹き飛ばすのは、魔族にとっても困難だろう。
――扉の番人。
それがこの戦いでの、イリスの役目だ。
そんなイリスの頭上を飛び越えて、アルマの矢が魔族へと突き刺さった。
イリスが扉を守っている限り、アルマは魔族へと一方的に攻撃できる。
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