第253話 最強賢者、鍛錬を終える
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鍛錬を始めてから、およそ2ヶ月後。
いつものように鍛錬を終えたところで、俺はルリイ達2人の魔力操作を見て……宣言した。
「よし、魔力操作の鍛錬は今日で終わりだな」
「えっ……もう大丈夫なんですか?」
俺の言葉を聞いてルリイが、驚いたような声を出す。
どうやらルリイ自身は、まだ自分が十分に強くなった自覚がないらしい。
「大丈夫だ。……グレヴィルとの戦いでの安全を保証することはもちろんできないが、やれる限りのことはやった。今が万全の状態だ。……イリスも、人間の体の扱いがだいぶうまくなったな」
ルリイとアルマは質の良くなった魔力を使い、魔力消費を減らす訓練から既存の魔法を強化する訓練まで、様々な訓練を積んだ。
鍛錬を始める前のルリイ達が10人集まっても、今のルリイ達には勝てないだろう。
イリスも、身のこなしが以前よりずっと良くなっている。
もちろん今まで通りの力任せであることは間違いないのだが、『効果的な力任せ』ができるのとできないのでは大違いだ。
今のイリスは、その『効果的な力任せ』を少し身につけつつある。
3人とも、鍛錬の成果は十分に出ている。
ここから先は、年単位の鍛錬や戦闘経験を積んで初めて結果が出る部分だ。
グレヴィルとの戦いの期限までは、あと1ヶ月しかない。
もう、これ以上の鍛錬をしても成果はほとんど出ないだろう。
「となると……次は武器の用意ですか?」
「いや、武器の変更はしない。確かに今のルリイが作れば、今より強い武器は作れるかもしれないが……大事な戦いでは、使い慣れた武器のほうがいい。いくら性能がよくても、使い慣れていない武器に命は預けられないからな」
せめてあと3ヶ月あれば、話は違った。
たった1ヶ月では、本気で命を預けられるほど、新しい武器に慣れることはできない。
ただでさえ魔力の質が上がったばかりで、魔力にも慣れる必要があるというのに。
「ってことは?」
「いよいよ殴り込みだな。早ければ早いほどいい。俺達が準備をしている間、相手も何もせず待っているという訳ではないからな」
残りの期間でこれ以上強くなれないのであれば、今すぐにでも勝負を挑むべきだ。
そもそも本来、相手が黙って襲撃を待っている状況など普通はない。
敵が3ヶ月の期間を取ったのは、敵の側も何か準備が必要だったせいかもしれない。
とにかく、早く殴り込むに越したことはないのだ。
「い、いきなりですか……」
「ああ。普通の魔物なんかと戦って戦闘経験を積んでも、魔族相手では役に立たないからな。……グレヴィル自身は、俺が1対1での戦いで倒す。そこまでは魔族との戦いだ」
グレヴィルとの戦いは、人数でなんとかなるようなものではない。
残念ながらルリイ達では、ついてこられないだろう。
もしグレヴィルが先にルリイ達を狙ってきそうなら、無理やりにでも置いていくつもりだが……グレヴィルにはその気がなさそうだ。
ただ殺すだけが目的なら、グレヴィルは古代文明の大量殺戮兵器を起動すればいいだけなのだから。
そうでなくても、グレヴィル本人なら俺達の居場所を特定して攻撃を仕掛けることは簡単だろう。
俺も常にルリイ達と一緒にいるわけではないので、俺がいないところを狙われればそれまでだ。
……グレヴィルの目的は、俺達を殺すことではない。
だからといって、安全だということは全くない。
グレヴィルがどんなつもりであろうと、その周囲にいる魔族達は間違いなく本気で俺達を殺しに来る。
あのグレヴィルが、味方につけるような魔族なのだ。
弱い訳がない。
……グレヴィル自身も、目的が一切不明なので、急に気が変わってルリイ達を殺しにこないとも限らないしな。
それを踏まえて、俺は3人に聞いた。
「本当に、グレヴィルとの戦いに来るのか? 今までの中でも、圧倒的に危険な戦いだぞ? ……意図の読めない敵との戦いほど危険なものなんて、滅多にない」
「それでも、行きます!」
「今更だね! もう2ヶ月も前に、ボクは行くって言ったよ!」
「ワタシはもちろん行きます!」
もし3人の答えに迷いがあるようなら、戦いに行くのを止めさせるつもりだった。
だが、3人の声音には、全く迷いが感じられない。
やはり、止めても無駄のようだ。
「……昔戦った『賢者』さんの方が、グレヴィルなんかより100倍怖いです!」
そして最後にイリスが、余計なことを言った。
『……その賢者って、俺のことだよな?』
俺はイリスにだけ聞こえる通信魔法で、イリスに聞く。
すると、イリスが答えた。
『違います! マティアスさんじゃなくて、ガイアスさんです!』
それ、結局前世の俺じゃないか……。
……そんな余計な会話を経つつも、俺達は全員でグレヴィルを倒しに行くことを決めた。
「それで、グレヴィルはどこにいるんですか?」
「グレヴィルがいるのは……レイシアート湖だ」
「レイシアート湖?」
「地図で言うと、ここだな」
そう言って俺は、王都からたったの30キロほどしか離れていない湖を指す。
俺の前世の頃から存在した、それなりに大きな湖だ。
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