第254話 最強賢者、決戦場に辿り着く
「これって……王都のすぐ近くじゃないですか! いったいどうやってこんな場所に隠れてたんですか!? 普通気付かれますよね!?」
「グレヴィルなら、そのくらいは簡単に隠しおおせるだろうな。『王都大結界』の中に忍び込まれても不思議ではなかった。結界の外なだけ、まだマシなほうだぞ」
しかし、グレヴィルがあそこを選んだ理由が分からない。
前世の時代、あそこは何もないただの湖だった。
地理的にも、魔法的にも、別に特筆するような意味がある場所ではない。
本当に、ただ見晴らしが綺麗な湖というだけだ。
なぜあんなところに、グレヴィルは陣取ったのだろう。
……まあ、殴り込んでみれば分かることか。
「明日一日はゆっくり休もう。それで、あさってに襲撃だ」
「了解!」
「わかりました!」
◇
翌々日。
俺達はイーリアスを出て、レイシアート湖へと向かっていた。
レイシアート湖は特に用途がある湖ではないので、道などはつながっていないが……周囲は森ではなく草原なので、移動はとても楽だ。
「もう結構近いかな?」
「ああ。そろそろ見えてくる頃だな」
「……こんなところに魔族とかがいるなんて、ちょっと信じられないですよね……」
出発してからさほど時間がかからないうちに、俺達はレイシアート湖の近くへと辿り着いた。
だが、魔族の巣窟といった感じの様子はないし、そういった魔力は感じられない。
しかし……どうにも、周囲の魔力に不自然な感じがある。
恐らくこれは、グレヴィルが結界を張った影響だ。
俺達が来る前に一般人に見つかってしまわないように、魔力を遮断するような結界を使ったのだろうな。
魔法に慣れた者なら結界由来の不自然さに気付くだろうが、そのレベルに達している者は今の世界にはほとんどいない。
だから、魔力を遮断する結界を張れば、王都からこれだけ近い場所にでも隠れられたという訳だ。
「あれが、レイシアート湖……! きれいな景色だね!」
「でも、何もない……と言いたいところですけど、結界がありますね」
「ああ。わざとらしい破れ目まである」
そう言って俺は、湖畔にわざとらしく立てられた旗を見る。
その旗の横には結界が破れた部分があり、結界内部の様子が見えた。
旗に描いてあるのは、魔族のいた場所にも置かれていた『汎用魔法教本』だ。
……なぜあの本が、何度も出てくるのかは分からないが。
そして結界内部には、大きな橋がかかっているようだ。
結界の破れ目は、その橋へとつながっている。
橋はずいぶん新しい……というか、つい1、2ヶ月くらい前に作られた雰囲気だ。
恐らく俺達に宣戦布告をしてから、急いで橋を作ったのだろう。
「これ、どうしますか? 竜の姿で結界ごと壊しちゃいますか?」
「恐らくグレヴィルは、イリスがドラゴンなことにも気付いている。『竜の息吹』を使っても、あいつは生き延びるだろうな」
グレヴィルは『橋から入れ』と言いたいのだろう。
結界を壊して入るというのも手だが……相手が大量殺戮兵器を握っている以上、あまり相手の意思に背く真似はやめておいたほうがよさそうだ。
ここに大量破壊兵器がなくとも、起動用の魔法信号を送るくらいは簡単だからな。
「ここはおとなしく、橋から入っておこう」
「マティアスさんが敵の誘いに乗るなんて、珍しいですね」
「相手が何を考えているか分からないからな。機嫌を損ねると、大量殺戮兵器を使われかねない」
そう言って俺は、結界の破れ目の向こう側をのぞく。
どうやら橋の向こうには、悪趣味な装飾が施された城のようなものがあるようだ。
国王をやっていた頃のグレヴィルは、このような装飾を好まなかったはずだが……俺が転生するまでの間に、いったい何があったのだろう。
そんなことを考えながら、俺は3人に確認する。
「3人とも、準備はいいか?」
「いけるよ!」
「大丈夫です!」
「いつでもいけます!」
その声を聞いて、俺は橋へと踏み出した。
すると……。
なにやら派手な効果音と共に、俺達の目の前にグレヴィルの顔が映し出された。
どうやら、映像を出力する魔道具が仕込まれていたようだ。
「悪趣味な仕掛けだな……」
「そう言わないでくれよ。私にも、やらなければならないことがあるんだ」
そう言ってグレヴィルが、なにやら魔法を発動した。
すると……。
「変装か?」
画面に映るグレヴィルには角と翼が生え、いかにも魔族といった感じの外見になっていた。
何がしたいのか全く分からないが、魔族のふりをしたいことは分かる。
「その通りだ。私は今から、大魔族になる。人類を滅ぼそうとする大魔族にな」
そう言って画面の中のグレヴィルは、またも魔法を発動した。
『マティ君、防御を――』
『いや、あれは攻撃魔法じゃない。防御は不要だ』
ルリイはグレヴィルが攻撃魔法を発動すると思ったらしく、警戒しているが……グレヴィルが発動したのは攻撃魔法ではなく、通信系の魔法。
それも秘密通信ではなく、その全く逆――王都にいる人間全てに、グレヴィルの姿と声を伝えるタイプの『広域型通信魔法』だ。
新作です!!
新作『異世界転生で賢者になって冒険者生活 ~【魔法改良】で異世界最強~』連載始めました!
『転生賢者』と同じく、主人公が無双するタイプの話になっています!
よろしければ、こちらもよろしくお願いします!
下のリンクから、作品ページに飛べます!
拙作『異世界賢者の転生無双』の書籍版が、【4月14日】に発売します!!
書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!