第239話 最強賢者、稼ぎ場に辿り着く
迷宮エレベータが止まるのも、時間の問題かもしれないな。
今まで動いていただけでも、かなり頑張った方だが。
「ああ。ありがとう」
「ありがとうございます! 絶対帰ってきます!」
そう言って俺達は、エレベーターを降りる。
……『階層主』は、結構近くにいるな。
「ち、近いですね……」
「ああ。近いな。熊の魔物だ」
敵の魔物が感知能力の鋭いタイプなら、もう気付かれていてもおかしくない距離だ。
魔力反応の感じからすると、敵は熊の魔物だな。
……階層主ともなると筋肉量や大きさが普通の熊とは桁違いなので、慣れていないと熊と認識できないかもしれないが。
「とりあえず、倒してから考えるか。……ルリイとアルマは、階層主に近付かないことと、横の部屋に入らないことに気をつけてればいいぞ」
「……階層主以外の魔物に襲撃されると挟み撃ちになるけど、他の魔物を優先的に倒したほうがいいかな?」
「いや、その必要はない。……階層主以外の魔物はいないからな」
そう言いながら俺は、周囲の魔力反応を探る。
そこにあるのは、階層主の持つ巨大な魔力反応だけだ。
「他の魔物が、いない……?」
「階層主が、全部食べちゃったんですか?」
俺の言葉を聞いて、ルリイ達も他の魔物がいないことに気付いたようだ。
普通の階層なら、階層主がいても多少は他の魔物が残るところだが……この階層に限っては、他の魔物はいない。
というか階層主がいなくても、この階層には基本的に魔物がいないのだ。
「別に食べたわけじゃないぞ。元々この階層には、魔物がいないんだ」
「魔物がいない階層、ですか……?」
「そんなの聞いたことない……っていうか、それじゃ経験値稼ぎできないじゃん!」
アルマの言うことはもっともだ。
だが、この特殊さこそが『はじまりの迷宮』第27層が経験値を荒稼ぎできる狩り場である理由なのだ。
「ここには、巨大な通路があって、横には扉付きの部屋があるよな?」
「あるね」
この『はじまりの迷宮』の27層は、かなり特殊な作りをしている。
まずひたすら巨大で、直線的な通路が通っている。
前世の時代では『大通り』と呼ばれていた、『はじまりの迷宮』第27層のメイン通路だ。
階層主がいない時であれば、この『大通り』を進んで行くだけで1匹の魔物にすら出会うことなく次の階層へとたどり着ける。
『大通り』は途中で直角に曲がっているため、『階層主』の姿は見えないが……迷宮にしては異常なまでの見通しのよさだ。
そして最も重要なのは……大通りではなく、横の部屋なのだ。
「あの横部屋は、全部モンスターハウスだ」
「全部!?」
そう。
この階層は、モンスターハウスの塊なのだ。
「ああ。全部だ。……もちろん1回狩ればその部屋にしばらく魔物は出ないが、この階層に人が入った形跡はないし、多分ほとんど全部が中身入りのモンスターハウスになってるはずだぞ」
「魔力反応がないのは、実体化してないからってこと?」
「そういうことだ。扉を開けて石でも投げ込めば、すぐ魔物だらけになる」
モンスターハウスは、衝撃などのきっかけがあって初めて空気中の魔力が結晶化し、魔物が現れる。
数千年も人の立ち入りがなかったこの階層のモンスターハウスは、恐らく手つかずだ。
そんなことを考えていると……『階層主』の魔力反応が、近付いてきた。
どうやら、俺達のことを見つけたようだ。
そうして曲がり角から顔を出したのは――『クラッシュグリズリー』と呼ばれていた魔物だ。
『クラッシュグリズリー』は、鋭い爪による殴打を得意とする、上級の熊系魔物だ。
……案の定、熊系の魔物だな。
この層に出る『階層主』は何種類かいるが、その中では比較的強い方だ。
物理的な攻撃力や耐久力で言えば、そこらの魔族に比べても強いだろう。
倒すには、それなりに時間がかかりそうだな。
「敵はやっぱり熊の魔物だ! 攻撃の射程は短いから、遠くから攻撃すれば安全だ!」
そう言いながら俺は、『強制探知』を使いながら前へと出る。
矢に付与する魔法などは特に教えていないが、今のルリイとアルマなら放っておいても適切な魔法を選んでくれるだろう。
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書き下ろしもありますので、よろしくお願いします!