第256話 戦況を支配する
……この位置に命中させた『有線誘導エンチャント』は以前からアルマが使えた魔法だが、以前のアルマでは魔族の心臓を貫いて即死させるなどという真似はできなかっただろう。
魔力の制御力と質が上がったおかげで、矢に付与する威力・貫通力強化系の質と量が格段に上がっている。
「魔族を一撃で倒しちゃうなんて……アルマ、すごいです!」
「いや、ルリイが作った矢がすごいんだよ!」
もちろん、アルマが放った矢を作ったルリイの腕も、2ヶ月前とは比べものにならない。
今のルリイが作った矢は、ただ手で投げただけでも普通の魔物なら倒せてしまうだろう。
それだけ強烈な威力増強魔法が、ルリイの作った矢には施されている。
「……ワタシ、何もしてないです!」
扉を蹴破ったままの姿勢のイリスが、そう叫んだ。
一瞬で勝負が決まってしまったからな……。
『でも、次の部屋はこうはいかなそうだ』
そう言って俺は、奥の扉を見る。
そこには、ザリディアス級とまではいかないものの、高位の魔族が5人もいた。
最初の部屋は、ほんの腕試しだったのだろう。
次の部屋こそが、本番だ。
恐らく、2ヶ月前の俺達がのこのこ入っていったら、10分と保たずに俺達はイリスを残して全滅したはずだ。
イリスは運がよければ竜の姿で逃げられるかもしれないが、恐らく無理だろうな。
だが、今の俺達なら勝てる。
俺にはその自信があった。
……勝てると思った理由は、実はそれ以外にもあるのだが。
『よし、次行くぞ! ……次の敵は危険だ。心してかかるぞ!』
『はい!』
そう会話を交わしたところで、イリスが次の扉を蹴破った。
「貴様が、例のザリディアスを倒した男か!」
「我々もザリディアスのようにいくとは思うなよ!」
さっきのように俺が先行すると、5人の魔族が同時に剣を構え、飛びかかってきた。
タイミングが完璧だ。各個撃破はできない。
とはいっても、これをまともに受ければあとは防戦一方になる。
防御をすれば体は守れるかもしれないが、敵に主導権を譲り渡してしまう。
そう考えて俺は、一瞬スピードを落とし――すぐに急加速して、正面にいた魔族の真横を通り抜けた。
直後、俺がいた場所の背後で、爆発魔法が弾けた。
恐らく、魔族は俺が後退することを見越して、俺の背後に爆発魔法を仕込んだのだろう。
――人間は、本能的に近付いてくる敵を恐れる。
そのため攻撃を受けきれないと感じた場合、後ろに向かって逃げることが多いのだ。
敵はそれを読んで、俺の撤退先に罠を仕込んでいた。
だからこそ、敵が向かってくる方へと真っ直ぐ突っ込むルートが安全になった訳だ。
安全とはいっても、少しでも速度が鈍ったり突っ込む方向がずれたりすれば、魔族の攻撃が完璧に当たって即死な訳だが。
そしてもちろん、この場にいるのは俺と魔族だけではない。
攻撃対象に避けられて無防備になった魔族に、アルマの矢が突き刺さった。
「……人間のくせに、この俺に刺さる矢を放つか」
さすがに高位魔族ともなると、アルマの矢でも貫通とはいかない。
だが、効いてはいるようだ。
『付与する魔法『魔毒』とかにしたほうがいいですか?』
『いや、単純な攻撃系でいい。それでちゃんとダメージを与えられるからな』
以前には『魔毒』を使って魔族を倒したこともあるが、あれは普通に矢を当てただけではまともなダメージが望めなかったからだ。
普通に矢を放つだけで倒せるのであれば、単純な攻撃系がいい。
『分かりました!』
そう言ってルリイが、次の矢をアルマに渡す。
弓の方は順調そうだな。
そんなことを考えつつ、俺は敵の陣形の弱点を探す。
攻撃をかわされたことで、陣形は少し崩れていた。これなら俺も攻撃を仕掛けられる。
「……そこか」
俺は剣に魔法をエンチャントし、魔族の翼を切り払う。
魔族の翼は、竜の翼ほど頑丈ではない。
別に急所でもないため、翼を傷つけたくらいでは魔族は倒せないが――機動力を削れる。
一人の魔族の機動力が落ちると、陣形を維持するためにはそいつに合わせて他の魔族まで速度を落とす必要が出てくる。
だが速度を落とせば、俺の動きについてこれなくなる。
魔族のうち一人の翼を傷つけるだけで、敵に速度を落とすか陣形維持を放棄するかの二択を迫れるわけだ。
これが、戦況を支配するということだ。
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