第243話 最強賢者、魔力制御を教える
「こんな作業で、魔力が増えてしまうんですね……」
「まあ、今まで魔法制御力に余裕があったからだな。……まともな戦闘経験を伴わない経験値稼ぎは、経験値効率の悪い戦いを繰り返した後のボーナスみたいなものだ」
普通なら、こんなやり方をすれば2部屋ぶんほどの魔物を倒した時点で魔力制御力が不足してしまう。
そうならないのはルリイ達が、魔族などとの戦いや魔法の練習を繰り返してきたからだ。
魔法の練習では経験値など入らないが、魔法制御力は上がる。
魔族相手の戦闘も、戦闘経験としてはかなり良質なのだが、入る経験値量はそんなに多くない。
そのおかげで魔力量に不釣り合いな魔法制御力を持っているからこそ、この方法で荒稼ぎした経験値を生かせるのだ。
「よし、魔力制御の確認をするぞ」
「はい!」
◇
「この辺にしておくか」
狩りを始めてから数時間後。
数十個のモンスターハウスを滅ぼし終わったところでアルマの魔力制御を確認した俺は、そう呟いた。
「ボク、魔法の制御に影響なんて出てないよ?」
「少しだけだが、『有線誘導エンチャント』の雰囲気が変わってきている。魔力量だけならもっと伸ばせるが、今くらいで止めておいたほうが強くなれる」
そう言って俺は、『迷宮エレベータ』の方へと引き返す。
前世の時代にも魔力を扱いきれるギリギリまで伸ばす奴はいたが、それではかえって成長を遅くする。
魔力をなんとか操作するのと、完全に使いこなすのでは大きな違いがあるのだ。
……まあ、言うより実際に体感してもらった方が早いな。
今回の狩りではルリイ達の魔力を使わずに済んだので、いまからでも鍛錬できる。
この階層は敵もいないし、鍛錬に最適だ。
「よし、増えた魔力を使いこなすための訓練をするぞ」
「魔力を……使いこなす?」
「いまも魔力は普通に使えてますけど……」
そう言ってルリイとアルマは、不思議そうな顔をする。
経験値を短期間で大量に稼いだ経験がないなら、無理もないが。
「今の二人は、魔法を使ってみてどんな感じだ?」
「経験値稼ぎをする前と、同じ感じです!」
「ボクも、前と変わりないよ! ……でも、使える魔力が多くなった気がする!」
二人は、満足げにそう言った。
……今の二人は、魔力のポテンシャルのうち3割も使えていないのだが。
「二人とも、火球の魔法は使えるな?」
「うん!」
「しばらく使ってないですけど、使えると思います!」
火球は、極めて基本的な攻撃魔法だ。
『モンスターハウス殲滅の炎』も、この火球をベースに組まれている。
もちろん、二人にとって火球の発動など全く難しくない。
というか第二学園に、無詠唱の火球を使えない人間はもういないだろう。
「じゃあ、使ってみてくれ」
「はい!」
「了解!」
そう言って二人は、火球の魔法を発動した。
もちろん発動は成功だ。二人が放った普通の火球が、普通に壁に向かって飛んでいく。
「じゃあ今のと同じ魔法を、魔力消費だけ1割くらい減らして使ってみてくれ。もちろん威力はそのままだ」
「……魔力消費を減らしたら、魔法の威力は落ちるよね?」
「魔力の質が同じならそうだな。……経験値を稼ぐと、魔力の量が増えると同時に、魔力の質が上がる。今まで通りの魔力消費で今まで通りの魔法を使っている状態は、その質を生かせていないからだ」
ルリイ達はただ俺が魔物を倒すのを見ていただけなので自覚がないだろうが、今の二人の魔力はここに来る前とは比べものにならないほどの質になっている。
普通の火球なら、今までの半分の魔力消費で発動できてもおかしくないのだ。
……ちなみに、俺達の中で一番質の高い魔力を持っているのはイリスなのだが……今のイリスの状態では『竜の息吹』でも使わない限り、その性能を発揮しきれない。
これは翼が壊れている影響が大きいので、治るのを待つほかないだろう。
「質のいい魔力を生かす……それって、どうやるの?」
「使う魔力を減らしたうえで、今までと同じように魔法を構築するだけだ。魔力を薄くのばすように意識するのがコツだな」
そう言って俺は、今までより少ない魔力消費で火球を撃つ。
前世の頃には遠く及ばないが、俺もだいぶ魔力の質が上がった気がする。
「すごい! 本当に、出てる魔力が少ない!」
「質の高い魔力って、こんな感じになるんですね!」
今使った火球の威力はルリイ達と同じくらいだが、使った魔力はたったの半分ほどだ。
二人の魔力感知能力で、この違いに気付かないはずもない。
「こんな感じで使うんだ。最初のうちは簡単に魔力消費を減らせるが、普通に使った時の8割を切るあたりから段々削るのが難しくなってくる。最終的には今の半分くらいの魔力消費を目標にするが、いきなり半分にしようとせず少しずつ削って慣れていこう」
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書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!