第247話 最強賢者、素材を持ち込む
普通の買取窓口の場合、一人につきひとつの窓口を受け持っているが……ここの場合、ひとつの窓口に二人の受付嬢がいるようだ。
大量の素材を扱うためには、一人では足りないということなのだろう。
「素材を売りたい」
「分かりました。素材は何階層のものですか?」
そう言って受付嬢が『迷宮素材価格一覧(イーリアスギルド用)』と書かれた本を手に取る。
どうやら、この迷宮の素材の価格はあらかじめ決められているようだ。
分かりやすくていいな。
「27階層だ」
「17階層ですね。結構深く潜りましたね」
俺の言葉を聞いて受付嬢が、『迷宮素材価格一覧(イーリアスギルド用)』の最後の方のページをめくる。
どうやら、聞き間違えたようだ。
「階層は17じゃない。27だ」
そう言って俺は、倒した魔物の牙を取り出した。
あれこれ説明するより、実物を見せた方が早い。
「こ、これは……凄い力を感じます! 私は何年もこの窓口で買取業務をやっていますが、ここまでの品は見たことがありません! 17階層ともなると、こんな未知の品が……」
「いや、だから27階層だって言ってるだろ。『じゅうなな』じゃない。『にじゅうなな』だ」
「27!? 最深攻略階層越えじゃないですか! すさまじい素材だと思ったら、まさかそんな深い階層に……」
4回くらい『27』と言われて、ようやく受付嬢は俺が魔物を倒した階層を理解してくれたようだ。
……魔物の牙を見れば、すぐに27階層だと理解してもらえると思ったのだが。
17階層でこのレベルの素材が手に入るとしたら、階層主を倒した時くらいだ。
それはそうと、最深攻略階層とはなんだろうか。
「……最深攻略階層?」
「迷宮が攻略された階層の、最高記録です!」
……あー。
そういえば、そんな話もあったな。
確か『魔法神ガイアスの加護を受けた30人パーティー』とやらが、23階層を攻略したのが、今の世界での迷宮攻略の最高記録だったか。
神の名前が前世の俺と同じ名前で、妙な因果を感じた覚えがある。
でも、あんなのはすぐに更新されるだろう。
第二学園生が真面目に迷宮を攻略すれば、23階層など簡単に超えられる。
というかさっき、俺達は27階層を攻略してきたのだから、これからは27層が『最深攻略階層』になるのだろうか。
「あー。確か最深攻略階層って、23層だよな? それより深く潜ると、もう素材のデータがないってことか?」
「最深攻略階層が23層だったのは去年までの話で、少し前に24階層になりました。攻略したのは第二学園の6人パーティーですね。……いずれにしろ、27階層に比べれば浅いですけど」
……どうやら、すでに最深攻略階層は塗り替えられていたようだ。
「じゃあ俺達が27階層の魔物を倒したら、今の最深攻略階層は27階層ってことになるのか?」
というか、何をもって階層の『攻略』と呼ぶのだろう。
階層主を倒せば『攻略』という感じがするが、階層主の攻略が条件なら第二学園生が24階層を攻略するのは無理だろうし。
などと考えていたら、受付嬢が条件を教えてくれた。
「階層の攻略認定には、信用ある立会人同伴でその階層の魔物を50匹以上倒す必要があります。なので、もし本当に27階層の魔物を倒していたとしても、攻略としては認定されません。……最深攻略階層の更新を目指したければ立会人を手配しますけど、たぶん1ヶ月くらいかかるうえ、色々と審査があって時間がかかりますね……。費用も、3000エルミくらいは必要だと思います」
どうやら、最深攻略階層の更新にはかなり面倒な手続きが必要なようだ。
そのうえ『立会人』なる足手まといまで連れていって、そいつの見える場所で50匹の魔物を倒さなければならない。
……罰ゲームかなにかだろうか。
そんな条件があるからには、何か凄いメリットがあるに違いない。
「最深攻略階層に認定されると、どんなメリットがあるんだ?」
「えっと……メリットですか?」
「ああ」
「直接的なメリットは、一切ありませんよ。素材の買取以外には、報酬もありません。……でも最深攻略階層の更新は、冒険者にとって最高の名誉と言われています!」
なるほど、名誉か。
まあ、必要性を感じないな。
……というか、最深攻略階層を第二学園生が更新したってことは、第二学園生たちはそんな面倒臭い手続きをしてまで最深攻略階層の認定を受けたのか……。
俺は、そんな面倒臭い真似はやる気がしないが……どうやら第二学園生にも、名誉を重んじる冒険者がいたようだ。
いいことだな。
前世の戦闘者には金や名誉のために強くなろうとする者を『不純だ』と言って見下す者もいたが、別に強くなろうとする理由など何でもいいのだ。
むしろそういう奴にはどんどん増えてもらって、第二学園や無詠唱魔法の広告塔になってほしい。
第二学園生が強いという話がもっと広まれば、冒険者の間でも無詠唱魔法を学ぼうとする者が増えるかもしれない。
無詠唱魔法の存在は少しずつ学園の外にも広まりつつあるが、今はまだどこか遠い世界の技術みたいに考えられている節がある。
冒険者たちが無詠唱魔法を学び始めれば、その流れを変える切っ掛けになるかもしれない。
なにしろ冒険者の数は、王立学園の生徒数とは比べものにならないほど多いのだから。
……とはいえ、俺がその広告塔の役目になるつもりは全くない。
面倒だし。
「じゃあ、最深攻略階層の認定はいらない。素材だけ買い取ってくれ」
「……本当に最深攻略階層を更新できたなら、認定を受けた方が良いと思いますよ……?」
「最深攻略階層の更新って、面倒ばかりかかってメリットはないんじゃないのか?」
「直接的にはそうですけど、最深攻略階層の更新に成功したパーティーへの参加は、冒険者にとって最高の名誉と実績です! 大商会からの依頼や国の重要な依頼も受けやすくなります!」
なるほど。
冒険者として成り上がるためには、最深攻略階層の認定を受けた方がいいという訳か。
……だが別に俺は、冒険者として成り上がる気などない。
国からの依頼を受けたければ校長あたりに相談すれば済む話だし。
「認定を受けている時間がないから、遠慮しておく。……それで、この素材にはデータがないみたいだが……買い取れるのか?」
27階層で倒した魔物の牙は、恐らくこの迷宮都市イーリアスで手に入る中でも最高クラスの素材だろう。
だがランクの高すぎる素材は、加工も難しくなる。
このギルドで扱えないような代物だと、買い取りができないかもしれない。
「もちろん買い取らせていただきます! ……ただ査定に時間がかかりそうなので、終わるまで10日ほど待っていただければと……」
査定に10日もかかるのか。
ルリイ達の訓練をする必要があるため、この街には10日以上滞在するはずだ。
だから別に、10日かかること自体に問題はない。
だが、そこまで長いとなると理由が気になるな……。
拙作『異世界賢者の転生無双』の書籍版が、【4月14日】に発売します!!
書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!